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疑惑の香り
第三話
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「どうやら、丹波の事故死と藤壺女御付き女房の事件。二つは関連しているようだ」
「え!?」
驚いて声を上げる私を見て、敦正様は硬い表情で唇を横に引く。
「この文に微かについている匂い、これは女房が懐に入れていた香り袋の匂いと同じだ」
「じゃあ・・・・・・藤壺女御仕えの女房が、丹波の受領の元へ何度も足げに通っていたということなんでしょうか?」
「恐らく・・・・・・」
敦正様は口にはしなかったが、三人とも考えていることは一緒だろう。
丹波の受領も、藤壺女御仕えの女房も口封じのために命を狙われたのではないかということだ。
東国の武士とのやりとりを丹波の受領に指示するとき、女房が文を持って受領の元にやってきていた。
となれば、黒幕は京に住む貴族で、受領と女房はうまく利用されてしまったということなのだろうか。
この仮説が正しければ、受領の死は事故でもなんでもないし、女房は叶わぬ恋心をいだいて無理心中をしたわけでもない。
黒幕である誰かが、邪魔になった二人を封じたのだ。
だた一つ、気になったことがある。私は敦正様に確認のために声をかける。
「あの敦正さま。受領宛ての文についている香りですが、女房が懐に入れていた香り袋の匂いの方ですか? それとも、〝お恨み申し上げます〟と書かれてた料紙についていた香りですか?」
敦正様の鼻なら、その違いを嗅ぎ分けられるはずだ。
ジッと彼を見つめていると、真剣な面持ちで口を動かす。
「香り袋の方ですね。間違いないでしょう」
受領の事故死も女房の自殺未遂も、どうやら他殺の線が強くなってきた。
「清貴」
敦正様が声をかけると、兄様はスクッと静かに立ち上がる。
「わかっている。すぐに警備を強化する」
「頼む」
兄様が部屋を出て行くのを見送ると、敦正様も立ち上がった。
「姫、私はこれで失礼します」
「敦正様」
「他殺の可能性が出てきたということは、女房の命が再び狙われる可能性が高い」
「っ!」
敦正様の言う通りだろう。
丹波の受領の事故死、そして女房の自殺未遂。それらが一本の線で繋がったということは、貴族の誰かが彼らの口封じに翻弄したということだ。
その犯人は、とにかく女房が再び目を覚ますことを恐れているはずだ。
彼女が目覚めたときに語られる悪事に、戦々恐々としているに違いない。
言葉をなくしている私は、再び敦正様に抱きすくめられていた。
「あ、敦正様!?」
「香姫。この捜査は内密に動いています。だが、どこで誰が聞きつけているかわからない」
「・・・・・・」
「姫のことが心配です」
「だ、大丈夫ですよ。まだ、誰にも知られていないでしょう?」
「貴族がこの事件に関わっている可能性がわかった今、姫が狙われる可能性だって捨てきれない」
確かにその通りなのかもしれない。
敦正様は東宮様の側近として、色々な場面で動いているということを知っている人間も多いだろう。
彼の動向を監視していれば、私や兄様と頻繁に会っているということも知られているはずだ。
私たちも捜査に協力しているとなれば、犯人にとっては邪魔者以外のなにものでもないだろう。
「この屋敷では警備は薄い」
「・・・・・・そうですよね」
下級貴族である我が邸、警備の者などほとんどいない状態だ。
それに日中は父様も兄様もいない。となれば、私に接近することは簡単だろう。
想像しただけで恐ろしい。
震え上がる私を、敦正様はギュッと力強く抱きしめてきた。
「お願いです、香姫。我が邸に来ていただけませんか?」
「え?」
「こちらの邸より、警備はしっかりしています」
「・・・・・・まぁ、確かにそうでしょうねぇ」
「それに我が邸に来ていただければ、姫の監視もできますし」
「監視!?」
私の身を案じての誘いだと思ったのに、どうして私が監視させられなくてはならないのか。
憤慨して敦正様を見上げると、厳しい表情を浮かべていた。どうやら冗談ではない様子だ。
「貴女は無理をしすぎる」
「うっ・・・・・・」
「先ほどしたお説教を、もう一度聞きますか?」
「い、いえ。結構です」
「じゃあ、私の邸に来てくださいますよね? ね?」
そんな怖い顔で念を押されてしまったら、頷くしか道はない。
ガックリと項垂れる私を余所に、敦正様の行動は早かった。
すぐさま春子を呼び出して当面の間中務邸に行くことを告げると、すぐさま母様に報告。
一応妙齢の姫。さすがに他家に行くことを渋るかと思いきや、母様はなんの躊躇もなく私を送り出したのだ。
「必ずや、敦正様の心をがっちりと掴んでくるのですよ!」
という母様の言葉を聞いて、ガックリと項垂れたのだった。
「え!?」
驚いて声を上げる私を見て、敦正様は硬い表情で唇を横に引く。
「この文に微かについている匂い、これは女房が懐に入れていた香り袋の匂いと同じだ」
「じゃあ・・・・・・藤壺女御仕えの女房が、丹波の受領の元へ何度も足げに通っていたということなんでしょうか?」
「恐らく・・・・・・」
敦正様は口にはしなかったが、三人とも考えていることは一緒だろう。
丹波の受領も、藤壺女御仕えの女房も口封じのために命を狙われたのではないかということだ。
東国の武士とのやりとりを丹波の受領に指示するとき、女房が文を持って受領の元にやってきていた。
となれば、黒幕は京に住む貴族で、受領と女房はうまく利用されてしまったということなのだろうか。
この仮説が正しければ、受領の死は事故でもなんでもないし、女房は叶わぬ恋心をいだいて無理心中をしたわけでもない。
黒幕である誰かが、邪魔になった二人を封じたのだ。
だた一つ、気になったことがある。私は敦正様に確認のために声をかける。
「あの敦正さま。受領宛ての文についている香りですが、女房が懐に入れていた香り袋の匂いの方ですか? それとも、〝お恨み申し上げます〟と書かれてた料紙についていた香りですか?」
敦正様の鼻なら、その違いを嗅ぎ分けられるはずだ。
ジッと彼を見つめていると、真剣な面持ちで口を動かす。
「香り袋の方ですね。間違いないでしょう」
受領の事故死も女房の自殺未遂も、どうやら他殺の線が強くなってきた。
「清貴」
敦正様が声をかけると、兄様はスクッと静かに立ち上がる。
「わかっている。すぐに警備を強化する」
「頼む」
兄様が部屋を出て行くのを見送ると、敦正様も立ち上がった。
「姫、私はこれで失礼します」
「敦正様」
「他殺の可能性が出てきたということは、女房の命が再び狙われる可能性が高い」
「っ!」
敦正様の言う通りだろう。
丹波の受領の事故死、そして女房の自殺未遂。それらが一本の線で繋がったということは、貴族の誰かが彼らの口封じに翻弄したということだ。
その犯人は、とにかく女房が再び目を覚ますことを恐れているはずだ。
彼女が目覚めたときに語られる悪事に、戦々恐々としているに違いない。
言葉をなくしている私は、再び敦正様に抱きすくめられていた。
「あ、敦正様!?」
「香姫。この捜査は内密に動いています。だが、どこで誰が聞きつけているかわからない」
「・・・・・・」
「姫のことが心配です」
「だ、大丈夫ですよ。まだ、誰にも知られていないでしょう?」
「貴族がこの事件に関わっている可能性がわかった今、姫が狙われる可能性だって捨てきれない」
確かにその通りなのかもしれない。
敦正様は東宮様の側近として、色々な場面で動いているということを知っている人間も多いだろう。
彼の動向を監視していれば、私や兄様と頻繁に会っているということも知られているはずだ。
私たちも捜査に協力しているとなれば、犯人にとっては邪魔者以外のなにものでもないだろう。
「この屋敷では警備は薄い」
「・・・・・・そうですよね」
下級貴族である我が邸、警備の者などほとんどいない状態だ。
それに日中は父様も兄様もいない。となれば、私に接近することは簡単だろう。
想像しただけで恐ろしい。
震え上がる私を、敦正様はギュッと力強く抱きしめてきた。
「お願いです、香姫。我が邸に来ていただけませんか?」
「え?」
「こちらの邸より、警備はしっかりしています」
「・・・・・・まぁ、確かにそうでしょうねぇ」
「それに我が邸に来ていただければ、姫の監視もできますし」
「監視!?」
私の身を案じての誘いだと思ったのに、どうして私が監視させられなくてはならないのか。
憤慨して敦正様を見上げると、厳しい表情を浮かべていた。どうやら冗談ではない様子だ。
「貴女は無理をしすぎる」
「うっ・・・・・・」
「先ほどしたお説教を、もう一度聞きますか?」
「い、いえ。結構です」
「じゃあ、私の邸に来てくださいますよね? ね?」
そんな怖い顔で念を押されてしまったら、頷くしか道はない。
ガックリと項垂れる私を余所に、敦正様の行動は早かった。
すぐさま春子を呼び出して当面の間中務邸に行くことを告げると、すぐさま母様に報告。
一応妙齢の姫。さすがに他家に行くことを渋るかと思いきや、母様はなんの躊躇もなく私を送り出したのだ。
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