憑く鬼と天邪鬼

赤星 治

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七幕 獄鬼との対峙

一 ススキノと六蔵への含み

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 如月孟親の屋敷での一件から八日後。
 ススキノ、一作、仁、彩夏、高申、楼雅、伊生、六蔵の八名は、集合予定の岩場へ集まった。
 その岩場には突出した大岩が、歪ながらも円を描く様に点在していた。大岩の高さはバラバラで、大人三人分程の高さのモノから、一番高いもので一国の城ほどの高さまである。
 その円を描いた岩場から離れた場所に、まるで水害にでも遭い、破壊された木造家屋の残骸が流れ着いて密集している一角がある。そこへ八人が集まった。
 八人はそれぞれ座ったり凭れたりと、残骸を利用して話をしやすい姿勢をとった。

「ああ~、どうやら幸之助の坊主が出てくるのはもう数日は必要かもしれんなぁ」

 六蔵が眺めているのは、円を描いた岩場の奥、黒紫色のもやが燻る箇所がある。

「初めて見ます」隣にいる彩夏もその靄を眺めた。「あれが獄鬼に憑かれた者が現れる場所なのですね」
「ああ。本来、獄鬼に憑かれた者は現世で完全に同調するんだがな、どうやらあの坊主に憑いた獄鬼は訳ありか。条件が揃うまで亜界にいるようだな」

 この六蔵と彩夏の会話を聞いて、伊生が六蔵のほうを向いて訊いた。

「貴方はどこかこうなる事を知っている節がある」
「ほう、なぜそう思う?」
「仁から集合の日取りと経緯を聞いたとき、アレが亜界に身を隠し、探しても無駄と貴方が申した、と。そして先ほど獄鬼が憑かれた者が出てくるのはもう数日かかると言っていた。なぜそのような事がアレを見て分かる」

 六蔵は頭を掻いた。
「いやぁ、こいつぁまいったねぇ」
 伊生に続き、仁も便乗して訊いた。
「六蔵殿もそうだが、お頭にも気掛かりな所がある」
 ススキノが視線を仁へ移した。
「完全な同調に至っていない獄鬼に八卦葬送を行えばこの件はすぐに済んだ筈。なぜこのように周りくどい方法で長引かせる必要が?」
 次いで高申が加えた。
「我々は命を賭す覚悟で参りました。我らの頭ともなる方が、まかさこの期に及んで――」
「口が過ぎますよ高申」すかさず彩夏が制した。
「しかし!」
「私はお頭の事を十年も前から見ています。故に、覚悟を決めた部下、仲間の意を無下にする御方でも、自身の命可愛さに、せいにしがみ付く御方ではない。むしろその逆」
「逆……ですか?」
「ええ。十年前なら獄鬼を見つけ次第、当の昔に命を賭して任務を遂行、我々もここまで存命していませんよ」向きをススキノに向けた。「まさに締めの局面、命を落とさない方法でも見つかりましたか?」

 部下のやり取りが一段落付き、溜息を吐いて答えた。

「やれやれ、言いたい放題もいい所だ。……しかし、即答で良い返事が出来ん。というのが私の答えだ」
 六蔵は口元を左手で覆うように摩って訊いた。
「えらく歯切れが悪いな。それじゃ、無理と断定も出来んと言っておるようにも捉えれる」
「お頭」一作が訊いた。「本心をお伺いしたく存じます」

 ススキノは一息ついて語り始めた。

「お前達も知っての通り、獄鬼に憑かれた者の生を優先する祓い技は、術の使用者の死をもって成される。私の使用できる葬送術・【八卦葬送はっけそうそう】もその一つだ。しかし、ある情報によれば、この八卦葬送は使用者たちが死なない方法があると聞いた」

 あまりにも都合の良すぎる方法に、仁の鋭い目が向けられた。
「そんな方法、誰が申したので?」
「依頼者のあの男だ」
 何人かその人物の事を知らず、一作が代表してその人物の名と立場を告げた。
「漠然とした情報だが、あやつが私に教えたのだ、信じるほかあるまい」

 楼雅がなぜ? と訊くと、彩夏がその男性がススキノに好意を抱いていると答え、説明が続けられた。

「他に、幻体・天邪鬼である志誠が鍵を握るともな」
 六蔵は笑みを浮かべた。
「ほほう。だからあのように奴へ絡んでいったのだな?」
「そういう貴方も絡んで行ったのでは? そして、獄鬼の片割れの情報を掴み、如月孟親の屋敷に現れた」
 六蔵は、自分の頭を叩いて参った。と呟いた。
「貴方が我々と別行動し、どのように幸之助と永最、双方の中に獄鬼を見出したかは不明だが、自らの過去情報と探し当てた情報からこの地に辿り着いた。そのことは感謝したい」

 どうも。そう言って六蔵は頭を下げた。

 葬送術、志誠の話と進む中、高申は自分達が調べた人物がどうしても気になっていた。
「では、我らに先代二の祓師・宇芭うば実独さねひとの噂を調べさせた経緯はなぜでしょうか」
「元々、八卦葬送なる葬送術を考案したのが宇芭氏だからだ」
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