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四章 狂いの真相
6 真相
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「なぜ、素数が?」御堂六郎が訊く。
「御堂さん、言ってましたよね。自分たちが抗えない条件として、数字、伝説、法則と」
「ああ」
「素数は双木三柱市において重要な意味を持っています。あらゆる神話や伝説や歴史上、素数の道具や条件や日にちなどを用いて厄災を鎮めたとかです。この四十二の都市伝説においてもその力は発揮されます。今回、俺達の身の回りで起きた現象全て、素数に関係して」
説明を遮ってまで手を上げた加賀見茜を蒼空は指名した。
「起きている都市伝説の数字は、御堂六郎の都市伝説以外は偶数よ。これはどう説明するの?」
「それが御堂さんの言っていた狂いに関係していきます。一応確認ですけど、これもただ答えを言っただけじゃ駄目ですよね。やっぱり”みんなが都市伝説に巻き込まれた理由も明かす”っじゃないと」
真剣だった話の途中、細やかな気楽な発言で空気を和ませた。推理の勢いを落ち着かせ、冷静さを取り戻す意味も込めて。
当然返答は「ええ」と、微笑む加賀見茜が返し、御堂六郎が言葉を加えた。
「それとお前が素数に気づいた理由もな」
蒼空は小さく呼吸して落ち着いた。
「桜木君と前園さんのお兄さんと日和のノートのおかげで素数に気づき、確信したのは桜木君の行動があったからです。三人は都市伝説の狂いに関するキーワードが素数だと気づいてました。俺よりも情報が少ない中から桜木君が導き出せたのは本当に凄すぎる。あの時に都市伝説として起きたのは、御堂さん、加賀見さんぐらいしかなかったし、日和はよく分からない状態だったから。桜木君も単独行動の最中に何か掴んだかもしれないけど、こんな少ない情報で素数に行き着くから俺より凄いですよ。正直言って」
「あら、蒼空君もかなり凄いわよ。頑張って」
妙に嬉しくあるが、気を取り直して話す。
「桜木君は夢でお兄さんと会って四十二番目の都市伝説に組み込まれたと考えた筈です。もしかしたら日和にも会って、僅かな情報を得たかもしれない。結果、素数が原因と知るも一つズレる理由が分からなかった。分からないけど、一つズレて奇怪な現象を起こす都市伝説は存在する。俺達と協力しようにも、自分の確信を持っている意見のせいで先入観を植え付けて、都市伝説の詳細や歴史を調べることに専念させてしまいタイムオーバーになると怖れたのかもしれません。だから自分が都市伝説に巻き込まれる事で俺達に報せた。発生する都市伝説は一つズレる素数だと。そして謎解きを託した。前園さんのお兄さんも同様です。素数の原因に行き着くも一つズレる理由が分からなかった。歴史やら各都市伝説の現象を調べたけど意味が無く、時間切れで四十二番目に。これが一つズレる素数の力を得ているので前園さんの傍に現われる都市伝説になった。前園さんをターゲットに出来たのは、おそらくは偶然、妹に憑けたのでしょうけど」
御堂六郎は手を前に出して話を止めた。
「巻き込まれたとあるなら、なぜ桜木駿平は都市伝説に組み込まれない? それにお前と桜木駿平は前園翔真と会ったと言うが、都市伝説に組み込まれた人間がお前達に会える法則はなんだ?」
「都市伝説に組み込まれるのは、挑戦者が罰を受けたときのみ。それ以外の人間は被害に遭うだけです。現象の起きる都市伝説に巻き込まれ、現挑戦者が敗北すると事故死か行方不明になる。過去に神隠しに遭った人間は、そういった類いの人間だった。挑戦者は敗北後は死者の扱いと決まってますから」
「どこからそう導き出した? 前園翔真と三枝日和は失踪だろ」
「御堂さんが教えてくれた奇跡の話にありましたよね。人間の魂が貴重だけど、それを回収するには、現実でその人間の死が確定しないといけないと。”死が確定する”、それは死体が発見されなければならない。前園さんのお兄さんが都市伝説に組み込まれているのに失踪状態なのは、まだ死体が発見されていないから」
翔真が最後の悪足掻きとしたのは、期日ギリギリに山奥へ行き、死体の発見を遅らせることであった。御堂六郎の奇跡の話で失踪のままなら、次の挑戦者が現われた時に明香へメッセージを残せると考えていた。
「けど蒼空君。彼が失踪扱い状態で四十二番目に組み込まれていて、どうして夢に現われることが出来るのかしら?」
「前園さんのお兄さんが失踪状態の最中、日和が挑戦者となった。だから不確定な都市伝説として存在するようになったんです。殆ど偶然か、まさしく奇跡だと思いますよ。日和同様、少しだけ俺と桜木君の夢に現われることが出来た。日和のような凝った助言は出来ない、些細な会話のみで」
「蒼空君の言ったとおりなら、少々矛盾が生じるんじゃないかしら? 翔真君も曖昧だけど都市伝説に組み込まれている。なら、蒼空君の恋人の日和ちゃんほど動けない理由は何かしら?」
「幼馴染みです」
即答で返すも、加賀見茜は嬉しそうに誤魔化す。
「タイムパラドックスだったり、前園さんのお兄さんみたいな存在を作った原因である日和は、別の意味ですごいやつですよ」
「ほう、三枝日和のこともお見通しか」
蒼空は日和の説明を始める。
「あいつは挑戦者となり、素数の原因に気づくもやっぱり分からない。難解過ぎて手に負えなかった。だから機転を利かせたんです。”謎解きを他の奴に任せよう”って」
何かを思い出した様子の御堂六郎は鼻で笑った。
「突拍子もない提案だったけど、日和はこんな事言いませんでした? 「挑戦者が今いるなら、先に私を四十四番目に当てて欲しい」って」
七月は明香が既に挑戦者であった。
「それで一つズレる素数に組み込める。新しい都市伝説となって、代理人の役に立とうって。夢の住人となったのは偶然か、元々そういった都市伝説だったか、日和が決めたか分かりませんが。ファインプレーをしたって思ってますよ、あいつなら。けど現実は違った。自由でもないし、制限かかるし、頭使ってアドバイス考えないといけないから、都市伝説になってさらに苦悩したでしょうね。夢のあいつは、どこか雰囲気が違うかったから人間性も変えられたかも」
「本当にそうか?」
訊かれて一瞬躊躇った。
「桜木駿平は同じ高校だから相談は可能だ。当人の意思は別としてな。しかしお前はどうだ楸蒼空。三枝日和は偶然お前と会えたんだろ?」
四十四番目の都市伝説についての質問ではなかった事に蒼空は安堵する。この部分を否定されたら終わりだ。
「これはあいつの性格から読んだ俺の仮説ですけど、日和が最初に目を付けたのは桜木君、理由は単純に“頭が良いから”でしょうね。けど怖がりだから彼を動かしてくれる存在として音奏に声をかけた。夏休みの自由研究で都市伝説を調べるって名目で。この時はどうやって桜木君を引き入れるかを考えて焦ってたと思いますよ。もう少し放置してたら余裕無くなって狼狽えていただろうしね」
日和の昔を知る蒼空の発言。
加賀見茜は嬉しそうに見る。
「そこで運良く出会ったのが蒼空君ってわけね」
「文字通りの偶然だった。“桜木君より巻き込みやすい奴を見つけた”ですかね。余裕ぶってましたが内心では結構喜んでたと思いますよ。まんまと巻き込まれた俺は、強引に都市伝説を調べる探偵役にされた。これが、都市伝説に俺が干渉出来るようになった理由、そして、御堂さんに会えた理由にもなります。謎解き役が俺に代わった。日和が桜木君の夢より俺に重点を置いたのは、加賀見さんの水筒の例え話みたいに限度があったから。桜木君が御堂さんと会えなかったのは、失踪前に挑戦者を俺にすると告げたからでしょ」
御堂六郎からは何も言葉が返って来なかった。
「前園さんのお兄さんが言ってました。日和は特権を得る代わりに代償を払った。それは時間ですよね」
「なぜそう思う?」
「俺が挑戦者となってから終了までの期限は約二十日、八月十四日まで。けど前園さんのお兄さんは約三ヶ月あった。おそらく日和も、他の挑戦者もそうでしょう? この不平等を成り立たせるには日和の代償しか考えられない。残りの猶予を代償にして自分は四十四番目に、そして俺に探偵役を担ってもらう。始めの話に戻りますが、前園さんの死の予言日は日和の期日が八月十四日だったから。これが八月十四日に前園さんが確実に死ぬ理由。先に日和が都市伝説を陣取ってるから、誰も謎が解けなかったら前園さんは強制的に敗北者となり、どう足掻いても逃れられない死が迫る一日を迎え、そして確実な生け贄となる。俺達は八月十四日までに狂いの正体を解明しなければならなくなったんです。前園さんを生かした状態で」
静かに大きな呼吸を御堂六郎は吐き、加賀見茜はニコニコと微笑んでいる。
「けど日和は優しいから自分の我が儘を通す為に誰かの命を交渉材料にする奴じゃない。提案した時、偶然前園さんが挑戦者となっていたから出来たというのは強引過ぎる。後出しで御堂さんが”前園さんが生け贄となる話”を持ちかけたっていうなら納得です。急な要望で焦りながらも、日和は俺に賭けたのかもしれません」
この条件が可能となった法則があるなら、儀造が絵を描いたことでタイムパラドックスが起き、日和の我が儘が通る環境は必然的に仕上がっていた。
これは蒼空も理解している。聞かれれば答える姿勢だが、無いので話を続けた。
「きっと三十八番目に気づいてないでしょうね。数人の高校生が死ぬよりも、もっと恐ろしい悲劇を向える都市伝説に」
参った。と言わんばかりに御堂六郎は両手を挙げて正解を示した。
「最後です。素数が一つズレる理由。それは双木三柱市の過去。御神木たる二本の楠が破壊されたことが原因です」
「歴史には落雷とあるわよね。でも、御神木が壊れたからといって都市伝説が狂うかしら?」
「御神木は現実に存在するただの大木です。破壊されたからって伝説に大きな影響を及ぼす訳ではありません。けど問題はそっちの破壊じゃない。おそらくは後の歴史に残る大火災」
双木三柱市を象徴する三柱の神を崇める木が残った歴史。
「三町分の土地を巻き込んだ大火災により資料そのものが燃え、多くの伝説を知る人達も亡くなった。残った人達で伝説が再構築され、その時に出来上がってしまったんです。『二本の木の伝説』と『三柱の神の伝説』。元々一つだった伝説が二つに分かれる事態に」
二人から蒼空の推理を遮る言葉は無かった。加賀見茜も、真剣に聞いている。
「素数の始まりは二です。伝説が二つに分かれた当初、奇跡側でも今の都市伝説のような強力な奇異ではなかった筈です。それが形作られたのは、人間が神様へ向ける祈りが原因かと」
御堂六郎は妙に嬉しそうな表情になる。
「そこそこ長かったと思います。二の伝説は願いを叶える、試練を与える、罰を与えると、役割を持った三柱の神様です。しかし人々の祈りが増え、奇跡か奇異が反応しても形作ることは出来ない。なぜなら神様として現実に出来上がっているからです。それでも溜る人々の願いを叶えてほしい欲望に答えたのか、誰かがそれに似た言い伝えを密かに作り上げたか。それにより三の都市伝説が誕生した。そして監視役の四番目『嗤う鬼』も構築された。都市伝説上では三番と四番だけど、元の順番は二番と三番。奇跡の力が働く素数の番号です。これにより都市伝説の基盤が出来上がってしまいました」
返事はなく頷かれた。
「これが狂いの正体。異変となる都市伝説の始まりです。都市伝説四分の三の内、時刻表記の単語が昔のものだったのは、それぐらい昔に始まったから。昔の雰囲気が際立っている内容のものがあるのは、時代背景が影響したから。近代で始まった怪奇ではありません」
全てを語り終えると二人の反論を待った。それが無いので「……以上です」と締めた。
「御堂さん、言ってましたよね。自分たちが抗えない条件として、数字、伝説、法則と」
「ああ」
「素数は双木三柱市において重要な意味を持っています。あらゆる神話や伝説や歴史上、素数の道具や条件や日にちなどを用いて厄災を鎮めたとかです。この四十二の都市伝説においてもその力は発揮されます。今回、俺達の身の回りで起きた現象全て、素数に関係して」
説明を遮ってまで手を上げた加賀見茜を蒼空は指名した。
「起きている都市伝説の数字は、御堂六郎の都市伝説以外は偶数よ。これはどう説明するの?」
「それが御堂さんの言っていた狂いに関係していきます。一応確認ですけど、これもただ答えを言っただけじゃ駄目ですよね。やっぱり”みんなが都市伝説に巻き込まれた理由も明かす”っじゃないと」
真剣だった話の途中、細やかな気楽な発言で空気を和ませた。推理の勢いを落ち着かせ、冷静さを取り戻す意味も込めて。
当然返答は「ええ」と、微笑む加賀見茜が返し、御堂六郎が言葉を加えた。
「それとお前が素数に気づいた理由もな」
蒼空は小さく呼吸して落ち着いた。
「桜木君と前園さんのお兄さんと日和のノートのおかげで素数に気づき、確信したのは桜木君の行動があったからです。三人は都市伝説の狂いに関するキーワードが素数だと気づいてました。俺よりも情報が少ない中から桜木君が導き出せたのは本当に凄すぎる。あの時に都市伝説として起きたのは、御堂さん、加賀見さんぐらいしかなかったし、日和はよく分からない状態だったから。桜木君も単独行動の最中に何か掴んだかもしれないけど、こんな少ない情報で素数に行き着くから俺より凄いですよ。正直言って」
「あら、蒼空君もかなり凄いわよ。頑張って」
妙に嬉しくあるが、気を取り直して話す。
「桜木君は夢でお兄さんと会って四十二番目の都市伝説に組み込まれたと考えた筈です。もしかしたら日和にも会って、僅かな情報を得たかもしれない。結果、素数が原因と知るも一つズレる理由が分からなかった。分からないけど、一つズレて奇怪な現象を起こす都市伝説は存在する。俺達と協力しようにも、自分の確信を持っている意見のせいで先入観を植え付けて、都市伝説の詳細や歴史を調べることに専念させてしまいタイムオーバーになると怖れたのかもしれません。だから自分が都市伝説に巻き込まれる事で俺達に報せた。発生する都市伝説は一つズレる素数だと。そして謎解きを託した。前園さんのお兄さんも同様です。素数の原因に行き着くも一つズレる理由が分からなかった。歴史やら各都市伝説の現象を調べたけど意味が無く、時間切れで四十二番目に。これが一つズレる素数の力を得ているので前園さんの傍に現われる都市伝説になった。前園さんをターゲットに出来たのは、おそらくは偶然、妹に憑けたのでしょうけど」
御堂六郎は手を前に出して話を止めた。
「巻き込まれたとあるなら、なぜ桜木駿平は都市伝説に組み込まれない? それにお前と桜木駿平は前園翔真と会ったと言うが、都市伝説に組み込まれた人間がお前達に会える法則はなんだ?」
「都市伝説に組み込まれるのは、挑戦者が罰を受けたときのみ。それ以外の人間は被害に遭うだけです。現象の起きる都市伝説に巻き込まれ、現挑戦者が敗北すると事故死か行方不明になる。過去に神隠しに遭った人間は、そういった類いの人間だった。挑戦者は敗北後は死者の扱いと決まってますから」
「どこからそう導き出した? 前園翔真と三枝日和は失踪だろ」
「御堂さんが教えてくれた奇跡の話にありましたよね。人間の魂が貴重だけど、それを回収するには、現実でその人間の死が確定しないといけないと。”死が確定する”、それは死体が発見されなければならない。前園さんのお兄さんが都市伝説に組み込まれているのに失踪状態なのは、まだ死体が発見されていないから」
翔真が最後の悪足掻きとしたのは、期日ギリギリに山奥へ行き、死体の発見を遅らせることであった。御堂六郎の奇跡の話で失踪のままなら、次の挑戦者が現われた時に明香へメッセージを残せると考えていた。
「けど蒼空君。彼が失踪扱い状態で四十二番目に組み込まれていて、どうして夢に現われることが出来るのかしら?」
「前園さんのお兄さんが失踪状態の最中、日和が挑戦者となった。だから不確定な都市伝説として存在するようになったんです。殆ど偶然か、まさしく奇跡だと思いますよ。日和同様、少しだけ俺と桜木君の夢に現われることが出来た。日和のような凝った助言は出来ない、些細な会話のみで」
「蒼空君の言ったとおりなら、少々矛盾が生じるんじゃないかしら? 翔真君も曖昧だけど都市伝説に組み込まれている。なら、蒼空君の恋人の日和ちゃんほど動けない理由は何かしら?」
「幼馴染みです」
即答で返すも、加賀見茜は嬉しそうに誤魔化す。
「タイムパラドックスだったり、前園さんのお兄さんみたいな存在を作った原因である日和は、別の意味ですごいやつですよ」
「ほう、三枝日和のこともお見通しか」
蒼空は日和の説明を始める。
「あいつは挑戦者となり、素数の原因に気づくもやっぱり分からない。難解過ぎて手に負えなかった。だから機転を利かせたんです。”謎解きを他の奴に任せよう”って」
何かを思い出した様子の御堂六郎は鼻で笑った。
「突拍子もない提案だったけど、日和はこんな事言いませんでした? 「挑戦者が今いるなら、先に私を四十四番目に当てて欲しい」って」
七月は明香が既に挑戦者であった。
「それで一つズレる素数に組み込める。新しい都市伝説となって、代理人の役に立とうって。夢の住人となったのは偶然か、元々そういった都市伝説だったか、日和が決めたか分かりませんが。ファインプレーをしたって思ってますよ、あいつなら。けど現実は違った。自由でもないし、制限かかるし、頭使ってアドバイス考えないといけないから、都市伝説になってさらに苦悩したでしょうね。夢のあいつは、どこか雰囲気が違うかったから人間性も変えられたかも」
「本当にそうか?」
訊かれて一瞬躊躇った。
「桜木駿平は同じ高校だから相談は可能だ。当人の意思は別としてな。しかしお前はどうだ楸蒼空。三枝日和は偶然お前と会えたんだろ?」
四十四番目の都市伝説についての質問ではなかった事に蒼空は安堵する。この部分を否定されたら終わりだ。
「これはあいつの性格から読んだ俺の仮説ですけど、日和が最初に目を付けたのは桜木君、理由は単純に“頭が良いから”でしょうね。けど怖がりだから彼を動かしてくれる存在として音奏に声をかけた。夏休みの自由研究で都市伝説を調べるって名目で。この時はどうやって桜木君を引き入れるかを考えて焦ってたと思いますよ。もう少し放置してたら余裕無くなって狼狽えていただろうしね」
日和の昔を知る蒼空の発言。
加賀見茜は嬉しそうに見る。
「そこで運良く出会ったのが蒼空君ってわけね」
「文字通りの偶然だった。“桜木君より巻き込みやすい奴を見つけた”ですかね。余裕ぶってましたが内心では結構喜んでたと思いますよ。まんまと巻き込まれた俺は、強引に都市伝説を調べる探偵役にされた。これが、都市伝説に俺が干渉出来るようになった理由、そして、御堂さんに会えた理由にもなります。謎解き役が俺に代わった。日和が桜木君の夢より俺に重点を置いたのは、加賀見さんの水筒の例え話みたいに限度があったから。桜木君が御堂さんと会えなかったのは、失踪前に挑戦者を俺にすると告げたからでしょ」
御堂六郎からは何も言葉が返って来なかった。
「前園さんのお兄さんが言ってました。日和は特権を得る代わりに代償を払った。それは時間ですよね」
「なぜそう思う?」
「俺が挑戦者となってから終了までの期限は約二十日、八月十四日まで。けど前園さんのお兄さんは約三ヶ月あった。おそらく日和も、他の挑戦者もそうでしょう? この不平等を成り立たせるには日和の代償しか考えられない。残りの猶予を代償にして自分は四十四番目に、そして俺に探偵役を担ってもらう。始めの話に戻りますが、前園さんの死の予言日は日和の期日が八月十四日だったから。これが八月十四日に前園さんが確実に死ぬ理由。先に日和が都市伝説を陣取ってるから、誰も謎が解けなかったら前園さんは強制的に敗北者となり、どう足掻いても逃れられない死が迫る一日を迎え、そして確実な生け贄となる。俺達は八月十四日までに狂いの正体を解明しなければならなくなったんです。前園さんを生かした状態で」
静かに大きな呼吸を御堂六郎は吐き、加賀見茜はニコニコと微笑んでいる。
「けど日和は優しいから自分の我が儘を通す為に誰かの命を交渉材料にする奴じゃない。提案した時、偶然前園さんが挑戦者となっていたから出来たというのは強引過ぎる。後出しで御堂さんが”前園さんが生け贄となる話”を持ちかけたっていうなら納得です。急な要望で焦りながらも、日和は俺に賭けたのかもしれません」
この条件が可能となった法則があるなら、儀造が絵を描いたことでタイムパラドックスが起き、日和の我が儘が通る環境は必然的に仕上がっていた。
これは蒼空も理解している。聞かれれば答える姿勢だが、無いので話を続けた。
「きっと三十八番目に気づいてないでしょうね。数人の高校生が死ぬよりも、もっと恐ろしい悲劇を向える都市伝説に」
参った。と言わんばかりに御堂六郎は両手を挙げて正解を示した。
「最後です。素数が一つズレる理由。それは双木三柱市の過去。御神木たる二本の楠が破壊されたことが原因です」
「歴史には落雷とあるわよね。でも、御神木が壊れたからといって都市伝説が狂うかしら?」
「御神木は現実に存在するただの大木です。破壊されたからって伝説に大きな影響を及ぼす訳ではありません。けど問題はそっちの破壊じゃない。おそらくは後の歴史に残る大火災」
双木三柱市を象徴する三柱の神を崇める木が残った歴史。
「三町分の土地を巻き込んだ大火災により資料そのものが燃え、多くの伝説を知る人達も亡くなった。残った人達で伝説が再構築され、その時に出来上がってしまったんです。『二本の木の伝説』と『三柱の神の伝説』。元々一つだった伝説が二つに分かれる事態に」
二人から蒼空の推理を遮る言葉は無かった。加賀見茜も、真剣に聞いている。
「素数の始まりは二です。伝説が二つに分かれた当初、奇跡側でも今の都市伝説のような強力な奇異ではなかった筈です。それが形作られたのは、人間が神様へ向ける祈りが原因かと」
御堂六郎は妙に嬉しそうな表情になる。
「そこそこ長かったと思います。二の伝説は願いを叶える、試練を与える、罰を与えると、役割を持った三柱の神様です。しかし人々の祈りが増え、奇跡か奇異が反応しても形作ることは出来ない。なぜなら神様として現実に出来上がっているからです。それでも溜る人々の願いを叶えてほしい欲望に答えたのか、誰かがそれに似た言い伝えを密かに作り上げたか。それにより三の都市伝説が誕生した。そして監視役の四番目『嗤う鬼』も構築された。都市伝説上では三番と四番だけど、元の順番は二番と三番。奇跡の力が働く素数の番号です。これにより都市伝説の基盤が出来上がってしまいました」
返事はなく頷かれた。
「これが狂いの正体。異変となる都市伝説の始まりです。都市伝説四分の三の内、時刻表記の単語が昔のものだったのは、それぐらい昔に始まったから。昔の雰囲気が際立っている内容のものがあるのは、時代背景が影響したから。近代で始まった怪奇ではありません」
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