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四章 狂いの真相
2 恐怖の十四日
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八月十四日午前七時三十分。
明香は目を覚まして自分が生きていると実感する。
地震、火事、不意な天候変化により飛んできた何かが窓を突き破り自分を殺すなど、色々考えていた。しかし窓から注ぐ朝陽から天候不順はない。匂いも煙たくないので火事もない。地震は分からないが、とりあえずは無事に朝を迎えた。
スマートフォンの画面を見て時間を確認する。
早く身支度を調えて、みんなと会って安心したい。
先に着替えを済ませてスマートフォンをポケットに入れ、歯ブラシセットを持って部屋を出る。まだ音奏が寝ていると思い、そっと階段を降りた。
「あ、明香ちゃんおはよう」
光枝に明香は挨拶で返す。
「すいません、洗面所お借りします」
「うん。歯磨き終わったら朝ご飯しよっか」
階段の上に向かって光枝が叫んだ。
「音奏起きろ! 朝飯ぃ!」
明香の方を見ると、「これが日課。それでも起きないからねあいつ」と笑って言い、台所へ向かった。
洗面所で歯磨きと洗顔を済ませて居間へ向かうと、まだ音奏が降りていない。
「私、音奏君起こしてきます」
「ああ、ごめんねわざわざ」
明香が階段を上り、襖越しに話しかけた。
「音奏君、ごめんね入るよ」
どんな格好で寝ているか分からないのでそっと襖を開ける。
「ごめんね……」
部屋を見ると、掛け布団はめくれた状態でもぬけの殻である。部屋の何処にも隠れる所はないので音奏がいないことは判明する。
(あれ、降りてたの?)
階段を降り、洗面所とトイレを確認するも何処にもいない。玄関に目を向けると靴はある。
「あの、音奏君がいないんですけど……」光枝に報告する。
「ええ? あの馬鹿どこ行ったのよ」
光枝が音奏の名前を叫ぶも、階段から見上げて呼び方が変わる。
「あんたどこ隠れてんの! 朝なんだからさっさと起きなさい!」
階段の上。部屋には音奏はいなかった。
直感で嫌な予感が過った明香は、恐る恐る階段の上を見た。
「――――っ?!」
驚きのあまり歯ブラシセットを落として絶句し、玄関へと後退る。
「ん? 明香ちゃんどうしたの?」
恐ろしいものでも見る明香の視線の先。階段の上には誰の姿も無い。
「え、まさか……音奏、何かしたんじゃ」
光枝には音奏の姿が見えている。
“音奏が都市伝説の何かに巻き込まれた”そう頭が答えを導き出した。
“早く、ここから離れないと!”直感が働く。
「ごめんなさい。用事を思い出したので帰ります! 色々ありがとうございました!」
早口で告げて頭を下げ、まるで逃げるように靴を履いて出た。
急いで外へ飛び出して明香は走り去る。玄関の扉を開けっぱなしにして。
光枝は音奏が何かをやらかしたと直感した。
「あんた! 明香ちゃんに何したの!」
御堂家から飛び出た明香の耳に、その声だけが聞こえた。しかし戻ってはいけないと防衛本能が働く。
急いで離れないといけない。このままでは見えない何かに襲われて死んでしまう。
夏美に会いたい。蒼空に会いたい。
この恐怖から解消されて安心したい。
無我夢中で走り、それでいて曲がり角から車やバイクが来ないか、細心の注意を払って逃げる。
人通りの多い所まで出ると、急いで夏美へ電話をかける。
「明香ちゃんおはよう」
「夏美ちゃんどうしよ! 音奏君が、音奏君が消えちゃった!」
「ええ!?」
詳細を聞くにも、今は都市伝説が音奏を消したとしか思いつかない。
夏美は人通りが多い所にいるように告げて、すぐ向かうと言って電話を切った。
午前八時二十分。無事に夏美は明香と合流出来た。
夏美が来るまで何かに襲われないか、透明人間のように変貌を遂げた音奏に襲われないか不安だったのだろう。生きた心地がしなかった明香は安堵のあまり泣き出してしまった。
夏美は明香に事情を聞き、蒼空を呼んで今後の行動を決めようとした。しかしいくら電話をかけても蒼空は出ない。
「うそ!? 蒼空君こんな時に寝坊とか信じられない!」
「もしかして……蒼空君も」
明香はどうしても嫌な方へと考えてしまう。
「絶対違うよ。蒼空君情報だと、蒼空君自体には何も起きないって言ってたし。多分、夜更かしして色々調べてくれてるんだろうけど」
今は蒼空の情報が欲しい。どう動けば安全かを知りたい。
とりあえず二人は近くのコンビニでパンとジュースを買い朝食をとることにした。
何かに襲われる不安を抱えたまま、気が気でない朝食を済ませ、午前九時になってようやく蒼空が電話に出た。
「もしもしごめ」
「蒼空君急いで来て!」
夏美は何よりも先に蒼空に会って安心したい。しかし告げられた言葉は、夕日ノ町の偉人の銅像がある公民館へと指示が下る。それほど遠くない場所だから注意して行けば問題は無い。
電話を終え、夏美は明香へ報せる。
「なんか、そこにいたら少しの間は安全で、三十分後にLINEで送られる場所へ行けって」
夕日ノ町の偉人の銅像がある公民館には都市伝説が一つある。
『昼四つの風鈴売り』
午前十時、あの世とこの世を繋げる風鈴売りに会うと、会いたい人に会える都市伝説。
「なんでそんな所に? 都市伝説起きちゃう」
「でも、三十分後に連絡する所に行くんだよね。昼四つは午前十時だから、時間いっぱいまでいないから」
「とりあえず行ってみよ」
二人は考察を後回しにして公民館へ向かった。
午前九時三十分。
公民館で蒼空の連絡があった。
「今度は何処?」
夏美は明香にスマートフォンを見せて蒼空の文章を見せた。
「夕日ノ町の噴水公園、って」
これも一つの都市伝説がある。
『午の刻の祭囃子』
お盆の時期、午の刻の間に祭囃子を夕日ノ町の噴水公園で聞くと妖怪の祭りに巻き込まれる都市伝説。
「午の刻って、何時?」
「昔の呼び方だから、十一時から十三時。間に真昼があるって感じ」
「ええ?! 大雑把すぎじゃん。何時までいればいいのぉ」
「多分、それまでに蒼空君が来るのかも」
蒼空の家から噴水公園までを考えると十一時までには到着出来る。
「ここで合流してどうするかって事ね。じゃあ行こう」
二人は周囲を警戒しつつ噴水公園へと向かった。
明香は目を覚まして自分が生きていると実感する。
地震、火事、不意な天候変化により飛んできた何かが窓を突き破り自分を殺すなど、色々考えていた。しかし窓から注ぐ朝陽から天候不順はない。匂いも煙たくないので火事もない。地震は分からないが、とりあえずは無事に朝を迎えた。
スマートフォンの画面を見て時間を確認する。
早く身支度を調えて、みんなと会って安心したい。
先に着替えを済ませてスマートフォンをポケットに入れ、歯ブラシセットを持って部屋を出る。まだ音奏が寝ていると思い、そっと階段を降りた。
「あ、明香ちゃんおはよう」
光枝に明香は挨拶で返す。
「すいません、洗面所お借りします」
「うん。歯磨き終わったら朝ご飯しよっか」
階段の上に向かって光枝が叫んだ。
「音奏起きろ! 朝飯ぃ!」
明香の方を見ると、「これが日課。それでも起きないからねあいつ」と笑って言い、台所へ向かった。
洗面所で歯磨きと洗顔を済ませて居間へ向かうと、まだ音奏が降りていない。
「私、音奏君起こしてきます」
「ああ、ごめんねわざわざ」
明香が階段を上り、襖越しに話しかけた。
「音奏君、ごめんね入るよ」
どんな格好で寝ているか分からないのでそっと襖を開ける。
「ごめんね……」
部屋を見ると、掛け布団はめくれた状態でもぬけの殻である。部屋の何処にも隠れる所はないので音奏がいないことは判明する。
(あれ、降りてたの?)
階段を降り、洗面所とトイレを確認するも何処にもいない。玄関に目を向けると靴はある。
「あの、音奏君がいないんですけど……」光枝に報告する。
「ええ? あの馬鹿どこ行ったのよ」
光枝が音奏の名前を叫ぶも、階段から見上げて呼び方が変わる。
「あんたどこ隠れてんの! 朝なんだからさっさと起きなさい!」
階段の上。部屋には音奏はいなかった。
直感で嫌な予感が過った明香は、恐る恐る階段の上を見た。
「――――っ?!」
驚きのあまり歯ブラシセットを落として絶句し、玄関へと後退る。
「ん? 明香ちゃんどうしたの?」
恐ろしいものでも見る明香の視線の先。階段の上には誰の姿も無い。
「え、まさか……音奏、何かしたんじゃ」
光枝には音奏の姿が見えている。
“音奏が都市伝説の何かに巻き込まれた”そう頭が答えを導き出した。
“早く、ここから離れないと!”直感が働く。
「ごめんなさい。用事を思い出したので帰ります! 色々ありがとうございました!」
早口で告げて頭を下げ、まるで逃げるように靴を履いて出た。
急いで外へ飛び出して明香は走り去る。玄関の扉を開けっぱなしにして。
光枝は音奏が何かをやらかしたと直感した。
「あんた! 明香ちゃんに何したの!」
御堂家から飛び出た明香の耳に、その声だけが聞こえた。しかし戻ってはいけないと防衛本能が働く。
急いで離れないといけない。このままでは見えない何かに襲われて死んでしまう。
夏美に会いたい。蒼空に会いたい。
この恐怖から解消されて安心したい。
無我夢中で走り、それでいて曲がり角から車やバイクが来ないか、細心の注意を払って逃げる。
人通りの多い所まで出ると、急いで夏美へ電話をかける。
「明香ちゃんおはよう」
「夏美ちゃんどうしよ! 音奏君が、音奏君が消えちゃった!」
「ええ!?」
詳細を聞くにも、今は都市伝説が音奏を消したとしか思いつかない。
夏美は人通りが多い所にいるように告げて、すぐ向かうと言って電話を切った。
午前八時二十分。無事に夏美は明香と合流出来た。
夏美が来るまで何かに襲われないか、透明人間のように変貌を遂げた音奏に襲われないか不安だったのだろう。生きた心地がしなかった明香は安堵のあまり泣き出してしまった。
夏美は明香に事情を聞き、蒼空を呼んで今後の行動を決めようとした。しかしいくら電話をかけても蒼空は出ない。
「うそ!? 蒼空君こんな時に寝坊とか信じられない!」
「もしかして……蒼空君も」
明香はどうしても嫌な方へと考えてしまう。
「絶対違うよ。蒼空君情報だと、蒼空君自体には何も起きないって言ってたし。多分、夜更かしして色々調べてくれてるんだろうけど」
今は蒼空の情報が欲しい。どう動けば安全かを知りたい。
とりあえず二人は近くのコンビニでパンとジュースを買い朝食をとることにした。
何かに襲われる不安を抱えたまま、気が気でない朝食を済ませ、午前九時になってようやく蒼空が電話に出た。
「もしもしごめ」
「蒼空君急いで来て!」
夏美は何よりも先に蒼空に会って安心したい。しかし告げられた言葉は、夕日ノ町の偉人の銅像がある公民館へと指示が下る。それほど遠くない場所だから注意して行けば問題は無い。
電話を終え、夏美は明香へ報せる。
「なんか、そこにいたら少しの間は安全で、三十分後にLINEで送られる場所へ行けって」
夕日ノ町の偉人の銅像がある公民館には都市伝説が一つある。
『昼四つの風鈴売り』
午前十時、あの世とこの世を繋げる風鈴売りに会うと、会いたい人に会える都市伝説。
「なんでそんな所に? 都市伝説起きちゃう」
「でも、三十分後に連絡する所に行くんだよね。昼四つは午前十時だから、時間いっぱいまでいないから」
「とりあえず行ってみよ」
二人は考察を後回しにして公民館へ向かった。
午前九時三十分。
公民館で蒼空の連絡があった。
「今度は何処?」
夏美は明香にスマートフォンを見せて蒼空の文章を見せた。
「夕日ノ町の噴水公園、って」
これも一つの都市伝説がある。
『午の刻の祭囃子』
お盆の時期、午の刻の間に祭囃子を夕日ノ町の噴水公園で聞くと妖怪の祭りに巻き込まれる都市伝説。
「午の刻って、何時?」
「昔の呼び方だから、十一時から十三時。間に真昼があるって感じ」
「ええ?! 大雑把すぎじゃん。何時までいればいいのぉ」
「多分、それまでに蒼空君が来るのかも」
蒼空の家から噴水公園までを考えると十一時までには到着出来る。
「ここで合流してどうするかって事ね。じゃあ行こう」
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