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三章 迫る恐怖
4 三十八番目
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病院へ蒼空が到着したとき、駐車場の片隅に音奏、夏美、明香がいた。夏美と明香は泣いている様子が遠景でも窺える。本来なら急げば十分以内で到着出来る道のりを、動揺している蒼空は電話があってから三十分で到着した。
「……なんで……桜木君が?」
目を赤くし、鼻を啜る音奏が説明する。駿平は車に轢かれて即死した。犯人は逃走し、現在警察が調べている。
遺体安置所に駿平の遺体はあるが、家族から見てはいけないと拒まれるほど凄惨な状態だという。
「……私のせいだ」
明香は恐怖し、自分を責め始めた。
「私が生きてるから駿平君が巻き込まれたんだ!」
「明香ちゃん、違うよ」
夏美も涙を流し続けて否定する。
「だって、私が自殺でもして!」
「ダメだ!」
号泣する音奏は、明香の肩を掴んで止めた。
「明香ちゃん、自分が死んだ方が良いって言っちゃダメだ! これはただの事故。明香ちゃんは関係無いから!」
「だって……あんな夜遅くに……」
駿平は前日午後八時、事故に遭ったという。
蒼空は事故現場を聞くと、駿平の家から歩いて五分もかからないところの交差点。それは三十八番目の都市伝説に当てはまる場所だ。
「ごめん皆。今日はもう帰ろ」
「おい蒼空、お前駿平が死んだのに何も感じねぇのかよ」
涙を流さない蒼空に苛立つ音奏は、言い寄った。
「……こっちも混乱してんだよ。何も感じてないわけないだろ」
「なんだとぉ」
互いに苛立つ感情がぶつかり、一触即発状態となる。
「もう止めてよ!」夏美が間に入った。「こんな時に喧嘩とか止めてよ。駿平君も……」
また悲しくなり涙が溢れる。
必死に怒りを堪えようとする音奏の服を明香が掴み、目が合うと頭を左右に振って喧嘩をしないでと伝える。
明香も死が迫っている。悲しんでいる暇はないのに感情が安定しない。
このままでは明香も死んでしまう。四人とも悲しみながら焦っていた。
「……悪い、先帰るわ」
蒼空は自転車に乗って帰って行った。
「蒼空君!」
夏美が呼び止めるも虚しく、蒼空は自転車に乗って去った。
これ以上泣くだけで居ても仕方ない。そう思い、右腕で涙を拭った音奏は二人のほうを向く。
「俺が送るよ。とりあえず今日は帰ろう」
夏美も明香も頷き、三人は帰路についた。
蒼空は事故現場へ向かって自転車を走らせた。
昨晩、駿平は何かに気付いて事故現場へと向かった。
(なんだ……何に気付いたんだ?)
事故現場は自転車を走らせて二十分ほどの所である。
商店街近くの交差点。三十八番目の都市伝説『夜五つの来訪』
夜五つは江戸時代の時刻の呼び方で八時も含まれる単語だ。古い時刻の呼び名は調査段階で知るべき情報なのですぐに分かった。
”午後八時、真昼ノ橋交差点にて幽霊の通り道が現われる”
それがこの都市伝説であった。幽霊の邪魔をしたり騒いだりするとあの世へ連れて行かれると言われている。
蒼空が真昼ノ橋交差点へ到着すると、そこには規制線が張られ、警察が事故現場の検証をしている様子が窺えた。
(……あれ?)
現場の光景は違和感を覚えるものであった。一番近くで眺めている野次馬の男性に尋ねた。
「あの……何かあったんですか?」
知らないふりをする。
「ああ、事故だよ事故。高校生がひき逃げされたって。可哀想に」
「高校生は無事なんですか?」
「さぁ、そこまでは。けど、凄惨な現場って聞いてた割にはあっさりしてるから、何が本当かどうか」
駿平の遺体は見るも無惨とあった。しかし、そこまで酷いならブルーシートを被せているだろうし、野次馬がこんな近くの事故現場を傍観できないだろう。
すでに検証などの始末を終えている状態だ。
「警察はいつから?」
「結構前だと思うけど、昼ちょい前じゃないか?」
早すぎる。それに事故が昨晩なのに昼前後に警察が動くなど。
違和感の正体から、きっかけを導き出そうと考察する。
“僕に何かあったら、それは失敗でも間違いでもなくって、きっかけだと思って”
昨晩の言葉が思い出される。
(何を見つけたんだ……)
まだ謎は解けない。深まるばかりといっても過言ではない。
『答えに導く考察の素材となるものはいくつも眼の前にあるわ』
加賀見茜の言葉が過る。
唐突に浮かんだ可能性が、確信も持てず決定的な証拠も無いが一つの大きな希望だと思えてならなかった。
午後十時半。
蒼空は部屋で都市伝説を書いたノートと、日和の気付いた情報を記したメモを眺めていた。
『全体的に違っていた』
駿平が告げた言葉が思い出される。そして駿平が知っている情報を知ると先入観が勝ってしまう。
「…………わけ分かんねぇ」
日和は一番目と四十二番目に何か気にしている様子が窺える。
「今まで起きたと思われる都市伝説は……」
一人呟きながら思い返す。
現象として起きた都市伝説の全ては偶数であり、奇数であるのは御堂六郎の存在。第三の都市伝説『夢幻の願望成就』。
駿平が初めて協力してくれた日、数字が関係していると提案していたが、確かに偶数は大いに関係しているかもしれない。しかし、御堂六郎が奇数の伝説だからこの法則に反する。偶数であったと証明するには無理がある。
日和が注目した一番目。『鎮める双子の神』。
双木三柱市の神話に纏わる二本の御神木の都市伝説。厄災を払うとされる御利益のような都市伝説。
二本の大木は大昔に落雷で破壊され、今では大樹跡のような幹と大きな石碑が建てられている。
一番目の注目の謎は深まるばかりだが、同時に、どうして二番目ではないかも気になった。
二番目の伝説『循環する三柱』。今では双木三柱市の三町それぞれを代表する神を指している。朝に関する神。真昼に関する神。夕に関する神。町の名前の起源たる神話である。
御神木と三柱の神。二本の木と三つの神。これが双木三柱市の名前の由来となっている。
謎めいているのは、他の都市伝説は怪奇現象のようなものが殆どだが、神絡みはこの二つしかない。
日和が注目した四十二番目の『五メートルの足跡』。ネットに記された説明文から季節は冬と決まっている怪奇現象系の都市伝説。
神木と足跡。二つの関係性がまるで分からない。
ふと、駿平が最後に告げた訴えの中に、前園明香の兄が登場したのを思い出す。
スマートフォンを手に取り、LINEで聞こうと思うも、駿平の死の衝撃でそれどころではないと考えた。
(……明日にしよう)
立ち止まると十四日に前園明香が死んでしまう。それは日和が戻らない結果に加えて夏美も近い将来死ぬ危険性が高まる。
たとえ嫌われても明日には活動を再開しなければならない。
ただ、今日だけはもう考えないようにしようと決めた。いや、考えることが出来ない状態である。が正しいかった。
「……なんで……桜木君が?」
目を赤くし、鼻を啜る音奏が説明する。駿平は車に轢かれて即死した。犯人は逃走し、現在警察が調べている。
遺体安置所に駿平の遺体はあるが、家族から見てはいけないと拒まれるほど凄惨な状態だという。
「……私のせいだ」
明香は恐怖し、自分を責め始めた。
「私が生きてるから駿平君が巻き込まれたんだ!」
「明香ちゃん、違うよ」
夏美も涙を流し続けて否定する。
「だって、私が自殺でもして!」
「ダメだ!」
号泣する音奏は、明香の肩を掴んで止めた。
「明香ちゃん、自分が死んだ方が良いって言っちゃダメだ! これはただの事故。明香ちゃんは関係無いから!」
「だって……あんな夜遅くに……」
駿平は前日午後八時、事故に遭ったという。
蒼空は事故現場を聞くと、駿平の家から歩いて五分もかからないところの交差点。それは三十八番目の都市伝説に当てはまる場所だ。
「ごめん皆。今日はもう帰ろ」
「おい蒼空、お前駿平が死んだのに何も感じねぇのかよ」
涙を流さない蒼空に苛立つ音奏は、言い寄った。
「……こっちも混乱してんだよ。何も感じてないわけないだろ」
「なんだとぉ」
互いに苛立つ感情がぶつかり、一触即発状態となる。
「もう止めてよ!」夏美が間に入った。「こんな時に喧嘩とか止めてよ。駿平君も……」
また悲しくなり涙が溢れる。
必死に怒りを堪えようとする音奏の服を明香が掴み、目が合うと頭を左右に振って喧嘩をしないでと伝える。
明香も死が迫っている。悲しんでいる暇はないのに感情が安定しない。
このままでは明香も死んでしまう。四人とも悲しみながら焦っていた。
「……悪い、先帰るわ」
蒼空は自転車に乗って帰って行った。
「蒼空君!」
夏美が呼び止めるも虚しく、蒼空は自転車に乗って去った。
これ以上泣くだけで居ても仕方ない。そう思い、右腕で涙を拭った音奏は二人のほうを向く。
「俺が送るよ。とりあえず今日は帰ろう」
夏美も明香も頷き、三人は帰路についた。
蒼空は事故現場へ向かって自転車を走らせた。
昨晩、駿平は何かに気付いて事故現場へと向かった。
(なんだ……何に気付いたんだ?)
事故現場は自転車を走らせて二十分ほどの所である。
商店街近くの交差点。三十八番目の都市伝説『夜五つの来訪』
夜五つは江戸時代の時刻の呼び方で八時も含まれる単語だ。古い時刻の呼び名は調査段階で知るべき情報なのですぐに分かった。
”午後八時、真昼ノ橋交差点にて幽霊の通り道が現われる”
それがこの都市伝説であった。幽霊の邪魔をしたり騒いだりするとあの世へ連れて行かれると言われている。
蒼空が真昼ノ橋交差点へ到着すると、そこには規制線が張られ、警察が事故現場の検証をしている様子が窺えた。
(……あれ?)
現場の光景は違和感を覚えるものであった。一番近くで眺めている野次馬の男性に尋ねた。
「あの……何かあったんですか?」
知らないふりをする。
「ああ、事故だよ事故。高校生がひき逃げされたって。可哀想に」
「高校生は無事なんですか?」
「さぁ、そこまでは。けど、凄惨な現場って聞いてた割にはあっさりしてるから、何が本当かどうか」
駿平の遺体は見るも無惨とあった。しかし、そこまで酷いならブルーシートを被せているだろうし、野次馬がこんな近くの事故現場を傍観できないだろう。
すでに検証などの始末を終えている状態だ。
「警察はいつから?」
「結構前だと思うけど、昼ちょい前じゃないか?」
早すぎる。それに事故が昨晩なのに昼前後に警察が動くなど。
違和感の正体から、きっかけを導き出そうと考察する。
“僕に何かあったら、それは失敗でも間違いでもなくって、きっかけだと思って”
昨晩の言葉が思い出される。
(何を見つけたんだ……)
まだ謎は解けない。深まるばかりといっても過言ではない。
『答えに導く考察の素材となるものはいくつも眼の前にあるわ』
加賀見茜の言葉が過る。
唐突に浮かんだ可能性が、確信も持てず決定的な証拠も無いが一つの大きな希望だと思えてならなかった。
午後十時半。
蒼空は部屋で都市伝説を書いたノートと、日和の気付いた情報を記したメモを眺めていた。
『全体的に違っていた』
駿平が告げた言葉が思い出される。そして駿平が知っている情報を知ると先入観が勝ってしまう。
「…………わけ分かんねぇ」
日和は一番目と四十二番目に何か気にしている様子が窺える。
「今まで起きたと思われる都市伝説は……」
一人呟きながら思い返す。
現象として起きた都市伝説の全ては偶数であり、奇数であるのは御堂六郎の存在。第三の都市伝説『夢幻の願望成就』。
駿平が初めて協力してくれた日、数字が関係していると提案していたが、確かに偶数は大いに関係しているかもしれない。しかし、御堂六郎が奇数の伝説だからこの法則に反する。偶数であったと証明するには無理がある。
日和が注目した一番目。『鎮める双子の神』。
双木三柱市の神話に纏わる二本の御神木の都市伝説。厄災を払うとされる御利益のような都市伝説。
二本の大木は大昔に落雷で破壊され、今では大樹跡のような幹と大きな石碑が建てられている。
一番目の注目の謎は深まるばかりだが、同時に、どうして二番目ではないかも気になった。
二番目の伝説『循環する三柱』。今では双木三柱市の三町それぞれを代表する神を指している。朝に関する神。真昼に関する神。夕に関する神。町の名前の起源たる神話である。
御神木と三柱の神。二本の木と三つの神。これが双木三柱市の名前の由来となっている。
謎めいているのは、他の都市伝説は怪奇現象のようなものが殆どだが、神絡みはこの二つしかない。
日和が注目した四十二番目の『五メートルの足跡』。ネットに記された説明文から季節は冬と決まっている怪奇現象系の都市伝説。
神木と足跡。二つの関係性がまるで分からない。
ふと、駿平が最後に告げた訴えの中に、前園明香の兄が登場したのを思い出す。
スマートフォンを手に取り、LINEで聞こうと思うも、駿平の死の衝撃でそれどころではないと考えた。
(……明日にしよう)
立ち止まると十四日に前園明香が死んでしまう。それは日和が戻らない結果に加えて夏美も近い将来死ぬ危険性が高まる。
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