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一章 失踪と死の予言
4 白い服の女
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昼食後、夏美は友達の美菜から連絡を受け、真昼ノ町駅前に来た。ショッピングモールで買い物があるから一緒に行こうという誘いである。
「へ? 白い服の女?」
三時のティータイムにと二人は喫茶店へ寄る。美菜はアイスミルクティーとチーズケーキ。夏美は宇治金時とアイスコーヒーを注文した。
美菜は日本伝統部に所属し茶華道の大会に備えて励んでいる。相談内容にある『白い服の女』は、美菜が先輩から聞いた都市伝説の登場人物だ。
「嘘じゃないの?」
「私も先輩から聞いただけだから半信半疑なんだけど、ちょっと本当っぽいから怖くなっちゃって」
四十二の都市伝説にある白の予言。
校内の噂では、白い服を着た女の声を聞くと、奇妙な現象が起きるとされている。女の容姿は、黒髪、白服、色白の肌。服の種類は様々で、ワンピースが多いと噂され、朝日ノ町の風見鶏公園に出没するとされている。
女の行いは危害を与える内容が多い。暗闇に引きずり込む、ナイフや斧といった刃物を振り回して襲って来る、雨の日に現れて仲間にされるなど。また、見た目も蒼白な様子だったり血塗れだったりと、何かで見たような女怨霊定番の容姿が上がった。
注文した商品がテーブルに並べられると、二人の気持ちがスイーツに釘付けとなり、話を中断して食事を夢中で堪能した。
「……何? 日伝部って」日本伝統部の略である。「そんなに面白い事になってるの?」
二口ほど食べてから話が再開される。
「どこが面白いのよ。私、夏美と違って怖いのは見るのも聞くのも嫌だもん」
「えー、ホラー話って楽しいじゃん。夏なのに寒くなる感じとか」
それでも美菜は嫌がる。怪談系統の話題を理解する感性の相違は、きっと二人の間では一生埋まらないだろう。
午後五時三十分。
美菜との買い物を済ませ帰宅する夏美は風見鶏公園へ訪れた。いつもは何気ない公園だが、噂話の後だからだろうか、妙な気味悪さがある。まだ明るく蝉の鳴き声が茹だる暑さを増しているのに寒気も感じる。
公園は丘の上に設けられ、公園内でも高低差のある場所が多い。噂の庭は銀杏の木がいくつかあるエリアにあり、十五段ある木の階段を降りると、半円形の天井を設けた休憩所がある。横並びの長いすを二列に椅子を四脚設置している簡易な造りの休憩所だ。
夏美は襲われても逃げる心構えで公園へ入った。不意に後ろから現われてもすかさず距離を置く事を意識して進み、休憩所へ向かう階段前に立つと呼吸して落ち着く。
やや興奮しながら、恐る恐る長椅子付近を覗き見るように階段を降り始めた。草が茂り階段上からは休憩所は見えない。半分ほど降りてようやく見える。八段降りると休憩所が少し見え、誰かがいる事は分かる。足元だけだが、白いズボンを履いていて、靴はその人が座る長椅子の前にある長椅子に隠れて見えない。
(いた! ワンピースじゃなかった)
怨霊を題材にしたホラー映画で登場する、ボロボロの薄汚れた装い想像していたが、あまりにも現実味のある衣服に僅かばかり喜んだ。相手が都市伝説に登場する『白い服の女』だと決めつけていた。
さらにゆっくり降りると、シャツも白いモノを着用し、白い半透明のサマーカーディガンを羽織った女性が読書をしていた。幽霊の容姿や行動とはかけ離れた平凡で清潔感のある様子に、夏美の恐怖心は薄れていく。残りの階段を足早に降りた。
淡い陽光に照らされた女性は、夕陽が似合う優美さと和やかさから絵になる雰囲気が醸し出ている。見蕩れてしまった夏美から恐怖の気持ちが完全に消えた。
普段ならきつい西日の暑さに日陰へ身体が動くのだが、不思議と暑さが気にならない。
女性は本を閉じ、夏美に視線を向けるとニッコリとほほ笑んだ。
「――え!? あ……」
夏美は気まずくなり戸惑って後退る。
「何か用? ずっと見ていたようだけど」
とても穏やかな声。はっきりと聞こえる人間の声。
「え!? あ、いや……その」必死に言葉を選ぶ。「……なんか夕陽とマッチしてて綺麗だなって」
本心も混ぜた言い訳だが、あまりにも稚拙な表現をしたと後悔して恥ずかしくなり顔が熱くなる。
「ありがとう。こっちに座る?」
「あ、いえ……」言葉を漏らして躊躇する。
女性は穏やかに微笑むと本を閉じ、徐に立ち上がった。行動全てが緩やかに見える。スタイリッシュで服も単色だがお洒落。女優かモデルのような雰囲気が漂っている。
「あの……モデルさんか何かですか?」
「いえ。そう見えた?」
「あ、はい!」少し興奮する。「とっても優雅な感じが」
すんなりと近寄ってくる女性から逃げる気は無かった。
「ありがとう。でも残念ながらそんな華やかな世界を生きる人間じゃないわね。それに、靴が茶色以外は白系統一色。モデルの普段着にはお粗末でしょ」
「白……好きなんですか?」
「ええ。基本は白。色物は着ても淡色かな。濃色やカラフルすぎるのは苦手なの」
女性は「では」と小声で告げて、夏美の横を通りすぎた。
「あれ? 帰っちゃうんですか?」
なぜ初対面の人にそんな言葉をかけたのか、自分の発言だが不思議に感じた。
「ええ。読書に没頭して長居しすぎたから。それに、この辺は幽霊が出るって噂よ」
「あ、知ってます。なんか白い服の血塗れ女性が出るとか」
恐怖心を煽る誇張された脚色を聞かせると、女性は小さく笑った。
「それは怖いわね。貴女も気を付けて」
「あの、また来ますか?」
女性は微笑んで「ええ」と答え、そのまま帰っていく。夏美はついつい見惚れながら見送った。
帰宅した夏美は風見鶏公園で会った女性の事を思いだし、ホラー映画も内容が入ってこない。
「姉ちゃん、なんで普通に今のとこ観れんの?」
橙也が視界を手で隠しながらチラチラ画面を見るも、夏美は呆然と眺めている。
頭の中は別のことで埋め尽くされ、映像が頭に入っていない。
「へ? 白い服の女?」
三時のティータイムにと二人は喫茶店へ寄る。美菜はアイスミルクティーとチーズケーキ。夏美は宇治金時とアイスコーヒーを注文した。
美菜は日本伝統部に所属し茶華道の大会に備えて励んでいる。相談内容にある『白い服の女』は、美菜が先輩から聞いた都市伝説の登場人物だ。
「嘘じゃないの?」
「私も先輩から聞いただけだから半信半疑なんだけど、ちょっと本当っぽいから怖くなっちゃって」
四十二の都市伝説にある白の予言。
校内の噂では、白い服を着た女の声を聞くと、奇妙な現象が起きるとされている。女の容姿は、黒髪、白服、色白の肌。服の種類は様々で、ワンピースが多いと噂され、朝日ノ町の風見鶏公園に出没するとされている。
女の行いは危害を与える内容が多い。暗闇に引きずり込む、ナイフや斧といった刃物を振り回して襲って来る、雨の日に現れて仲間にされるなど。また、見た目も蒼白な様子だったり血塗れだったりと、何かで見たような女怨霊定番の容姿が上がった。
注文した商品がテーブルに並べられると、二人の気持ちがスイーツに釘付けとなり、話を中断して食事を夢中で堪能した。
「……何? 日伝部って」日本伝統部の略である。「そんなに面白い事になってるの?」
二口ほど食べてから話が再開される。
「どこが面白いのよ。私、夏美と違って怖いのは見るのも聞くのも嫌だもん」
「えー、ホラー話って楽しいじゃん。夏なのに寒くなる感じとか」
それでも美菜は嫌がる。怪談系統の話題を理解する感性の相違は、きっと二人の間では一生埋まらないだろう。
午後五時三十分。
美菜との買い物を済ませ帰宅する夏美は風見鶏公園へ訪れた。いつもは何気ない公園だが、噂話の後だからだろうか、妙な気味悪さがある。まだ明るく蝉の鳴き声が茹だる暑さを増しているのに寒気も感じる。
公園は丘の上に設けられ、公園内でも高低差のある場所が多い。噂の庭は銀杏の木がいくつかあるエリアにあり、十五段ある木の階段を降りると、半円形の天井を設けた休憩所がある。横並びの長いすを二列に椅子を四脚設置している簡易な造りの休憩所だ。
夏美は襲われても逃げる心構えで公園へ入った。不意に後ろから現われてもすかさず距離を置く事を意識して進み、休憩所へ向かう階段前に立つと呼吸して落ち着く。
やや興奮しながら、恐る恐る長椅子付近を覗き見るように階段を降り始めた。草が茂り階段上からは休憩所は見えない。半分ほど降りてようやく見える。八段降りると休憩所が少し見え、誰かがいる事は分かる。足元だけだが、白いズボンを履いていて、靴はその人が座る長椅子の前にある長椅子に隠れて見えない。
(いた! ワンピースじゃなかった)
怨霊を題材にしたホラー映画で登場する、ボロボロの薄汚れた装い想像していたが、あまりにも現実味のある衣服に僅かばかり喜んだ。相手が都市伝説に登場する『白い服の女』だと決めつけていた。
さらにゆっくり降りると、シャツも白いモノを着用し、白い半透明のサマーカーディガンを羽織った女性が読書をしていた。幽霊の容姿や行動とはかけ離れた平凡で清潔感のある様子に、夏美の恐怖心は薄れていく。残りの階段を足早に降りた。
淡い陽光に照らされた女性は、夕陽が似合う優美さと和やかさから絵になる雰囲気が醸し出ている。見蕩れてしまった夏美から恐怖の気持ちが完全に消えた。
普段ならきつい西日の暑さに日陰へ身体が動くのだが、不思議と暑さが気にならない。
女性は本を閉じ、夏美に視線を向けるとニッコリとほほ笑んだ。
「――え!? あ……」
夏美は気まずくなり戸惑って後退る。
「何か用? ずっと見ていたようだけど」
とても穏やかな声。はっきりと聞こえる人間の声。
「え!? あ、いや……その」必死に言葉を選ぶ。「……なんか夕陽とマッチしてて綺麗だなって」
本心も混ぜた言い訳だが、あまりにも稚拙な表現をしたと後悔して恥ずかしくなり顔が熱くなる。
「ありがとう。こっちに座る?」
「あ、いえ……」言葉を漏らして躊躇する。
女性は穏やかに微笑むと本を閉じ、徐に立ち上がった。行動全てが緩やかに見える。スタイリッシュで服も単色だがお洒落。女優かモデルのような雰囲気が漂っている。
「あの……モデルさんか何かですか?」
「いえ。そう見えた?」
「あ、はい!」少し興奮する。「とっても優雅な感じが」
すんなりと近寄ってくる女性から逃げる気は無かった。
「ありがとう。でも残念ながらそんな華やかな世界を生きる人間じゃないわね。それに、靴が茶色以外は白系統一色。モデルの普段着にはお粗末でしょ」
「白……好きなんですか?」
「ええ。基本は白。色物は着ても淡色かな。濃色やカラフルすぎるのは苦手なの」
女性は「では」と小声で告げて、夏美の横を通りすぎた。
「あれ? 帰っちゃうんですか?」
なぜ初対面の人にそんな言葉をかけたのか、自分の発言だが不思議に感じた。
「ええ。読書に没頭して長居しすぎたから。それに、この辺は幽霊が出るって噂よ」
「あ、知ってます。なんか白い服の血塗れ女性が出るとか」
恐怖心を煽る誇張された脚色を聞かせると、女性は小さく笑った。
「それは怖いわね。貴女も気を付けて」
「あの、また来ますか?」
女性は微笑んで「ええ」と答え、そのまま帰っていく。夏美はついつい見惚れながら見送った。
帰宅した夏美は風見鶏公園で会った女性の事を思いだし、ホラー映画も内容が入ってこない。
「姉ちゃん、なんで普通に今のとこ観れんの?」
橙也が視界を手で隠しながらチラチラ画面を見るも、夏美は呆然と眺めている。
頭の中は別のことで埋め尽くされ、映像が頭に入っていない。
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