烙印騎士と四十四番目の神

赤星 治

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十章 暗躍と思惑と

Ⅵ それぞれが窮地に立たされ

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 オウゾの繰り出す攻撃はあまりにも素早く、受け止めたところで威力も衝撃も大きく堪えるのも必死な重さがあった。剣が折れないのは古代の剣だからだろう。
 息切れするジェイクも、手に震えが生じ始めた。身体には傷が増えていく。
(野郎ぉ……あれで息切れなしかよ、くそったれ)
 三つあった烙印もすでに残り一つ。慎重に使いどころを探っている。
 一方でオウゾもジェイクへの奇妙な思いはあった。怪しく思う点は、急激に剣捌きの速度が増した所だ。持続はしなかったが、何かの術が技だと考えた。
 オウゾの知らない烙印の恩恵。その効果が切れてもジェイクを侮れなかった。
(妙な術によるものか、ワシの捌きになれているのか。……長丁場は危険だ)
 隙を突かれた際に烙印を使われてしまえば対応出来ずに深手を負うか即死の一撃を貰うことになる。早急にジェイクを仕留めなければと焦りが生じるも、易々と仕留めさせてはくれない。
 このまま体力が尽きるまで続けていれば、作戦に支障をきたしかねないし、回復したカイネかヌブルの戦士が加勢にでも加われば負け戦に転じてしまう。
 どう立ち回り勝機を見出すか、オウゾは考えた。
(ジェイク! どうしてカムラも剣の力も使わないの! 早く仕留めないと)
(ダメだ! 奴は奴自身の実力で剣を振るってる。だったらこっちも実力勝負だ。咄嗟に烙印は使っちまったが、残り一つは奴が妙な技使った時のみの対処用だ)
(言ってる場合!? 早くしないと、何が起きるか分からないのよ!)
 それでもジェイクは意地を通した。ベルメアの言わんとすることは重々承知してはいるが。
 再び向かいあう両者。
 再度、重い攻撃の応酬が繰り広げられた。


 ◇◇◇◇◇


 話の場を設け、スビナからコルバの説明と真の業魔の存在について話が進む。この間、アブロがクーロの三人目の幹部であることをスビナもヒューガも伏せた。
 クーロには真の業魔が存在すると話が進む最中、中断する事態が起き、その場にいた者全員が気配を感じた。
「どうやら、まだまだ暇を与える気は無いようだな」
 屋外へ出て周囲を警戒するも、まだ見て分かる変化は起きていない。
「なんだろ、変な感じがします」
 トウマの感じる気配は、突如湧いて出たような、ねっとりと纏わり付くような異様な気配である。
 魔力、呪い、ミジュナ。様々な力を想定するも、定かとなるものが見当たらない。確かに異様で気味の悪い空気だ。
 ヒューガもガルグも気配の質を探るのに苦戦していた。
「トウマ、ルバスの元へ戻れ。嫌な予感がする」
 ヒューガに命令され、トウマは返事をして走った。
 トウマがいなくなり、しばらくしてスビナは気づいた。それは地面全体からである。
「どうしたスビナ」
 ヒューガもスビナが地面を気にしている様子に釣られ、同様に勘ぐりを入れてみる。しかし何も感じない。
「何かが……蠢いてます」

 動きは魚の遊泳のように感じる。大きさは様々だが、全体的に大きくなりつつある。それは、この異様な気配がつよくなるのと比例して。
「ヒューガ様、地中から何かが迫ってきてます!」
 どういった手段かは分からない。漠然と、何かの術、としか。それはヒューガもガルグも分からない。
 手の打ちようがなく、ヒューガの頭に過った策は、その何かが姿を現わす瞬間に呪いをぶつけるか、地面へ呪いを注いで様子を探る、であった。
 どちらの作戦にしろ、ルダとの戦闘において呪いを使ったので多量には注げない。制限をかけた戦闘ではあったが、平然と動けるのは無理をしているからでもある。
 ガルグは策を考えた。
「ヒューガ様、一度ニルド本城へ向かい、ルバス様と合流すべきかと。我々で討てる策は頭打ちかと思われます」
「不本意だがそうだな。ニルドしか知り得ぬ術やもしれん」
 最中、スビナへ向け、上空から声がした。
『スビナ、聞こえるか』
「コルバさん!?」
 返事するスビナをヒューガとガルグは見た。コルバの声は二人に聞こえない。
『今、本城を中心にヌガが現われようとしておる!』
「ヌガ?」
『説明は後だ、とにかく大きいミジュナの魚と想像してもらおう。術師がヌガを出せば二ノ門に住む者全員が食われてしまう!』
 コルバが嘘を吐くとは思えない。そしてそれほど強い存在が迫っていると、地面から感じる力が告げているように感じる。
「何か手はないのですか!」
『そなたは巫力が扱えるな。それを地面に広げよ! 薄く、広く。急げ、次の術は追って告げる!』

 言葉が途絶えると、スビナはヒューガとガルグへ説明する。
「要するにお前にしか出来んなら、急ぎ行え」
 ヒューガへ返事したスビナは、すぐに取りかかった。
 ルキトスとして陣敷きに似た修行は初日からやってきた。巫力、魔力を広げる方法。それをほぼ一国分広げるにはかなり神経を使わなければならない。
 出来るかどうか分からない。それでもやらなければ全員が死んでしまう窮地に陥る。
 どう足掻こうとも巫力を広げるしかなかった。
(薄く……広く……)
 薄手の生地ほどの薄さを意識し、スビナは巫力を足下から広げた。


 ◇◇◇◇◇


 北に位置する業魔を封じる部族・パラドが住む村へ駆けつけたミゼルは、魔獣の襲撃にでも遭ったかのように崩壊した村の有様に悔しく感じた。
 火の手は何処にも上がっていないが、倒壊した家屋に使用された木材が焼けた様子は所々見受けられる。煙も上がらず熱もない。時間はかなり経っている様子だ。
 ラドーリオが傍に現われた。
「ミゼルおかしいよ、焼け跡も、血の跡もあちこちにあるのに」
「ああ。かなりまずい事態かもしれん」
 どこにも人がいない。死体も、生きている気配、魔力や気功の名残や揺らぎすらも。対し、ミジュナと微かに呪いと思われる力を感じた。
 不意に、僅かだが邪悪な気配を二つ感じた。
「挟み打ちとは勘弁願いたいのだが」
 恐れたラドーリオはすぐにミゼルの中へと入った。
 まだ出てこないので、様子見されているのだと疑った。
「隙を伺っているのか、何かを警戒でも? これほど大仰なことをしでかしたのだ、たかが一人の戦士を恐れる必要はないのでは?」
 観念したのか、倒壊した家屋の陰から二人は姿を現わした。ゲルガッドとクーバトロである。
 ミゼルは初見で気づいた。自身を警戒したのではない、道楽で出方を伺い楽しんでいたのだと。
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