烙印騎士と四十四番目の神

赤星 治

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九章 激震する人間の国

Ⅶ 災難続きのルダ

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 三ノ門周辺は騒然としていた。
 住民は外に出て本城を眺め、兵士達は三ノ門周辺で住民達が門へ近づかないように規制したり、伝令へ向かう者や報せを聞き伝えに走る者などがいる。
 ヒューガの遣いである証明となる木片と、報告に来た兵士から譲り受けた通行証明の木片をジェイクは取り出した。共に大きさは手の平大である。
「いっそ、ベルとラドーリオを見せてガーディアンだから通して貰うのはどうだ? どうせ手続きとか審査とかされるだろ」
「そうだな。しかし手順を追って話を進めさせてもらうぞ。すぐに見せて混乱が長引く事態は避けたいからな」
 交渉役をミゼルへ譲り、ジェイクは後ろに着いた。
「取り込み中すまない。我々は、そちらの位ある兵士の報告を受け、先んじてニルドの援護へ訪れた者だ」
 この時点で木片を見せた。
「申し訳ない。城内で問題が起きてしまい、証明に時間が」
 ここぞとばかりにミゼルは「我々はガーディアンなのだよ」と告げ、ラドーリオ、続けて現われたベルメアを兵士達が見た。
 次々に驚く兵士達へミゼルは続けた。
「兵士は紫色の礼装を羽織るナズロ殿、城内にオニが現われたと聞き及んでいる。クーロにて数日前、賊の襲撃を負い大勢が亡くなってしまわれた。急ぎニルドも被害を抑えたい気持ちなのだよ」
「急がないとクーロの二の舞かもしれねぇぜ」
 つい、ここぞとばかりにジェイクは脅しを入れた。
「クーロでは、被害が甚大だったので?」
「賊は出るわ、妙な化け物は出るわでな」
 嘘は吐いていない。しかし重要な部分を端折り、重点のみを繋げて告げた為、当日に被害が立て続けに起きたと誤解させた。
 想いもよらないジェイクの割り込みだったが、兵士達の反応を見てミゼルは付け加えた。
「急ぎオニを成敗し、態勢を立て直したいのだ。すぐにでも通してくれるか? 本日中か明日にでもヒューガ様が来るだろうから、真偽はその時確認して頂きたい」
「いえ。クーロにガーディアン様がいらっしゃる話は聞き及んでおります。そしてニルドのガーディアン様、名をトウマ様と申します。その方の守護神様も拝見しております。信じるに値するでしょう」
 兵達はジェイクとミゼルを通した。
「すまん、つい口走った」
「いや、上手く彼らを焦らせ早く済んだ。助けられたよ」
 褒められてジェイクは少し照れる。
 矢先、本城で何かが激しく崩れる音と、煙が四箇所から上がった。
 二人は気を引き締め、城へと向かった。


 ◇◇◇◇◇


 ルバスのいる部屋を探し回るルダは、一際豪華な模様の襖の部屋を見つけた。まだ上へ続く階段はあるが、派手な襖の部屋は大部屋だ。
 上が最上階であり国王がいるならそちらだ。しかし事態を察したなら別の部屋へと避難するだろう。そして一階と二階は突然オニが現われたので降りられない。地下へと向かうとしても階段からは向えない。
 秘密の通路や階段を想定しつつも、ルダはこの大部屋が気になってしまった。上へ探しに向かった隙にこちらから階下へ降りられるのも情けない話だからだ。
 直感を信じ、ルダは襖をそっと開けた。
 オニの襲撃など知らずと言わんばかりに綺麗に保たれ、四十畳はあるだろう畳敷きの大部屋の中央に、豪華な着物を纏う者が正座していた。背後からなので性別は不明だ。

(あぁ……、やっちまった)
 内心で嘆きつつ、ルダの足は大部屋へと踏み込む。
 そっと襖を閉めながら、ルダはどう立ち回るか考え、現状と自身の状況を鑑みて周囲に気を配っている。
 ルダの気が落ち着かないのも無理はない。中を覗いて以降、自らの意志に反して行動しているのだ。
 これは賊を嵌める罠。そう結論づけた。魔力、気功を遣い抗ってみるが、消費量に対して変化は僅か。少し遅くなる程度であった。
 抗う術は分からないが、呪いなら縛りから解放されるかもしれない。
 中央の人物へ到達すれば何が起こるか分からない。その憶測が、早くこの場から抜け出せねばと気持ちを焦らせる。
 無理やり平静を保ちつつ、焦って多量の呪いを出さないように、少しずつ呪いを使う。
 その判断は正解だった。僅かな呪いで身体はすぐに支配から解放された。

 急いで部屋を出ようと身構えたとき、中央の人物が立ち上がり、頭が反転した。確実に首の骨が折れている程に綺麗な反転である。
「――人形!?」
 向き合った相手の顔面が無く、空洞に着物と鬘を支える骨組みの木材が見えた。
 欺された。明らかな罠。
 直感が次の行動を起こそうとする前に変化が起きた。
 人形の身体が土塊のように崩れると同時に、部屋の風景が揺らめき、色合いが変わり、ルダが行き着いたのは城の外であった。
 そこが空間術内部かと調べる。
 現実の世界、本城の外であった。
「くっそ、嵌めやがって」
 すぐに城へと戻ろうとした矢先、懐かしい気配を感じて足が止まる。
(うっわ、最っ悪)
 その二人が誰かは顔を見なくても分かる。カイネの集落で馴染み深いガーディアンの気配。

「おやおや、まさかこのような場で遭遇するとは」
 ミゼルの声に続き、ジェイクの声もかかった。
「ルダ、どういうことが説明しやがれ」
 溜息を吐きながら振り返ると、二人は剣を抜いて切っ先をルダへ向けていた。
(さぁて……どうする)
 ガーディアン両名が切っ先を向けるということは、ルダがゾーゴルの幹部だと判明している可能性は大いに高い。そうでなければこの向き合い方はしないだろう。
 現状、二人は偶然ルダと出会い、本来の目的があって城にいる。ここまで秘密裏に行動し、こっそりと忍び込んだルダがいると知らないはずだ。
(……上手く、いくかなぁ……)
 焦りを勘づかれないようにルダは言葉を選んだ。
「感動の再会だっつーのに、えらく喧嘩腰じゃねぇか。そんな暇あるのか? 用があって来たんだろ」
 二人は表情を崩さない。その様子がルダは気になった。少しでも表情に変化が起きても良いようなものだが。

 ルダと向き合う最中、ミゼルはジェイクへ念話を飛ばした。
(落ち着いて聞いてくれるか)
 もう慣れたジェイクは、念話で聞くことに意図があると察し、念話で返す。
(どうしてルダがいやがる)
(ゾーゴルの任か、独断行動か。どうあれ、今、我々と会って得はない。何かが起きて飛ばされたのだろう)
(やり合うのかよ)
(奴も焦り、我々を分断か城へ向ける発言をするだろう。その時、私が残り奴と)
(待て、それは俺が請け負う)
 念話の最中、ルダが話を進める。

「俺に構ってっと、大事な誰かが死ぬぞ。中はオニが湧いて大暴れだからよ」
 前情報でオニの襲撃を受けたと知っている二人も、表情が僅かに険しくなる。
(言っておくが、ルダはゾーゴルの幹部である以上、多くのカミツキを殺している。お前を煽って怒らせる手も)
(分かってる。少しは成長してんだ、俺を信じろ)
 その言葉を信じ、ミゼルは両足に魔力を籠めて城へと向かった。

(くっそ、城はジェイクじゃねぇのかよ)
 ルダの予想は外れた。
 感情的なジェイクを残せばルダの言葉で怒り、周りが見えない特攻の最中に呪いか術を用いて逃げ仰せるだろう。そう考えてミゼルが残る作戦をとり、話術で色々訊くと踏んでいた。
 ミゼルはルダが苦手とする相手だが、この悪辣な環境下のニルドでは逃げやすい。既にゾーゴル幹部か、関係者と知っているなら呪いを隠す必要は無くなった。そしてミゼルのカムラは高速で移動するものではない。だから逃げの手段を講じやすかった。
 しかし相手がジェイクだと話が変わる。とりわけ面倒なのがカムラだ。
 ジェイクのカムラは近接戦に適した力を持ち合わせている。体躯が巨大で呪いやミジュナ、別の危険視される力を纏っている相手だと分が悪いものの、一対一の人間同士ならかなりの難敵だ。おまけに烙印が一つでもあればルダの勝ち目はかなり低い。
 ルダは考えた。
 あらゆる状況と情報から鑑みて、話術で隙を作る。どうしてもこの機にルバスを見つけなければ本命の作戦・・・・・の成功率が激減してしまう。
 バレてはいけない。たとえジェイクであっても。
 ジェイクとの協力は結べない。

「意外だな。てっきりミゼルが残り、俺から色々訊くと思ってたぜ」
「ゾーゴルの幹部なんだろ」
 唐突な指摘。ルダの顔つきは真剣なものへと変わる。
「……で、ご立腹か? カミツキを大量に殺したから」
「ゾーゴルの強大さはまだ掴めてねぇが、そんなとこの幹部ってんだ、やることやってんだろ。おめぇ見てっと、ヒューガを敵視してゾーゴルに入ったってのも考えにくい。怨恨や怒りに支配される野郎じゃねぇって俺は見てるからな」
「褒められてんだかどうかってとこだな。じゃあなんだ? 俺がゾーゴルの幹部になってる意図ってのは」
「さあな」
 平然と返された。ジェイクがはったりをかけているとも思えない。なにより、知っているのはルダを含めて二人だけだからだ。相方が裏切る訳がない。本当にジェイクは知らないのだろう。
「人が良すぎるぜ。俺が同族カミツキを憎んでゾーゴルへってのも考えられねぇか?」
「いや、お前はもっと深い理由がある。俺等とも協力しないような、面倒な問題をな」
 ルダは具象術で二本の短剣を造り、構えた。
「じゃあ、どうする? 足止めか?」
「このまま突っ立ってると、お前は逃げそうだからな。やり合いながら吐かせる」
 互いに攻め時を見極める。

 まるで合図のように、城の壁がオニの攻撃で破壊される音が響く。
 二人は突進してぶつかった。
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