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八章 暗がりより蠢くモノ
Ⅹ 作られた化け物達
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リブリオス建国の真実を知ったビンセントとスビナは驚きを隠せなかった。その心情は、既に夕陽が沈みかかり、光景は朱色が増していると気づかない程に。
「……え、じゃあ……、カミツキって」
度肝を抜くほどの真実の連続で情報整理が追いつかないビンセントは、説明にあった人間がどうしても気になり、コルバへ訊いた。
「カミツキは元々が人間だ。当時、ゾーゴルを地下へと追いやった連中がカミツキの開祖と言えるな」
「待ってください」
スビナが口を挟む。
「元々が人間だったなら、現在のカミツキは元々が人間だったと知ってるのでは?」
「これはおよそ四百年も前の出来事だ。それに、三国として成り立った経緯はその真実を消滅させるに足る歴史だからなぁ。……理由は単純だ。ただ“合わんかった”んだ」
真っ先に二人が思いついたのは、悪性の強い魔力が人間の身体に合わなかったと。しかし違った。もっと人間らしい、どこの国でも組織、集団でもあり得る、相性の問題であった。
「ゾーゴルを地下へ、という大きな目的があったからこそ皆が団結して纏まったにすぎん。そこからリブリオスを新たな国として成り立たせるには苦労した。そもそもが対等ではない種族同士だからな、悪性の強い魔力を帯びた人間と普通の人間では、偏見と差別は浮き彫りとなってくる」
「なんでだ? これだけ広い国土があるんだ、皆で協力しあって。村や町を各々で作って暮らすとか、考えなかったのか?」
コルバが頭を左右に振ると、スビナは大凡の検討がついた。
「亀裂が生じる要素が多すぎたのですね。多分、もう少し時間をかけて考えたら、理由は浮かぶでしょうけど、この条件だと分裂しても変じゃないです」
「なんでだ?」
「ゾーゴルを追いやり、残った方々は、普通の人間と異質な力を備えた人間です。口論にしろ恨みを買うにしろ、得体の知れない力を持って壮絶な暴力を振るわれると邪推を働かせた方もいたはずです。不安が増幅し、ありもしない噂や妄想に怯え、カミツキの開祖達へ向ける目も姿勢も変わってしまいます」
「ご明察。加えていうなら、その妄想を鮮明にさせた出来事こそ内乱なのだ。力の本質を目の当たりにし、その時だけは強い味方とばかりに歓喜するも、熱が冷めてしまえばその力を抑止力として恐ろしきものとされたのだ」
話の流れでは、新たな諍いがあったと、ビンセントでも思い至った。
「……何度か争って三国に?」
「大まかに言えばそうなるな。だが大々的に人死にを出した争いを起こしたのはカミツキ同士だ。人間とカミツキ間では口論の末、国境を設けて居住環境を隔てたのだ」
それがニルドだと、二人は察した。
ビンセントはカミツキ間の争い原因が気になった。
「どうしてカミツキの間で争いが?」
「業魔だ」
二人は訳が分からず、驚きはするも悩ましくあった。
「……業魔、ですか?」スビナは可能性すら思いつかない。
「唐突に業魔と聞いて混乱しとるって顔だな」
コルバは二人の様子が面白く、微笑んでから続けた。
「業魔は突如として現われた化け物だ。どこから、どうやって、そしてどのように討伐するか。それらがカミツキ達は分からなかった。とりあえず全力をもって戦い、殺した。すると、殺した者達は瀕死に近い状態だったのが、あれよあれよと回復したのだ。そして力も僅かばかりだが強くなった。業魔を倒せば強くなれる。そう判断した彼らの前に、また別の業魔が現われた。数体の業魔を、分担して討伐したカミツキ達の間で、業魔を独占すれば強く在り続けられると考えられた。なぜ業魔を倒せば強くなるのか、回復するのか、まるで分からない中でだ」
「……それって」
サラは気づいた。武力を欲し、全てを統治する種族として成り立とうとする独占欲が。
気づいたコルバは、軽く頷いて肯定した。
「有り体に言えば、カミツキの王者となりたい輩と、俯瞰して物事を見た者達に別れた。後者は同志達と協力し合い、力を欲する者達を退治した。いくら業魔を倒し力を得たとて、多勢で、しかも術を駆使されれば負け戦へと転じるからな。丸一年、数度起きた惨たらしい死者を多く出した争いの末、カミツキの国は二つに分かれた」
これが、三国に分かれた経緯であった。
「ちょっと待ってくれ。業魔も、オニも、あらゆる化け物も、どうやって出来たんだ? 業魔は元々いたようだが」
「業魔はワシも分からん。ただそれは、真の業魔ではない業魔がどうして出てきたのかということだ」
謎を残す言葉に二人は理由を尋ね、クーロに真の業魔がいると聞くと驚いた。
「ではニルドの業魔はどうして手も足も出ないぐらい強いのですか」
「そもそもが人間と相性の悪い化け物だ。ニルドでは封印したことで業魔の力を蓄積させていき、年月を重ねて強くさせただけにすぎん」
スビナは真の業魔について気になる点が浮かぶ。
「では、オニとは違う、強力なオニが真の業魔と関係しているのですか?」
「そもそもオニは、ジュダにて作られたカミツキを変異させた化け物だ」
絶句する二人の様子をうかがい、コルバは説明を続ける。
「なぜ、と聞きたいようだな。その前にゾーゴルとジュダの関係から話そう。ゾーゴルはリブリオスの三国とは一切の協力関係になかった。しかしジュダの先代の王とゾーゴルの王が親睦関係を結び、人体を変異させる研究を実行したのだ」
「どうしてそのような」
「人を襲う化け物というだけで兵器であろう。ゾーゴルは人間を媒体に成果は出していたが、カミツキはなかった。だからジュダの王と協力して研究を進めた。先日、お前さん達は七将と呼ばれる強力なオニと退治しただろ? それは呪いとミジュナを混ぜた最新の化け物だ」
「なぜそんな惨い事を」
「先代の王は、ワシの憶測だが、兵器を目的としていたのだろう。支配欲は群を抜いて強い王だったからな。現国王ゴウガはテンシが目当てなのだ」
なぜテンシを目的とするかが分からない。姿形がまるで違いすぎる。
「ゴウガは未来視の力が強い恵眼を持っている。テンシの姿に魅了され、作った。目当ては、テンシを作ろうとしたのか、対抗しようとしたのか、それはゴウガのみが知る話だがな」
俄には信じがたい真実が淡々と語られる。
「あの、ちょっと話が戻るけど良いですか?」
ビンセントは驚きの連続で頭の整理が追いつかないものの、気になる所を尋ねた。
「ゾーゴルは人間を化け物にしたって言ってましたけど、それってなんですか? バルブラインで遭遇した、デルバ、とか?」
「アレはまったく別の類いの化け物だ。ゾーゴルが作り出した化け物がバルブラインでしか現われておらんのは合ってるがな」
コルバが告げた化け物の名を聞き、二人はいよいよ言葉を失うほどに驚愕した。
人間を媒体に作られた化け物の名。『パルド』と。
まるで区切りのように日が沈み暮れなずんでいった。
「……え、じゃあ……、カミツキって」
度肝を抜くほどの真実の連続で情報整理が追いつかないビンセントは、説明にあった人間がどうしても気になり、コルバへ訊いた。
「カミツキは元々が人間だ。当時、ゾーゴルを地下へと追いやった連中がカミツキの開祖と言えるな」
「待ってください」
スビナが口を挟む。
「元々が人間だったなら、現在のカミツキは元々が人間だったと知ってるのでは?」
「これはおよそ四百年も前の出来事だ。それに、三国として成り立った経緯はその真実を消滅させるに足る歴史だからなぁ。……理由は単純だ。ただ“合わんかった”んだ」
真っ先に二人が思いついたのは、悪性の強い魔力が人間の身体に合わなかったと。しかし違った。もっと人間らしい、どこの国でも組織、集団でもあり得る、相性の問題であった。
「ゾーゴルを地下へ、という大きな目的があったからこそ皆が団結して纏まったにすぎん。そこからリブリオスを新たな国として成り立たせるには苦労した。そもそもが対等ではない種族同士だからな、悪性の強い魔力を帯びた人間と普通の人間では、偏見と差別は浮き彫りとなってくる」
「なんでだ? これだけ広い国土があるんだ、皆で協力しあって。村や町を各々で作って暮らすとか、考えなかったのか?」
コルバが頭を左右に振ると、スビナは大凡の検討がついた。
「亀裂が生じる要素が多すぎたのですね。多分、もう少し時間をかけて考えたら、理由は浮かぶでしょうけど、この条件だと分裂しても変じゃないです」
「なんでだ?」
「ゾーゴルを追いやり、残った方々は、普通の人間と異質な力を備えた人間です。口論にしろ恨みを買うにしろ、得体の知れない力を持って壮絶な暴力を振るわれると邪推を働かせた方もいたはずです。不安が増幅し、ありもしない噂や妄想に怯え、カミツキの開祖達へ向ける目も姿勢も変わってしまいます」
「ご明察。加えていうなら、その妄想を鮮明にさせた出来事こそ内乱なのだ。力の本質を目の当たりにし、その時だけは強い味方とばかりに歓喜するも、熱が冷めてしまえばその力を抑止力として恐ろしきものとされたのだ」
話の流れでは、新たな諍いがあったと、ビンセントでも思い至った。
「……何度か争って三国に?」
「大まかに言えばそうなるな。だが大々的に人死にを出した争いを起こしたのはカミツキ同士だ。人間とカミツキ間では口論の末、国境を設けて居住環境を隔てたのだ」
それがニルドだと、二人は察した。
ビンセントはカミツキ間の争い原因が気になった。
「どうしてカミツキの間で争いが?」
「業魔だ」
二人は訳が分からず、驚きはするも悩ましくあった。
「……業魔、ですか?」スビナは可能性すら思いつかない。
「唐突に業魔と聞いて混乱しとるって顔だな」
コルバは二人の様子が面白く、微笑んでから続けた。
「業魔は突如として現われた化け物だ。どこから、どうやって、そしてどのように討伐するか。それらがカミツキ達は分からなかった。とりあえず全力をもって戦い、殺した。すると、殺した者達は瀕死に近い状態だったのが、あれよあれよと回復したのだ。そして力も僅かばかりだが強くなった。業魔を倒せば強くなれる。そう判断した彼らの前に、また別の業魔が現われた。数体の業魔を、分担して討伐したカミツキ達の間で、業魔を独占すれば強く在り続けられると考えられた。なぜ業魔を倒せば強くなるのか、回復するのか、まるで分からない中でだ」
「……それって」
サラは気づいた。武力を欲し、全てを統治する種族として成り立とうとする独占欲が。
気づいたコルバは、軽く頷いて肯定した。
「有り体に言えば、カミツキの王者となりたい輩と、俯瞰して物事を見た者達に別れた。後者は同志達と協力し合い、力を欲する者達を退治した。いくら業魔を倒し力を得たとて、多勢で、しかも術を駆使されれば負け戦へと転じるからな。丸一年、数度起きた惨たらしい死者を多く出した争いの末、カミツキの国は二つに分かれた」
これが、三国に分かれた経緯であった。
「ちょっと待ってくれ。業魔も、オニも、あらゆる化け物も、どうやって出来たんだ? 業魔は元々いたようだが」
「業魔はワシも分からん。ただそれは、真の業魔ではない業魔がどうして出てきたのかということだ」
謎を残す言葉に二人は理由を尋ね、クーロに真の業魔がいると聞くと驚いた。
「ではニルドの業魔はどうして手も足も出ないぐらい強いのですか」
「そもそもが人間と相性の悪い化け物だ。ニルドでは封印したことで業魔の力を蓄積させていき、年月を重ねて強くさせただけにすぎん」
スビナは真の業魔について気になる点が浮かぶ。
「では、オニとは違う、強力なオニが真の業魔と関係しているのですか?」
「そもそもオニは、ジュダにて作られたカミツキを変異させた化け物だ」
絶句する二人の様子をうかがい、コルバは説明を続ける。
「なぜ、と聞きたいようだな。その前にゾーゴルとジュダの関係から話そう。ゾーゴルはリブリオスの三国とは一切の協力関係になかった。しかしジュダの先代の王とゾーゴルの王が親睦関係を結び、人体を変異させる研究を実行したのだ」
「どうしてそのような」
「人を襲う化け物というだけで兵器であろう。ゾーゴルは人間を媒体に成果は出していたが、カミツキはなかった。だからジュダの王と協力して研究を進めた。先日、お前さん達は七将と呼ばれる強力なオニと退治しただろ? それは呪いとミジュナを混ぜた最新の化け物だ」
「なぜそんな惨い事を」
「先代の王は、ワシの憶測だが、兵器を目的としていたのだろう。支配欲は群を抜いて強い王だったからな。現国王ゴウガはテンシが目当てなのだ」
なぜテンシを目的とするかが分からない。姿形がまるで違いすぎる。
「ゴウガは未来視の力が強い恵眼を持っている。テンシの姿に魅了され、作った。目当ては、テンシを作ろうとしたのか、対抗しようとしたのか、それはゴウガのみが知る話だがな」
俄には信じがたい真実が淡々と語られる。
「あの、ちょっと話が戻るけど良いですか?」
ビンセントは驚きの連続で頭の整理が追いつかないものの、気になる所を尋ねた。
「ゾーゴルは人間を化け物にしたって言ってましたけど、それってなんですか? バルブラインで遭遇した、デルバ、とか?」
「アレはまったく別の類いの化け物だ。ゾーゴルが作り出した化け物がバルブラインでしか現われておらんのは合ってるがな」
コルバが告げた化け物の名を聞き、二人はいよいよ言葉を失うほどに驚愕した。
人間を媒体に作られた化け物の名。『パルド』と。
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