烙印騎士と四十四番目の神

赤星 治

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八章 暗がりより蠢くモノ

Ⅵ 密命を受け

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 会議のためジェイク、ミゼル、ビンセント、スビナは、十畳一間の座敷部屋へ案内された。
 一度に多くの問題を報されたヒューガは肘置きに右肘を置き、頭を支える。
「ったく、次から次に。……なぜ一度にこうも押し寄せてくるのだ!」
 さすがに面倒事が重なったのだから、平静も余裕もないのだろう。苛立ち、今にも投げ出したいのだろう。
 誰しもがそう思った。
「ヒューガ様、事態の深刻さは私も理解しております。どうかお気を静めてくださいませ」
 ガルグは言葉を選び頭を下げ、ロウアも便乗して頭を下げた。
「なにが静まれだっ! なぜニルドへ向かう時にこのような愉快な催しが押し寄せる! クソッ、盛大な祭りを見過ごせと!」
 どうやら心中は誰も察せない。
「ヒューガ様!? そのようなことを申されてはなりません!」
「たわけ! 現状、我が国は何処ぞの賊に蝕まれつつあるのだぞ! 一国の王として指揮し、賊軍討伐の成果を他国への見せしめに格を上げる時であろう!」
 発言にガルグとロウアが口を挟む。一頻ひとしきり言い合い、締めくくりにヒューガは嘆いた。
「この一連さえバッシュの計らいの一端だというなら、尚のこと歯痒いものよ」
 どこか嬉しそうだ。
「くそ、あの野郎の仕業だったか」
 ジェイクの反応にすかさずミゼルが「違うからな」と返す。そのままヒューガへも説得を試みた。

「御言葉ですがヒューガ様、宜しいでしょうか?」
「なんだ」
「我々がヒューガ様とお目通りして以降に起きた一連の出来事を予測出来る者はおりません。それはバッシュとて同じ。あの者も諸々の事態を目の当たりにすれば、さすがに驚きは隠せますまい」
「ほう、それほどまでに奴を知っていると?」
「あやつは計画通り事を進める策士であり、予想外の惨事さえ引き寄せる星の下に生まれた男です。前世においてもなかなか事が運ばず歯痒い想いを幾度も経験し、私もそれを見てきた次第で」
 まだ不服がある様子のヒューガだが、どうにか落ち着いた。
「お前、あいつの親か?」
 ジェイクの何気ない発言に「違う」と、僅かに苛立って返した。
 仕切り直しとしてロウアが発言した。

「しかしどう致しましょう。ヒューガ様はニルドへ、同行する兵士達も含めますと、テンシや怪鳥などの相手は出来ません。城下町の護衛が手一杯かと」
「ふん。俺は一人で」
「なりません。私が許しません」すかさずガルグが口を挟み、返事は舌打ちであった。
 スビナが手を上げて許可を求め、ヒューガの同意で発言権を得た。
「先の一件におきまして、ガーディアンのサラがジェイクさんとミゼルさんへ告げた話にある、ジュダの賢師様。問題が多く積まれるなか恐縮ですが、探しに向かう我が儘をお許し頂きたいのですが」
「ならん」ガルグが即答した。「現状、誰一人とて戦力たり得る者を失いたくはない。理解してくだされ」
「ですが、得体の知れない化け物を相手取る手段としてサラが申したのでしたら、早々にジュダの賢師様へお知恵を賜るほうが」
 またもガルグが否定し、ロウアも加わった。そもそも、賢師と呼ばれる存在の有無が曖昧な上、ジュダは危険な国。誰かを向かわせれば失う危険を大いに孕んでいた。
 二人の真剣な言葉はスビナの意見が通らないと分からせるに値した。
 スビナが、引いた時。
「いや、それには考えがある」
 ヒューガが告げた。
「何を申されるのですか?!」
「案ずるな、戯れで言っておらん」
 何かを感じたロウアが訊く。
「……ジュダに繋がりでも?」
「そんな所だ」返すとスビナを見た。「スビナ、それとビンセント。後で話がある」
 何か分からないが、真剣な話と思い、二人は畏まった。いよいよヒューガの秘め事が分からないガルグとロウアは、替え玉作戦でも企てているのかと邪推が働いた。
 以降、ニルドへ向かう部隊編成、城下町の防衛へと話が進み、話合いは終了した。


 話合い後、部屋にはヒューガ、スビナ、ビンセントの三人だけとなった。
 部屋の壁と襖伝いに歩き回ったヒューガは、二人と向かい合う上座に座した。
「これで盗み聞きは出来ん」
 今の行動は術を張った動きであった。
「話というのは、ジュダの賢師様について、ですか?」
 スビナが訊くと、ビンセントはなぜ残されたか分からず、「どうして俺も?」と揃って訊いた。
「ジュダの賢師、そもそも賢師なる存在を俺も知らん。しかしジュダでは別の意味で存在しておるかもしれん。それをお前達に調べてもらう」
 すかさずスビナはガルグとロウアの言葉を思い出した。
「御言葉ですが、ジュダは危険で、あてもなく探すのは危険だと」
「俺が考えなしと思うてか?」

 薄らと怪しい笑みを浮かべられた。どこか楽しそうだ。

「お前達は知っておるか? ニルド、クーロ、ジュダ、三国の王の傍には絶対忠誠の幹部が三人おることを」
 ビンセントとスビナは顔を見合わせ、ビンセントが答えた。
「又聞きですが……」
「クーロの三人目はジュダにおる。お前達はそいつと協力して賢師を探せ」
 不意に気になったビンセントは発言権を求めた。
「ルダ、と呼ばれる者では?」ジェイクからルダの話は聞いていた。こっそり、ヒューガの双子の弟であることも。
「あのような風来坊、幹部に据え置けば民の信頼が失墜するぞ。野放しで上等だ」
 弟への心配は微塵も感じられなかった。
「何を考え行動しておるか分からん愚弟はともかく、そやつがジュダにおることはガルグとロウアも知らん。内密に事を進めて貰っておるからな」
「そのような……クーロの機密のような御方と、私達がお目通りを?」
「たいそうな言いようなど不要。あやつも向こうでそれなりの平凡人よ。ただここ最近、奴からの便りがなくてな、ついでだ、あやつの安否確認も頼む」
 まるで子供の遣いのように言うが、行う事は”国家機密に匹敵する人物と会いに行く”。二人に緊張が走った。
「ジュダへは俺がニルドへ行く日に向かって貰う」
 左手を上げて指をパチンと鳴らすと、傍らに赤黒い装束を纏った者が現われた。
「こやつは俺の呪いで作り上げた具象術だ。当日、お前達へ呪いを纏わせて地下の空間術を描いた円陣へ向かわせる。人目を忍ぶ心配はいらんが、ここでの話は他言するなよ。あらゆる計画がご破算となるからな」
 平然と、凄いことをやってのけ、怖いことを告げるヒューガ。二人の緊張はさらに高まった。


 二日後、ジェイクとミゼルも同行者に加わり、ヒューガ達はニルドへ向かった。
 見送り後、呪いの忍びが現われ、ビンセントとスビナへ地下へ向かうように指示した。
 突然現われ、突然大勢いる所から抜けたのに、誰一人として二人の存在に気づいていない。城内から地下へ向かう最中、すれ違う兵士達は気づかないどころか見えていない様子だった。どうやら姿を眩ます術だと二人は感じた。
 一言も話さず、地下の空間術を施した部屋へ到着すると、呪いの忍びは煙のように消えた。
「ここが……」
「……行きましょう、ビンセントさん」
 二人は覚悟を決め、部屋にでかでかと記された円陣へと乗る。
 途端、円陣は白色の光を放って発動し、まもなくして二人は消えた。
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