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七章 争いの兆し
Ⅹ 混乱最中の苦境
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初めに映し出された光景は、森の中で上半身裸の男が双肩から胸へ刻まれた紋章を見て喜んでいた。傍らに置かれた刀、身体の痣、頭の角。カミツキの兵士であった。
「素晴らしい……。何もしていないのに力が漲ってくる」
前方の木々へ手を翳して紋章術を使った。少し触れるほどのか弱い力で五本もの大木が粉々に砕ける。
「おお!? なんと凄まじい!」
歓喜する男は両手で周囲の木々を悉く破壊していった。城下町一つがすっぽり入りそうな程に開けた平地が仕上がると、さすがに男は息を切らせた。
「……はぁ、はぁ、はぁ。やはり多用は消耗が激しい。しかし扱い慣れれば兵器となりえる」
紋章術の力を実感し、思考を巡らせて戦術を練っていく。自分は使いこなせる未来をしっかりと描き。しかし気づいていなかった。背に刻まれた紋章が形を変え、業魔に記される烙印と同形に変化していると。
次に映し出された光景は、リブリオスとは違う町の中。バルブラインと似ているが少し違う様式の町並みである。
「おい! 早く術を解け! 戻れなくなるぞ!」
濃緑色のローブ姿の者達と碧色のローブ姿の者達が、円陣内の三人の術師達へ告げた。
陣術は発動証明である発光が起きている。
「ダメだ! 解けない!」
一人の男性の隣で、術師の女性が身体を震わせてしゃがむ。
「……さ、むい……頭が」
頭痛に苦しむ女性の身体は、突如形を変え、両腕が異形のものへと変えた。
向かいに立つ男性もいよいよ苦しみだし、衣服を破って身体が肥大化した。
三人目の男性術師は身体が溶け、二人を包む。
「失敗だ! これより排除」
隊長格の術師が皆へ命令を下す前に、陣術内の化け物は円陣外の術師達へ、化け物の腕と思しきモノを伸して叩きつけて潰した。
それを合図に四方八方から円陣内目がけて炎の術が起きた。燃えさかる炎の中、苦しむ化け物の身体には烙印が記されていた。
次の光景は、見た事もないどこかの民族衣装を纏う浅黒い肌の集団が映し出された。
巨大な岩板に記される壁画のを崇め、一人の巫女と思われる女性がゆっくりとした動きで舞っていた。
壁画の中心に大きく掘られるように刻まれる烙印が光出すと、巫女の額も光だす。その額には烙印が刻まれた。
光が消えた烙印へ感謝の礼を告げると、巫女は集団の方へ向いた。
「これにて契約は終わります。来る魔神の脅威に神技を持って対抗出来ます」
様子から、魔神と呼ばれる存在から人々を護るため、烙印の力を得たと見て取れた。安堵の表情を浮かべる者達もいるが、中には不穏な面持ちの者も。
「なぜ、あの子が犠牲に」
「仕方ないことだ。古来より引き継がれた魔神破壊の定めなのだ」
どうやら巫女は人柱となっているようだ。
いくつか、烙印に関わる光景を見た。
烙印を暴走させるまで使用。化け物へと変化する光景。命と引き換えの大技発動。
現われる人々や世界は違うも、内容は似たようなものばかりだ。
ジェイクはただ傍観するしかできない。言葉を発せず、動けず、ただ、眼前に光景が映し出される。
ようやく動けた時、真っ白な空間内に立たされた時だ。
「……なんだ……今の」
一瞬にして色んな情報が入ったために頭痛が生じる。
「君たちが烙印と称す力の歴史だよ」
ノービスはいつの間にか前に立っていた。
「なんで烙印が? ……じゃあ、俺達の世界の烙印も」
思い出されたのは、転生して間もなく、ベルメアに教えられた階層の話。五階層ある世界から転生したと。
「五つの世界全てに烙印が関係していたから。転生が起きた、とかか?」
「ほう」と言葉を漏らして感心する“調整”が、いつの間にか隣にいた。「お前にしてはなかなか理にかなった発想だな」
「けど残念。烙印は君たちガーディアンを繋ぐ世界の管じゃないんだよ」
「でも今のはこの世界以外の世界で起きたことだろ。……そんな感じ、に見えたけどよぉ」
自信はない。しかし正解だと“調整”が告げた。
「烙印に関わるいくつかの世界だ。そして烙印は人を狂わせる力の根源とも言えるな」
「はぁ? 人を狂わせるどころか、化け物にしてるだろ」
ノービスは人差し指を立てて左右に揺らす。
「烙印はどの世界であれ人間風情が扱える力じゃないんだよ。加減して効力を発揮するけど、それら全てが使用者は勿論、周囲の因果やら運命やら、まさしく神のみぞ知る世界へも干渉して狂わせる力なんだ。でもね、どの世界も人間はその力に魅了されちゃうんだ」
指を鳴らすと、ジェイクにとって嫌な光景へと変えられた。
それは、バッシュの罠に嵌り烙印を身体に刻まれて動けないジェイクが映し出される。
目の前で子供達と妻を殺され、憎悪の目を向け叫ぶジェイクへ、次々に烙印を刻まれる光景。バッシュへの恨みが消えないその根源が。
またも白い空間へと戻ると、再発した憎悪からジェイクは叫んだ。
「どうして見せやがった!!」
「君は、いや、君たちはかなり特別なんだ。けど他の二人と違い、君は大事な何かが欠落してるんだよ。ただ恨み、そこで止まっている。真価へと至れない」
「なんの話してんだよ! 七将を倒すんじゃなかったのかよ!」
“調整”が口を挟んだ。
「七将を倒す。その点で言えば既に事は成された」
「はぁ?!」
「七将を作り上げた者の目的は、七将の核として在ったカミツキの死後に成就するものだ。そして、今戻ればその目的が動き出す」
「なんで知ってんだよ!」不意に二人の違和感に気づく。「そもそもお前等、なんで烙印について知ってやがる! こんなとこへ連れてきて、揃って知ってるみたいでなぁ!お前等、結託して俺等を欺してやがったのか!」
「彼を怒らないでよ。これは力に触れたから思い出された一端にすぎない。君が必ず通らないとならない道なんだよ。それに、彼もボクも、これから起こる災禍についてはまだ知らないままだからね」
苛立つジェイクの怒りはまだ治まらない。
「じゃあなにか、何度も俺の前世見せ続けるってのか!」
「案ずるな。そのような時間も力もない」
「君は俯瞰して物事を見なければならないよ。それは君を生かす為の情報なんだ。誰かを恨み、憎しみ続けて真価を見ないなら、烙印の定めを大きく変える天秤の針が余所へ傾くだけだ。ボクは君の武器だからね、加担してるんだよ」
理由がさっぱり分からない。もどかしい気持ちのまま歯を食いしばった。
続けて“調整”が語る。
「扱えぬ烙印。しかしお前達は烙印を技として扱い何事も起きておらん。考察の切り口はここから進めれば良い。そしてここを出てしばし、お前は力の在り方が変わる。どう動き、どう力を扱うか、立ち回りを考えろ」
「なに仕切ってんだ。散々苛つかせてよぉ、何様のつもりだてめぇ」
「じきに分かる。そうせねば災難が降り注ぐからな」
訳も分からないまま話を切り上げるよう、ノービスが「戻るよ」と告げて手を叩いた。
気づいた時には地面に着地していた。
傍の七将を見上げると、分厚い皮が割れてめくれ、中の肉塊が晒されていた。
「ジェイク大丈夫なの!?」
ベルメアはジェイク達がいた光景での出来事が一瞬にして入った。真っ先に心配したのはバッシュへの怒りだった。
「ああ、無事だ」
声に苛立ちが感じられる。しかしいつもの苛立ちと様子は違い冷静に見えた。
突如、ジェイクの勘が働きこの場から離れるように身体が動く。
全力で足に魔力を纏わせ、七将から急いで離れた。
(何?! どうしたのよ急に!)
ジェイクの中へ入って念話でベルメアは訊いた。
「なんか知らねぇが、危ねぇのが来る!」
それが何か分からない。
ロウア達が閉じ込められている空間術まで戻るとそれが起きた。
激しい地震と共に、雷鳴と誤解してしまう程の地響きを轟かせ、七将の足下から真っ黒い怪鳥の頭が飛び出し七将を銜えた。
不揃いに点在する赤い目がギョロギョロと動き、ジェイク、ビンセント達の方へとそれぞれ分かれた。
七将を飲み込んだ怪鳥は、上空目がけて高らかに奇声を上げた。
――――ギギャアアアアアアアアア!!!!
耳を塞いでしまうほどの奇声が響き渡ると、怪鳥の頭は水中へ沈むように黒い影の中へと沈んでいった。
「な、何なのよ……今の」
まだ終わらない。そんな様子のジェイクは武器を構えた。
「ベル、いつでもカムラ使えるように構えてくれ」
「え、どうして?」
「時間がねぇ。来るぞ」
何かを感じたジェイクの勘は正しかった。
怪鳥が現われた影が消えると、其処彼処から白いローブ姿の者達が現われた。
(まさか、テンシまで)
“調整”の念話に気を取られず、ジェイクは急いでビンセント達の所へ駆けた。
ジッとしているテンシ達へ危害を加えず、ただひたすら走る。
(ジェイク! ロウア達はどうするのよ!)
「今は大丈夫だ! それよりこっちが、間に合わねぇ」
仕方なくジェイクはカムラを発動した。
およそ二秒でビンセントの元へと辿り着くと、説明なくビンセントを担いで崖上目がけて跳んだ。
ムイとキュラの傍へと辿り着くとカムラを解いた。
「ジェイク何が」
「話は後だ!」
ムイの言葉を遮りキュラへ顔を向ける。
「さっきの技で奴らを仕留めるぞ!」
「はぁ?! 無理よ!」
「クーロの全員が死ぬぞ! 急げ!」
何があるか分からない。ただ、ジェイクの必死な想いが三人を急かした。
テンシ達はジェイク達の方へ向くと、一斉に頭を上へ向け、口を開いた。
「ムイとビンセントは陣敷きでキュラを支えろ。俺が力を注ぐ! キュラはさっきと同じだ! 行くぞ!」
急な命令だが、ジェイクがキュラを中心に陣敷きを行うと、ビンセントとムイは自然と陣敷きを行う姿勢へとなる。
(どういうことだ。身体が勝手に)
(おいおい、“運命”の力まで注がれてるぞ)
疑問は多くある。しかし今は身を委ねた。
キュラはさっきよりも多くの力が注がれている感覚を覚えた。しかし身体が支えられて安心感がある。指先も震えない。
(なにこれ。凄く強いのに、安定してる)
一人焦るジェイクはベルメアへ声をかけ、カムラを発動した。すると、三人にさらに強くて温かい力が纏わり付いた。
「キュラ、行けるか!」
「ええ。すぐにでも」
しかし事態は矢を放つよりも先にテンシを動かした。
――キャアアアアアアアアア!!!!
一斉に発せられた奇声。それは空気を震わせ、地面を揺らし、ジェイク達を襲う。
「少し力を削るぞ」
傍に現われた“調整”が、奇声に苦しむジェイク達を包むように魔力壁を拵えた。
「そうは保たん。早くしろ」
返事よりもキュラが行動で示した。
先ほどと同じ上空に矢が放たれ、七将の時よりかなり広範囲に魔力が広がった。
黒い円盤が浮いていると誤解する光景が広がると、大岩のような黒い物体が落ちてきた。矢の豪雨だ。威力は計算など出来ない程強い。
まるで怯むこと無く止まない奇声。
矢の豪雨。
“調整”の魔力壁が消え、再び奇声がジェイク達を襲った。
「痛い! 止めてぇぇ!!」
キュラは耳を押さえても藻掻き苦しんだ。
それぞれの声がかき消されるほどの奇声の中、ようやく矢が届いた。
◇
ジュダの王城周辺に建つ三本の尖塔。その一つ、北の尖塔にメドロが太い七本のロウソクを眺めている。
火が灯っていた七本中四本が消え、それぞれのロウソクの壊れ方は様々であった。
残り三本中一本が激しく燃えさかり赤黒く変色をした。やがてロウソクを包み込んで消えるのを見届けると、不適な笑みを浮かべ、「ほほう」と声を漏らした。
「未完成の傀儡どもも、ようやく役目を果たしたか」
残り二本の行く末を見届けることなくメドロは部屋を出た。
「テンシが来るが先か、業魔が動くが先か。いよいよ三国を壊す時期が訪れますぞ、ゴウガ様」
「素晴らしい……。何もしていないのに力が漲ってくる」
前方の木々へ手を翳して紋章術を使った。少し触れるほどのか弱い力で五本もの大木が粉々に砕ける。
「おお!? なんと凄まじい!」
歓喜する男は両手で周囲の木々を悉く破壊していった。城下町一つがすっぽり入りそうな程に開けた平地が仕上がると、さすがに男は息を切らせた。
「……はぁ、はぁ、はぁ。やはり多用は消耗が激しい。しかし扱い慣れれば兵器となりえる」
紋章術の力を実感し、思考を巡らせて戦術を練っていく。自分は使いこなせる未来をしっかりと描き。しかし気づいていなかった。背に刻まれた紋章が形を変え、業魔に記される烙印と同形に変化していると。
次に映し出された光景は、リブリオスとは違う町の中。バルブラインと似ているが少し違う様式の町並みである。
「おい! 早く術を解け! 戻れなくなるぞ!」
濃緑色のローブ姿の者達と碧色のローブ姿の者達が、円陣内の三人の術師達へ告げた。
陣術は発動証明である発光が起きている。
「ダメだ! 解けない!」
一人の男性の隣で、術師の女性が身体を震わせてしゃがむ。
「……さ、むい……頭が」
頭痛に苦しむ女性の身体は、突如形を変え、両腕が異形のものへと変えた。
向かいに立つ男性もいよいよ苦しみだし、衣服を破って身体が肥大化した。
三人目の男性術師は身体が溶け、二人を包む。
「失敗だ! これより排除」
隊長格の術師が皆へ命令を下す前に、陣術内の化け物は円陣外の術師達へ、化け物の腕と思しきモノを伸して叩きつけて潰した。
それを合図に四方八方から円陣内目がけて炎の術が起きた。燃えさかる炎の中、苦しむ化け物の身体には烙印が記されていた。
次の光景は、見た事もないどこかの民族衣装を纏う浅黒い肌の集団が映し出された。
巨大な岩板に記される壁画のを崇め、一人の巫女と思われる女性がゆっくりとした動きで舞っていた。
壁画の中心に大きく掘られるように刻まれる烙印が光出すと、巫女の額も光だす。その額には烙印が刻まれた。
光が消えた烙印へ感謝の礼を告げると、巫女は集団の方へ向いた。
「これにて契約は終わります。来る魔神の脅威に神技を持って対抗出来ます」
様子から、魔神と呼ばれる存在から人々を護るため、烙印の力を得たと見て取れた。安堵の表情を浮かべる者達もいるが、中には不穏な面持ちの者も。
「なぜ、あの子が犠牲に」
「仕方ないことだ。古来より引き継がれた魔神破壊の定めなのだ」
どうやら巫女は人柱となっているようだ。
いくつか、烙印に関わる光景を見た。
烙印を暴走させるまで使用。化け物へと変化する光景。命と引き換えの大技発動。
現われる人々や世界は違うも、内容は似たようなものばかりだ。
ジェイクはただ傍観するしかできない。言葉を発せず、動けず、ただ、眼前に光景が映し出される。
ようやく動けた時、真っ白な空間内に立たされた時だ。
「……なんだ……今の」
一瞬にして色んな情報が入ったために頭痛が生じる。
「君たちが烙印と称す力の歴史だよ」
ノービスはいつの間にか前に立っていた。
「なんで烙印が? ……じゃあ、俺達の世界の烙印も」
思い出されたのは、転生して間もなく、ベルメアに教えられた階層の話。五階層ある世界から転生したと。
「五つの世界全てに烙印が関係していたから。転生が起きた、とかか?」
「ほう」と言葉を漏らして感心する“調整”が、いつの間にか隣にいた。「お前にしてはなかなか理にかなった発想だな」
「けど残念。烙印は君たちガーディアンを繋ぐ世界の管じゃないんだよ」
「でも今のはこの世界以外の世界で起きたことだろ。……そんな感じ、に見えたけどよぉ」
自信はない。しかし正解だと“調整”が告げた。
「烙印に関わるいくつかの世界だ。そして烙印は人を狂わせる力の根源とも言えるな」
「はぁ? 人を狂わせるどころか、化け物にしてるだろ」
ノービスは人差し指を立てて左右に揺らす。
「烙印はどの世界であれ人間風情が扱える力じゃないんだよ。加減して効力を発揮するけど、それら全てが使用者は勿論、周囲の因果やら運命やら、まさしく神のみぞ知る世界へも干渉して狂わせる力なんだ。でもね、どの世界も人間はその力に魅了されちゃうんだ」
指を鳴らすと、ジェイクにとって嫌な光景へと変えられた。
それは、バッシュの罠に嵌り烙印を身体に刻まれて動けないジェイクが映し出される。
目の前で子供達と妻を殺され、憎悪の目を向け叫ぶジェイクへ、次々に烙印を刻まれる光景。バッシュへの恨みが消えないその根源が。
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“調整”が口を挟んだ。
「七将を倒す。その点で言えば既に事は成された」
「はぁ?!」
「七将を作り上げた者の目的は、七将の核として在ったカミツキの死後に成就するものだ。そして、今戻ればその目的が動き出す」
「なんで知ってんだよ!」不意に二人の違和感に気づく。「そもそもお前等、なんで烙印について知ってやがる! こんなとこへ連れてきて、揃って知ってるみたいでなぁ!お前等、結託して俺等を欺してやがったのか!」
「彼を怒らないでよ。これは力に触れたから思い出された一端にすぎない。君が必ず通らないとならない道なんだよ。それに、彼もボクも、これから起こる災禍についてはまだ知らないままだからね」
苛立つジェイクの怒りはまだ治まらない。
「じゃあなにか、何度も俺の前世見せ続けるってのか!」
「案ずるな。そのような時間も力もない」
「君は俯瞰して物事を見なければならないよ。それは君を生かす為の情報なんだ。誰かを恨み、憎しみ続けて真価を見ないなら、烙印の定めを大きく変える天秤の針が余所へ傾くだけだ。ボクは君の武器だからね、加担してるんだよ」
理由がさっぱり分からない。もどかしい気持ちのまま歯を食いしばった。
続けて“調整”が語る。
「扱えぬ烙印。しかしお前達は烙印を技として扱い何事も起きておらん。考察の切り口はここから進めれば良い。そしてここを出てしばし、お前は力の在り方が変わる。どう動き、どう力を扱うか、立ち回りを考えろ」
「なに仕切ってんだ。散々苛つかせてよぉ、何様のつもりだてめぇ」
「じきに分かる。そうせねば災難が降り注ぐからな」
訳も分からないまま話を切り上げるよう、ノービスが「戻るよ」と告げて手を叩いた。
気づいた時には地面に着地していた。
傍の七将を見上げると、分厚い皮が割れてめくれ、中の肉塊が晒されていた。
「ジェイク大丈夫なの!?」
ベルメアはジェイク達がいた光景での出来事が一瞬にして入った。真っ先に心配したのはバッシュへの怒りだった。
「ああ、無事だ」
声に苛立ちが感じられる。しかしいつもの苛立ちと様子は違い冷静に見えた。
突如、ジェイクの勘が働きこの場から離れるように身体が動く。
全力で足に魔力を纏わせ、七将から急いで離れた。
(何?! どうしたのよ急に!)
ジェイクの中へ入って念話でベルメアは訊いた。
「なんか知らねぇが、危ねぇのが来る!」
それが何か分からない。
ロウア達が閉じ込められている空間術まで戻るとそれが起きた。
激しい地震と共に、雷鳴と誤解してしまう程の地響きを轟かせ、七将の足下から真っ黒い怪鳥の頭が飛び出し七将を銜えた。
不揃いに点在する赤い目がギョロギョロと動き、ジェイク、ビンセント達の方へとそれぞれ分かれた。
七将を飲み込んだ怪鳥は、上空目がけて高らかに奇声を上げた。
――――ギギャアアアアアアアアア!!!!
耳を塞いでしまうほどの奇声が響き渡ると、怪鳥の頭は水中へ沈むように黒い影の中へと沈んでいった。
「な、何なのよ……今の」
まだ終わらない。そんな様子のジェイクは武器を構えた。
「ベル、いつでもカムラ使えるように構えてくれ」
「え、どうして?」
「時間がねぇ。来るぞ」
何かを感じたジェイクの勘は正しかった。
怪鳥が現われた影が消えると、其処彼処から白いローブ姿の者達が現われた。
(まさか、テンシまで)
“調整”の念話に気を取られず、ジェイクは急いでビンセント達の所へ駆けた。
ジッとしているテンシ達へ危害を加えず、ただひたすら走る。
(ジェイク! ロウア達はどうするのよ!)
「今は大丈夫だ! それよりこっちが、間に合わねぇ」
仕方なくジェイクはカムラを発動した。
およそ二秒でビンセントの元へと辿り着くと、説明なくビンセントを担いで崖上目がけて跳んだ。
ムイとキュラの傍へと辿り着くとカムラを解いた。
「ジェイク何が」
「話は後だ!」
ムイの言葉を遮りキュラへ顔を向ける。
「さっきの技で奴らを仕留めるぞ!」
「はぁ?! 無理よ!」
「クーロの全員が死ぬぞ! 急げ!」
何があるか分からない。ただ、ジェイクの必死な想いが三人を急かした。
テンシ達はジェイク達の方へ向くと、一斉に頭を上へ向け、口を開いた。
「ムイとビンセントは陣敷きでキュラを支えろ。俺が力を注ぐ! キュラはさっきと同じだ! 行くぞ!」
急な命令だが、ジェイクがキュラを中心に陣敷きを行うと、ビンセントとムイは自然と陣敷きを行う姿勢へとなる。
(どういうことだ。身体が勝手に)
(おいおい、“運命”の力まで注がれてるぞ)
疑問は多くある。しかし今は身を委ねた。
キュラはさっきよりも多くの力が注がれている感覚を覚えた。しかし身体が支えられて安心感がある。指先も震えない。
(なにこれ。凄く強いのに、安定してる)
一人焦るジェイクはベルメアへ声をかけ、カムラを発動した。すると、三人にさらに強くて温かい力が纏わり付いた。
「キュラ、行けるか!」
「ええ。すぐにでも」
しかし事態は矢を放つよりも先にテンシを動かした。
――キャアアアアアアアアア!!!!
一斉に発せられた奇声。それは空気を震わせ、地面を揺らし、ジェイク達を襲う。
「少し力を削るぞ」
傍に現われた“調整”が、奇声に苦しむジェイク達を包むように魔力壁を拵えた。
「そうは保たん。早くしろ」
返事よりもキュラが行動で示した。
先ほどと同じ上空に矢が放たれ、七将の時よりかなり広範囲に魔力が広がった。
黒い円盤が浮いていると誤解する光景が広がると、大岩のような黒い物体が落ちてきた。矢の豪雨だ。威力は計算など出来ない程強い。
まるで怯むこと無く止まない奇声。
矢の豪雨。
“調整”の魔力壁が消え、再び奇声がジェイク達を襲った。
「痛い! 止めてぇぇ!!」
キュラは耳を押さえても藻掻き苦しんだ。
それぞれの声がかき消されるほどの奇声の中、ようやく矢が届いた。
◇
ジュダの王城周辺に建つ三本の尖塔。その一つ、北の尖塔にメドロが太い七本のロウソクを眺めている。
火が灯っていた七本中四本が消え、それぞれのロウソクの壊れ方は様々であった。
残り三本中一本が激しく燃えさかり赤黒く変色をした。やがてロウソクを包み込んで消えるのを見届けると、不適な笑みを浮かべ、「ほほう」と声を漏らした。
「未完成の傀儡どもも、ようやく役目を果たしたか」
残り二本の行く末を見届けることなくメドロは部屋を出た。
「テンシが来るが先か、業魔が動くが先か。いよいよ三国を壊す時期が訪れますぞ、ゴウガ様」
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20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
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