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七章 争いの兆し

Ⅶ 弱体の作戦

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 それはあまりにも、まさに青天の霹靂が如き事態であった。
「はぁ!?」
「なっ!?」
「ええ?!」
 ジェイク、ムイ、キュラはそれぞれに驚いた。

 黒いローブ姿のルバート、普段と面構えの違うビンセント。その二人がビンセントの傍に現われたからだ。
 ムイとキュラは距離をとって武器を構えるも、咄嗟にベルメアが二人を呼び止めた。
「二人とも早まらないで! でいいのよね?」
 ビンセントへ訊くと「ああ」と返された。
「説明してくれるか。はっきり言って、人間でもカミツキでもないのは分かるがな」
 警戒はまだ残るも、二人は武器から手を離した。

「てめぇ、ルバートじゃねぇんだろ。なんか雰囲気が全然違うぜ」
 “調整”は躊躇なく答えた。
「ああ。ルバートなる存在は元々が俺の一部だからな」
 続けて“運命”が三人へ話した。
「私は“運命”、こちらは“調整”。この世界を構成する六の力だ」
 話が壮大すぎてムイもキュラも理解できなかった。
「待った! 待った待った待った! さっぱり分からない。つまり、なんなの?」
「とりあえず、神がかった存在って考えた方が分かりやすいわ。それ位大きな力を持つ存在よ」
 ベルメアの例え話でも、なんとなくしか理解出来ない。
「らしくねぇな、だんまり決め込んでた“運命”てめぇも、デルバ戦に一切加担しねぇでどっか行った“調整”てめぇも。なんで急に出てきやがる」
 ジェイクに続いてムイも意見する。それは“調整”を指差して。
「お前、あの土塊の兵士と同じ気の波長をしている。アレはお前か?」
 見抜いたことに驚く“運命”だが、同時に見抜かれるほど“調整”が弱ってると感じた。
「ああ。急を要す事態だったからな。特にジェイクとビンセントが必要となった」
 しかし本来であればビンセントはこの中に含まれない。
 “調整”がビンセントを操り誘導したと考えるより、“運命”が手を貸したとジェイクは考えた。
“運命”てめぇ、何かしやがったな」
「ただ誘いに乗っただけのこと。些細な助力でビンセントをこの隊に含ませただけだ」

 話合いで決まったのも“運命”の影響。まさしく神の御業と思わせる。

「時間が無い」“調整”は本題に入った。「見て分かると思うが、七将アレはお前達では敵わん。呪いを用いてようやく潰せるかもしれん存在だ」
 さらに濃度を増すミジュナと呪いが“調整”の言葉を証明している。
「お前がジェイクとビンセントを呼んだと言うなら、呪いでなくとも七将を潰せるのだろ」
「正確には弱体だ。あれをそのまま取り込まれてしまえば後々面倒になるからな」
 またも置いてけぼりを食らう話。
「いったい誰が取り込むのだ」
 ムイの質問に“運命”が口を挟む。
「今はできん。しかし近いうち分かる」
「なぜ話せない?」
「”話してはならない運命の最中”とだけしか言えん。私や”調整”が口にした時点で大きく狂いが生じるからな」
「続けるぞ。奴を弱体させるにはジェイクが所持する剣が必要だ」
 古代の剣の特別な力だと直感した。
「カムラは必要じゃねぇのかよ」
「それは俺とは違う力が関係している。カムラの使用はお前の好きにしろ。話を戻すが、剣の使用時、俺はお前の中に入り剣の力と接触する」
「奴を弱体させるって大技でもするのかよ。前にカムラの力を放ったことがあったが」
「いや、俺の力を一時的に底上げする。そして俺が奴にぶつかり弱体が終わる。あとは別空間に閉じ込めた者どもと逃げろ」

 この作戦は“調整”の消滅を意味していると“運命”が補足した。
 ”調整”は”運命”に後を託す形でこの場にいる者達を救う手段に出た。

「……それで、ルバートはどうなる」
 返答は、「消滅だろうな」。それを聞いて「なら却下だ」と即答された。
「俺はミゼルやムイほど何でも分かる奴じゃねぇからな。ルバートを戻す方法を嫌でも考えるぜ」
 心強い言葉にビンセントは気持ちが和む。
 ムイとキュラもジェイクに便乗して意見する。
「俺は何でも分かる部類ではないが、目の前でむざむざ死にゆく様を見たくはないな。もううんざりだ」
「わ、私も。誰かが死んで助かるとか、なんか、やだ」
 “調整”の作戦を否定する意見が相次ぐも、流れが好転した訳ではない。しかし塞ぎ込んでいたビンセントを立ち直らせた。
「俺も皆と同意見だ。さっきはお前等で話を進めてたし、俺も頭良くねぇから頷くだけだったけど、ルバートを救いたい」
 もはや主旨が輪郭を失う状態となる。
「“運命”、ボリーグレスの空間術っぽい所で俺が大技放ったの、あれお前の仕業だろ」
 ジェイク達は分からないが口を挟まず、二人のやりとりを眺めた。
「ああ。しかしあれを消滅させたのではない。過度に立て続いた力の干渉により起きた暴走を強引に鎮めた次第だ」
「何でもいい。その力でアレの弱体とやらに協力出来ないのか? 鎮めるも弱体も一緒だろ」
「意味合いがまるで違う。出来るのは弱体ではなく運命のブレを矯正したにすぎない」
「なんでもいい。アレだって運命のブレみたいなとこあるんじゃないのかよ」
 何も分からない者の強引な解釈。だがあながち間違ってもいない。
「大幅な矯正には至らんぞ」
「何でもいい手を貸せ」
 とにかく扱える力が増えた。
 四人と二つの力。六人分の手持ちの技術を元に作戦が練られる。

「ムイ、どうすればいい」
 三人の期待はムイに注がれる。
 予想していた展開にムイは驚きすらない。呆れたと言わんばかりの目つきにはなるが。
「とりあえず全員が使える技、力。そして現状の詳細、ロウア様達の空間術。欲を言えば七将の詳細も知りたい。“調整”と“運命”も出来る所まで話してくれるか」
 徐々に七将が迫っている。時間は無いこの状況を打開出来るのは六人に託された。


 ◇


 空間術に閉じ込められたロウア達は焦っていた。
 延々と同じ場所を行き交う空間術と理解は出来たが、七将との距離は狭まる一方だ。幸い、濃いミジュナと呪いはこの空間内には入ってこなかった。
「ロウア様、いざという時の話を致します」
「言わずとも分かる。まあ待て、考えはある」
 このまま空間術が維持するなど誰も考えていない。七将が術に触れれば砕け散る危険は大いに考えられる。
 ロウアには秘策があった。それは呪いに干渉する自身の特異能力を使用するものだが、それを使用して生き残れるかは難しい。
「皆集まってくれ。この悪状況から」
「それには及びません」
 それは声だけでなく姿も突然現われた。目元が隠れるほど深くフードを被った法衣姿の女が。

「何者だ!」
 全員が警戒した。
「警戒は止めよ、あなた達が束になったとて妾には敵わぬ。それよりもあなたが行おうとした解決法、辛うじて生き残れるかどうかといった類いでは?」
「真ですか?!」
 兵士達がロウアへ確認を取るも、このような環境で使った事がないので返事ははっきりしない。
「妾はあなた達全員を救うことが出来ます」
 それが出来そうな力を備えているのは見て取れる。しかしクーロの幹部を前に下心がないとは思えなかった。
「……見返りはなんだ」
 当然の質問。女は口元に笑みを浮かべる。
「話が早くてなによりです。妾は来る時まで拠り所が欲しいだけ。あなたの備えている毒のような力と馴染めば、妾は長居できよう」
「お前、ガーディアンの守護神のような者か?」
「ほう、ガーディアンを知るか。まあいいでしょう。そのように解釈して頂ければ説明は不要ですね」
 怪しい女へ兵士達は警戒から刀の柄に手を当てる。
「欺されてはなりませんロウア様! このような怪しい女、必ずや惨事を招きましょう!」
「あらあら、失礼な部下達ですね」
「ではまず名乗れ! 貴様何者だ!」
「妾は“時空・・”。六の力が一つの力よ」
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