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七章 争いの兆し
Ⅳ 六の力の条件
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翌昼前、城下町外れにミゼルはジェイクとビンセントを呼び出した。今朝から様子のおかしい二人が気になり、これからの作戦に支障をきたすと判断したからである。
「さて、これから七将との戦いを控えているのは知ってるな。そんな様子では勝ち戦も負け戦か、死なずとも仲間を失う危険を伴うぞ」
視線をジェイクへ向ける。
「まだ慣れんだろうが切り替えはできるだろ。今回は応えたのか?」
「引きずっちゃいるが今回は別だ」視線をビンセントへ向ける。
詳細を語りづらそうなビンセントに代わりベルメアが話した。
さすがに驚くミゼルだが、すぐに何かを考える。
「ビンセント、“運命”を出せるか?」
「……できない。あいつが勝手に出てくるしか」
話せば何か分かるかもしれないとミゼルは考えた。
今まで六の力に関する事象を考えると、何か引っかかる違和感があった。この際、何か情報を得られると思えたのだが当ては外れた。
「“運命”との話、覚えている所で構わない。話してくれるか?」
覚えている所は自分と“運命”は死ぬ定めだが、変えられるものであること。五の力が動き出した。リブリオスで大きな災いが起こるである。
「ベルと俺で考えたのは業魔が関係してるか、リブリオスの王様だと思ってんだけどよぉ」
しかしミゼルはまったく違う問題について考察していた。
「ガーディアンの」
いきなり話を変えられたと思い、ジェイクは「おい」と呼び止めた。
「勘違いしないでくれ、大事な話だ」
改めて話が進む。
「昇格試練の達成条件、覚えているか?」
ベルメアが教える前にジェイクは大まかに人助けすると答えた。間髪入れず「おい」とベルメアが口を挟む。
「だって大まかにはそうだろ? 神力集めるつっても、俺等がやって来たことは人助けと、カムラ使って逆に神力を使っちまったしよぉ」
これを言われてはベルメアもラドーリオも何も返せなかった。
この話のどこに“運命”と関係があるのか分からないビンセントは続きを求める。
「昇格試練もそうだが、そもそもガーディアンの扱いが神話の戦士とはかけ離れているのではないかと思っているのだ」
「だから、それとビンセントの」
「もし、我々ガーディアンが五の力に関係していたとしたらどうだ?」
考えられなくはない。そもそも他の世界から転生する行為そのものがどの術を用いても不可能な奇跡だ。それと守護神なる存在も。
この話を切り出し、“運命”が現われると思っていたが、ビンセントにその様子はなさそうであった。
「じゃあ、ボク達は守護神じゃないの?」
ラドーリオはベルメアの傍に寄った。
「いや、ガーディアンと守護神、在り方や昇格試練は嘘ではない。そういう枠組みだと考えられるかもしれん」
「どういうことだよ」
既にジェイクの頭は混乱しかけている。
「つまりは、六の力それぞれに特有の条件が設けられて存在していると言いたいのさ。“秩序”は力としては静観に徹しているが大精霊として在る。“調整”はルバートを吸収したが我々を殺しはしなかった。何かをする為に旅を続けているのだろう。“運命”はビンセントに。本人から何も聞かされんから何とも言えないが条件はあり存在しているのだろう」
急に“運命”との話を思い出した。
「そういえば、三つの力は大々的に動いてるとか言ってたぞ」
三つはどれを指すか分からない。だが、この地で大きな災いが起こり、“運命”の言葉を信じるなら十英雄は死ぬ未来にある。
「ねぇミゼル」ラドーリオは傍まで寄って心配そうに見る。「ビンセント、大丈夫だよね」
「大々的に力が動き出したのは、“運命”の告げたこの国の災いか、ゾアの災禍に向けてだろう。“運命”も生き残るためにビンセントの前に現われ話したのだとしたら、死を回避する選択は未来にある筈だ」
一縷の望みが見えた。
「……それは……皆死なない未来か?」
「そう考えるのが自然だろうな。宿主を絶望に追いやって動けなくした所で“運命”に益はないだろうからな」
だがミゼルは釈然としない。
”この話題をビンセントからミゼルへ聞かせ、ミゼルの推測をビンセントへ聞かせたのでは?”
と意識が働き、この発言は正しいものか疑わしくあった。誘導されているのか、これが“運命”の戦略なのかと。
ジェイクは手を叩いた。
「とにかく、だ」
もう混乱状態から解放されたいが為に話を切り上げようとしている。
「目の前の問題解決しなけりゃ俺等全員死んだも同然だろ。ニルドの業魔もいるのに、七将やらゾーゴルやらで敵らしいもんばっかだしよ」
「そうだな。ここを生き抜かなければ話が進まんな」
ビンセントが元気を取り戻し、三人は七将対策の場へと戻った。ただミゼルのみ、何も解決せず誘導されている違和感が払拭できないままに。
◇
遠景に七将の一体を確認したロウア達は驚愕した。
「……あれは……本当に?」
ヒューガの情報からは想像つかない化け物へと、その七将は変貌していた。
「ロウア様、一度退きましょう。あのミジュナはここにいても危険なほどに禍々しくありあます」
目をこらしてみなくても分かるほど、周囲には黒みがかる紫の靄が漂いだしている。
ロウア達は退避行動に出る。
もはや眼前の敵は、生物を滅する化け物だ。身体中にオニとクーロを徘徊する業魔を纏わり付かせ、まるで近づけさせない意思を示しているかのようにミジュナを垂れ流している。
(どうやって奴を倒す)
方法は見つからない。ヒューガの呪いに頼れば勝利の可能性はあるが、呪いは使用者への負担も大きい。あの化け物を倒した後、ヒューガは死ぬ恐れを孕んでいた。
「――!? 待て!」
ロウアは何かに気づき、皆を呼び止めた。
周囲を見回し、違和感の正体を探る。間もなくして側近の兵士が口にした。同じ所、と。
誰の発言かは分からないが、ロウア達は同じ所を延々と周り続ける空間術の中に閉じ込めらていると気づく。
(まずい、奴が)
まだ遙か先だが、七将はロウア達の元へと迫っていた。
「さて、これから七将との戦いを控えているのは知ってるな。そんな様子では勝ち戦も負け戦か、死なずとも仲間を失う危険を伴うぞ」
視線をジェイクへ向ける。
「まだ慣れんだろうが切り替えはできるだろ。今回は応えたのか?」
「引きずっちゃいるが今回は別だ」視線をビンセントへ向ける。
詳細を語りづらそうなビンセントに代わりベルメアが話した。
さすがに驚くミゼルだが、すぐに何かを考える。
「ビンセント、“運命”を出せるか?」
「……できない。あいつが勝手に出てくるしか」
話せば何か分かるかもしれないとミゼルは考えた。
今まで六の力に関する事象を考えると、何か引っかかる違和感があった。この際、何か情報を得られると思えたのだが当ては外れた。
「“運命”との話、覚えている所で構わない。話してくれるか?」
覚えている所は自分と“運命”は死ぬ定めだが、変えられるものであること。五の力が動き出した。リブリオスで大きな災いが起こるである。
「ベルと俺で考えたのは業魔が関係してるか、リブリオスの王様だと思ってんだけどよぉ」
しかしミゼルはまったく違う問題について考察していた。
「ガーディアンの」
いきなり話を変えられたと思い、ジェイクは「おい」と呼び止めた。
「勘違いしないでくれ、大事な話だ」
改めて話が進む。
「昇格試練の達成条件、覚えているか?」
ベルメアが教える前にジェイクは大まかに人助けすると答えた。間髪入れず「おい」とベルメアが口を挟む。
「だって大まかにはそうだろ? 神力集めるつっても、俺等がやって来たことは人助けと、カムラ使って逆に神力を使っちまったしよぉ」
これを言われてはベルメアもラドーリオも何も返せなかった。
この話のどこに“運命”と関係があるのか分からないビンセントは続きを求める。
「昇格試練もそうだが、そもそもガーディアンの扱いが神話の戦士とはかけ離れているのではないかと思っているのだ」
「だから、それとビンセントの」
「もし、我々ガーディアンが五の力に関係していたとしたらどうだ?」
考えられなくはない。そもそも他の世界から転生する行為そのものがどの術を用いても不可能な奇跡だ。それと守護神なる存在も。
この話を切り出し、“運命”が現われると思っていたが、ビンセントにその様子はなさそうであった。
「じゃあ、ボク達は守護神じゃないの?」
ラドーリオはベルメアの傍に寄った。
「いや、ガーディアンと守護神、在り方や昇格試練は嘘ではない。そういう枠組みだと考えられるかもしれん」
「どういうことだよ」
既にジェイクの頭は混乱しかけている。
「つまりは、六の力それぞれに特有の条件が設けられて存在していると言いたいのさ。“秩序”は力としては静観に徹しているが大精霊として在る。“調整”はルバートを吸収したが我々を殺しはしなかった。何かをする為に旅を続けているのだろう。“運命”はビンセントに。本人から何も聞かされんから何とも言えないが条件はあり存在しているのだろう」
急に“運命”との話を思い出した。
「そういえば、三つの力は大々的に動いてるとか言ってたぞ」
三つはどれを指すか分からない。だが、この地で大きな災いが起こり、“運命”の言葉を信じるなら十英雄は死ぬ未来にある。
「ねぇミゼル」ラドーリオは傍まで寄って心配そうに見る。「ビンセント、大丈夫だよね」
「大々的に力が動き出したのは、“運命”の告げたこの国の災いか、ゾアの災禍に向けてだろう。“運命”も生き残るためにビンセントの前に現われ話したのだとしたら、死を回避する選択は未来にある筈だ」
一縷の望みが見えた。
「……それは……皆死なない未来か?」
「そう考えるのが自然だろうな。宿主を絶望に追いやって動けなくした所で“運命”に益はないだろうからな」
だがミゼルは釈然としない。
”この話題をビンセントからミゼルへ聞かせ、ミゼルの推測をビンセントへ聞かせたのでは?”
と意識が働き、この発言は正しいものか疑わしくあった。誘導されているのか、これが“運命”の戦略なのかと。
ジェイクは手を叩いた。
「とにかく、だ」
もう混乱状態から解放されたいが為に話を切り上げようとしている。
「目の前の問題解決しなけりゃ俺等全員死んだも同然だろ。ニルドの業魔もいるのに、七将やらゾーゴルやらで敵らしいもんばっかだしよ」
「そうだな。ここを生き抜かなければ話が進まんな」
ビンセントが元気を取り戻し、三人は七将対策の場へと戻った。ただミゼルのみ、何も解決せず誘導されている違和感が払拭できないままに。
◇
遠景に七将の一体を確認したロウア達は驚愕した。
「……あれは……本当に?」
ヒューガの情報からは想像つかない化け物へと、その七将は変貌していた。
「ロウア様、一度退きましょう。あのミジュナはここにいても危険なほどに禍々しくありあます」
目をこらしてみなくても分かるほど、周囲には黒みがかる紫の靄が漂いだしている。
ロウア達は退避行動に出る。
もはや眼前の敵は、生物を滅する化け物だ。身体中にオニとクーロを徘徊する業魔を纏わり付かせ、まるで近づけさせない意思を示しているかのようにミジュナを垂れ流している。
(どうやって奴を倒す)
方法は見つからない。ヒューガの呪いに頼れば勝利の可能性はあるが、呪いは使用者への負担も大きい。あの化け物を倒した後、ヒューガは死ぬ恐れを孕んでいた。
「――!? 待て!」
ロウアは何かに気づき、皆を呼び止めた。
周囲を見回し、違和感の正体を探る。間もなくして側近の兵士が口にした。同じ所、と。
誰の発言かは分からないが、ロウア達は同じ所を延々と周り続ける空間術の中に閉じ込めらていると気づく。
(まずい、奴が)
まだ遙か先だが、七将はロウア達の元へと迫っていた。
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