147 / 202
七章 争いの兆し
Ⅳ 六の力の条件
しおりを挟む
翌昼前、城下町外れにミゼルはジェイクとビンセントを呼び出した。今朝から様子のおかしい二人が気になり、これからの作戦に支障をきたすと判断したからである。
「さて、これから七将との戦いを控えているのは知ってるな。そんな様子では勝ち戦も負け戦か、死なずとも仲間を失う危険を伴うぞ」
視線をジェイクへ向ける。
「まだ慣れんだろうが切り替えはできるだろ。今回は応えたのか?」
「引きずっちゃいるが今回は別だ」視線をビンセントへ向ける。
詳細を語りづらそうなビンセントに代わりベルメアが話した。
さすがに驚くミゼルだが、すぐに何かを考える。
「ビンセント、“運命”を出せるか?」
「……できない。あいつが勝手に出てくるしか」
話せば何か分かるかもしれないとミゼルは考えた。
今まで六の力に関する事象を考えると、何か引っかかる違和感があった。この際、何か情報を得られると思えたのだが当ては外れた。
「“運命”との話、覚えている所で構わない。話してくれるか?」
覚えている所は自分と“運命”は死ぬ定めだが、変えられるものであること。五の力が動き出した。リブリオスで大きな災いが起こるである。
「ベルと俺で考えたのは業魔が関係してるか、リブリオスの王様だと思ってんだけどよぉ」
しかしミゼルはまったく違う問題について考察していた。
「ガーディアンの」
いきなり話を変えられたと思い、ジェイクは「おい」と呼び止めた。
「勘違いしないでくれ、大事な話だ」
改めて話が進む。
「昇格試練の達成条件、覚えているか?」
ベルメアが教える前にジェイクは大まかに人助けすると答えた。間髪入れず「おい」とベルメアが口を挟む。
「だって大まかにはそうだろ? 神力集めるつっても、俺等がやって来たことは人助けと、カムラ使って逆に神力を使っちまったしよぉ」
これを言われてはベルメアもラドーリオも何も返せなかった。
この話のどこに“運命”と関係があるのか分からないビンセントは続きを求める。
「昇格試練もそうだが、そもそもガーディアンの扱いが神話の戦士とはかけ離れているのではないかと思っているのだ」
「だから、それとビンセントの」
「もし、我々ガーディアンが五の力に関係していたとしたらどうだ?」
考えられなくはない。そもそも他の世界から転生する行為そのものがどの術を用いても不可能な奇跡だ。それと守護神なる存在も。
この話を切り出し、“運命”が現われると思っていたが、ビンセントにその様子はなさそうであった。
「じゃあ、ボク達は守護神じゃないの?」
ラドーリオはベルメアの傍に寄った。
「いや、ガーディアンと守護神、在り方や昇格試練は嘘ではない。そういう枠組みだと考えられるかもしれん」
「どういうことだよ」
既にジェイクの頭は混乱しかけている。
「つまりは、六の力それぞれに特有の条件が設けられて存在していると言いたいのさ。“秩序”は力としては静観に徹しているが大精霊として在る。“調整”はルバートを吸収したが我々を殺しはしなかった。何かをする為に旅を続けているのだろう。“運命”はビンセントに。本人から何も聞かされんから何とも言えないが条件はあり存在しているのだろう」
急に“運命”との話を思い出した。
「そういえば、三つの力は大々的に動いてるとか言ってたぞ」
三つはどれを指すか分からない。だが、この地で大きな災いが起こり、“運命”の言葉を信じるなら十英雄は死ぬ未来にある。
「ねぇミゼル」ラドーリオは傍まで寄って心配そうに見る。「ビンセント、大丈夫だよね」
「大々的に力が動き出したのは、“運命”の告げたこの国の災いか、ゾアの災禍に向けてだろう。“運命”も生き残るためにビンセントの前に現われ話したのだとしたら、死を回避する選択は未来にある筈だ」
一縷の望みが見えた。
「……それは……皆死なない未来か?」
「そう考えるのが自然だろうな。宿主を絶望に追いやって動けなくした所で“運命”に益はないだろうからな」
だがミゼルは釈然としない。
”この話題をビンセントからミゼルへ聞かせ、ミゼルの推測をビンセントへ聞かせたのでは?”
と意識が働き、この発言は正しいものか疑わしくあった。誘導されているのか、これが“運命”の戦略なのかと。
ジェイクは手を叩いた。
「とにかく、だ」
もう混乱状態から解放されたいが為に話を切り上げようとしている。
「目の前の問題解決しなけりゃ俺等全員死んだも同然だろ。ニルドの業魔もいるのに、七将やらゾーゴルやらで敵らしいもんばっかだしよ」
「そうだな。ここを生き抜かなければ話が進まんな」
ビンセントが元気を取り戻し、三人は七将対策の場へと戻った。ただミゼルのみ、何も解決せず誘導されている違和感が払拭できないままに。
◇
遠景に七将の一体を確認したロウア達は驚愕した。
「……あれは……本当に?」
ヒューガの情報からは想像つかない化け物へと、その七将は変貌していた。
「ロウア様、一度退きましょう。あのミジュナはここにいても危険なほどに禍々しくありあます」
目をこらしてみなくても分かるほど、周囲には黒みがかる紫の靄が漂いだしている。
ロウア達は退避行動に出る。
もはや眼前の敵は、生物を滅する化け物だ。身体中にオニとクーロを徘徊する業魔を纏わり付かせ、まるで近づけさせない意思を示しているかのようにミジュナを垂れ流している。
(どうやって奴を倒す)
方法は見つからない。ヒューガの呪いに頼れば勝利の可能性はあるが、呪いは使用者への負担も大きい。あの化け物を倒した後、ヒューガは死ぬ恐れを孕んでいた。
「――!? 待て!」
ロウアは何かに気づき、皆を呼び止めた。
周囲を見回し、違和感の正体を探る。間もなくして側近の兵士が口にした。同じ所、と。
誰の発言かは分からないが、ロウア達は同じ所を延々と周り続ける空間術の中に閉じ込めらていると気づく。
(まずい、奴が)
まだ遙か先だが、七将はロウア達の元へと迫っていた。
「さて、これから七将との戦いを控えているのは知ってるな。そんな様子では勝ち戦も負け戦か、死なずとも仲間を失う危険を伴うぞ」
視線をジェイクへ向ける。
「まだ慣れんだろうが切り替えはできるだろ。今回は応えたのか?」
「引きずっちゃいるが今回は別だ」視線をビンセントへ向ける。
詳細を語りづらそうなビンセントに代わりベルメアが話した。
さすがに驚くミゼルだが、すぐに何かを考える。
「ビンセント、“運命”を出せるか?」
「……できない。あいつが勝手に出てくるしか」
話せば何か分かるかもしれないとミゼルは考えた。
今まで六の力に関する事象を考えると、何か引っかかる違和感があった。この際、何か情報を得られると思えたのだが当ては外れた。
「“運命”との話、覚えている所で構わない。話してくれるか?」
覚えている所は自分と“運命”は死ぬ定めだが、変えられるものであること。五の力が動き出した。リブリオスで大きな災いが起こるである。
「ベルと俺で考えたのは業魔が関係してるか、リブリオスの王様だと思ってんだけどよぉ」
しかしミゼルはまったく違う問題について考察していた。
「ガーディアンの」
いきなり話を変えられたと思い、ジェイクは「おい」と呼び止めた。
「勘違いしないでくれ、大事な話だ」
改めて話が進む。
「昇格試練の達成条件、覚えているか?」
ベルメアが教える前にジェイクは大まかに人助けすると答えた。間髪入れず「おい」とベルメアが口を挟む。
「だって大まかにはそうだろ? 神力集めるつっても、俺等がやって来たことは人助けと、カムラ使って逆に神力を使っちまったしよぉ」
これを言われてはベルメアもラドーリオも何も返せなかった。
この話のどこに“運命”と関係があるのか分からないビンセントは続きを求める。
「昇格試練もそうだが、そもそもガーディアンの扱いが神話の戦士とはかけ離れているのではないかと思っているのだ」
「だから、それとビンセントの」
「もし、我々ガーディアンが五の力に関係していたとしたらどうだ?」
考えられなくはない。そもそも他の世界から転生する行為そのものがどの術を用いても不可能な奇跡だ。それと守護神なる存在も。
この話を切り出し、“運命”が現われると思っていたが、ビンセントにその様子はなさそうであった。
「じゃあ、ボク達は守護神じゃないの?」
ラドーリオはベルメアの傍に寄った。
「いや、ガーディアンと守護神、在り方や昇格試練は嘘ではない。そういう枠組みだと考えられるかもしれん」
「どういうことだよ」
既にジェイクの頭は混乱しかけている。
「つまりは、六の力それぞれに特有の条件が設けられて存在していると言いたいのさ。“秩序”は力としては静観に徹しているが大精霊として在る。“調整”はルバートを吸収したが我々を殺しはしなかった。何かをする為に旅を続けているのだろう。“運命”はビンセントに。本人から何も聞かされんから何とも言えないが条件はあり存在しているのだろう」
急に“運命”との話を思い出した。
「そういえば、三つの力は大々的に動いてるとか言ってたぞ」
三つはどれを指すか分からない。だが、この地で大きな災いが起こり、“運命”の言葉を信じるなら十英雄は死ぬ未来にある。
「ねぇミゼル」ラドーリオは傍まで寄って心配そうに見る。「ビンセント、大丈夫だよね」
「大々的に力が動き出したのは、“運命”の告げたこの国の災いか、ゾアの災禍に向けてだろう。“運命”も生き残るためにビンセントの前に現われ話したのだとしたら、死を回避する選択は未来にある筈だ」
一縷の望みが見えた。
「……それは……皆死なない未来か?」
「そう考えるのが自然だろうな。宿主を絶望に追いやって動けなくした所で“運命”に益はないだろうからな」
だがミゼルは釈然としない。
”この話題をビンセントからミゼルへ聞かせ、ミゼルの推測をビンセントへ聞かせたのでは?”
と意識が働き、この発言は正しいものか疑わしくあった。誘導されているのか、これが“運命”の戦略なのかと。
ジェイクは手を叩いた。
「とにかく、だ」
もう混乱状態から解放されたいが為に話を切り上げようとしている。
「目の前の問題解決しなけりゃ俺等全員死んだも同然だろ。ニルドの業魔もいるのに、七将やらゾーゴルやらで敵らしいもんばっかだしよ」
「そうだな。ここを生き抜かなければ話が進まんな」
ビンセントが元気を取り戻し、三人は七将対策の場へと戻った。ただミゼルのみ、何も解決せず誘導されている違和感が払拭できないままに。
◇
遠景に七将の一体を確認したロウア達は驚愕した。
「……あれは……本当に?」
ヒューガの情報からは想像つかない化け物へと、その七将は変貌していた。
「ロウア様、一度退きましょう。あのミジュナはここにいても危険なほどに禍々しくありあます」
目をこらしてみなくても分かるほど、周囲には黒みがかる紫の靄が漂いだしている。
ロウア達は退避行動に出る。
もはや眼前の敵は、生物を滅する化け物だ。身体中にオニとクーロを徘徊する業魔を纏わり付かせ、まるで近づけさせない意思を示しているかのようにミジュナを垂れ流している。
(どうやって奴を倒す)
方法は見つからない。ヒューガの呪いに頼れば勝利の可能性はあるが、呪いは使用者への負担も大きい。あの化け物を倒した後、ヒューガは死ぬ恐れを孕んでいた。
「――!? 待て!」
ロウアは何かに気づき、皆を呼び止めた。
周囲を見回し、違和感の正体を探る。間もなくして側近の兵士が口にした。同じ所、と。
誰の発言かは分からないが、ロウア達は同じ所を延々と周り続ける空間術の中に閉じ込めらていると気づく。
(まずい、奴が)
まだ遙か先だが、七将はロウア達の元へと迫っていた。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
モブです。静止画の隅っこの1人なので傍観でいいよね?
紫楼
ファンタジー
5歳の時、自分が乙女ゲームの世界に転生してることに気がついた。
やり込んだゲームじゃ無いっぽいから最初は焦った。
悪役令嬢とかヒロインなんてめんどくさいから嫌〜!
でも名前が記憶にないキャラだからきっとお取り巻きとかちょい役なはず。
成長して学園に通うようになってヒロインと悪役令嬢と王子様たち逆ハーレム要員を発見!
絶対お近づきになりたくない。
気がついたんだけど、私名前すら出てなかった背景に描かれていたモブ中のモブじゃん。
普通に何もしなければモブ人生満喫出来そう〜。
ブラコンとシスコンの二人の物語。
偏った価値観の世界です。
戦闘シーン、流血描写、死の場面も出ます。
主筋は冒険者のお話では無いので戦闘シーンはあっさり、流し気味です。
ふんわり設定、見切り発車です。
カクヨム様にも掲載しています。
24話まで少し改稿、誤字修正しました。
大筋は変わってませんので読み返されなくとも大丈夫なはず。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる