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六章 二国を結ぶ動き

Ⅹ 内乱の終わり

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 見ず知らずの援軍。面食らったガルグは命の危機に瀕した焦りから一転した。
 ジェイクとミゼルは次々に兵達を気絶させていった。方法は気功を当てつけて気功の波長を崩した気絶方法だ。
 相手も弱くはない。呪いを使い環境は賊軍に有利に働いている。気絶も気功を乱すのも容易ではない。それを成せるのは、ガーディアン二名が実力者である証拠だ。
 連携で襲いかかる兵達の攻撃をあっさりと躱し、懐や背後へ回る。足運び、死角からの不意打ち対処、気功の加減。戦馴れした立ち回りを平然とやってのけるガーディアン二人は正しく強者だと示していた。
「ふぅ、どうにか終わった。あんたがガルグだな」
 ジェイクは視線をチラチラとヒューガへ向けた。あの呪いを見せつけられたら嫌でも気になってしまう。
「礼儀を忘れるなよ。おそらくは幹部の方だ」
「ああ。かたじけない。ガルグという。それよりも少し離れるぞ」
 ヒューガの本気を前にガルグも恐れている。安全地帯にはいるが、不安から余分に離れたい意思が働く。
「ありゃなんだ?」
「呪いだ。とりわけヒューガ様の呪いは生まれながらに扱える才能だ」
 ミゼルは賊軍達とヒューガの呪い差を見た。
「どうやら早く済むようだ」
 ラドーリオが背後から「どうして?」と返すや、ヒューガに迫った五名の兵があっさりと斬られた。
 斬られた兵達は理解出来なかった。刀同士つばぜり合いもままならず、まるで空を切る刀のようにすんなりと切断されたからだ。
 臆した兵士達へ、ヒューガは声をかける。
「来んのか? なら行くぞ」
 恐怖が頂点に達した兵達は、俊足で攻め入るヒューガに為す術無く斬られていく。十九名を斬るまでに掛かった時間はおよそ十秒。
 あまりの強さに遠くで見るジェイクとミゼルも度肝を抜かれた。


 空間術が解け、部屋が元の大部屋へと戻る。
 呪いを解いたヒューガは、ガルグへ攻めた賊軍を見た。
「なんだ殺さなかったのか」
「無駄な殺生はしないのだ」
 ミゼルの返答に、「酷なことを」とヒューガは返す。
 言葉の真意は間もなく判明した。
「……うう、……え? う、うわあああああ!」
 一人の兵の身体が赤色の炎に焼かれる。
 次々に意識を取り戻す兵達も同様に燃えさかる。不思議な事に床も天井も襖も燃えていない。
「どうなって……」
 火を消そうにも、本能が彼らへ近づけさせない。ただ見るしかできなかった。
 次にヒューガの斬った者達が同じように赤い炎で燃えさかる。
「猛毒に等しい力に手を出すからだ」
「どういうことかな?」ミゼルが訊いた。
「呪いとは、本来扱える者にのみ使用を許される力だ。身体に耐性があるからな。それを、邪な方法で扱える術を得て、さらには呪いを精製するといった暴挙。こやつらもそれを聞かされずに使用を許されたのだろう。援軍がお前達だけというなら、他の兵達は誰と対峙していた?」
 賊軍の数から考えても兵達が来ない理由は明白であった。別の敵を相手していると。
「呪いに支配された死体をやり合っていたよ。早々にこちらを解決すると約束し、私は駆けつけた次第だ」
「だろうな。ここまで周到に俺の首を取る策を巡らせた連中の考えそうなことだ。今頃無念の内に死んだ配下達も燃えているだろうよ」
 どのような相手であれ骨まで残らず燃えるのは虚しすぎる。
「どうすることも出来ねぇのか?」 
「無理だ。苦しまぬよう殺すほか救いは無い」
 話の最中、兵達は燃え尽きた。
「さて、メイズの計らいで来たのだろうが」
「その前に、メイズって誰だ?」
 応えはミゼルの口から報される。
「バッシュだ。事の経緯から考えても奴以外あり得ない。そして、メイズとは奴の幼少時期の名だ」
「ほう? そのような生い立ちが?」
「内乱から逃れ、身を隠す為に名を変えたとか」
「なるほど。なら今後はバッシュと改めよう。ガルグ、皆にも報せておけ」
 ガルグは膝をついて敬礼した。
「時に、お前達はすぐにでも話に興じたいだろうが、今は一刻を争う時でな。早急にガルグと生き残った兵と共に町の騒ぎを鎮めてもらおう」
 何か言いたげなジェイクを遮ってミゼルが了承し、ガルグの案内でジェイクと共に向かった。
 見送るヒューガは厳かな表情になる。
「どうやらルダとは会っているようだな」
 恵眼を使う前からヒューガは薄々勘づいていた。
 自らの顔とルダの顔が似ているからだ。

 ◇◇◇◇◇

 サラが目覚めると、薄暗い森と思しき所にいた。
「あーよかったぁ。死んだかと思ったわ」
 カレリナは胸をなで下ろした。
 周囲を見回しても洞窟でもアダの集落でもないのは確かである。
「カレリナ、ここって?」
 反応は頭を左右に振って返された。
「私もすぐそこまでしか行けないの。見えない壁があるみたいで、上にも何処にも行けなくって」
 守護神さえも阻む力が生じている。
 洞窟で会った女性も踏まえ、夢幻洞に飲まれて危険な所へ来ているのは容易に想像がついた。
 どこまで進めるかを知る為にサラは立ち上がって数歩進むと、
「おお、目覚めたか」
 前方から声がした。草むらと木々に同化して見えたので、人がいるとは思わず、突然何かが動いた光景にサラは驚いた。

 現われたのは顔中に痣のある、丸坊主に白い長い髭の老爺が現われた。
「ほう、凄いなお主。ヌガに食われて無事とは」
 何が何か分からず話が進む。混乱に次ぐ混乱でサラは整理を優先した。
「……あの、すいません」
 手を小さく上げると、老爺は「ん?」と返した。
「私はサラでガーディアンです。こっちは守護神のカレリナ。お爺さんは誰ですか?」
「ワシはコルバ。ヌガの守り主だ」
「何ですか、ヌガって」
「お主、ネルジェナのヌガに食われたのを……ああ、まあ無理だわな」
 突然食われたなら分からないのは当然だと察し、コルバは詳細を語った。
 サラはネルジェナが召喚した巨大な魚の化け物に食われた。しかしサラを腹に入れたヌガは堪えきれずにここへ来て吐き出したという。
「……え、じゃあ私、あの時」
 自らは死にかけた。
 唐突に現われた奇妙で危険な印象の女性を前に殺されたと言っても過言ではない。
 急に恐くなり、身体を抱きしめてしゃがみこんだ。
「サラ!?」
「ごめん。急に恐くなっちゃった」
 震えるサラをコルバは首を傾げて見た。
「ふむ。どうやらお主は因果の流れより逸れた者やもしれんな」
「え?」
「ついてこい。お主が知らねばならぬこと、ワシがお主を知らねばならぬことが多いようだ」
 ついていって良いか戸惑うサラ。コルバは足を動かす言葉を選んだ。
「ここにいてはいずれ魔獣に食われるが、良いのか?」
 すぐにサラは足が動いた。
 まるで孫娘の反応を見るように、コルバは笑い、森の出口へ向かった。
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