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六章 二国を結ぶ動き

Ⅶ 退散のガーディアン

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 クーロ城四階の大部屋に黄金の光が注がれる。
 眩さにヒューガとガルグは腕で目を遮った。
「見よガルグ! 静かな男と思いきや派手好きであったぞ! 開戦の狼煙には豪華すぎではないか!」
 どういう事態でこのような黄金の光を放てるのか、ヒューガの恵眼を持ってしてでも計り知れなかった。あまりにも力が強すぎる。
「何を喜ばれておられるのですか! 賊が動き出した証拠なのですぞ!」次第に光が収まり出し腕を戻す。「それにメイズがやられたやもしれません」
「案ずるな。あの男は賊の襲撃程度で死にはせん」手紙を人差し指と中指で挟み、揺らして見せた。「こんなものを寄越す輩だぞ。この状況においても色々調べ、のらりくらりと立ち回っているのではないか? それに」
 ヒューガは天井や壁を眺め見た。何かあるのかと思いガルグも眺め見るが、何かが分からなかった。
「小癪な奴だ。このような大ごとをしれっとやってのけるあたりが歯痒いわ」
 嬉々とした表情を滲ませるヒューガは魔力も気功も昂ぶりだした。
 部屋の外が騒がしくなりだす。
「構えろよガルグ、こちらも狂乱の宴の開幕のようだ」
 暴れたくて疼いているのは容易に見て取れる。
「防衛戦に御座います。ヒューガ様はお下がりを」
 一応は指示に従うヒューガだが、刀を鞘からぬいて峰を肩に乗せた。ガルグは振り向かなくとも暴れたくて仕方ないヒューガの心情を察した。
 しばらくして、大部屋の襖が盛大に開いた。

 ◇◇◇◇◇

 黄金の光の中、兵達は動けず、次第に身体が崩れていく感覚を味わう。ただ一人、メイズは両手を後ろに回し、平然としていた。
「……な、ぜ?」
 手前にいる男は崩してく力に抗いながらも睨みを向ける。
「烙印の力を上乗せしました。あなた方の呪いは大凡調べがついてますので」
「我らの……呪……上?」
 途切れ途切れの言葉の意味をバッシュなりに解釈した。”なぜ自分達の呪いを上回ったのか?”と。
「上回るも何も、あなた方が呪いをあのような大きな箱へ貯蔵していたからですよ」
 城に染みついた呪いが消えていた。
「確かにあなた方の術を烙印で賄うには無理があります。ですが工面する呪いが隣に堂々とあるのですから、遠慮無く使わせて頂きました。全てではありませんが、まあ、それはいいでしょう。あと、これは言わせて頂きます。平然とやってのけていると思わないでください。工面するとはいえ、呪いと烙印の同調と支配は……認めたくはないですが、かなり難しいのですよ」
「おや、認めるのですね?」
 レモーラスが隣を浮遊して現われる。
「ええ。意地を張っても仕方ありません。呪いというのがこれほど面倒な力だとは思いませんでした。以前の呪いの糸とはまるで違いますし。そもそも烙印との同調は、私の魔力もそれなりに使用するので疲れます。なにより派手なのですよ作用の反応が。黄金の光は私の好みではありません。普通に炎で宜しいでしょうに」
 長々と愚痴をこぼす最中、兵達は次々に崩壊していく。
「おっと、すいません。感想に興じてしまい、遺言を聞きそびれる所でした。襲撃はあなた達の負けです。何か言い残……」
 聞く間に兵達は崩壊して消えた。次第に光も消えていく。
 哀れに思うレモーラスは僅かな悲哀の表情を滲ませる。
「可哀想な方々ですね、遺言の一つもあったでしょうに」
「おや? 多勢で襲われた私への気遣いは無いのですか?」
 返事のように表情が戻る。
「弱っているのでしたら少しばかり心配の声はかけます。これから会議にでも向かいそうな風体は心配に値しませんよ」
「それもそうですね」
 言いつつバッシュは聳える岩山の方へ向かう。

「貴方の計画ではこのまま帰国とありますが、ニルドへ向かわないのですか?」
「また国内のゴタゴタに巻き込まれる危険が大いにあります。クーロでもニルドとジュダの噂は耳にしてますので。疲れますのでこのままグルザイアへ戻りますよ」
 方法は険しい岩山を超えるしかない。しかし、あまりにも高く聳えている。超えるのは魔力を用いたとしても生き残れるか分からない。
「残り一つの烙印でも苦しいのでは? まさか、その半分ほどに減った魔力を使うなんて馬鹿な真似はしませんよね」
「私の調べではこの岩山は神性の気がかなり強いです。両方を用いても十秒持って良いところかと」
 レモーラスが思いついたのは、ガーディアンに許される特権の力であった。
「ここで使うので?」
 しかし返答はカムラを使うとあった。
 神性の気の満ちる場所でカムラを使用すれば力の消費速度は抑えられる。だが外の力をもって延ばしてしまうと、戻った時の疲弊はかなり大きい。
「山越えでお終いではないのですよ」
「安心なさい。力の配分は考慮済みです。この言葉を口にするのは性に合いませんが、私を信じてください」
 意表を突く言葉にレモーラスは僅かな驚きにあった。
 バッシュへ視線を向けるもいつも通りの平静な態度である。
「……そうですね。守護神として貴方を信じると致しましょう」
 告げるとバッシュの中へと入る。
「では、参りますよ」

 眼前に聳える岩山を、どのように進めば超えられるかを測る。
 神性の気に満ちた場所を大技で壊せば反動で堪えきれない反動で死に至ってしまう。ここは飛び越えるしか手段はなかった。
 山を越えても目に見えないだけで山幅があるのは大湖を渡る時に遠景から伺った。実際山幅を見たら、さらに長いと感じるだろう。
 長続きさせたカムラは危険でしか無い。自らの許容時間で切り、続いて烙印。いざと言うときは特権の力を利用すると考えた。
 バッシュは呼吸を整え、足に魔力を集中させて跳躍した。
 できる限り魔力で渡れる所まで飛び、カムラの時間を温存する。
 いざ苦しくなったとき、バッシュは叫んだ。
「カムラ!」
 およそ三秒で岩山を超えるも、間もなく焦りが徒労に終わるも安堵した。
 山あり谷ありの峡谷を想定していたが、堅い地面に尖った小山が点在する光景であった。さらに神性の気がこの部分では流れが緩やかであった。
 バッシュがカムラを解いた。
「何をやってるのです!?」
 緩やかとはいえ神性の気が濃い場所では立っているだけで疲れる。だが気を感じて魔力の同調に励んだ。
「これならおおいに力を温存して進めますし鍛錬にも。一日二日をかけて進もうかと」
 探究心が強いのは知っていたが、ここまでするバッシュにレモーラスは感心した。
「貴方には参りました」
「……褒め言葉として取っておきましょう」
「褒め言葉です」
 クーロから脱したバッシュは岩山を歩き進んだ。

 ◇◇◇◇◇

 黄金の光が消えると城下町のあちこちで火の手と煙が気になった。
 ジェイクは戦が起きていると判断して気が急いた。
「先に行く!」
「私も先行しよう」
 ジェイクとミゼルは足に魔力を集中させて突き進んだ。
 二人を余所に、ビダはついていこうとする者達へ指示を下した。
「俺等は力を温存して進む! 二人は先遣隊だ!」
 事態が厳しい環境であるならガーディアンの力と烙印を用いて二人は凌ぐだろう。強敵排除と敵部隊の減少に動いてくれれば後続部隊として機能するから。

 全員はビダの意思に同意し、二人に続かなかった。
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