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六章 二国を結ぶ動き

Ⅳ ギオの毒草と呪い

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 城下町が見える高台にジェイクとミゼルはいた。ムイとビダ、ビンセントを含め、二人のカミツキと三人の人間の戦士がいる。
 ビンセントとムイを筆頭にして野営の準備が行われ、ジェイク、ミゼル、ビダは下見のため、もう少し接近しに向かった。
 森にて、三人は魔力とミジュナの流れを読んだ。苦手なジェイクは「やけに濃いな」と大雑把な意見しか言えない。
「濃いだけなら良いけどな、こりゃ、面倒な呪いまで混じってやがるぜ」
 ビダはさらに匂いまで嗅ぐ。カミツキは人間よりも五感は鋭く、ビダは嗅覚が特に高かった。
「ギオの毒草まで混じってやがる。一騒動、なんて生温いようなもんじゃねぇぞ」
 ベルメアがビダの傍まで寄った。
「なんなの? ギオの毒草って」

 ギオとはリブリオスに生息する甲羅を持つ野獣。煮ても焼いても食えないと言われる獣だが、甲羅に生える毒草は薬の材料にはうってつけである。少量なら効果を示す良薬だが、葉っぱ二枚分をすり潰せば強力な毒となる。匂いと苦みは薬でも消えないため、暗殺の毒薬ではなく術や儀式における材料での使用が定番だ。
「こんなことするって事は、大がかりな火災でも起こそうってんじゃねぇのか?」
 続いてミゼルが訊いた。
「ギオの毒草とやらは火薬にもなるのか?」
「道具を使う陣術があるだろ。あれの素材にうってつけなんだよ。ギオの毒草で使う陣術っていや、炎を起こすもんだからな」
 ジェイクが近づいてきた。
「じゃあなにか? 一騒動ってのは、城を炎上させるってか」
「だとすればバッシュの文に記された呪いのシミが無意味だ。おそらく燃やすものが他にあるか」
 もう一つ思い浮かぶ理由をビダが応えた。
「城下の住民を毒殺するか」
 しかし毒殺には疑問が浮かぶ。ラドーリオが述べた。
「けど匂いがきつい毒草なんだよね。大勢を毒殺っていったら、皆匂いとか不審に思って毒を仕込んだものを口にしないよ」
「だったら、わざとそう誘導して混乱させるとか」
 ジェイクの意見にミゼルは「ほう」と感心の息をつく。
 ベルメアは「どういうこと?」と返す。
「ギオの毒草の匂いを皆が知ってりゃ尚更だけどよ、不快な匂いが充満したら嫌でも何かあるって思って大騒ぎだろ。そんで安全な所へ行くだろうし、住民が町の外へ出て行きゃ城下町は殆ど人がいねぇ」
「そこで何かするってことね」
 この読みは正しい。騒ぎを利用して大人数を誘導する作戦が必要であるなら、ギオの毒草は効果的だろう。
「けどおかしくない?」
 ラドーリオは首を傾げた。
「もしそんな作戦だったら今の時点で城下町はすごい騒ぎになってない? ここからでも土埃とか舞ってるのとか見えるでしょ?」
 ビダは付け加えた。
「ああ、だからその作戦じゃねぇんだろうな。そこまでギオの毒草が使われてたらもっと匂いがきついし、お前等も不審な匂いって感じるだろうぜ」
「今お前が感じた匂いにしてどれぐらいの量なんだ?」
「ここから城下町だったら、すり潰してねぇ、葉っぱの状態で担ぐほどの大袋に入ったぐらいかな」
 その量で城下町の住民を散らすのは無理だと思われる。匂いで人払いをすると考えても町の一角のみだ。
 ミゼルはバッシュの手紙に記されていた、城内に蔓延る呪いのシミについて考える。
「呪術、というものでギオの毒草を使うものはあるか?」
「俺は呪術についてからっきしだからなんとも言えねぇけど、道具は使わなかったと思うぜ。紋章術とか魔術とか唱術とか、道具無しで使う部類だったはずだ。それなら俺より知ってる奴がいるだろうから、一端戻るか?」
 野営の準備部隊の中に呪術について知る者がいると期待し、三人は戻った。


「呪いを用いた術はあらゆる術に使用されますが、戦闘においては魔術と気功技が効果的です。上手く利用すれば他の呪術などを破壊できますし。さらに呪いは現象として変化も起こします。ミジュナが溜って起きる異変が例えとして近しいでしょうね」
 丁寧に説明してくれる人間の男性術師がいた。他に二人、カミツキで戦士だが呪いの知識があった。
 補足説明をカミツキ戦士であり、モムロの父親がした。
「道具を使った呪いに関する方法っていやぁ、中和か相殺とかだろうな」
「それは、呪いのシミを消すのにも有効かな?」
「その呪いのシミってのがどういったものかによるな。呪いを帯びたオニとかが触れて出来たようなもんだったらしっかり消せるけど、誰かが起こした術だったら、シミだけは消せるだろうが、術の本質は消せねぇぜ」
 ミゼルはビダが嗅いだギオの毒草の匂いについて話した。
 毒草を扱って呪いを消す方法を知らないモムロの父親から情報は止まるが、連れのカミツキ男性が口を開いた。
「ギオの毒草だったら緩和か陣術だろうさ」
「陣術については、火をおこすと聞いたのだが」
「呪いの陣術は奥が深くてな、知ってる奴が少ない方法に特定の位置に呪いを集めるものがある。さっき言ってた大袋ぐらいだったら、結構な呪いを集められるぞ」
 溜めた呪いを何処へ吐くか、ジェイクは気になった。
「その呪いは保存するのか?」
「呪いは長期の保管が出来ないからな。かといって溜めてすぐ発散など易々といかん。何か、対象となるモノに落とし込むのが最良の手だろう」

 恐ろしい発想にミゼルは至った。
「例えば人間やカミツキなどもか?」
「やった所も見たこともないから何とも言えないが、そんなことすれば、あっという間に死んじまうだろうな。呪いは扱える奴がいるってだけで、生き物に無理やり注ぎ込むものではないから。俺が知ってるのは、石かな?」
 石と聞いて思いついたのは魔力を集める宝石。
 ジェイクは腕輪の宝石を見せ、金を稼ぐのに必要だと説明した。
「まあそういったもんだ。石に集めた呪いは呪術で使うとか、紋章術に混ぜて使うきちがい野郎もいるって話だ」
 紋章術に呪いを混ぜる危険性がジェイクは問うた。
「なんか問題でもあんのか?」
 モムロの父親は友人の失敗談を思い出す。
「詳しくは知らないが、俺の連れが試しにやって腕に二、三日の痺れが残ってビビったってあったなぁ」
 偶然にも詳細を知る人間の術師が話した。
「呪いを使える奴と使えない奴とは体質そのものが違うからです。例えるなら、紋章術を扱う点における人間とカミツキのような」
 人間に紋章術は使えない。似た類いで印術の印を施した道具を扱うぐらいだ。
「少ないですが、呪いを扱える者の多くはカミツキです。極希に人間にもいますが。使える体質の無い者は触れるだけで身体へ害を及ぼし、カミツキが紋章術に混ぜて使えば、効力は増しますが一時的なものです。すぐに呪いが術効果を支配して呪いがミジュナへと変化して増幅します」
 ジェイクは驚いた。
「おいおい、だったら狂った連中がこぞって紋章術に呪い混ぜて使ったら、とんでもねぇミジュナで溢れかえるんじゃねぇのか?」
「実際、クーロの南部でそういった事件があった話を聞きました。起きても自己責任ですけど、変化したてのミジュナにはオニが寄ってくる場合があるとかで、本当に狂った変人しかしないかと」
 運良く呪いの情報とギオの毒草が関係している情報を得ることが出来た。
 城に蔓延る呪いのシミとギオの毒草は無関係では無い。ミゼルはいくつかの推測を立てた。

 呪いの話が途中からよく分かっていないビンセントは、他のよく分かっていない者達と一緒に黙って聞いていたが、ある一点のみ、妙な違和感を覚えた。
『紋章術を扱える点においての人間とカミツキ』
 紋章術がカミツキのみ使用出来る術だと、黙って聞いていた者から聞く。
 違和感の正体。それは、十英雄が一人ザイル=リンガースが一子相伝の紋章術を扱えていることであった。しかし今のビンセントは、まだその違和感が分からない。
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