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五章 数奇な巡り会い

Ⅳ ジュダとゾーゴル

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 日暮れ頃、ムイとビダが帰還した。ミゼルと顔を合せた途端、キュラと同様の反応を示すも、今度は説得する者が多く、守護神も合わさって二人の警戒は緩んだ。
「ははは、ここは互いに手を取り合い協力しようではないか」
 ミゼルの言葉が癪に障ったのか、ビダは警戒する猫のような目を向けた。当然ミゼルへは、「余計な事言うな!」とジェイクが黙らせた。
 キュラが二人に昼間に話し合った内容を知らせると、ムイが仕切る形で話が進められた。

 ガルザの家の一室を借り、既に事情を知っているビンセント達を省き、ムイ、ビダ、ジェイク、ミゼルの四人で話合いとなる。
「確認をするが、二人はニルド側のガーディアンか?」
 先にジェイクが答えた。
「何処の側でもねぇよ。最初に夢幻洞に吸い込まれて行った先の村や集落で世話になっただけだ。あいつらが敵対している業魔討伐の途中だったんだぜ」
 補足をミゼルがする。
「だが我々は人間とカミツキ同士の戦争に加担はしない。協力はしあえるが、状況次第では手を切りもするし敵対するとも考えてもらおう」
 それだけでムイは頷いて了承した。傍らでビダは不服を表情に滲ませているが。
「俺達の敵はゾーゴルだ。クーロ南部に位置する村は殆どカミツキ狩りに遭った。恨み辛みで戦ってるのも当然だろ。それによぉ、放っておけばカミツキの大勢が悲劇の渦中にたたき落とされちまうからな」
 “多くの村のカミツキ”という点でミゼルは疑問を抱いた。
「ゾーゴルがカミツキを連れ去る理由よりも謎だが、それ程の人数を何処へ連れ去っているのだ?」
 ムイが答えた。
「おそらくは地下迷宮だろう。アダの集落にいる、俺達を含めて動ける連中で探したが、大人数を捕えるにはそこしかない」
「地下迷宮つったら、夢幻洞とも通じてるんじゃねぇのか? 危ないだろ」
 ビダが返答で「その逆だ」と返し、ジェイクとミゼルは顔を向けた。
「夢幻洞が現われるのは地上のみ。地下迷宮には出ねぇんだ、外からいきなり何か入ることはあってもな。地下迷宮には空間術が生じてっけど、それらも条件が合って起きてる現象。把握してりゃ問題はない」

 ジェイクの斜め上を浮遊しているベルメアが口を挟む。
「それってまずくないの? 地下迷宮には標の鍵があって、ゾーゴルが地下迷宮に棲みついてるとしたら、標の鍵は奴らが掌握してるかもしれないじゃない」
「だろうぜ。でなけりゃ、あの強さが証明されねぇ」
 ビダが見たゾーゴルの強さ。どういったものかをミゼルが求め、ムイが答えた。
「魔力の質を何度も変え、オニと魔獣を使役し、呪いを容易く扱った。極めつけは摂理を完全に無視した紋章術だ」
「何が起きたのだ?」
 語られたのは、生物同士の融合と標的の生物を変化させたとあった。
「おいおい、なんだよそりゃ。じゃあ向こうは捕えたカミツキをいつでも変異出来るぞって脅してるようなもんじゃねぇか」
「冷酷なことを言うなら、もうやっているか」
 ミゼルの意見にビダは視線を逸らし、ムイはゆっくりと大きく息を吐いた。
 ラドーリオがミゼルの横に現われて口を出した。
「けど、まだしてないかもしれないよね」
 ムイは「まあな」と返し、意見を述べた。
「連中の目当てが正直何か分からない。ただでさえ脅威には変わらないし、本腰でも入れられてしまえば三国は全て滅ぼせるだろう。なのにおかしいのは、そうせず、ちまちまとカミツキ狩りのみ専念し、ジュダへは何もしている様子がない」
「ん? ジュダにも仲間がいるのか?」
「ああ。あそこは王の支配力が脅威ではあるが、全ての地に行き渡っている訳では無いからな。王国より離れたところでの住民は穏やかだ。それに、地形が歪すぎるし魔獣とオニがよく徘徊している。危険だが潜んでの活動がしやすい。しかもカミツキなら誤魔化しやすい」

 その意見にミゼルは前世のある情報を思い出した。

「だがそれも考えものかもしれんな」
「んあ? 難癖か?」ビダが食いつく。
「落ち着け。何も非難しているのではない。前世でも似たような歴史を知っているだけだよ」
 とはいえジェイクはさっぱりであった。
「ある国での話だ。そこは王の権力が強く圧政を強いる国であった。故に王城近辺は生活が貧しく過酷だったのだ。しかし山を一つ二つ越えた辺りは平穏でな。密かに移り住む住民もチラホラいたそうだ」
「けどバレるんじゃないのか? 国の領土にいるならな」
「それがうまく誤魔化せたんだ。理由は単純。いざ国の査定が入る際は余所者を別の場所に匿い難を逃れられるから。地形は険しい山々がそそり立ち、地割れ跡や、そこに生え茂った巨大な樹木が多くあった。隠れ潜むには容易だったのだよ。そして、権力があり、武力も備えている国では、どうしても隠密活動を生業とする者達も入り込む」
「今の俺達の状況、と言いたいのか?」
「似ているのだよ。そしてここからが問題だ。その国の王は愚かではあるが馬鹿ではなかった。難逃れで生活しやすい土地に人が移り、他国からの隠密も潜んでいると読み、信頼の置ける配下に調べて証拠も得ていた。だから敢えて、締まりの緩い状況を作ったのだ」
 なぜわざわざそうするのか。そうやって人を集める理由。集めた人間を使う理由。
 ジェイクは一つの可能性が閃いた。
「おい、まさかそいつらを烙印に?」
「ああ、有名な話だ。なぜお前が知らんのか謎だがな」

 二人の間で分かり合っているので、ビダが説明を求めた。
「我々の世界では烙印と呼ばれる力が存在する。強力すぎる紋章術と、この場は考えてくれ。烙印を生成するには生物の命が必要なのだ」
 そこまで話してムイとビダは理解した。その国の周辺に集まった人間は烙印を作るための犠牲となった。一国の、権力を所持する愚王が望むなら、武器や兵器として烙印を集めたのだと発想も至る。
 確かに似ている。

 ビダの表情が一変した。
「こうしちゃいられねぇだろ!」
「落ち着け」
「落ち着け」
 ムイとミゼルの声が一緒になった。
「確かにこの話と同じ状況であるなら君たちの仲間は危険この上ない。だが、まだまだ考えて使える余地はある」
「何が余地だよ! さっさと避難しねぇと、烙印ってのはねぇけど、ゾーゴルの紋章術で大変な目に遭うぞ!」
「ミゼルの言うとおりだ。とりあえず座れ」
 ムイの命令に、まだ焦りと苛立ちが治まらないながらもビダは従った。
「畜生。なんでお前は平然としてるんだ!」
「もしジュダに潜んでいる仲間へ手を下そうとするなら今ではない。何か大きな動きがあるとき、ようやく利用すると判断してからだ。泳がせているであろうこの状況を利用すれば、まだこちらにも有用な環境ではある」
「その様子では、大きな動きとやらに思い当たるところが?」
「はっきりした情報ではない。ただ、三国における業魔の動き、見た事のないオニの出現、それらが何かを示しているのだろう。風の噂ではゾアの災禍が近い前触れとあるから、それに合わせていると。もし業魔とオニが動き出したから仲間へ手を下すとあるならとうにやっている。今は様子見か、まだ利用出来るかをふるいにかけてるのかも、と」
「けっ、だったら早々にこっちから動きを見せてやろうぜ」

 話の内容から疑問が生じたジェイクは「いいか?」と許可を得て意見した。
「話聞いてると、ゾーゴルの話からジュダの話になってねぇか? その二つは味方同士なのか?」
「いや、はっきりとは分からない。二勢力とも警戒すべき対象だが、拙い仲間の情報を信じるなら、敵対していると」
 おそらく証拠は無い。ミゼルとジェイクは感じた。
「これからは同時進行で事を進めねばならんようだ」
「同時進行だぁ?」
「同時進行だと?」
 ジェイクとビダの言葉が揃う。
「我々はニルドにて業魔を討伐しなければならん。そう約束したからな。だがクーロでは業魔が違うとあり、それを知ることが出来る。いわゆる業魔の調査だ。さらに新種のオニ」
 初めて聞く言葉に疑問符が浮かぶムイとビダへ、「ああ、我々がそのように呼称している見た事のないオニの名だ」と補足した。
「奴らも現われたのだから調べなければならん。そしてゾーゴルとジュダが行いそうな行動を読み、先手を打って動かなければ潜入しているカミツキが殺されかねない。ここで生活していればまだまだ問題が増えるだろうしな」
 問題山積みでビダは頭が痛くなり、寝転がって「面倒くせぇ!」と大声で愚痴をこぼした。
「だがミゼルの言うとおりだ」ムイはビダからミゼルとジェイクへ顔を向けた。「改めて仲間を救うために協力してほしい」
 頭を下げられ、返事は了承の意を示された。

「おう、そういや忘れてた」
 ジェイクは思い出して二人に確認を取った。
「ニルドにいるカミツキの仲間がいるんだけどよ、そいつが謎めいてんだ。ミゼルの奴はずっと疑ってるんだけどよ、お前等、ルダって知ってるか?」
 途端、ムイとビダは表情が険しくなって驚く。
「お前等、本当に何者なんだよ!?」
「確認ですが、彼の仲間ですか?」
 口調の様子から尋常ではない雰囲気。返答次第では戦闘も起きかねない事態だ。
 ジェイクの返答を阻み、ミゼルが訊いた。
「業魔討伐の協力のみだ。彼と君らはどういった関係で?」
「どうもこうもねぇよ! 奴はゾーゴルの幹部の一人なんだぞ!」

 信じるべきかどうか。二人は悩んだ。
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