烙印騎士と四十四番目の神

赤星 治

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四章 まことの業魔

Ⅲ 邪悪なガーディアン

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 絶命したオニを足場に着地したトウマはジールの傍へ跳ぶ。
 駆け寄ってくるジェイクとトウマは約一年ぶりの再会を果たした。
「お久しぶりですジェイクさん」
「久しぶりだなトウマ! 見違えたぞ、かなり逞しくなったじゃねぇか!」
 喜ぶジェイクへトウマはジールを紹介し、簡単にガーディアン召喚後の経緯を話した。

 傍らで御頭の怒声が飛んだ。
「てめぇ死ぬ気か馬鹿野郎!!」
 平手打ちで頬を叩かれたバドは、視線を逸らしたまま反論は無い。
「舞い手を護りてぇ気持ちは分かる。だが焦りで突っ走るヤツは勝てる戦も負けちまう愚か者だ! てめぇが死ねば護りてぇヤツも死ぬと考えろ!」
 今回は偶然オニの弱点が判明し、救援も現われたから勝利出来た。もしそれがなければ自分も仲間も死んでいた可能性は大いにある。
 自らの独断専行の愚かさを痛感したバドは、声は小さいが「すんません」と素直に謝った。

 御頭は皆を集めジェイクの傍へと寄った。
「恩に着る。助けが無けりゃ死んでた」
「礼ならこいつらに言ってくれ。バースルって国の戦士で、こいつはガーディアン仲間だ」
 その証明としてビィトラが恥ずかしがりながら現われる。
 御頭と戦士達が感謝を告げると、ボダイが焦りながら走ってきた。
「ボダイさん、こちらは」
 トウマが紹介しようとするも、ボダイは「待て」と言って遮る。
「話は後だ、向こうに危険なオニがいるだろ」既に新種のオニの気配は感じ取っていた。「傍に何やら邪悪な力が現われた。急ぎ手を打たねばここが滅びるぞ!」
 咄嗟に御頭は戦士達に指示する。屋根に身を潜ませつつ、新種のオニの所まで向かえと。
「それって業魔かよ」ジールが訊く。
「いや、業魔が現われればオニなどとうに消されて気配すら感じん。これは、トウマやそちらの御仁に似ておる」
 それはジェイクを指していた。
 トウマとジェイクの共通点。紛れもなくガーディアンを示していた。そして二人が思いつく邪悪なガーディアンは一人しかいない。
 二人は新種のオニの所へ向かい、ジールとボダイは続いた。


 周囲のオニを撃退したミゼル達は、突然現われた男に警戒した。
「久しぶりだな」
 新種のオニの肩に乗って現われ、嫌味な笑顔をミゼルへ向けたのはレンザであった。
「皆距離をとり警戒するんだ!」
 ミゼルの命令に加え、レンザから漂う異様な気配に防衛本能が過剰に機能した戦士達は警戒を強めた。
「まさか生きてるとは思わなかったけど……、まあ、あんたしぶとそうだもんな」
 今にも攻め入りたいミゼルであったが、無闇に攻めることは出来ない。傍にはなぜか大人しい新種のオニがおり、レンザも侮れない相手だ。もどかしさと苛立ちがジワジワとこみ上げ、悔しくあった。
(ミゼル、カムラを使ったら)
(悪手だ。使った途端に何をされるか分からん)
 ラドーリオへ冷静に意見すると、ジェイクとトウマが現われ、ジールとボダイが続いた。
 久しぶりに見るトウマの魔力が洗練され無駄のない揺らぎをしている。それだけでも厳しい鍛錬を続け成長したとミゼルは感じて嬉しかった。
(トウマだ! 皆で力を合わせれば!)
 ラドーリオの歓喜を余所に、ミゼルは冷静に事態を見た。
(いや、どうやらそうもいかないらしい)
 微塵も焦りを見せないレンザの様子と魔力から、余裕綽々であるのは容易に窺えた。

「あらまぁ、あの弱小君が一丁前に強くなって。……まあ、だからなに? って感じだけどな」
 トウマへ一瞥をくれたレンザは、戦士達に囲まれていると感じ取った。
「そこの弱小君に会いに来ただけなのに、こうもやる気満々で構えられる筋合いはないんだけどねぇ」
「あぁ? てめぇ、前に何したか思い出させてやろうか!」
 フェンリル戦を思い出しているジェイクは怒りを露わにしている。
「黙ってろよおっさん」
 言葉に反応して新種のオニが触手をジェイクへ振り抜いた。
 あまりにも重い一撃をジェイクは剣を盾に受け止めるも、威力は抑えきれず大屋敷の階段まで吹っ飛ばされた。
「ジェイクさん!」
「ジェイクは大丈夫だから前!」
 トウマの傍に現われているベルメアが意識を逸らさないように促す。現状ではレンザの指示で新種のオニが動けると見て間違いない。気を抜けばあの一撃か、さらに強い攻撃をくらうことになると見てよいほどだ。

「よっわ。またフェンリルみたいなの出してやりてぇが、あれ使えねぇから捨てただけだからなぁ。今日も断捨離目的ってのもあるんだけどぉ……」
 周囲を見回すと、屋根に潜む数人を見つけた。
「そこに隠れてるヤツら。バレバレだから」
 言いながら軽く手を振ると、新種のオニ上空に光の球体が三十個現われ、問答無用で屋根に潜む戦士達目がけて飛んだ。
「お前等逃げろぉぉ!」
 御頭の指示が下る前に反応してバド達は退避行動に出ていた。しかし容赦ない球体の攻撃は、バド以外に傷を負わせた。
 屋根や壁、家屋の柱を貫いて戦士達を襲う球体は、威力を加減してるのだろう。肉体を貫きはしないが当たればオニの一撃ほど強い打撃をくらった。

 御頭を含めた戦士達の苦痛に響く叫びを聞いたレンザは口元に笑みを浮かべた。
「よっし、命中! 骨折確実。下手すりゃ一生もんの傷だろうぜ」
 追い打ちの攻撃が無い。何を考えているか分からないが、無事な戦士達は負傷した者達の元へと駆け寄る。
 殺し目的なら周囲に今の攻撃をすれば事足りる。それをしないのは、何か理由があるのか、ただ痛めつけるのを楽しんでいるのか。
 仮説の一つをミゼルは導いた。それが正解かまでは分からないが、レンザの非道性を見て自然とそうであろうと結び点けた。

「戦力を削ぎ、業魔の封印を妨害しようとしているのか?」
「さぁね。教えてもらえると思うなよ、バァァカ」
 言葉を交すだけでミゼルの苛立ちは速さを増して募っていく。隙あらば仕留める気持ちは充分に高まってはいるが。
「あ、そうそう。今ので俺はかなりイラついたわ。だから、お前等に良いのをやるよ。しかも三つだ喜べ」
 嫌な予感しかしない。誰もがそう感じた時、レンザは新種のオニから飛び下り、地面を思い切り殴った。
 ――ドゴォォ!!
 軽い地震が起きるも、全員が総毛立つほど奇妙な力を全身に浴びた感じがする。続けて悪寒が走る。
「一つ目。業魔の封印に亀裂入れた。明日明後日には解けるぞ」
 真偽の程は定かではない。ただ、信じるに値する異様さであったのは間違いない。

 焦る戦士達に反し、御頭と仲間に傷を負わせ、業魔の手助けをした事にバドの怒りは頂点に達した。
 周囲で色んな思いがある中、レンザは「次ぃ」と暢気な口調で手を叩いた。
 途端、新種のオニが姿を消した。まるで空間術でも起こしたと思わせる行いだが、魔力の乱れが常軌を逸して弱い。しかも移動させた新種のオニはそう易々と動かせるような存在ではない。
 ボダイが目を見開いて驚く中、レンザは説明した。
「標の鍵? それ護ってるんだってな、近くの部族。鬱陶しいからアレに潰して貰うぞ」

 窮地だが新種のオニは消えた。レンザへの危険性が著しく落ちた。
 これを隙と見た怒り心頭のバドはレンザ目がけて突進する。
 バドはレンザを斬ったが、手応えは無い。残像であると分かるも、その時にはレンザの手がバドの背に触れていた。
「うっざ」
 何かがバドの身体に注がれた。
 急激な眩み、全身が痺れ、耳が“ザァァ――”という音以外聞こえない。
「あ、ぐぁ……あ、ぎぃぃ……」
「雑魚が出しゃばるな」
 まるでトドメを食らわせようと、右手に赤い球体を籠める様子を目の当たりにしたトウマは武器を構えた。
「ジール、ちょっとだけ時間を稼ぐ」
「ああ、任せろ」
 バド救出の作戦を決行し、トウマはレンザ目がけて迫る。
「おっとぉう!」
 初手の攻撃を軽々と躱し、続けざまの連続攻撃を具象術で出現させた剣で遇った。
「お、強くなった強くなった。偉い偉い」
 まるでトウマには手を抜いているとばかりに遊んでいるような態度を取る。
「大変大変、多勢でやられたら俺、負け確定かぁ?」
(もう三秒だけ保て)

 トウマは攻撃の手を止めず攻める。その隙にジールはバドの傍へと辿り着き担ぐ。

「これはお前に」
 急に背後からレンザの声がしてジールは血の気が引いた。途端、背中から冷たい何かを入れられた感覚に陥った。
「うわあああああああ!!」
 ジールの叫びを聞き、眼前のレンザ以外に誰かいるのかと感じたトウマは距離を置く。
「ジール!」
 身体の中から痺れと不快な何かが浸透していく苦しみに悶える傍にレンザがいた。
 トウマが対峙していたレンザを見ると姿がスゥーと消えた。その様子から、“遠隔操作の具象術”だとトウマは判断した。
「断捨離終了。さて問題だ弱小君」
 悶え苦しむジールとバドの傍で、レンザは勝ち誇った笑みを浮かべて告げた。
「三つ目のプレゼントは何でしょうか?」
 これが三つ目では無い。まだ何かある。なにより、ジール達へ何かしそうで焦る。

 両手を挙げたレンザは、手を叩いた。
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