烙印騎士と四十四番目の神

赤星 治

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四章 まことの業魔

Ⅰ 双方の思惑

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 ジュダの王、ゴウガは幹部であり呪術の賢師・メドロと座敷王室で話をしていた。丁度、ジェイク達が封印された業魔の地へ向かっている頃。
 畳敷きの大部屋には数々の置物や装飾品、飾り物などが並べられている。色鮮やかなものが大半を占めているが、金の装飾を遇ったモノがよく目立つ。中には純金のものまで。メドロが術により灯した光により輝きを放ち、さらに部屋を明るく照らす。
 座椅子の玉座に腰かけるゴウガ、向かいに正座するメドロ。二人の間には、白い光沢のある布が広げられ、上には砕けた宝石があった。欠片それぞれは色が違い、三種類の色と欠片の数、量から三つの宝石が砕けたものとされる。
「ヤツはただ者ではないと証明されたな」
 ゴウガはレンザに抱いた疑念が確信へと変わった。
 恵眼を用いても正確に判明出来ない異質な力を備えているレンザ。想像以上に厄介で敵対されるとジュダの脅威となる存在だと。

 元は標の鍵であった砕けた宝石は、ゴウガの前に献上された後、不要判定を下されたモノをレンザが握って砕いたものである。
 メドロは標の鍵を難なく片手で潰す光景を目の当たりにした際、平静を装いながらも恐れを抱いた。
「ああも易々と”力”ある代物を砕くというのは……、業魔、いや、ゾーゴルよりも厄介かと」
 恐れから魔力の乱れが現われるメドロへ、「落ち着け」とゴウガは告げた。
「しかしゴウガ様」
「確かにヤツの力は我々が束にならねば潰せんだろうな」
 そのような事態に陥れば、多くの死者が出ると想像がつく。
「ヤツが力を誇示したいだけの小物であるなら入国時に暴れ回っていただろうよ。もしくは密かに立ち回り、隠密さながらの動きでジワジワとな。だがそうはせず、己の目的のみでわれに協力を求めてきおった。脅しではなくな」
「ですが、あのような力を持て余した若造は信用に値しませぬ」
「信用などどうでも良い。我が言いたいのは、ヤツには何かしらの制限がかかりながら行動しているというのだ」
「制限、ですか?」
「何事にもそれなりの地位に立たされれば相応の制限がかかるというものだ」視線を欠片へ向ける。「容易に壊せん標の鍵すらも平然と砕きおる。まさしく人知を超えた力、ガーディアンであるがゆえかは知らんが神の力やもしれん。とはいえ横暴に感けておらん。若造ならそれ位のやんちゃはあって当然だろう。あの様相、口の利き方、態度のヤツならしそうなものだ」

 レンザは言われた通り、地下迷宮へ向かい標の鍵を回収し、律儀にゴウガへ破壊の判断を仰いで破壊している。

「なぜ我の協力を求めるか、持て余す力を制限するかは分からんが、今はあの力を利用するだけだ。ゆえにお前を含め幹部連中にはいざという時の備えを整えてもらっておるだろ」
 メドロの様子はまだ何か言いたげであり、ゴウガは許可した。
「ゴウガ様の仰ることは間違い御座いません。私が不安視するのは、あやつが気まぐれで暴れ回らぬかと。それに」視線を欠片へ向ける。「真の標の鍵・・・・・を見つけた時を考えたら……」
 ゴウガは大きめの欠片と摘まみ、指で動かして眺め、鼻で笑った。
「我の恵眼ではヤツにも真の標の鍵を潰すことは出来ん。扱うこともな」
「御言葉ですが、真の標の鍵を我々への脅し道具に使われますまいか、不安であります。真の標の鍵は“古の業魔”を呼ぶ力を備えてますゆえ」
「案ずるな。我とて暢気には構えぬ」不適な笑みを浮かべると、摘まんだ欠片を指で押しつぶした。「“七将”は放ったか?」
 メドロの様子は返答を躊躇いがちに放った意味の言葉となった。
「歯切れが悪いな」
「御言葉ですが、あれらはクーロやニルドでは脅威になりますが、まだまだ未熟です。もう二月ふたつきほどは熟成の時間が……。相手が悪ければ気づかれる危険も孕んでおります」
「だから良いのだ」
「と、言いますと?」
レンザヤツの話に戻るが、悠長に構えていては足下をすくわれるだろう。力で対抗するより場を荒し、嫌でも戦場で動き回るヤツの隙を伺うが我々の勝利への糸口となろう。それに、だ、業魔に手を焼き、二国が不安定になってこそ次の脅威をぶち込める」
「私も聞かされていない一手。まだお話にはしてくださらないので?」
「焦るな。近々幹部お前達には話す。とはいえ、その一手もまだ確実ではない。あやつ・・・次第だからな」
 ゴウガが匂わせる協力者の存在。メドロも心当たりは無かった。


 ゴウガから自室を与えられたレンザは大の字で寝転がって呆然と天井を眺めていた。守護神ホージュは姿を出さないまま念話で話しかける。
(体たらくだな。悠長にしていて良いのか?)
 巨漢の体躯、見合った低い声。レンザは高校生時代の厳しい担任を思い出すからホージュの声はあまり好きではなかった。
(いいんだよ。あの様子じゃ、俺がこっそり標の鍵を余分に手にしたのも気づいてなさそうだしな)
 両手を上げて神力を籠めると、両手の指に”光る指輪”が現われる。形状に統一性はなく、それはレンザの技に関係していた。
【ゴッド・クリエイト】
 それぞれの指輪に技が備わっている。自身で作り上げた技術、他者の技術、封印されている技術など。どのような技術でも盗む事が出来る。備わっている技術が不服ならば、生物へぶつけて捨てるしか方法はなく、捨てると二度と盗むことは出来ない。
 ゴウガの目の前で見せた標の鍵は確かにレンザが地下迷宮から持ち帰ったものだが、余分に二つの標の鍵を見つけて盗んでいる。その技術は珍しい力だったので大いに喜んだが、外へ出て冷静さを取り戻した頭で使いどころを模索すると、あまり必要がなさそうだと気づき後悔していた。

(捨てるか)
(おい、技術を粗末に扱うな。そういった癖がいずれ足下をすくうのだぞ。既に“時空”を前にして気を引き締めたんじゃないのか? “無限”があったところで意味はなくなりつつあるのだぞ)
(うっさい。あんな王さんは無視していい。ようは最後に転生者で俺だけが残れば勝ちなんだよ)
(そのような環境が出来るのか? “秩序”は別として、他の力もジワジワと動きを見せている。本戦・・を前にして死ぬ事態もあり得るのだぞ)
(心配性か? どうせ他の連中がどう足掻いても何も出来やしねぇって。リブリオスにも何人か転生者がいるだろうが、ここがどれだけ危険か分かってねぇんだぜ。業魔のなんたるかも知らず、カミツキ連中がどう動いてるのかも。あと、ゾーゴル連中が馬鹿な真似しようとしてることも、あれが動けば全員お陀仏。詰み確定じゃん)
(その余裕で前回は死にかけただろ。いくら転生者の中で最強とやらに位置したとて、驕りは必ず自身を潰す切っ掛けとなるぞ)
 ミゼルのことを思い出すと、険しい表情になる。
(あの野郎はぜってぇ俺が殺す。ああいうすかした感じの野郎は追い込んで苦しめて殺さねぇと気が済むかよ)
(あの者は脅威だ。怒り任せに突っ走るなよ)
(誰に言ってやがる)
 起き上がると“無限”の力を使って場所を変えた。

 到着したのは巨大な木の上、国はクーロ。ただの気まぐれでこの場へ訪れた。
「さぁて、ジュダの王さんはどうせ脳筋プレイで俺を潰す算段でも立ててるだろうぜ。隠し持ってるバケもんでも存分に使ってゴリ押し戦法だろ。ああいった馬鹿はほっといて、他はどうするかなぁ……」
 周囲を見回す。これも“無限”の力で遠くを見渡せるようになっている。
 傍にホージュが現われた。
「標の鍵探しはいいのか?」
「気晴らし気晴らし。ダンジョンつっても地下だろ、陰気な所ばっかだとしんどいし。たまにゃ外へ……おぉ?!」
 レンザは見知った顔を発見する。場所はニルドであった。
「いいのみっけ! 世の中の厳しさ教えてやらねぇとな」
「忘れるなよ、転生者殺しにはまだ制限がかけられているからな」
「わーったわーった。半殺しぐらい問題ないだろ? ついでに断捨離もな」

 不要な技術の入った指輪に目を向けると、笑顔で“無限”の力を使って目当ての場所へと向かった。
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