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二章 三国の動き
Ⅹ 人間の国
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トウマとジールが謁見の大部屋へと入ると、前方の台座の上に設けられた椅子に腰かける男がいた。出で立ちと漂う気功のようなものが、他と違って見える。一目見てルバスだと二人は分かった。
台座の両端に列を作って三名ずつの幹部と思われる者達が整列している。
誰しもが鋭い目つきでトウマとジール(一番はガーディアンのトウマ)を睨んでいる。
(帰りたいよ、ビィ)
(すごい睨まれてるね。頑張って~)
姿を出さないビィトラは暢気でいる。
台座から十歩ほどの距離の所でトウマとジールは並んで立たされた。
カガとヤザリが二人の紹介をすると、左右の列から呟きが聞こえる。しかし何を言っているかまでは分からない。
「……くく、くまなく調べたい」
陶酔したような目つきも漂う魔力も警戒心が過剰反応してしまうほど異様な男が、トウマを頭から足まで見ている。目を向けないトウマも、即座に警戒対象だと本能が働いた。
「弁えよウーザ」
ルバスの静かで、それでいて鋭い力が籠る目つきを向けられ、ウーザと呼ばれた者は向きを変え、小さく頭を下げて「失礼しました」と返して元に戻った。
ルバスがトウマとジールを見ると、二人に緊張が走る。
「其方等は余と、このニルドに牙を向ける者か?」
突然の質問に二人は戸惑い、返答が遅れる。
何かを言おうとする前にルバスが右手を胸の高さまで上げ、「終わった。下がって良い」と命令する。
何が何やら分からない二人は、カガとヤザリに連れられて大部屋を出た。
トウマとジールが出て行った大部屋で、ルバスと幹部達が話合いをした。
「王。恵眼でご覧になられたガーディアンは如何に」
大きめに拵えた正装からでも隠せないほど、隆々とした強靱な体躯に厳格の言葉が相応しい顔つきの最高幹部・ダオは、全身をルバスへと向けて尋ねた。
「敵意はなく謀反は企んでおらん、連れの者も踏まえな。ガーディアンと聞いて気を引き締めたが、どうという事はない。鍛錬に励む強者と同様であり、魔力量がやや常人離れしているぐらいだ。際立つ力は僅かに混じる程度。とりわけ気を引くものでもないな」
ダオの向かいに立つ、聡明な顔立ちに博士の最高位である衣装を纏う幹部・ゼオンがダオと同じようにルバスの方を向いた。
「失礼します。では、ガーディアンたる証明は御座いましたでしょうか?」
「表だってはない。だが内に秘める何かが存在している、それが証明なのかもな。急ぎこちらから何かをする必要はない。石板にも記されていよう」
ダオの隣に立つ白い衣装を纏う男性・シオウは、向かい合い「そのように」と告げて頭を下げた。
「今はあの者達の武力に頼るとする。ニルドに害をなす獣どもの討伐に尽力させろ」
幹部一同は「はっ」と声を揃えて頭を下げた。
屋敷を出て町の北端に位置する所へトウマとジールは連れてこられた。
(なんでこんなに登り坂と階段ばっかなんだ……)
そんな愚痴を零すことなく辿り着いたのは、日本家屋のような立派な家屋だった。
屋敷からここまで案内したヤザリは家主に説明している。
「ここがお前達が住む所だ。説明は家主のボダイに聞け」
それだけ言い残すとヤザリは去って行った。
「俺等、どういう扱いなんだよ。ったく」
ジールが愚痴ると、「まあそう言うな」と二人の傍から声がした。
驚いて声の方を向くと、白髪頭だが頑丈そうな体躯の男性が立っていた。
「え、いつから」「全然気配とか……」それぞれ言葉が漏れた。
二人の反応が面白いのだろう、ボダイは「ははは」と笑った。
「いやすまんな。一人はガーディアン、一人は素早く立ち回る戦士と聞いていたんでな、ついつい気が疼いた」
ガーディアンはともかくとして、ジールの得意分野が露呈している理由が気になった。
「どうして俺が素早く立ち回るって?」
「ヤザリは目が良いんだよ。魔力の筋が足に集中して出来上がっている。日頃から足へ流す習慣がある奴の形が出来上がってるんでな」
ボダイは踵を返し、「茶でも淹れる」と言って二人を中へ案内した。
屋敷とは打って変わり落ち着く居間へ案内された二人は、ボダイが差し出したお茶を飲んだ。まるで日本同様のもてなしに、トウマはすんなり茶を飲んだが、不慣れなジールは疑いながら飲む。
「さて、まずは自己紹介からしようか」
そう言ってボダイが挨拶し、二人が続いて挨拶する。一応、ビィトラも姿を現わした。驚くボダイを見て、トウマは疑問が生じた。
「やっぱり。なんか最近、ビィが誰にでも見えるようになってる」
「そういやそうだな。何でだ?」
二人がビィトラへ聞くと、分からない素振りで返される。レベルが関係していても、条件を踏まえなければ見えないからだ。知っていたら隠し立てせずに教えるので、本当に知らないのだと分かる。
「いやはや、六十過ぎてこのような奇跡に会えるとは」
ボダイの年齢に二人は小さく驚く。もう、驚きの連続なので、この程度は些細なものであった。
「あの、リブリオスについて聞いても良いですか?」トウマが訊いた。
「ん? ヤザリ達から何も聞いとらんのか?」
二人は屋敷での印象が脳裏に蘇る。
「なんか王様に見られて、終わりました」
「色々と見られて、終わりました」
ジールとトウマで意味が違うも、ボダイには伝わらなかった。
ヤザリから頼まれた中に、リブリオスの説明も含まれているのだとボダイは理解し、二人に待つよう告げて部屋を出た。
五分ほどで戻ってきたボダイの手には、巻いた紙がある。
席に座り畳に紙を広げると、それはリブリオスと境界の三国とゼルドリアスを描いた地図であった。
トウマとジールは世界地図とまるで違う形に驚きを隠せなかった。とりわけ度肝を抜いたのは、自分達の知る世界地図のリブリオスより、二倍以上大きい形に。
境界の三国、海側の国ミゴウには、確かに海が広がっている。しかし地図ではゼルドリアスの一部から伸びた土地と、トウマとジールが知るリブリオスよりも長細い地形とがくっついている。ミゴウと面していたのは海ではなく大湖のような陸に囲まれたものだと。
ゼルドリアスの詳細は描かれていないが、リブリオスでは四つの国に分類されている。大まかにはグルザイアと大湖側、大湖側、境界の三国側、海とグルザイア側である。
「リブリオスを隔てるのは大昔の奴らが拵えた巨大壁か険しい岩山だ。そして中の国は大きく分けて三国に分けられる」
グルザイアと大湖側の国を指差した。
「我が国はニルド。人間の国だ」指を動かす。「向かいの国はジュダ。カミツキが住まう国だ」海側の国へ指を動かした。「ここがクーロ。人間とカミツキが共生する国だ」
「この大湖側の国は?」ジールが訊いた。
「管轄はニルドだ。ここでは住めん連中もいるからな、他国との交易等はここで行っている。しかし魔獣などに襲われてもニルドから援軍は行かんがな」
「どうしてですか? 自国なんですよね」
「ここを我国として置けばジュダが黙っておらん。あそこは人間嫌いが多く、ニルドが幅をきかすことを疎んでおる。現在、均衡を保てておるのはそういった理由だ。ジュダも大湖側の国の存在はある意味で有り難く考えている筈だ」
「どういうことだ? 人間嫌いなんだろ?」
「しかしニルドから流れる情報を得るには適している。ニルドはミングゼイスの石板を管轄している国だからな」
ミングゼイスの石板と聞き、二人は危機を感じた。国の秘密を聞いているようで。
「俺等に話して良いんですか? 国家機密とか」
「この国では有名な常識だから案ずるな。それにワシもそれ位の分別は出来る」
失言と感じ、ジールは詫びた。しかし杞憂であったのか、ボダイは微笑みを絶やさずに続けた。
「三国は昔から戦が絶えんが、十数年前からこの均衡を保っている。理由は各国で魔獣やオニと呼ばれる化け物がな」
ラディアとクライブが話していたオニガリを思い出したトウマは、ボダイに自分が知る鬼がどういったものかを説明する。
「まあ、似てはいるが少し違うな。会えば分かるが、とにかく角を生やした獰猛な化け物だ。さらに奇怪な現象も相次いでおる。ニルドでは幻覚や幻聴が多い」
人間、楽園、地獄、良からぬ存在など、見聞き出来る幻は様々である。
「気の持ちようともされておるし術により対処も考えられておる。しかしそうならん例もあり、いよいよ身体で幻を感じれば向こう側へと連れて行かれる」
神隠しのような事態を二人は考えた。
「とにかく、各国の事情で今は戦どころではない」
ジールは勘が働いた。
「だったら密入国でもして色々嗅ぎ回られたら……」
ボダイは人差し指を立て、自分の唇へ当てた。
「そこまでだ。誰でも想定は出来る事であり、王も対処に頭を悩ませておる。しかし滅多にその事を口外してはならんぞ。何処で誰が聞いているか分からんからな」
次にトウマが質問した。ルバスとの謁見以降、それが気になって仕方なかった。
「あの、王様が僕達を見て何かを判断したんですけど、あれってなんですか?」
「恵眼と言ってな、王たる証だ。その目を持つと奇跡の力を手に入れる。お前達が見られたのが本質か、力の一端かはワシ等如きが知るよしも無い。恵眼は他の二国の王もある。ルバス王と会ってどう感じた?」
「なんか……恐かった」
「俺は……寒気感じて動けなかった」
「恵眼の力は人知を超えておるからな。しかしルバス王はお優しい方だ。国を護る為に冷たく感じたであろうがな」
「他の人達、なんか恐かったんですけど」
「気の休まらん場所に仕えておるなら当然だ。さて、まだまだ分からん事は多いだろうが、一度にあれやこれやと聞かされても頭に入らんだろ?」
返事は頷いて返される。
「これからここでの生活をして、徐々に覚えていけばいい」
「あの……、どうしてそこまでしてくれるんですか?」
”客人だからだ”と返されるも、ボダイには別の事情があるといった様子が二人とビィトラの目には窺えた。
後に二人は痛感する。広い家で掃除、洗濯、家事、薪割りから狩猟と魔獣狩りと大変な事に使われると。
同日夕方。
ジュダの王・ゴウガは、大広間で幹部三名を据え、ガーディアンレンザと向かい合って座っている。
“無限”の力を使用して空間転移でジュダへと入国したレンザは、入国の経緯と自らの素性を秘密にし、ゴウガとの謁見を力尽くで求めようと試みた。
ゴウガは抱えていたオニに関する問題の解決をレンザを試す一環で任せた。すると、兵達の目の前でレンザは大木ほどもの大きさがあるオニの攻撃を次々に、平然と躱し、借りた刀を用いて一刀両断する。再生や妙な動きを警戒し、追撃で魔力の刃を幾重も飛ばしてバラバラにする。
数ヶ月間手を焼いたオニの討伐により、レンザはゴウガとの話し合う場を貰った。そして要件として、古からある武具の破壊を提示した。その中で使えそうなものは拝借すると。
ゴウガは少し考え、幹部の耳打ちを踏まえて意見を纏めた。
「いくつか条件がある」
一つ、ジュダに二ヶ月は滞在してもらう。
一つ、古の武具は回収し、ゴウガの許可を得たものだけを破壊する。尚、他国のものなら破壊して良い。
一つ、ジュダの問題事の解決に尽力する。
この三つを、衣食住を付ける好待遇で引き受けて貰うであった。
エレネアとの共同生活より数千倍マシ。というレンザの思考が、即答で引き受けると働いた。
ジュダにて不穏な動きが起ころうとしている。
台座の両端に列を作って三名ずつの幹部と思われる者達が整列している。
誰しもが鋭い目つきでトウマとジール(一番はガーディアンのトウマ)を睨んでいる。
(帰りたいよ、ビィ)
(すごい睨まれてるね。頑張って~)
姿を出さないビィトラは暢気でいる。
台座から十歩ほどの距離の所でトウマとジールは並んで立たされた。
カガとヤザリが二人の紹介をすると、左右の列から呟きが聞こえる。しかし何を言っているかまでは分からない。
「……くく、くまなく調べたい」
陶酔したような目つきも漂う魔力も警戒心が過剰反応してしまうほど異様な男が、トウマを頭から足まで見ている。目を向けないトウマも、即座に警戒対象だと本能が働いた。
「弁えよウーザ」
ルバスの静かで、それでいて鋭い力が籠る目つきを向けられ、ウーザと呼ばれた者は向きを変え、小さく頭を下げて「失礼しました」と返して元に戻った。
ルバスがトウマとジールを見ると、二人に緊張が走る。
「其方等は余と、このニルドに牙を向ける者か?」
突然の質問に二人は戸惑い、返答が遅れる。
何かを言おうとする前にルバスが右手を胸の高さまで上げ、「終わった。下がって良い」と命令する。
何が何やら分からない二人は、カガとヤザリに連れられて大部屋を出た。
トウマとジールが出て行った大部屋で、ルバスと幹部達が話合いをした。
「王。恵眼でご覧になられたガーディアンは如何に」
大きめに拵えた正装からでも隠せないほど、隆々とした強靱な体躯に厳格の言葉が相応しい顔つきの最高幹部・ダオは、全身をルバスへと向けて尋ねた。
「敵意はなく謀反は企んでおらん、連れの者も踏まえな。ガーディアンと聞いて気を引き締めたが、どうという事はない。鍛錬に励む強者と同様であり、魔力量がやや常人離れしているぐらいだ。際立つ力は僅かに混じる程度。とりわけ気を引くものでもないな」
ダオの向かいに立つ、聡明な顔立ちに博士の最高位である衣装を纏う幹部・ゼオンがダオと同じようにルバスの方を向いた。
「失礼します。では、ガーディアンたる証明は御座いましたでしょうか?」
「表だってはない。だが内に秘める何かが存在している、それが証明なのかもな。急ぎこちらから何かをする必要はない。石板にも記されていよう」
ダオの隣に立つ白い衣装を纏う男性・シオウは、向かい合い「そのように」と告げて頭を下げた。
「今はあの者達の武力に頼るとする。ニルドに害をなす獣どもの討伐に尽力させろ」
幹部一同は「はっ」と声を揃えて頭を下げた。
屋敷を出て町の北端に位置する所へトウマとジールは連れてこられた。
(なんでこんなに登り坂と階段ばっかなんだ……)
そんな愚痴を零すことなく辿り着いたのは、日本家屋のような立派な家屋だった。
屋敷からここまで案内したヤザリは家主に説明している。
「ここがお前達が住む所だ。説明は家主のボダイに聞け」
それだけ言い残すとヤザリは去って行った。
「俺等、どういう扱いなんだよ。ったく」
ジールが愚痴ると、「まあそう言うな」と二人の傍から声がした。
驚いて声の方を向くと、白髪頭だが頑丈そうな体躯の男性が立っていた。
「え、いつから」「全然気配とか……」それぞれ言葉が漏れた。
二人の反応が面白いのだろう、ボダイは「ははは」と笑った。
「いやすまんな。一人はガーディアン、一人は素早く立ち回る戦士と聞いていたんでな、ついつい気が疼いた」
ガーディアンはともかくとして、ジールの得意分野が露呈している理由が気になった。
「どうして俺が素早く立ち回るって?」
「ヤザリは目が良いんだよ。魔力の筋が足に集中して出来上がっている。日頃から足へ流す習慣がある奴の形が出来上がってるんでな」
ボダイは踵を返し、「茶でも淹れる」と言って二人を中へ案内した。
屋敷とは打って変わり落ち着く居間へ案内された二人は、ボダイが差し出したお茶を飲んだ。まるで日本同様のもてなしに、トウマはすんなり茶を飲んだが、不慣れなジールは疑いながら飲む。
「さて、まずは自己紹介からしようか」
そう言ってボダイが挨拶し、二人が続いて挨拶する。一応、ビィトラも姿を現わした。驚くボダイを見て、トウマは疑問が生じた。
「やっぱり。なんか最近、ビィが誰にでも見えるようになってる」
「そういやそうだな。何でだ?」
二人がビィトラへ聞くと、分からない素振りで返される。レベルが関係していても、条件を踏まえなければ見えないからだ。知っていたら隠し立てせずに教えるので、本当に知らないのだと分かる。
「いやはや、六十過ぎてこのような奇跡に会えるとは」
ボダイの年齢に二人は小さく驚く。もう、驚きの連続なので、この程度は些細なものであった。
「あの、リブリオスについて聞いても良いですか?」トウマが訊いた。
「ん? ヤザリ達から何も聞いとらんのか?」
二人は屋敷での印象が脳裏に蘇る。
「なんか王様に見られて、終わりました」
「色々と見られて、終わりました」
ジールとトウマで意味が違うも、ボダイには伝わらなかった。
ヤザリから頼まれた中に、リブリオスの説明も含まれているのだとボダイは理解し、二人に待つよう告げて部屋を出た。
五分ほどで戻ってきたボダイの手には、巻いた紙がある。
席に座り畳に紙を広げると、それはリブリオスと境界の三国とゼルドリアスを描いた地図であった。
トウマとジールは世界地図とまるで違う形に驚きを隠せなかった。とりわけ度肝を抜いたのは、自分達の知る世界地図のリブリオスより、二倍以上大きい形に。
境界の三国、海側の国ミゴウには、確かに海が広がっている。しかし地図ではゼルドリアスの一部から伸びた土地と、トウマとジールが知るリブリオスよりも長細い地形とがくっついている。ミゴウと面していたのは海ではなく大湖のような陸に囲まれたものだと。
ゼルドリアスの詳細は描かれていないが、リブリオスでは四つの国に分類されている。大まかにはグルザイアと大湖側、大湖側、境界の三国側、海とグルザイア側である。
「リブリオスを隔てるのは大昔の奴らが拵えた巨大壁か険しい岩山だ。そして中の国は大きく分けて三国に分けられる」
グルザイアと大湖側の国を指差した。
「我が国はニルド。人間の国だ」指を動かす。「向かいの国はジュダ。カミツキが住まう国だ」海側の国へ指を動かした。「ここがクーロ。人間とカミツキが共生する国だ」
「この大湖側の国は?」ジールが訊いた。
「管轄はニルドだ。ここでは住めん連中もいるからな、他国との交易等はここで行っている。しかし魔獣などに襲われてもニルドから援軍は行かんがな」
「どうしてですか? 自国なんですよね」
「ここを我国として置けばジュダが黙っておらん。あそこは人間嫌いが多く、ニルドが幅をきかすことを疎んでおる。現在、均衡を保てておるのはそういった理由だ。ジュダも大湖側の国の存在はある意味で有り難く考えている筈だ」
「どういうことだ? 人間嫌いなんだろ?」
「しかしニルドから流れる情報を得るには適している。ニルドはミングゼイスの石板を管轄している国だからな」
ミングゼイスの石板と聞き、二人は危機を感じた。国の秘密を聞いているようで。
「俺等に話して良いんですか? 国家機密とか」
「この国では有名な常識だから案ずるな。それにワシもそれ位の分別は出来る」
失言と感じ、ジールは詫びた。しかし杞憂であったのか、ボダイは微笑みを絶やさずに続けた。
「三国は昔から戦が絶えんが、十数年前からこの均衡を保っている。理由は各国で魔獣やオニと呼ばれる化け物がな」
ラディアとクライブが話していたオニガリを思い出したトウマは、ボダイに自分が知る鬼がどういったものかを説明する。
「まあ、似てはいるが少し違うな。会えば分かるが、とにかく角を生やした獰猛な化け物だ。さらに奇怪な現象も相次いでおる。ニルドでは幻覚や幻聴が多い」
人間、楽園、地獄、良からぬ存在など、見聞き出来る幻は様々である。
「気の持ちようともされておるし術により対処も考えられておる。しかしそうならん例もあり、いよいよ身体で幻を感じれば向こう側へと連れて行かれる」
神隠しのような事態を二人は考えた。
「とにかく、各国の事情で今は戦どころではない」
ジールは勘が働いた。
「だったら密入国でもして色々嗅ぎ回られたら……」
ボダイは人差し指を立て、自分の唇へ当てた。
「そこまでだ。誰でも想定は出来る事であり、王も対処に頭を悩ませておる。しかし滅多にその事を口外してはならんぞ。何処で誰が聞いているか分からんからな」
次にトウマが質問した。ルバスとの謁見以降、それが気になって仕方なかった。
「あの、王様が僕達を見て何かを判断したんですけど、あれってなんですか?」
「恵眼と言ってな、王たる証だ。その目を持つと奇跡の力を手に入れる。お前達が見られたのが本質か、力の一端かはワシ等如きが知るよしも無い。恵眼は他の二国の王もある。ルバス王と会ってどう感じた?」
「なんか……恐かった」
「俺は……寒気感じて動けなかった」
「恵眼の力は人知を超えておるからな。しかしルバス王はお優しい方だ。国を護る為に冷たく感じたであろうがな」
「他の人達、なんか恐かったんですけど」
「気の休まらん場所に仕えておるなら当然だ。さて、まだまだ分からん事は多いだろうが、一度にあれやこれやと聞かされても頭に入らんだろ?」
返事は頷いて返される。
「これからここでの生活をして、徐々に覚えていけばいい」
「あの……、どうしてそこまでしてくれるんですか?」
”客人だからだ”と返されるも、ボダイには別の事情があるといった様子が二人とビィトラの目には窺えた。
後に二人は痛感する。広い家で掃除、洗濯、家事、薪割りから狩猟と魔獣狩りと大変な事に使われると。
同日夕方。
ジュダの王・ゴウガは、大広間で幹部三名を据え、ガーディアンレンザと向かい合って座っている。
“無限”の力を使用して空間転移でジュダへと入国したレンザは、入国の経緯と自らの素性を秘密にし、ゴウガとの謁見を力尽くで求めようと試みた。
ゴウガは抱えていたオニに関する問題の解決をレンザを試す一環で任せた。すると、兵達の目の前でレンザは大木ほどもの大きさがあるオニの攻撃を次々に、平然と躱し、借りた刀を用いて一刀両断する。再生や妙な動きを警戒し、追撃で魔力の刃を幾重も飛ばしてバラバラにする。
数ヶ月間手を焼いたオニの討伐により、レンザはゴウガとの話し合う場を貰った。そして要件として、古からある武具の破壊を提示した。その中で使えそうなものは拝借すると。
ゴウガは少し考え、幹部の耳打ちを踏まえて意見を纏めた。
「いくつか条件がある」
一つ、ジュダに二ヶ月は滞在してもらう。
一つ、古の武具は回収し、ゴウガの許可を得たものだけを破壊する。尚、他国のものなら破壊して良い。
一つ、ジュダの問題事の解決に尽力する。
この三つを、衣食住を付ける好待遇で引き受けて貰うであった。
エレネアとの共同生活より数千倍マシ。というレンザの思考が、即答で引き受けると働いた。
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