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二章 三国の動き

Ⅴ リブリオスからの伝言役

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 ラガロからバースルへ戻ると、ジェイク達はアードラへ報告する。そのまま作戦会議へと入りたかったが、既にジェイクとミゼルは疲れ切っていた。そしてアードラも情報を整理したいからと、話合いは二日後に持ち越された。

 二日後、会議にはアードラとノーマ、そしてルキトスの神殿へ行っていたスビナがいた。ジェイクはミゼルに紹介し、声をかけた。
「よう。いいのか、度々バルブラインに来て」
 スビナの様子はどこか悩んでいる雰囲気であった。
「はい。……それより、この状況が……」
 何の話をしようとしているか分からない。さておいてアードラは皆の注目を集めた。
「改めて、ジェイク、ミゼル、ノーマ。ラガロの件、苦労であった」
 三人は一礼した。
「昨日、ノーマを含めた術師達との話合いの結果、ディルシア=オー=バルブラインは正式に逝去したと決まった」
 ジェイクが小さく手を上げた。
「確かに化け物だったけど、本当に死んだ、でいいのか?」
 説明はノーマがした。
「秘術や禁術で身体をいじるようなものは存在する。それを使用した際、人間として生きていられる類いは、部位にもよるが全体の一割の範囲で収めなければならない。それ以上は魔力、気功は勿論、生体機能が完全に狂いほぼ即死すると考えてくれ」
「けどあの化け物、意思があるようだったぞ」
 ノーマは人差し指を立てて自分のこめかみを指した。
「脳がまだ機能出来るだけだ。それは生きている証明ではなく、ゾグマや術に侵された魔力により刺激されただけにすぎない。今回は純粋な狩猟本能、食欲、闘争本能……辺りかな。どうあれそれらの脳機能が勝手に働いただけだ」
 説明終わりにミゼルが付け加える。
「そもそも、あそこまで変わっしてしまっては人間ですらない。例え言葉を話そうとも警戒対象として葬るが当然の選択だ」

 ジェイクは納得すると、アードラが続けた。

「今後、ディルシアを見つけ次第抹消することを許す。既にミルシェビス王への親書は送り、後日私は話合いの場を設けて貰うだろう。その場で事の次第を説明する。気負う事無く戦ってくれ」
 アードラの命令に反論する者はいなかった。これから大きな責務を背負う覚悟が伝わる。
「次だ。ジェイクが会ったガーディアン、サラなる人物のことだが、現在も存命している」
「本当か?!」
「でもどうして分かるの?」ベルメアが訊いた。
 アードラは入り口に向かって「入れ」と命令すると、ビンセントと兵士に連れられて一人の男性が入室した。その人物の首筋と顔の模様、頭部の角を見て一同は驚いた。ミゼル一人は目を細めて警戒する。
 臆病なのか、皆の目線を集めた男性は怯えている様子でビンセントの服を掴んだ。
「安心しろ、大丈夫だ」
 気遣うとジェイク達の方を向いた。
「彼はリブリオスからの使者だ。サラが生きていると報告に来てくれたんだ」
 男性は恐る恐る皆と向かい合う。
「初めまして。僕はモムロって言います。カミツキって言って、肌の模様と角があるのはその証拠です」
「これがカミツキ」
 以前エベックから教えて貰ったカミツキを前にして、あまり人間と変わらない風貌にジェイクは驚き、ノーマに意見を求めた。
「なあ、さっき言ってた人体を変える術か?」
「いや、それならあそこまで平然としてられないし魔力も乱れに乱れるはずだ。こういった種族なんだろうさ」

 ミゼルはまだ警戒しながら話しかけた。

「モムロ殿。その情報を信じる証拠はあるのかな?」
 ミゼルの気配に違和感を覚えたジェイクは小声で呼び止めた。
「おい、何怒ってんだよ」
 再びモムロはビンセントの傍まで寄る。
「失礼、以前カミツキの方々に命を狙われたのでね。ついつい良からぬ企てでもあるのかと見てしまってね」
 昨日、モムロから聞いた説明をアードラが変わって告げた。
「彼はただの言伝役だ。サラ直筆の手紙も読ませて貰った。偽造も疑われたが、しらされたリブリオス国内の状況とガニシェッド、レイデル、ミルシェビス、三国の情報とを鑑みたら信憑性はあると判明した。まだ確証には至らんがな」
 難しい説明よりもジェイクとスビナとラドーリオとベルメアは、モムロの様子を見て別の意見に至る。
「私はモムロさんを信じて良いかと思います」
 スビナの意見にジェイク、ラドーリオと続き、ベルメアが「あたしも」と告げてから事情を話した。「嘘とか絶対苦手だろうし……なんか、悪人って感じしないし」言って良いか迷う程声が小さくなった。

 皆の目が集ると再びモムロは「な、何?」と訊いて怯える。
 警戒が馬鹿らしくなったミゼルは気を緩めた。
「悪い事をした、申し訳ない。情報や手紙はさておき、モムロ殿は悪巧みが働けんだろう」
 モムロが小声でビンセントに「どういうこと?」と訊くと「お前が信用出来る奴だ」と返された。
 ノーマは別の意見を告げた。
「モムロが信用出来ても騙されてる可能性は?」
 アードラが答える。
「彼もサラと会って話をし、手紙を託されたそうだ。その点は確信を持っていいだろう。一方で、手紙に綴られたリブリオスの内情だが、これが偽りであるなら、なかなか繊細な嘘を企てているとしか言えん。小説を書く事を進めたいぐらいだ。それにシャールの件もある」
「シャールがどうかしたのか?」
 その説明を前に、リブリオスの内情の説明がされた。
「リブリオスは現在四つに分かれている。これは各国でも知る者は多い事実だ」
 ジェイクとミゼルがノーマとスビナに確認すると、頷いて返され、スビナが説明する。
「そのうち一つはリブリオスの城壁沿いの区域と壁の外から大湖までの大地とされています。しかし魔獣の特性からか、安全圏は大湖沿いと城壁内部くらいで、平地や森、丘などはかなり危険とされています」
 再びアードラが説明する。
「今まで公になっていなかった内部の三国についてだが……その一国はグルザイアとを隔てる山岳に位置する国、ニルドト呼ばれている。そこでは大量のミングゼイスの石板を管理している人間が管轄する国だと」
 ミングゼイスの石板が出てきて四人と守護神二柱は驚く。
「そして境界の三国側の国・ジュダではカミツキが、大海側の国・クーロでは人間とカミツキが共存しているそうだ。昔から三国間で争いが絶えず、ここ十数年は睨み合いの停戦状態となっている。そして和解しあうこともないそうだ」

 ジェイクが手を上げた。

「歩み寄りが無く睨み合いが十数年も続くってぇと、三国共に疲弊したか、別の敵が現われたとかか?」
「後者だが、事はさらに複雑のようだ」
 アードラから説明を頼まれ、モムロは緊張しながら説明する。
「み、三つの国、に」
 どうやらまだ恐いのだとジェイクは察した。冷静に考えても無理はない。見知らぬ地で人間に囲まれているのだから。
「俺等そんな怖いか? 悪い事はしねぇぞ。一応、神様の前だしな」
「一応じゃないでしょ。れっきとした神様よ。しかも二柱いるんだから、ある意味でこの会議室は神聖な場所じゃない」
 ジェイクとベルメアのやりとりに和み、アードラが加える。
「確かに護られている感じはあるな。このバルブラインでここは無事に、そして栄えつつある」
 側近の兵もビンセントも頷いて言葉を交す。
 ミゼルもラドーリオに向かって声をかけた。
「我々がモムロ殿へ悪事を働こうものなら、こちらにおわしますラドーリオが、魔神の如き容姿に様を変え、我々をいたぶるだろうさ。八つ裂きなど生ぬるいほどの罰をね」
 冗談に加わって、ラドーリオも必死に脅かすように「ガオォォ」と動作を加えてミゼルへ向ける。
「おいおい、こっちの女神様なんざ、いつもの事だぜ」
「本当に所望ならいつでもどうぞ」笑顔が妙に怖い。
 いよいよ可笑しくなってモムロは笑い、緊張がほぐれた。
「サラさんの言ったとおりです。ジェイク様とベルメア様は気の合う夫婦みたいだって」
 ジェイクとベルメアを余所に、全員が相づちをうつ。なぜそう思うのか、ジェイクは疑問に浮かんでいた。
 改めて、ビンセントがモムロに説明を求めると、今度は容易に言葉が出た。

「まず始めにリブリオスの三国について大まかに説明します。それぞれの国には代表、王となる者がいて、その下に絶対的な信頼を置ける幹部が三人います。その下には武将が何人かいて、配下と続きます」
「ふむ、一般的な国の形だが。幹部が三人という決まりでもあるのかな? それに絶対的な信頼と言い切れる理由なども教えてくれるとありがたいのだが」ミゼルは国の在り方に関心を持った。
「絶対的な信頼は呪いによる縛りです。あまりにも強力な力だから三人が限界みたいですが」
「続けて失礼。では、元々王に対する絶大な忠誠心を抱いていた者に対しては、その縛りはどのように作用するか分かるかな?」
「僕、呪いに詳しくないからそこまでは。けど、縛りには特権もあって、僕の知る限りだと、術が強くなるとか、難しい技が使えるとか」

 追い打ちの質問をミゼルは止め、考察をラドーリオをする。
(何か分かったの?)
(まだなんとも。ただ、縛りの条件が絶対の忠誠。もし忠誠心が強いなら、かかりにくいか、特権の力が増すか。それに特権の効力も幅広い可能性があると見て良いだろうな)
(考えるの好きだね)
(探求者はみなこうだよ)
 念話を終え、モムロの説明を聞く。

「今、それぞれの国で奇妙な事が相次いで起きているそうです」
「煮え切らねぇ言い方だな」
「僕、クーロしか知らないから、噂程度で他の国の話を聞いただけだから」
 説明の続きをスビナが求めた。
「クーロではオニが出たり、行方不明者が出たり、各地でミジュナの乱れが」
 単語に違和感を覚えたものは多いが、一番驚いたのはスビナであった。
「ミジュナとは、精霊巫女が口にするゾグマの認識ですよ」
「……って言われても。リブリオスじゃ、害のある魔力をミジュナって。こっち来てゾグマって知ったので、なんとも」

 なぜリブリオスではゾグマがミジュナなのか。それとも別の理由があるのか。
 スビナは大精霊が告げた呪いの話が思い出された。ミジュナもそれに値する何かなのかと。
 アードラが説明優先でモムロに告げた。

「オニとは化け物と思ってください。こっちでは魔獣って言うようですし、僕も何体か見たので、ああいった感じかと。ちょっと形が違いますけど。そのオニがクーロに現われてます。討伐隊とかは出てるんですけど対処に追いついてません。それで、噂ではニルドとジュダでも。こちらは別の異変が起きてるみたいで」
 ノーマは納得した。
「なるほど。それで十数年の停戦状態か。戦争どころじゃないわな。けどそれがどれかの国の戦略とは思わないのか?」
「多分考えてるとは思いますけど。僕、そんな上の立場じゃないからなんとも」
 そりゃそうか。と思い、ノーマは納得した。
「三国ではこれらの災いに対抗する力や情報を集めに動いてます」

 それで協力を求めようとするのは分かるが、続く疑問はジェイクでも浮かんだ。
「俺等に協力してほしいとかか? その後戦争に使われねぇ保証はねぇし、手を貸したってんで因縁付けられるかもしれねぇな」
 スビナが意見する。
「ですがこのまま無下にも出来ません。リブリオスは今まで閉鎖的な国でした。ですから何かを企てていると憶測だけで、内情を誰も知りません。もしそれが公にできるきっかけでしたら、協力も視野に入れて良いかと。後で揉めないように条件付きですけど」
 ミゼルも続く。
「確かにその通りだ。ただ、悩ましい所もチラホラ散見される。どう動くべきか……」
 アードラが悩む。
 ミゼルが意見を述べた。
「三国が力や情報を集めているとするなら、最近魔力壁が剥がれたゼルドリアスへはどこかの国が調査に当たっているだろう。それにモムロ達も偶然見つけたであろうサラをリブリオスへ招いた。ガーディアンだから尚更そばに置きたい所だ。まだ情報不足だが、三国はそれぞれ国外へ動いていると見て間違いないでしょうな。私もカミツキと交戦した事があってね、あれもそういった動きだと合点がいったよ。けど気になるのは、その動いてる者達すべてが、それぞれの国の為の行動かどうかだ」
 疑問をスビナや側近の兵達が投げかけようとするも、ジェイクは先に気づいた。
「他の勢力、三国の反対勢力ってことか」
「その通り。今の説明を成り立たせるなら、それぞれの国に、国を思い行動する者達が全てということになる。しかしどの国でも、反対勢力は存在する。どこかの国を有利にさせようとする勢力か、三国とは別の勢力か、はたまた別の何かか。そう考えるなら、リブリオス内はなかなかに荒れていると見るべきでは?」

 モムロは何も言えない。言いたいが、情報が少なくて上手く説明できない。
「今は……僕らを信じてもらうしか……」
(まあ、そうなるわな)
(当然、そういうしかない、か)
 ジェイクとミゼルはそれぞれに納得した。

 モムロの要件はサラの伝言と協力要請で締めくくられた。しかしビンセントは一つ気がかりを思い出した。

「アードラ様、シャール殿の件というのは」
 ジェイク、ノーマ、ミゼルは思い出したように驚いた。(薄情者)と、ベルメアとラドーリオは念話で告げた。
「ではその話をしよう。先日よりゼルドリアスへ調査に向かっていたシャールだが……」
 続く説明を聞いて一同は驚いた。

 シャールは反乱組織に加担する最重要捕縛対象となった。
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