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二章 三国の動き

Ⅲ サラへの違和感

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 ラガロから離れた荒野地帯に到着したジェイク、ミゼル、ノーマは、町の辺りを眺めた。小高い山に家屋が設けられていると分かる。

「こんな離れる必要あんのか?」
 ジェイクは気づかないがミゼルは力を読み取った。
「ここが安全圏の際だ。あまり触れたくない力が蠢いている……あれはゾグマかな? 微かに存在するのは分かるよ」
「ただの余韻じゃねぇのか? 前は化け物が居たけどどっか行ったとか」
 ノーマが否定した。
「それはないな。余韻としてゾグマが残るなら魔獣が集り影響を及ぼすんだ。報告から時間が経ってるけど魔獣の魔力もゾグマが増大した様子でもない」
「つまり、あそこに化け物が籠城を決め込んでいるということだね」ミゼルが結論を口にした。

 報告では町の住人は避難しているが、化け物が現われた当初、数人が餌食になっている。

「そういや、奴は人を吸収するって聞いたけどよ、どういう事だ? 丸呑みとかか?」
「私も実態を見てないからはっきりとは言えないけど、液体のような体躯で触れたか包み込んだかして取り込んだかもしれない。情報には曖昧な所が多くて断言はできないが、丸呑みも想定しておいたほうがいいだろうな。間違っても接近戦、殴りかかるとか自殺と同じって考えてくれ」
 ”その為に弓矢を持ってきているのだから”と言わんばかりに視線で弓矢を指した。
 ラドーリオが現われ、封印が気になった。
「そっちは大丈夫なの? 最低でも十人の術師がほしいって」
 続けてベルメアも訊く。
「サラがもう少ししたら来るんでしょ? ガーディアン二人分の神力を使ったほうが確実じゃないの?」
「それなら封印は完璧だろうね。けどサラって奴が来る明確な日が分からないし、奴も放っておけばどう動くか分からない。危険性がまだ弱い今のうちに封印を試みたほうが安全だろ。当たり前のように思っているだろうが、一人分のカムラでもかなり強力な力なんだよ」
 ミゼルもノーマの意見に同意する。
「確かに当たり前すぎて忘れていたが、その通りだ。それにゾグマが関係し、さらには未知の化け物とくれば早急に事を済ませた方が賢明だ。デグミッドの二の舞は御免被りたい」

 前回はジェイクの大技で無事に済んだが、敵の動きが一方的に前進するだけであったのも成功に関係している。次も同じ方法が通じる保証はない。もしも愚鈍と見せかけ、窮地に陥れば俊敏な動きで回避されるかもしれない。未知の化け物に対しては柔軟な発想で対処しなければならない。成功例など在って無いようなものだから。
「じゃあ行くか」
 ジェイクが意気込んで進んだ矢先、ジェイク、ベルメア、ミゼル、ラドーリオは感じた。
「おい……今のって」
「あの気配はサラよ!」
 ベルメアが答えるも、違和感を覚える。それはラドーリオも同じであった。
「けど、これって……」
 はっきりしない意見に二柱の守護神は困惑する。一方でミゼルは考察するも、明確な答えが出ない。仮説も困難を極めた。
 それはノーマも同様である。
「罠にしても高度な技だ。私以外で感じさせるなんて。しかも守護神込みだからな」
 ”最優先はサラの救出。それ以降は助けた後”とジェイクは決めた。
「とりあえずあいつを助けに行ってくる! 二人は封印の準備してろ!」
 弓矢を担ぎ、走りながらカムラを発動して速力を比較的に上げた。
「どうやら、戻ってきたらジェイクのカムラを頼る案は消えたようだな」
 ミゼルの意見にノーマは深く溜息を吐いた。
「どうにかやりくりするよ。最悪、二三日でも足止めできりゃ、回復したガーディアン様二名のお力を遺憾なく賜るとするよ」
 二人は封印の準備に入った。


 ヒシヒシと伝わる化け物の冷たく圧迫する力を感じているジェイクは、町に到達してカムラが消れると、一層強くその力を全身に味わった。
「なんだこの気味悪い力は」
「それよりジェイク、あそこ!」
 ベルメアが指差した所で、巨大な黒い化け物が伸びるように動いていた。顔面は人間の顔を引き延ばしたようなのが張り付いているように。
「気持ち悪っ!」
「魔獣じゃないわ。完全に化け物よ」
「つーか、ゾグマがどうなってんだよ。デルバみたいに垂れ流しですらねぇ」

 ゾグマを発してはいるが、一定の位置で形を成して留まっている。化け物を包み込んでいる様子だ。
 化け物の前方に跳んで逃げる人間を見つけた。

「ジェイクあれ!」
「やっぱりサラか!? くそっ!」
 弓矢を構え、冷静に、慎重に化け物の顔面へ標準を合せた。
(頼む、ちょっとでも止まれっ!)
 奇妙な体躯から矢は貫いてしまうと考えてしまう。それでも射なければサラが襲われる。
 迷いを無理やり捨て、強く念じて矢を放った。
 見事に化け物の額へ命中して動きが止まった。痛みを感じていない様子である。
「やった! 命中よ!」
「サラ! こっちだ!」
 ジェイクの声に反応してサラは走った。
「ジェイクさん!」
 サラの足を止めることなくジェイクも一緒に走って化け物から逃げた。
 必死に逃げながらの話の最中、ジェイクは化け物を気にしながら受け答えした。

 サラは確かにガーディアン召喚前のサラと変わらないが、妙に魔力が少なくカレリナもいなかった。ベルメアとラドーリオが感じた違和感が証明された。
 なぜ町に現われたのかをサラは語らず、それよりも今がガーディアン召喚からどれくらい経ったか、そして、会ってもいないノーマの事を訊かれた。

 サラは何を知り、何を求めている。それだけしか分からなかった。

 謎めく状況で事態は悪化していく。化け物の手が伸びて逃げる二人の頭上を通り過ぎようとしていた。
 カムラは使い終わった。弱々しい魔力のサラがカムラを使えるとは思えない。
 この窮地を脱するには、古代の剣の力を使用するしかないと考えが至った。
 サラは何かをしようとするジェイクを呼びとめた。自身の状態と現状を鑑みた結果、余計な力を使わせてはならないと判断して。

「私が食い止めます! ジェイクさんは行ってください!」
「馬鹿言え、死にてぇのか!」
「今の私はこの時間の私じゃないです! こっちの私に会ったら詳細を訊いて下さい!」
 自殺行為としか思えない発言。
 ベルメアが現われてジェイクへサラの言うとおりにするよう言ってきた。どうやらカレリナがいないとされている。そしてサラの言動から今の時間にいる自分では無いという意図を説明した。

 まるで分からない。しかし大精霊の話を思い出すと、これも時の狂渦に関係する現象なのかと考えた。
 ジェイクはサラと別れて化け物から逃げた。
 しばらくして眩いまでの輝きが発し、化け物は動きを止めた。

「なんだ!?」
「止まらないで逃げて! 今のあんたはカムラが使えないから近づかれたら引き離すなんて出来ないのよ!」
 ベルメアの指示に従うしかない。サラを待たずにジェイクは封印の場所まで向かった。
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