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二章 三国の動き

Ⅰ 世に出せない真実

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 ポラの村から戻ったジェイク、ビンセント、スビナは、アードラに極秘で経緯を説明してミルシェビスへ向かう許可を得た。その日はミゼルがまだおらず、デグミッドでの対応に追われていると返された。
「あいつはほっといても問題ねぇだろ」とジェイクの意見がすんなりと通った。
 三人は最優先の目的である大精霊の森へと向かった。道中、大精霊と会う許可を国に申請しなければならない話になり、丁寧だが面倒な手続きの数々をスビナに説明されたジェイクとビンセントは頭を痛めた。途中から、”スビナが何か話している”としか覚えていない。

「お前、“運命”って奴に頼ればいいんじゃないか? ガーディアンの守護神みたいな存在だろ」
「あいつ、全然出てこないからな。先の戦闘でもだんまり決め込んでたしな」
 情けない大人達の姿を見てスビナは方法を変えた。
「細かな手続きは私が済ませます。ビンセントさんは知名度もありますから大丈夫でしょうが、ジェイクさんは少し話しがあるかもしれません」
「ゼノアに口利きしてもらったらどうだ? 大精霊に会うってだけで詳細伏せれば」
「バースルを護る戦力を裂けません。それに書状とはいえ、ゼノアさんの立場では、王国側への失礼に値します。当事者達の直談判のほうが手っ取り早いです」
 避けようのない面倒な手続き。ジェイクに緊張が走った。
「頑張れ、第三騎士団長」
 さらっとベルメアが現われて耳元で囁いた。
 面倒事をスビナ任せにしているのだから、これぐらいは仕方ないだろうと感じ、ジェイクは了承した。

 王国内での不安を胸に国境を通過した三人だが、一瞬にして打ち合わせが無用となる事態に遭遇する。それは国境を通過して平原を少し進んだ時だった。急に大精霊の森へと場所が変わったのだ。
「おい、何が起きた!?」
 初見のジェイクは動揺するが、ビンセントとスビナは落ち着いている。
「話があるのでしょ? こちらへいらして」
 大精霊の声。まるで念話のように聞こえ、驚くジェイクを余所にスビナは今にも戦うような表情になる。
「手間が省けました。行きましょう」
 先陣を切って進み、ビンセント、ジェイクが続く。


「しばらく見ない間に随分と逞しくなられましたねスビナ。やはり直に見た方が」
「雑談しに来たわけじゃないの。答えてくれる? 時の狂渦について。それにポラの人達がどうして存在そのものまで消されなければならないのかを」
 大精霊は相変わらず笑みを絶やさない。答える前にジェイクとビンセントへ確認をとる。
「そちらのお二人も同じ質問?」
 先にビンセントが返す。
「スビナの後だ」
「右に同じ」

 再び大精霊はスビナの方へ身体も顔も向けた。

「では時の狂渦について話すわね。時の狂渦というのは数多くある未来の歪みよ」
 以前、ランディスにゾアが憑いた際、時の狂渦が関係してランディスが狂ったのをビンセントは思い出し、「ランディスもたしか……」と呟いた。
「ええ。ランディス=ルーガーも時の狂渦に飲まれた一人。数多くある未来は可能性ではなく存在した世界・・・・・・よ」
 既に頭の痛いジェイクに変わり、ベルメアが訊いた。
「存在した世界って。この世界が何度も繰り返されているっていうの?!」
 大精霊は答えず、首を傾げてベルメアを観察した。
「な、なによ……」
「貴女はサラの守護神とはちょっと違うみたいね。強気、調和……。人間にしたら”おてんば”という言葉がお似合いかしら」
 ジェイクが感心し、「すげぇ」と漏らした。
「何がすごいよ。ったく」毒づいてベルメアは仕切り直した。「そんなことじゃなくってぇ!」

「ふふふ。失礼したわね。数多くある未来、複数の世界。それらは同じ時間軸で進んでいるの。分かりやすく言うなら、あなた達がわたくしと話しているのがこの世界だとするなら、同時刻にどこかで戦っている世界、ミルシェビス王国へ申請を申し出ている世界、はたまた死んでいる世界もあるわね」
「ありえない。転生者は四つの世界から一つの世界へ流れ込むっていうんだから、五つは確実だけど。同一の世界、同一の時間軸で複数の現在が合わさるなんて」
 驚くベルメアだが、ジェイクとビンセントは理解が出来ず、何が驚くことなのかが分からないでいる。
「あらあら。何を基準とした理論かは存じませんけど、守護神風情が考えに至るはずないでしょ? 守護神あなた達はそういう存在なのですから」
 守護神についても何か知っている。ジェイクはすかさず質問した。
「おいおい、ベルにも時の狂渦と関係あるってぇのか?」
「それとこれとはお話が別物でしてよ。あなた達も会ったのではなくて? “調整”と“運命”に」

 そこまで知っている。三人は驚きを隠せなかった。

「六の力の存在については聞かされているでしょ? あらゆる異常事態は六の力が大いに関係していますのよ。勿論、ガーディアン、守護神、魔女、ゾグマやミジュナ、時の狂渦もその一つ。どなたかは経験したのではなくて? 緑色の霧に」
 それら全てに六の力が関係している。全ての異変が六の力と。
 そこまで語る大精霊の存在。スビナは勘づいた。
「貴女も六の力の一つね。そこまで知っているから無関係ではないはずよ」
「さすがに気づきますわよね」
 とは言いつつ、よく分かっていないジェイクとビンセントは、ぎこちなくも気づいたようは雰囲気を装う。
「わたくしは“秩序”。他の五の力を監視する者ですけど、詳しくは話せませんわ、そういう立場ですもの。けどこう考えて。反則を取り締まる役として」
「じゃあ、時の狂渦……デルバは反則行為ってこと?」
「そのような単純な話ではなくてよ。時の狂渦が反則と結び点けるのは。それにあの場は貴女がわたくしの助力を拒めば、わたくしは手出し出来なかったのですから」
「白々しい嘘は止めてもらえる。あの状況も、貴女がちょっと手を出せばデルバは潰せたのでしょ」
「あら、本当の事を申しただけにすぎませんわよ。あのデルバをわたくしが直に手をくださるとすれば、わたくしの力が行き渡っているこの国へ踏み込んだ時のみ。その時は勝手に消滅してくださるのですから、手を下すとは違いますわね。六の力には相応の規律があるのよ」

 そこまですごい力があるのに村人を抹消する理由がビンセントは気になる。

「じゃあなんでポラの人達は消されなければならなかったんだ? それに俺達だけどうして知ってる」
「あなた達が御存知なのは、六の力のどれかが深く関わっているからよ」
 隠すことなくあっさりと教えられた。
 ガーディアンは六の力のどれか。ビンセントは|“調整”ルバートが憑いていて、後に“運命”に憑かれる。
「私は貴女に力を借りたから?」
「簡単な説明で宜しければそういうことよ。どうあれスビナはわたくしと深く関係している」
 精霊巫女の時から関係しているとスビナは予想する。かなり以前から無関係ではない。
「ポラの人達はどの世界においても死する運命にあった。本来は死んでいるのですけれど、この世界では生きて子孫を残し続けていらしたの。強すぎる歪みが責務を全うしようと村への進軍を続けましたのよ」
「じゃあ、何をどうしても村人全員消えるって事だったのかよ」ジェイクが訊いた。
「ええ、その通り。わたくしの力で一部の歪みを修整しただけのこと。あのまま放置していれば、村人全員は死亡、記憶はどこかだれかの中で残っていらしたでしょうけど。近い将来に消えるのですから、仕方のない事よ。スビナ、貴女がデルバを倒す選択をしたのは正しい判断だったということよ」

 褒められても嬉しくない。スビナの顔に笑みはなかった。
 ビンセントが手を上げると大精霊は「どうぞ」と質問の許可をした。

「ルバートは戻せるか? “調整”に捕まったんだ」
「どうかしらね。それはわたくしのあずかり知らない所ですもの。“調整”にでもお聞きになって」
 次にベルメアが質問した。
「私達は守護神の昇格試練の為にいるわ。それなのにどうも六の力とか時の狂渦とか、事が壮大になりすぎている。主神様は何もしないのに。昇格試練も何か影響が及んでいるの?」
「あら、貴女は推理小説の犯人を知ってから読むような方かしら?」
 揶揄われてると思い、ベルメアはややムキになる。
「ちゃんと答えてほしいんだけど!」
「あら、それが答えよ。六の力はそれぞれに動き、秘密もあるわ。わたくし、こう見えて結構大変な役目を担っているのでしてよ」
「それって、ゾアの災禍までか?」
 ビンセントが確認した。ここまで人知を超える壮大な異変の数々を前に、落とし所を考えるとゾアの災禍が有力視される。
「隠す程でもないですわね。その通りよ。全ては、あなた達人間がゾアの災禍と呼ぶ大災によりこれからの未来が決まるのよ」

 続いてジェイクが手を上げた。
「俺からも良いか?」
「宜しいですけど、これが最後ですわ。あなた達をここに留めるのも限界ですから」
 それを聞いて、本当に自分が意見して良いか迷うジェイクへ、スビナとビンセントは自分達は質問が無い意思を示した。
「じゃ、じゃあすまねぇな」気を取り直した。「馬鹿げた質問だけど、あんたの口から聞きたい。呪いってのはなんだ?」
 既に多くの術師が説明しているが、それを大精霊に聞く点において、ベルメアは呆れた。
「あんた、皆の話聞いてなかったの?」
 突然大精霊が含み笑いを浮かべた。
「貴方何者? 興味を持ちましたわ」
 馬鹿にされているのかどうか分からないが、次の言葉に一同は驚く。
「この世界における魔力の根幹よ」

 世に出回る呪いの概念と大幅に違う。食い入るようにスビナが訊いた。

「もしそうなら、世界中のあちこちでゾグマ溜まりや魔女の塔が出来ても可笑しくないじゃない!」
 ビンセントも続く。
「それに、そんな重大な話、どうして俺達に」
「あら、リブリオスの一部の人間はとうに存じている話ですわ。それに、”ここでわたくしが話した”と、余所へ口外して、誰が信じるというの? 表に出ない陰の世界で生きる方々に命だって狙われるような話でしてよ」
 確かに大精霊の言うとおりだ。呪いの定説を覆すには相応の証明が必要になる。単に真実だけを訴えた所であらゆる面で潰されて終わる。
「謎めく情報が多く集りましたわね。考えを巡らせて楽しむには丁度良い暇つぶしにはなるでしょう。それではごきげんよう」
 払いのけるように手をふるうと、ジェイク達は姿を消した。


(嫌がらせか?)
 ジェイク達が消えてすぐ、“運命”が念話で話しかけた。
「あら、唐突に失礼な御方。先ほどの話に出てきてほしかったですわ」
(そちらが撒いた種だ。説明責任はあるだろ。それよりも時の狂渦の話だ)
「どこに嫌がらせが?」
「ガーディアンが存在するのはこの世界・・・・だけだろ」
「そこまで教える義理は御座いません事よ。あの子達が答えを見つけ出すものですし、それに別の力の話ですもの。教えたいなら出てくればよろしいのよ。まだ潜んでいる力はいるでしょ? わたくし、貴方と“調整”しかお会いになられてないの。みんな、挨拶ぐらいは来てくれてもよろしいのに」
(それが出来ん状態なのだろ。失礼したな、少し気になっただけだ)
「またいつでもいらして」

 返事はなく、すぐに“運命”の気配が消えた。
 一人になって大精霊は少し後悔が残る。
(あれだけでリブリオスへ向かってくださるかしら? もっと匂わせた言い回しにしておけばよかったわ)
 しかしスビナとジェイクの未来を見ると、その後悔は杞憂となり安堵した。
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