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一章 ギネドを崩すもの

Ⅱ 不快な再会

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 サラ達が向かう間も怪鳥の襲撃が続き、さも当然の流れのように悉く刻まれていく。到着した頃には元は怪鳥であった残骸が散らばっていた。見た目に反して怪鳥の血の匂いは薄い。

「おや? 貴女でしたか」
 バッシュがこの惨状を拵えた人物であった。
「メイズさん……何やってるんですか?」
 距離をとり、気づかれないように周囲の魔力を観察した。罠らしいものは仕掛けられていない。
 一方でランディスの表情からは不快感が露わとなる。
「成長しましたねサラさん。私への警戒、悟られぬように罠の観察」顔をランディスへ向ける。「貴方ともまた会えるとは思いませんでしたよ」
「らしくねぇな。あんたは魔獣狩りのために出しゃばる奴じゃないと思ってたんだがな」
「察しの通り、このような荒事に参加などしませんよ。この度は同行していた者に置いて行かれ、魔獣が群がる環境に残された不憫なガーディアンなだけです」

 バーレミシアが魔獣の残骸を見て「へぇ」と零した。
「あんたのほうが魔獣より危険じゃねぇのか?」
「どなたかは存じませんが誤解なさらぬよう。このような魔獣の檻のような環境では生き残るのに必死なだけです。メイズと申します」
「失礼な事言ったね、忘れてくれ。バーレミシアだ。じゃあ、この地面がえぐれてるのとかギネドの惨状とか、何か知ってるか?」
 バッシュは数秒考えた。
「……条件があります」
「なんだ?」ランディスが訊いた。

「私も同行させてくれませんか?」
「嫌よ!」
 真っ先に返したのはカレリナであり、反応してレモーラスが現われた。
「守護神たるもの、感情的になってどうするのですか」
 冷静な指摘だが、手を後ろに組み、呆れていると言わんばかりの目つき。レモーラスからはやや小馬鹿にしている印象を受ける。
「貴方には関係無い事よ! この前だってサラを危険な目に遭わせようとしたんだから!」
「そちらの不注意が招いたこと。こちらはむしろ世の厳しさを教えただけです。それに殺してもいませんし無傷ではないですか」
 二柱の言い合いを傍観しているランディスとバーレミシアは、こっそりと意見を交わす。バッシュとレモーラスについて。
「なあ、ガーディアンと守護神って似るのか?」
 ジェイクとベルメア、ミゼルとラドーリオ、サラとカレリナ。組み合わせから見ても似ていない。
「あたしの知る限りじゃ似ないな。つーことはあれか? あいつら相性抜群?」

 二柱の言い合いを、バッシュは手を三度叩いて止めた。

「そこまでです。交渉の最中ですよ、貴方らしくない」
「失礼、ムキになってしましました。反省しましょう」
 バッシュとレモーラスを見て、三人が実感したことは、”友達になれない”である。
「本題に戻りましょう。同行とはいえ、ずっと一緒というわけではありません。ある少年を探すまでです」
「そりゃ一体、誰だ?」
「名をグレンと呼び、謎の多い子供、としか。ここへ来たとき数は数えていませんが複数体の巨大な魔獣に襲われてグレンは交戦しました。何かを感じ取ったのでしょう、歓喜しているように見えました。あまりにも凄まじい魔力と魔力のぶつかり合いでして、情けないことに私は入る余地がなく静観に徹するしかできず。この跡地はグレンと魔獣達が拵えたのですよ」
 俄には信じられない話だが、バッシュは嘘を吐いているように見えない。
「そのグレンって奴は何処行ったんだ?」

 バッシュはゼルドリアス方向の山を指差した。

「明確な位置は不明ですが真っ直ぐあちらへ。彼は兄を探すと言っておりましたので、もしかしたらお兄様絡みかと」
 それだけなら同行を共にしてもいいとランディスとバーレミシアは意見し合う。しかしサラとカレリナはどうしても以前の出会いが気になってしまう。
「メイズさんが私達を襲わないって証拠はありますか?」
 バッシュとレモーラスから同時に溜息が漏れる。
 サラとカレリナは苛立ち、ランディスとバーレミシアは似すぎる点で感心した。
 バッシュはランディスを指差した。
「その御方がいる以上、私からあなた方へ危害を加えることはありません」
「なんで俺が?」
「貴方の中にはゾアがいます。例えばサラさんやバーレミシアさんを私が殺したとしましょう。貴方が激怒し、ゾアの力が加担されれば私はひとたまりもありません。軽く捻り潰されるでしょう。それに、このような事でゾアの機嫌を損ねたくはありませんし」
「あんた、ゾアってのと友達か?」
「いいえ。少々語りあった程度です。しかしあなた方が知らないだけで、彼は存在そのもに価値があります。再び現われた際、会いに来て頂いたほうがこちらとしては喜ばしいですからね」
「この先、俺がゾアを倒すようなことがあってもか?」
「万が一そのようなことがあればそれまでのこと。私は彼の親友ではありませんので、目の前でゾアが殺されかけようと一切の手出しはしないでしょう。逆も然り、ゾアも私が窮地に立たされても助けないでしょう」

 淡々と落ち着いて返答され、魔力の揺らぎからも嘘を吐いていないと分かる。
 ゾアを知るランディスは、そう思わせる実力をゾアが持っていると納得した。

「ちょっといい?」
 バーレミシアが口を挟む。
「あんたと同行するのを躊躇ってるのが二人いんだけど、あたしはどっちでもいいんだよね。ただ、数日間だろうけど一緒に行動して、あたしらに良いことってある? こうなったらこっちに見返りありのほうが話進むだろうし」
 確かに。と呟いたバッシュは考えるも、十秒ほどで返事した。

「戦闘には参加します」
「そりゃ当然だ。あたしだって頑張るんだし」
「あと、サラさん、戦闘は不慣れではではないですか?」
 急な質問にサラは戸惑って返事する。
「私からできる限り術などの指導を致します。あと……」ランディスへ目を向ける。「ないとは思いますが、ゾアが現われた際、何も悪さをさせないように説得を試みましょう。正義の塊のようなあなた方より、屈折した性根の私が話すと聞いてくれるでしょうから」

 確かに。と、カレリナが即答すると、レモーラスは呆れ顔で視線を逸らせた。

 三人は小声で相談する。
「あたしは良いと思うよ。むしろこのまま野放しにして敵に回るほうが面倒だし」
 バーレミシアの意見に、渋々サラも同意した。
「……そう、かも。実力もあるし頭も良いし。悔しいけど強いし」
「私は反対よ。危険だから」
 さらっとカレリナは否定派を主張する。
「決まりだな」
 ランディスが意見を纏めた。

「ご覧の通り、あんたを疑ってる奴もいる状態だ。それでもいいってんなら一緒に行こう」
「それは仕方のないことでしょう。疑われ続ける宿命を背負って生きてますから」
(何言ってんの?)
(この期に及んで)
(無自覚か?)
 カレリナ、サラ、ランディスは感情を抑えた。あまりにも当然のように語られ、驚きのあまり声が出ない。

「早速ですが、あの山の麓付近にある町を本日の目的地とします」
「訳ありか?」
「グレンが潰した魔獣はゾグマに満ちてました。今は飛び散ってますが今夜中には集まり始めるでしょう。凶暴な魔獣が引き寄せられますので無理な野営は命取りとなります。それにこれから向かう町は被災地でしょう。住民は弱ってますので、結界張り、魔獣討伐、災害救助で恩を売れば寝床は無料」
「人助けって言え!!」
 ランディスに指摘され、バッシュは「ひ、と?」と首を傾げる。
「もういい! 町へ行って、何をするかはその場で判断。あんたが分からないならそれでいいが、人助けに尽力しろよ!」
「ええ。契約ですので私に扱える術を遺憾なく発揮します」

 あらゆる返答が妙に気に障るが、こうして四人となった一向は町へと向かう。
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