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一章 ギネドを崩すもの

Ⅰ 半壊の惨状

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 大湖を渡りギネドへと向かったサラ、ランディス、バーレミシア。
 順調にギネドへ到着するかに思われたが、途中で進路がリブリオス国内のギネドとの国境付近の港へと変更になった。急な変更の報せは、小型の連絡船からであり、「ギネドが大変なことになった」とあった。
 事態がまるで分からない中、サラ達はリブリオスの港町・アイズルへと到着した。

 港へ着くやいなや、単独行動が好きなバーレミシアは”町を探索したい”と、子供のような提案を二人にする。放っておいても勝手に行きそうではあったが、サラとランディスは情報収集を条件に頼んだ。
 サラとランディスは適当に町を歩きまわる。””謎が多い大国”とオージャに教えられていたので、港町からして異様だと構えていた二人は、あまりに普通すぎて拍子抜けした。

「……緊張して損したみたいです。想像してたよりか……」
「普通じゃないって言ったらあれかしら?」
 カレリナが指差したのは、遠くに聳える、アイズルからでも見える巨大な城壁と岩山だ。
 リブリオスの情報を少し知っているランディスが説明した。
「リブリオスは城壁内に対立しあった四つの国があって、その一つが城外地域を管理してるんだと。範囲は壁伝いに少しだけらしい。鎖国状態じゃやっていけないとかって噂もあるけど、やっていけないのはその壁伝いにある国だけで、他の三国は違うとか」

 しばらく情報収集名目で町を回るも、疲れたので見晴らしの良い丘で休憩する事になった。
 すでにアイズルはギネドで異変が起きたと情報が出回っている。しかし内容は「何かが起きた」と憶測の噂ばかり。確証のある詳しい情報は無かった。

「どうしましょう。本当に知らないかもしれないけど、情報統制されてるみたいです。国境も閉鎖されてギネドへ行けないみたいだし」
 回り道を検討しようにも、バースルとミゴウへは国境となる険しい岩山は存在するが通過出来る門は無い。あとは大海を経由するしかないが、大海側へも行けないので無理な方法である。
 カレリナが二人の元へ来るバーレミシアの姿を見つけた。紙袋を持ち、手を入れて取りだしたものを食べている。

「何か良い情報あったか?」
 ランディスが訊くと、バーレミシは町の入り口付近を指差した。
「急にギネドが攻撃受けて半壊らしいって馬小屋のおっちゃんが言ってた」
 焼き菓子入りの紙袋を二人へ渡した。
 思いのほか美味しく、サラもランディスも二つ目に手を出すのは早かった。
「なんでも、凶暴な魔獣がいるらしいから国境を封鎖してるんだけどさぁ、魔獣討伐だったら条件付きの戦士は通って良いって」
「条件付き?」
「『高い地位の人に力量を認められた』とか、『熟練した魔獣討伐者』とか、『武闘大会の優勝者』とか。証明できれば通過出来るって。命がけだから死んでも保証は当然無しだけどな。あたしらだったらババァの紹介で来たって言えば良いし、ランディス十英雄いるし、サラはガーディアンだから大丈夫だろ」
 情報収集役としてここまで逞しく頼りになると、二人は思っていなかった。バーレミシアの評価が二人の中でかなり上がった。


 翌日、荷車に乗って国境まで到着した。
 面倒な手続きなどがあると想定していたが、偶然にも門兵の一人がバーレミシアの知り合いであり、余計な手間がかからずに通過許可を得た。
「気をつけろよ。魔獣つってるけど、ありゃ術による災害だって話だ」
 こっそりバーレミシアへ情報が流れた。
 どんな魔獣がいるかと緊張しつつ三人はギネドへと足を踏み入れる。小国とはいえ半壊させるのだから、かなりの数か、巨大な魔獣がいるのだとサラは想像した。
 国境を抜けて遠くを見渡せる丘へ辿り着くと、眼前に広がる光景に三人は言葉を失った。
 地面のあちこちが巨大にえぐれ、綺麗な円形の巨大な窪みもある。空には真っ黒い怪鳥が飛び回り、時折地面へ急降下すると、また飛び上がるを繰り返している。
 壮絶な災害が起きたのだと感じた。

「……なんだ、ありゃ」ランディスは度肝を抜かれた。
「ありゃ魔獣どうこうって話じゃ無理だわ。狂った術師集団ぐらいじゃないと辻褄が合わねぇ」バーレミシアもさすがに冗談は言えない。
 突如、サラとカレリナは一番近くの窪地付近に懐かしい気配を感じる。
「サラ、行っちゃダメよ!」強くカレリナが指摘する。
「いや……って言っても」
「行っちゃまずいのか?」バーレミシアが訊いた。
「まずくはない……と思います。ただ、あまり会いたく……え?!」
 サラは違和感を覚えた。
 今の会話ではバーレミシアの質問は成り立たない。咄嗟に浮かんだ答えが正しいのだろうが、しっくりこないのはバーレミシアの無反応と普段通りの様子にあった。
「……バレさん、カレリナ見えてます?」
「ん? 言ってなかったけ? アイズル着くちょい前から見えてたぞ」

 ランディスもバーレミシアの薄すぎる反応に疑問を抱く。

「なんで言わないんだよ。つーか驚くだろ普通。こっそり驚いてたとも思えないし」
「だって、バルブラインで別のガーディアンの守護神、術使って見てたし。サラがガーディアンなら当然いるだろうから別に驚くもんでもないだろ」
「バレさん、そんなすごい術を使えるんですか? 守護神だけど神様ですよ」
「あたしは無理。すごい頭良い術師で、ノーマってのがね」

 名前を聞いてサラは驚いた。失いたくない人。しかし化け物に殺されてしまう未来。

「それって」
(言わないで!)
 咄嗟の念話でカレリナの言葉を止めた。
 何が起こるか分からないが、サラはタイムパラドックスにより別の災難が起こるのではないかと怖れた。
「どうした?」ランディスが訊く。
「え、いえ。凄い人だから会ってみたいなぁって。ねぇ?」
 聞かれたカレリナも演技で同意してやり過ごす。
 サラとカレリナの反応を見てバーレミシアに妙案が浮かぶ。
「このままバルブライン行けばいいんじゃねぇか? 面倒事が続いて時間かかったってババァに言えば納得してくれるだろうし」
「しません」
 きっぱりと断った。
「とりあえず最優先の役目を」
 話の途中、窪地付近に多くの怪鳥が急降下して迫った。

「おい、あれ」
 怪鳥の群れが地面に着く前にバラバラに散る有様をランディスは捉えた。
「あの場所か? サラとカレリナ様が言ってたのって」
 サラとカレリナは同時に頷いた。
「行ってみましょう。あの人なら何か知ってるかもしれません」
「けど二人とも警戒してね。意地悪な人だから罠でも仕掛けてるかもしれない」

 守護神にここまで言わせる存在が、逆にランディスとバーレミシアの興味を引いた。

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