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七章 死する地
Ⅸ 恩義に応えるため
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デルバから分裂した魔獣は徐々に迫ってくる。
ジェイク達は武器を構えて警戒した。
「おいおい、一撃貰うだけで致命傷じゃねぇか!」
ジェイクは古代の剣の力を使うべきか迷う。
冷静に魔獣を分析するエルガは一つの可能性を見出した。
「奴らはデルバの派生体でしょう、ゾグマがデルバと繋がったままだ。それにフーゼリア殿の魔力は手にしか纏っていない」
「じゃあ手だけ注意して、繋がってるゾグマを斬れってことか?」
「派生体は希少な魔獣だから情報が無いため確かなことは言えないが、ゾグマは斬れないし魔獣を倒してもデルバには影響がないだろう。ですがデルバが死ねば奴らも死にます」
今の戦力でデルバは倒せない。魔獣を地道に倒すしかない手段はもどかしくあった。
「けど奴らは倒せない訳じゃない。さっさと倒して皆を助けに行こう」
エルガは腰に下げた布袋から二枚の札を取り出し、ジェイクとビンセントに手渡した。
「これは身代わりだと考えてください。たった一度ですが奴らの攻撃を魔力壁で防いでくれます。もし身代わりが無くなったら態勢の立て直しで集合。各々何かの危険を感じたら上空に魔力を放ってください。それも集合の合図として」
「こいつはあと何枚あるんだ?」
「二枚です。とはいえ勝算がないのでしたら、退避を優先します」
解決の糸口が見えないなら、長期戦は死に直結する。相手の性質も不明なら、退散が得策ではある。
「逃がしてくれるか分からねぇけど、とりあえず手分けしてやるぜ。俺は真ん中、ビンセントは左、エルガは右な」
返事するとビンセントとエルガは魔力と気功の球体を標的に当て、ジェイクから離れて魔獣の気を引いた。
魔獣達の分散はすんなり成功し、ビンセントは魔力と気功を剣に纏わせて斬りかかる。
『魔力と気功は同量で混ぜて使えば威力は一つの力より数倍高くなる。しかしお前さんは魔力の扱いが苦手だからどうしても気功が強くなる』
『じゃあ普通に気功だけでやった方が楽なんじゃないのか?』
『いや、それぞれの割合に差があれば威力以外で面倒だな。俺様も相手にしたくないほどだ』
以前、魔力と気功の修行中、ルバートから教えられた方法。魔力が混ざる気功技。ゾグマから成る魔獣に効果があるか考えず、ビンセントはこの技で魔獣に迫った。
警戒するべきは両手。しかし他の攻撃にも刻む魔力が混ざると考えられるなら攻撃は全て躱さなければならない。
修羅場をくぐり抜けてきた経験が身体を動かす。
突進に見せかけて横へ躱し、攻撃が来るとやや後退して躱し、攻撃を繰り出す。
魔獣が腕で受け止めると腕は頑丈な武器と判断し、次に斬りかかる所へと素早く足を運ぶ。ようやく入った一撃は背中だが傷は浅い。
周囲を確認して後退し、相手の出方を伺った。
(いける。ただ斬れば良いだけだ)
勝機を得た。倒せない相手ではない。
興奮を抑え、冷静に、力みすぎず警戒する。
エルガの剣術の技量は並の戦士かそれ以下しかない。しかし術師としての才能は高かかった。
ゼノアに団員として選ばれた時、魔力切れや術に耐性がある相手が多い戦場で生き残るために剣術を仕込まれた。それなりに強くはなったが、実戦では術を使う機会が多かった。
未熟でしかない、足手まといにしかならない自分。どうにか皆の役に立つ方法を考え続け、そしてエルガは得た。
炎を扱うゼノアの特技を見た時、『自分もそれが扱えるのでは?』と閃いた。剣に術を纏わせる術を。
ゼノアの技は師団長に選ばれた時に与えられた特権。炎の維持と使用、魔力量の調整などに慣れるのは苦労したが、炎を纏わせるのは難なく出来た。
エルガは何度も鍛錬し、約半年かけてようやく剣に魔力を纏わせることに成功した。さらに剣に纏わせた魔力を術として使用するのに苦闘し、五年かけて形を成した。
さらに三年。発生させた術を剣を振るうことで、刃を撫でて術を唱えることで、発した魔術を変則的に発生させることが出来た。
道具を使用しての高度な魔術。世界でも指折り数えるほどしかいない。それをエルガは成し遂げたのだ。
現在、彼がゼノアの下に就く最たる理由は恩義だ。戦士としては弱い自分を選んだ、女だてら師団長として励むゼノアに向けての。
ゾグマの魔獣はエルガに近づけなかった。それよりも先に息苦しい程の風圧が、断定的に上から吹き付けて立つ事すらままならず、さらに地面から細長い氷柱が突き出て魔獣の身体を貫いた。
並の魔獣ならこれで終わるが、強すぎるゾグマの影響により魔獣は氷を砕き、咆哮と共にゾグマを放出して風の魔力効果を打ち消して立ち上がる。
しかしエルガに焦りも不安もない。
剣を振り上げると、魔獣目がけて魔力の礫が打ち続ける。
刻む魔力が籠っている両腕に当たる礫は散るが、それ以外には効果を示す。
(……あれか)
魔獣の首に赤く光る魔力を見つけると、そこが心臓部だと考えた。間違っていてもいい。ただ、致命傷を与え続けてもデルバから流れるゾグマで再生し続ける魔獣との戦いは消耗戦でしかないから。
魔力の礫が止まぬうちにエルガは剣を地面に突き立てた。すると、白い光りの道が魔獣目がけて走る。
「緋の聖剣、蒼の聖剣、聖典の導きにて行路を阻む悪を断て」
鋭い目を魔獣へと向ける。
「煌極殺」
魔獣の真下から緋色と蒼色の刃が飛び出し、魔獣の胴体を貫いた。されに刃から鋭利な刃が枝分かれして伸び、魔獣の身体を内部から四方八方に貫いた。
煌極殺。発祥はリブリオスの唱術。
本来は六種類の刃を唱えるのだが、術師に力量により剣の数は減る。リブリオスでも六本を出せる者はおらず、複数人で詠唱して発生させることが多い。一本であれ、強力な術である。
魔獣の急所を貫くと、瞬く間に霧散し、デルバのほうへと流れる。
「……勝てる敵で良かった」
安堵する中、遠くで炎の柱が上がるのを目にし、焦る。その方角はゼノアの部隊だからだ。
エルガは上空目がけて合図の魔力を放った。
集合合図に従い、ジェイクとビンセントが集った。
「すまねぇ。あとちょっとでどうにかなりそうだ」
苦戦するジェイクは魔獣に切り傷をいくつか刻んでいるが、流れるゾグマで再生してしまい消耗戦を強いられた。剣の力を使えば勝利出来ると確信を得るも、たった一体に使うのは勿体ないと感じてしまう。
ビンセントは集合合図少し前に頭を剣で貫いて絶命させた。
「頭貫けば奴らは死んだぞ」
「いや、魔力の核が身体のどこかにある。私は首だった」
ビンセントは運良く貫いたのが心臓部なだけだと分かる。
エルガは炎の柱について話した。それはジェイクもビンセントも気づいていた。
「すまん。団長が窮地だ」
咄嗟にジェイクは力を無駄にしない方法を閃いた。
「あと一体なら私を向こうへ」
「待て」
二人を呼び止め、ジェイクは分担を二人に話した。
ジェイク達は武器を構えて警戒した。
「おいおい、一撃貰うだけで致命傷じゃねぇか!」
ジェイクは古代の剣の力を使うべきか迷う。
冷静に魔獣を分析するエルガは一つの可能性を見出した。
「奴らはデルバの派生体でしょう、ゾグマがデルバと繋がったままだ。それにフーゼリア殿の魔力は手にしか纏っていない」
「じゃあ手だけ注意して、繋がってるゾグマを斬れってことか?」
「派生体は希少な魔獣だから情報が無いため確かなことは言えないが、ゾグマは斬れないし魔獣を倒してもデルバには影響がないだろう。ですがデルバが死ねば奴らも死にます」
今の戦力でデルバは倒せない。魔獣を地道に倒すしかない手段はもどかしくあった。
「けど奴らは倒せない訳じゃない。さっさと倒して皆を助けに行こう」
エルガは腰に下げた布袋から二枚の札を取り出し、ジェイクとビンセントに手渡した。
「これは身代わりだと考えてください。たった一度ですが奴らの攻撃を魔力壁で防いでくれます。もし身代わりが無くなったら態勢の立て直しで集合。各々何かの危険を感じたら上空に魔力を放ってください。それも集合の合図として」
「こいつはあと何枚あるんだ?」
「二枚です。とはいえ勝算がないのでしたら、退避を優先します」
解決の糸口が見えないなら、長期戦は死に直結する。相手の性質も不明なら、退散が得策ではある。
「逃がしてくれるか分からねぇけど、とりあえず手分けしてやるぜ。俺は真ん中、ビンセントは左、エルガは右な」
返事するとビンセントとエルガは魔力と気功の球体を標的に当て、ジェイクから離れて魔獣の気を引いた。
魔獣達の分散はすんなり成功し、ビンセントは魔力と気功を剣に纏わせて斬りかかる。
『魔力と気功は同量で混ぜて使えば威力は一つの力より数倍高くなる。しかしお前さんは魔力の扱いが苦手だからどうしても気功が強くなる』
『じゃあ普通に気功だけでやった方が楽なんじゃないのか?』
『いや、それぞれの割合に差があれば威力以外で面倒だな。俺様も相手にしたくないほどだ』
以前、魔力と気功の修行中、ルバートから教えられた方法。魔力が混ざる気功技。ゾグマから成る魔獣に効果があるか考えず、ビンセントはこの技で魔獣に迫った。
警戒するべきは両手。しかし他の攻撃にも刻む魔力が混ざると考えられるなら攻撃は全て躱さなければならない。
修羅場をくぐり抜けてきた経験が身体を動かす。
突進に見せかけて横へ躱し、攻撃が来るとやや後退して躱し、攻撃を繰り出す。
魔獣が腕で受け止めると腕は頑丈な武器と判断し、次に斬りかかる所へと素早く足を運ぶ。ようやく入った一撃は背中だが傷は浅い。
周囲を確認して後退し、相手の出方を伺った。
(いける。ただ斬れば良いだけだ)
勝機を得た。倒せない相手ではない。
興奮を抑え、冷静に、力みすぎず警戒する。
エルガの剣術の技量は並の戦士かそれ以下しかない。しかし術師としての才能は高かかった。
ゼノアに団員として選ばれた時、魔力切れや術に耐性がある相手が多い戦場で生き残るために剣術を仕込まれた。それなりに強くはなったが、実戦では術を使う機会が多かった。
未熟でしかない、足手まといにしかならない自分。どうにか皆の役に立つ方法を考え続け、そしてエルガは得た。
炎を扱うゼノアの特技を見た時、『自分もそれが扱えるのでは?』と閃いた。剣に術を纏わせる術を。
ゼノアの技は師団長に選ばれた時に与えられた特権。炎の維持と使用、魔力量の調整などに慣れるのは苦労したが、炎を纏わせるのは難なく出来た。
エルガは何度も鍛錬し、約半年かけてようやく剣に魔力を纏わせることに成功した。さらに剣に纏わせた魔力を術として使用するのに苦闘し、五年かけて形を成した。
さらに三年。発生させた術を剣を振るうことで、刃を撫でて術を唱えることで、発した魔術を変則的に発生させることが出来た。
道具を使用しての高度な魔術。世界でも指折り数えるほどしかいない。それをエルガは成し遂げたのだ。
現在、彼がゼノアの下に就く最たる理由は恩義だ。戦士としては弱い自分を選んだ、女だてら師団長として励むゼノアに向けての。
ゾグマの魔獣はエルガに近づけなかった。それよりも先に息苦しい程の風圧が、断定的に上から吹き付けて立つ事すらままならず、さらに地面から細長い氷柱が突き出て魔獣の身体を貫いた。
並の魔獣ならこれで終わるが、強すぎるゾグマの影響により魔獣は氷を砕き、咆哮と共にゾグマを放出して風の魔力効果を打ち消して立ち上がる。
しかしエルガに焦りも不安もない。
剣を振り上げると、魔獣目がけて魔力の礫が打ち続ける。
刻む魔力が籠っている両腕に当たる礫は散るが、それ以外には効果を示す。
(……あれか)
魔獣の首に赤く光る魔力を見つけると、そこが心臓部だと考えた。間違っていてもいい。ただ、致命傷を与え続けてもデルバから流れるゾグマで再生し続ける魔獣との戦いは消耗戦でしかないから。
魔力の礫が止まぬうちにエルガは剣を地面に突き立てた。すると、白い光りの道が魔獣目がけて走る。
「緋の聖剣、蒼の聖剣、聖典の導きにて行路を阻む悪を断て」
鋭い目を魔獣へと向ける。
「煌極殺」
魔獣の真下から緋色と蒼色の刃が飛び出し、魔獣の胴体を貫いた。されに刃から鋭利な刃が枝分かれして伸び、魔獣の身体を内部から四方八方に貫いた。
煌極殺。発祥はリブリオスの唱術。
本来は六種類の刃を唱えるのだが、術師に力量により剣の数は減る。リブリオスでも六本を出せる者はおらず、複数人で詠唱して発生させることが多い。一本であれ、強力な術である。
魔獣の急所を貫くと、瞬く間に霧散し、デルバのほうへと流れる。
「……勝てる敵で良かった」
安堵する中、遠くで炎の柱が上がるのを目にし、焦る。その方角はゼノアの部隊だからだ。
エルガは上空目がけて合図の魔力を放った。
集合合図に従い、ジェイクとビンセントが集った。
「すまねぇ。あとちょっとでどうにかなりそうだ」
苦戦するジェイクは魔獣に切り傷をいくつか刻んでいるが、流れるゾグマで再生してしまい消耗戦を強いられた。剣の力を使えば勝利出来ると確信を得るも、たった一体に使うのは勿体ないと感じてしまう。
ビンセントは集合合図少し前に頭を剣で貫いて絶命させた。
「頭貫けば奴らは死んだぞ」
「いや、魔力の核が身体のどこかにある。私は首だった」
ビンセントは運良く貫いたのが心臓部なだけだと分かる。
エルガは炎の柱について話した。それはジェイクもビンセントも気づいていた。
「すまん。団長が窮地だ」
咄嗟にジェイクは力を無駄にしない方法を閃いた。
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