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六章 封じられていたモノ

Ⅶ 分担

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 夜、ジェイクとビンセントが揃い、村長の家で三十四年前のアードラが行ったことが説明された。しかし村人が行った妨害行為は伏せられた。

「おいおい、あの人、そんなにすげぇ人だったのかよ」
 驚くジェイクの傍らでベルメアが忠告する。
「いや、王族ってだけでも十分凄い人だからね。もっと弁えなさいよ」
 一方でビンセントは化け物の正体が気になる。
「ボリーグレスの空間術っぽい所で見た奴が……どうして?」
「詳細は分からんぞ。似ているだけで別物の可能性もある」
「けどルバート、そんな危険な奴が複数体もいるなら、ボリーグレスの黒い柱ほうっといていいのか? 奴が封印されてるみたいな状態だろ」

 黒い柱の謎もまるで解明されておらず放置状態だ。
 旅の途中であれと同じ柱を未だに見ていない。特定の条件下で出現する柱なのだろうが知る術すら無い。

「危険は承知している。だが今はそれどころではない。あの山をどうにかする方法を優先せねば大勢が死ぬぞ」
 アードラの過去に驚きそのまま聴き入っていたが、ジェイクは主旨が逸れているように感じた。
「ん? 山をどうにかするって話で、クーラスポラの塔の史実を聞く話だったよなぁ。三十四年前に妙な化け物が出て、アードラが退治したって話に変わってるぜ。そっちも調べる必要あるんだろうが、結局の所は山に関してもクーラスポラの塔に関しても謎のままか?」
 気づかれず神妙な表情になる村長を余所に、エベックが答えた。
「違うわよジェイクちゃん。確かに史実とクーラスポラ関連は謎のままだけど、あながち的外れでもないみたい」
「どういうことだ?」
「化け物が塔から村まで悪影響を及ぼす魔力を垂れ流していたってことは、自然界の魔力にも大いに悪影響を及ぼしたってことなの。そんなとんでもない化け物を、どういう術かは分からないけどアードラ様は排除したのよ。悪影響の根幹が突然消えるとなれば、当然もとの自然に戻るってなるわね、現に村の悪影響も消えたし。けど、視点を変えれば自然界の摂理を無理やりねじ曲げた現象が立て続けに起きた。化け物の出現と消滅によって二度もね」

 それがどういうことか、ジェイクもビンセントもさっぱり分からない。すでに目が点の状態だ。

「えー……っと? つまり、なんだ?」
「急激な魔力の変化が起きたら、見合った反動がないとおかしいのよ。塔の風や頻発する地震。よく調べていないけど、あの近辺で起きる事は当時のその時期が関係しているかもしれないってことよ」
「でも三十四年も前なんだろ?」
 続きをルバートが説明する。
「強大な力が関係しているなら三十四年などあってないようなものだ。現に魔女の塔は何十年も周辺へ悪影響を及ぼし、魔獣の力を活性させていただろ?」
「だってあれは」
「同じだ。俺様は例外の存在だが、本来の魔女は膨大なゾグマの塊のような存在だからな。本件に話を戻すと、出現と消滅。この場合、消滅した事象ではなく術に要した力を指すが、この二つの力が及ぼす影響はなかなかのものだ。アードラへ真相を確かめるのは必要ということだ」
「それで、アードラ様の使った力を使って山を消すっていうのか?」
 再び説明がエベックへと変わる。
「そうじゃないわビン様。あの山については術とは別で調べないとならないけど、アードラ様の力は放置出来ないものよ。山が塔まで到達した際、力の余韻が活発になって蘇り、周辺に地震以外のさらなる災いを齎す可能性が高いの」
「けど力の正体を知ってもどうすることも出来ないんじゃないのか? 集めてまた消滅させるとか?」

 過去の余韻に力を使用して消滅させると考えれば、さらに強大な力が更新されるだけだと判断出来る。

「ここからは術の講習みたいになるけど」
 苦笑いを浮かべるエベックに変わり、ルバートがまとめにかかる。
「お前さんに二日がかりの頭痛を引き起こす説明になるが、それでいいなら事細かに語ろうではないか。お前さんの中でな」

 ルバートの長々しい語りを延々と、まるで呪いの如く聞かされる想像したビンセントは怖くなって頭を左右に振る。
 傍目で見るジェイクは、自分で例えるならベルメアが延々と語り続ける場面を想像し、「おっかねぇ」と呟く。
 話を切り替えるようにエベックが手を叩いた。

「小難しい話はここまで。本題はここから。ようは分担しようって話になったの」
「分担?」
「そ。ここに残って山の調査と塔の調査、そして魔獣やら異変が起きたら対処する担当とアードラ様に事の経緯を報せて、さらには力の正体を突き止める担当よ」
 真っ先にジェイクは手を上げた。
「俺はここに残る。今ので分かってるだろうが、簡単な報告を向こうに伝えたとしても、訳分からん術やその他諸々の説明が出来る自信はねぇし、向こうが説明してもさっぱりだからな」
「安心しろ、ジェイクはここに残ってもらうと決めている。補足するなら、デグミッドで起こしたガーディアンの力と古代の叡智たる剣。もしもの時は大いに役立つからな。そしてビンセントと俺様もこちらに残る」
 ビンセントが驚いた。
「どうしてだ?! お前なら真っ先にでも戻ってアードラ殿に詳細を聞くだろ」
「俺様単独で動けるならそうするが、お前さんといなければ途中で消滅する。それにお前さんをバーデラに戻すのは得策ではないと判断した」
「なんで?」
「塔で得た力が気になる。山の出現前にお前さんが遭遇しただろ。もしこの二つが相殺する関係性であったなら、村を離れるのは得策とは言えん」

 またエベックは手を叩いた。

「というわけで、帰還と報告担当はあ、た、し。ジェイクちゃんとビン様と離れるのは寂しいけど、重要だから頑張るわ」
 頑張るほどのことかは分からない。さらには一人でも安心できる逞しさと頼もしさもあるので心配はない。
 ルバートは村長の方を向いた。
「という訳だ。明日から調査のため、泊まる場所を借りたいのだが」
「安心してください村長。復興の手伝いもしますので」
「魔獣が来たら修行の成果をみせてやるぜ」
 頼もしい言葉に励まされて村長は安堵する。過去の罪を伏せている心苦しさはあるものの。
 話が終わると、家の空いている部屋の使用許可を得た。



 翌朝、日が昇る少し前にエベックは馬を借りて村の入り口まで来た。
 見送りでジェイクとベルメアがいる。

「ったく、ビンセントは酔ったせいで寝入ってるけど、ルバートくらいは来いよな見送りぐらい」
「いいのいいの。ルバートだってビン様の身体気遣って憑いたままだろうし。それよりジェイクちゃん、ベルちゃん、皆とビン様をよろしくね」
「おう。そっちも気をつけろよ。お前が強い戦士つっても、やたら強ぇ魔獣とかが群れで攻めてきたらひとたまりもねぇからな」
「ふふふ、心配ありがと。じゃあね」
 笑顔でエベックは馬を走らせた。
 見送ったジェイクとベルメアは村長の家へと帰っていく。

 ◇◇◇◇◇

 村から少し離れた所でエベックは不自然に燻る微弱な魔力に気づき、視線をそちらへ向ける。
 誰もいないが、確かに一本の大木にその魔力があった。
 一瞥するだけで止まることなく馬を走らせた。
(こんな時でも? やっぱり油断できないわねルバート)

 大木の陰から覗き見るルバートは、通り過ぎたエベックの後ろ姿ごしに魔力を読んだ。
 変わったところはない。
 ただ、それでも気が抜けない。違和感と気がかりからくる警戒。

 長年の勘としか言えないが、エベックに対してルバートは気が抜けなかった。
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