烙印騎士と四十四番目の神

赤星 治

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四章 流れに狂いが生じ

Ⅲ 改めて浮かぶ疑問

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 七の宮殿中庭の鍛錬場へと連れてこられたサラは、オージャと共にいる男性が気になった。それは、どこかザラついた魔力を感じてである。
 役目を終えたゴルダはオージャへの挨拶を済ませ、修行場へと戻った。

「サラ、こちらはランディス=ルーガー殿、十英雄の一人だ」
 十英雄と聞き、素直な反応を示した。
「グレミアさんたちの?」
「グレミアと会ったのか?」
 ランディスは仲間を知る者と会い、妙に嬉しかった。
「……はい。あと、スビナさん、レイアードさん、ビンセントさんとザイルさん、ウォルガさんには」
「確かに情報通りだ。うさんくさい奴からの話だから疑ってたんだけど」
「誰ですか?」

 メイズの名を上げると、さーっと現われたカレリナとサラは同時に納得した。
 初めて守護神を目の当たりにするランディスは目が飛び出そうな程の顔になる。

「あの人、かなり性根が曲がりくねってるからね」
「そこまでは……あー、どうだろう?」
 サラとカレリナはランディスの驚きが見えていない。

 話が進まないとばかりに、オージャは咳払いをして気を引いた。

「積もる話は後でしてくれ。本題に入るぞ」
 二人とカレリナはオージャの方を向いた。
「ランディス殿はつい先ほど来た客人だが、これからサラは所用で空ける為レイデル王国へ向かうんだ。ここで帰りを待つか?」
「いえ。国王への挨拶もまだですし、俺も同行出来るなら喜んで」
「では、二人にはレイデル王国へ向かい、ちょっとした案件を解決してもらう。詳細はレイデル王国で聞いてくれ」
 二人は返事すると、早速レイデル王国へと向かった。


 ガニシェッド城を護る七つの宮殿には、それぞれの宮殿を行き交える陣術が施されている。とはいえ、つい数ヶ月前まで存在しなかった。
 昨今の各地での異変、ゾアの災禍が起こる未来が信憑性を増したための備えである。
 陣術は宮殿より少し降りた岩場に設けられ、宮殿の主の許可が無ければ使用できない。

 サラはオージャの許可を得て、レイデル王国との国境が近い宮殿まで飛ぶことを許された。行き一度、帰り一度の往復と期限は十日以内。用事を済ませて帰るためだけの使用であった。
 二の宮殿まで飛び、宮殿の主に挨拶を済ませ、下山後に馬車を手配してランディスと乗った。手配できたものは一番安い荷車で、途中で荷運びの手伝いまですることになる。

「へぇ、ガーディアンって普通に鍛錬して身体鍛えるにも面倒な制限とかあるんだな」
 レベルの説明を知ったランディスは感心するがよく分かっていない。ただ、話をする内に、サラが嘘を吐いてまで自身を嵌めようとするガーディアンでないと分かる。
 サラも然る事ながら、カレリナもバッシュに加担することは無いと見て分かる。
 会えば分かる。というのがこのことであった。

「それで重要な感知力を鍛えるのが困難で」
「けど変な決まりだな。レベル? 数字で強さの基準が決まって、魔力の使用制限もその数値内。それを越えたら極度に疲れるとか、死ぬとか。普通だったらただ使えないってだけなのに。魔力切れで」
「それ、私もよく分かってないんです。元の世界で知る情報だったら、ランディスさんが言ったように魔力切れなんですけど、一応は無理してでも使えるっていうのは」
「けど肉体を戻してるガーディアンもいるんだろ? どうしてサラはしないんだ?」
「私の世界じゃ魔力が扱えないから。肉体が戻っても何も出来ない普通の人間になるのが怖くって」

 ガーディアンの転生、五つの世界、ガーディアンに階層が設けられてる決まり事。あらゆる情報にランディスは混乱する。

「五つの世界、ガーディアンは寄せ集めで、神力を集めるのがって。俺等の世界の伝説となんか違うんだな。ガーディアンってのは、大きな厄災から人々を救う神の使いなんだけどなぁ」言いながら空を見上げた。
「……改めて聞くと、なんか違和感ありますね」

 ランディスは視線をサラへ向ける。

「ガーディアンって凄い存在なのに、皆、ちょっと珍しい人が来た程度にしか接しなくって、すぐに普通の人間として一緒にいるんです。伝説上の存在って謳ってるなら、もっと目立って騒がしいんじゃないかなって思うんですけど」
「確かに……」
 言われてサラを見つめるが、これといって崇めようという気も特別視する気も起きない。普通の女性でしかない。
「だよなぁ。すぐ傍に守護神様もいるのに」
 カレリナを見ても何とも思わなくなる。慣れが早い性分ではないが、どうも自分の感性がおかしい気がしてしまう。
「俺にゾアが入ってるからか?」
「皆さん、ランディスさんと同じような感じですよ」

 今までは考える事を先延ばしにしてそのまま忘れていたが、他にもガーディアンの妙な点が多い。
 すぐに壊れ、現時点であまり役に立たないステータスボード。
 ガーディアンと転生者という言葉の違い。
 神の昇格試練らしい事があまり起きていない。守護神を束ねる主神がいるとも思えない。
 転生してからの寿命が三年。メインのイベントがなんなのか未だに不明。
 おそらくはゾアの災禍対策のための転生だろうが、どうもしっくりこない。

 不明点が多すぎる。曖昧な設定で転生されたような気がしてならない。しかし今まで体験したことは、深刻な問題ばかりである。

 自分達の世界で知る転生は、作者の想像でしかなく、流行りのネタから似たものが増えたにすぎない。
 自分とトウマは日本人だから、既存の転生の情報で考えていたが、この世界の住人とジェイク達は転生の概念すら存在していない。
 何か、妙に転生にこだわりすぎているように思えてならない違和感。誰かが『転生』という言葉を知って欲しいのかとすら思えてしまう。

 ”もっと早くに気づいていれば大精霊に聞けたのに”と、頭に悔しい気持ちが過るも、大精霊の性格を考えると適当にはぐらかして教えてくれないだろうと結論に至る。おそらく間違いないとサラは断言出来た。

「ランディスさん、レイデル王国にガーディアンについて詳しく書かれた書物とかってありますか?」
「あー、どうだろ? 城内の書庫だったらもしかするけど、俺の知る限りじゃ無いな。童話とか神話の本とかぐらいだわ。あ、でもミングゼイスの石板に記されてるって言うんだったら、リブリオス行きゃあるだろうけどな」
「リブリオスって、なんか難しい国って聞いてます」
「俺もよくは」
 手を振って知らない意思を示す。
「十英雄の一人にリブリオス出身はいるけど。なんか話してたような記憶で、うーっすらと覚えてんのは、国の中で三つの国に分かれてる、とか。まあ重要なミングゼイスの石板を独り占めしてる国だから、ややこしいには変わりないんだけどな」

 その情報を鵜呑みには出来ないが、どのような事情があれ、ミングゼイスの石板にガーディアンの真の目的が記されている可能性はある。
 ここ最近、サラはやることがドンドン増えていき、順番を考えると頭が痛くなる。
(……なんか大変になってきたなぁ)
 荷車に揺られ、呆然と空を眺めてる間、頭の中でぐちゃぐちゃに蠢く情報がしばらく鎮まった。


 日暮れに城へ到着すると、ランディスは見張り兵の元へと向かう。
「……え?」
 目が合った兵は、ランディスの様子が少しおかしいことに気づく。
「どうした」
 何事も無かったようにランディスは話した。
 事情を説明し、兵達が確認をとりに向かうと、しばらくして翌日にルーティアとの謁見許可が下りた。
 サラの元へと戻って報告すると、今日は城下町の宿で泊まると話が進んだ。

「明日の夕方まで自由行動……だけど、何もすることないなぁ」
 荷車に揺られながら愚痴るランディスへ、サラは観光出来る場所を求めるが、コレと言って面白いところがないと返される。
 しばらくして荷車は馬小屋へと到着し、そこでサラとランディスは降ろされた。

「すまなかったおっちゃん」
 ランディスは運賃を渡し、世間話に時間をとられる。
 一方で、サラは眼前を通る大人を見て目を疑った。

 目をこすり、もう一度ジッと見ると、間違いでないと判明した。
(カレリナ、どういうこと?)
(分からないわ。けど、普通じゃ無いわね)
 急いで城下町へと向かい、町の入り口で背筋に寒気が走った。

「どうした……サラ?」
 ランディスは分かっていない様子だ。

 サラの目には、レイデル王国の国民が半透明に映った。
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