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一章 烙印を制す剣

Ⅹ 激戦を終え

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 シャールが光る人間と話している最中、突如ジェイクを取り込んだ剣が光りだし、目を覆わずにはいられないほど眩い光を発する。
 腕で発光を遮っていたシャールは、明るさが落ち着きだした頃に祠へ目を向けると、血だらけで衣服もボロボロのジェイクを見つけた。

「おい! 大丈夫か!」
 慌てて駆け寄るとベルメアが現われた。
「さっきまでかなり大きい魔獣と戦ってたの!」
 話を聞きながらもシャールはジェイクの容態を確認する。

 魔力の総量が激減されている状態だが、気を失っているのではなく、深い眠りに落ちている状態。寝息と微弱な魔力と気功の流れから判断する。
 とはいえ傷を晒したままでほうっておくのは危険だ。
 治療をしようと、上半身の衣服を破り捨て、持参している水筒の水で傷を洗い、薬を付けて包帯を巻く。
 痛みに反応しない姿を見ると、身体機能が回復に専念しているのは分かる。

「こりゃ、手間だな」
 手当てするのを一時止め、シャールは治癒術と陣術の複合技を使用した。用は円陣内で負傷者を治癒する技である。コレを発動させれば回復と手当を同時進行で行える。
 独自開発した回復陣は、小さい傷を治し、弱っている身体の回復を促進させる力を持つ。自然界の魔力が濃ければ効果を上げる。

 手早く陣を描いて作動し、再び治療にあたる。
 ふと、思い出したように光る人間を捜すも、何処にもいなかった。

「どうしたの?」
「ここに全身が光ってる人がいたんだが……見たか?」
「ここじゃ見てないわ。ジェイクが魔獣を倒した後には……」
 ベルメアの様子がおかしい事に気づく。微かに不安を含んでいる様子だ。
「何かあったのか?」
「……何でもないわ。……とにかく、ここじゃ見ていない」

 深く詮索はしなかった。



 先に聞こえたのは木が燃える時のパキパキという音だった。次に焼ける匂い。
 ゆっくり瞼を開けてジェイクは目覚めた。

「よう、無事か?」
 焚き火の火で温めたお湯を飲みながら乾物を食べるシャールの姿が視界に入った。
「……ここ、う、ぐっぅぅ……」

 起き上がろうとすると腹から上半身にかけて細かな痛みが走る。再び寝転がると、両足にも重度の筋肉痛が。

「ベルメアから聞いたぜ。災難だったな」
「……正直、生きた心地がしねぇ。今も死んでるんじゃねぇかって感じだ」

 シャールが顎で何かを指している事に気づき、祠の方を見ると、一振りの剣を見つけた。

「どうやらお前の武器らしい。魔獣を仕留めるのが試練だったんじゃねぇか。今朝方にはあったぞ」
 言いながら立ち上がり、剣を取りに向かった。
「今朝? 俺、何日寝てたんだ?」
「お前が戦ったのが昨日の話だ」
 持ってきた剣をジェイクの傍らに置いた。
「ご丁寧に鞘付き。古代文字で印字が刻まれてやがる。すげぇな、歴史的価値のありそうな代物だぜ」

 元の場所へ戻り焚き火に当たる。

「……ベルはどうした?」
「外の様子を見に行くっつって出てるぞ」
「らしくねぇな。いつもは傍にいるか俺ん中にいんのに。ってか、あんな遠くまで行けたんだな」

 ジェイクにもお湯を勧めると、一杯求められた。
 ゆっくり起き上がると痛みも耐えれる。それでも全身に疲労が残っているのを感じる。

 互いに焚き火を囲んで向かい合う。

「お前が戻ってからベルメアの様子が変だ。光る人間を見てからと読んでるがな。お前も見たか?」
「ああ、魔獣の事も、あの現象の事も知ってる風だった。それに、ベルのことも」

 光る人間がベルメアを見る素振りを見せた時、ベルメアの警戒する様子が浮かぶ。

「今は聞いても無駄だろうな。俺にも隠してる風だった。追々、お前から聞いてくれ」
「シャルは光る人間と戦ったのか?」
「いんや。話をしただけだ」

 その一言で済ませて良いほど、安易な話ではない。

『……傑作だね。どうやら人間達は自分たちの保身の為に色んな真実を隠し通しているようだ。真っ当な正論の言い伝えで真実をねじ曲げて違う歴史にしている。一体、どれだけ犠牲を出せば気が済むんだい? 着々と自分たちの足下が崩れているとも知らずに』

 光る人間の言葉を思い出すと、深く考察してしまう癖が働きそうになる。

 何気ない目で焚き火を見つめ、コップを床に置いた。

「……どうやら、バルブラインの一件、かなり奥が深いようだぜ」
「どういうことだ?」
「ヤツはその剣に関係した存在だ。お前を使う側か使われる側かと言ってたからな。勝手な推測だが、お前が魔獣に負けたら魂が剣に宿り、お前の身体をヤツが乗っ取っていた可能性が高い」

 嘘のような話だが、ジェイクの前に現われた時にシャールの推測通りになりそうな言葉を口にしていた。
 ベルメアの様子からも、ガーディアンと守護神は抗えない存在だと分かる。

「他にも、バルブラインで起きている異常事態、物語を元に起きている異変だ。それらはバルブラインの歴史と、ゼルドリアス、リブリオスが絡んでいる口ぶりだった」
「はぁ?! いや、待て。そもそもバルブラインの異変って、この国の王さん、えーっと、……なんつった?」
「ディルシア」 
「そうそう、そいつが殺されて、異変が起きて、魔力壁が出来たんだよな。で、パルドが徘徊した。この魔力の異常が物語に関係してるって。だったら、全部バルブラインの問題じゃねぇのかよ」
「どうやら全員が騙されてる。いや、何かを企ててる連中に踊らされてると考えるほうが合ってるのかもな」

 異変は物語が関係していると言ったのはアードラ。しかし、アードラが嘘を吐いていないなら、ディルシア近辺で何か起きている組織がいると考えられる。
 憶測が膨らむも、こんな壮大な異変を起こしている目的が不明だ。

「ディルシアを殺して一番得するヤツって誰か分かるか?」
「候補が多すぎる。ヤツは愚王中の愚王だからな。喜ぶヤツや、もしかしたら裏で良からぬ事を計画してた連中がいると考えるのが自然だ。アードラも含め」
「おい、本気でアードラが俺等を嵌めるように見えるか?」
「可能性の一つだ。ただ、悪人も善人の面は出来る」
「この野郎、う、ぐぅぅ……」

 胸ぐらを掴みに掛かることも困難なまでに身体が痛んでいる。
 シャールの気持ちに対して、ジェイクはアードラを仲間と見ている。 

「落ち着け。極論でアードラを敵視する気はさらさらねぇよ。俯瞰して見るのが重要なんだよ」
「そりゃ、お前が良いように捉えてぇだけじゃねぇのか」

 シャールは大きく息を吐き、焚き火に目を向けた。
 今なら、自らの身に起きた事を語る時だと、心が動いた。

「……これから話す事はここだけの秘密にしてくれ」
 真剣な目を向けられ、ジェイクは黙った。

 内容は、シャールが六星騎士となった経緯、王族を嫌う理由。未だにアードラへの警戒を解かない話であった。
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