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一章 烙印を制す剣
Ⅰ ゼノア、苦しむ
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ここ数年で寒さが一番厳しいとされた冬を終え、雪解け時期。まだ寒いながらも、肌が痛くなる凍てついた空気が和らいでいる。
朝方に町の雪かきを終えたジェイクは、ゼノアと共に剣術の稽古に励んでいた。扱い慣れた長剣を使用していた二人だが、現在扱っているのはショートソード。
このような稽古を始めた理由はゼルドリアスの魔力壁が破れたことが関係している。アードラ達が今後を考えた際、扱い慣れておくのが重要と判断されたからである。
未だ謎の多いゼルドリアスだが、古い文献には迷宮が多くあり、迷路のような環境が攻め入る敵軍の対処に適しているとあった。真偽は定かではないが、狭い環境での戦闘は避けられないと思われた。
天井が低く壁も狭い空間で刃渡りの長い剣を使う際、素早く動く魔獣などに襲われれば対処に困難を極める。より動かし安く、小回りが効く方法を考えた結果、ショートソードやダガーナイフの使用が重視された。
二人の稽古はまさに剣術鍛錬に励んできた者達のやり合い。本気の手合わせは力強く見応えがあり、子供達も含め、数人の大人達も見物している。
――ハッ!
――フンッ!
時折二人の声が漏れ、乱れた呼吸を整えつつも相手の動きを読み、また攻め合う。両者の身体からは湯気が立ち上り、半袖服姿から体温は高いと見て分かる。
激しく斬り合い刃がぶつかり合う音、受け流す金属がこすれる音、空を切る際に鳴る、シュンシュンという音が響く。
互いに負けず劣らずの実力。見事なまでに拮抗している。
「そこまで!」
立会人のマッドが声をかけると、二人は膝をついて座り、乱れた呼吸を整えている。
見物者達からは歓声と拍手が上がる。
「強ぇなゼノア。実はショートソードが得意とかか?」
「私などまだまだ。ジェイクこそ成長が早すぎます。うかうかしていると離されてしまう」
二人は立ち上がって歩み寄り、握手を交わし礼をした。
「そろそろ実戦に移行したほうが良さそうだな」
マッドが二人に提案する。しかし時期はまだ冬。雪解けは始まっているが空気はまだ寒く野獣に至っては冬眠しているものが多い。魔獣も最近では見当たらない。
「そんな都合の良い実戦場なんてあんのか? 動物がいねぇだろ」
「シャルがいい情報を仕入れた。そこだと実戦もそうだが、ジェイク専用の武器が手に入るかもしれん」
僅かに驚くジェイク。ゼノアは喜んだ。
「良かったではないか! これで烙印が扱い安くなる」
いつもならベルメアも現われるのだが、皆と話をするならノーマの用意した大部屋で現われている。会話の二度手間を防ぐ為である。尚、魔女討伐者だけといる時やジェイクだけの時は現われる。
ジェイクと別れたゼノアは一度自宅へ帰った。
「ああ、丁度いいや。姉貴もコーヒー飲む?」
バーレミシアが寒そうにお湯を沸かし、コーヒーを淹れる準備をしていた。余談だが、ゼノアが姉貴、ミシェルをミシェル姉と、彼女は呼んでいる。
ゼノアは「頼む」と返事し、荷物を所定の位置に置いた。
「姉貴さぁ、ミルシェビスに戻んなくて良いの? 師団長だろ」
数ヶ月前まで存在したバルブラインを覆う魔力壁を通過出来たのは、バルブライン出身者であった。ただ、内側から外へは誰も出られない。
ゼノアはバルブラインの調査をミルシェビス国王から仰せつかり、任務を全うしていた。魔獣やパルドの破壊に加え、日々報告書を人知れず記載していた。
魔力壁が消えて以降、任務続行を兼ね、アードラと協力関係を築いている。
現在、ゼノアは自軍の団員達と協力し、バルブライン内外の情報を交わし合い、ミルシェビスへ報告する任務に切り替わっている。
バーレミシアへは大半を秘密で押し通し、簡単な説明で済ませた。身内であれ、自らの任務を教える事は出来ないからである。
「団長も大変だな。けど本国は姉貴がいなくても大丈夫なのか?」
「ミルシェビス王国は大精霊様の加護が強く魔獣の勢力は弱い。強い戦士も多いから問題はない」
国が変われば兵士達の扱いも変わる。
目に見えない大精霊という存在(実際は大精霊と会う機会がないだけ)の力を信じきり信仰しているミルシェビス国民。大精霊の加護を受け入れられないバルブライン国民は、ゼノアの話は受け入れられない者が多い。言葉を間違えれば反感を持たれる可能性は十分にある。
ゼノアも”特命でバルブラインに滞在している”と周りには言っている。言い訳のネタはそこかしこにあるから嘘を吐きやすい。
バーレミシアやシャールのように、バルブライン国の思想や偏見を嫌う者はゼノアの言葉を冷静に聞ける。
コーヒーを一口飲んだバーレミシは話を変えた。
「ショートソードは辛うじてだろうけど、ナイフ系はあたしと違って姉貴にゃムズいだろ?」
「苦労はしてるが成長はしている。だが気は抜けん。怠けていればすぐジェイクに置いて行かれるからな」
コーヒーの入ったカップを置いたバーレミシアは怪しい視線を向ける。
「なんだその目は」飲みながら返す。
「……姉貴さぁ、さっさと自分の気持ち伝えたら?」
不意を突かれた質問に、ゼノアはコーヒーが喉につっかえて咳き込む。
「ばっ!? ――何言っている!」顔を赤らめ、誰が見ても分かる動揺ぶりを示す。
「見てりゃ丸分かりだって。めざといヤツは大体気づいてんじゃないか?」
「馬鹿言え! ジェイクはガーディアンだぞ。それに妻子持ち。私もミルシェビス師団長の役目がある身。恋などに現を抜かしている場合ではない!」
溜息を吐いたバーレミシアは片肘をついて呆れ顔を向ける。
「あっそ。じゃあ他の女にジェイク取られても良いんだぁ」
「な、何を!?」
「だってそうだろ? ガーディアンつっても、ジェイクは受肉して人間同様って感じだし。傍目に見ても、結構頼り甲斐ある男だし戦士じゃん。今は世情が荒れてるから皆そっちに気が回ってるけど、ちょっと気が緩んだら恋に現を抜かすほうに意識が働くのは当然だろ?」
ゼノアは赤ら顔で聴き入る。
「既に一人、好意を持って見てるヤツもいるしねぇ」
バーレミシアは面白がって口にする。
「……だ、……誰、だ」
「え、言って良いの? 姉貴も知ってるよ」
それを訊いてはいけない。理性と知りたい欲望が拮抗してゼノアを苦しめる。
大きく息を吸い、しばらく息を止め、ゆっくり吐いた。
「いい。他者の感情を私がどうこう言うのは筋が違う。師団長としてあるまじき行いだ」
「とはいえ、今まで通りを貫くのはどうかな?」
いつの間にか入り口の壁に背を預けているミゼルが立っていた。
勢いよく立ち上がったゼノアの赤面具合は言うまでも無い。
「――ミゼル!? いつの間に」
「丁度バーレミシアが語りだした所ぐらいだ。ああ、でも誤解しないでくれ。割って入れる雰囲気ではなさそうでな、機をうかがっていただけなのだよ」
「……え、では……私の」
混乱するゼノアへバーレミシアは告げた。
「大丈夫だぜ姉貴。ミゼルはとうの昔っから気づいてる」
驚くゼノアの顔の熱さが治まらない。
「安心してくれたまえ、私は軽々に他者の恋心を口外したりせんよ。それとジェイクは気づいていない。筋金入りの鈍感だからな。この情報は僅かばかり立ち聞きしてしまった謝罪として受け取ってくれたまえ」
安心するネタが二つ入るも、まだゼノアの胸の高鳴りは治まらない。
「そ、それは別にして、どうしてここへ? いや、呼び鈴くらい鳴らすべきではないか!」
「私は妹君が勝手に入って良いと昨日聞いたのだが」
ゼノアがバーレミシアを睨むも、バーレミシアは目を逸らす。
「今日はゼノア殿に会いに来たのだ。訓練場を出た後と聞いてね」
「な、私に……何を」
「師団長の実力を見込んで頼みがあるのだよ」
どうやら恋の話から離れられると思い、気が緩んだ。
「グメスの魔女。二人は知っているだろ?」
「ああ。あたしは迷信って思ってるけど。聞いたところによれば、ミゼルが説得したんだっけ?」
バーレミシアはコーヒーを飲み干した。
ゼノアは気を落ち着かせて質問する。
「グメスの魔女と何かあったのか?」
「彼女との間に諍いはないさ。ただ、護衛を頼みたいだけだ」
「それは十分に諍いではないのか?」
護衛対象がミゼルだとゼノアは思った。
「勘違いしないでくれ。護衛対象はグメスの魔女ことリネスだよ」
ゼノアとバーレミシアは唖然とした。
「アードラ氏との話合いにより、彼女と面会し、今後の異変に対抗する打ち合わせの運びとなった。私は彼女の屋敷周辺の侵入者防止の術を改める役を担ってしまってね。その間、彼女の護衛を頼みたい」
「頼むって、魔女って言うぐらいだから、かなり強いんじゃないの?」バーレミシアが訊く。
「それは既に他界した彼女の姉と母親の事。彼女は器用な術を扱えはするがそれほど強くはない。ゼノア殿がいれば心強くてね」
「出来る事なら、こちらに泊まって頂ければ……訓練もあるし」
ジェイクを気にしている、と二人は察する。
「訓練の心配は不要だ。ジェイクは今日明日中に出かけるからね」
「え?」
事情は、ジェイクが使用する烙印の力に耐えうる武器の情報が入り、それを取りに向かうと教えられた。
「いいんじゃねぇの? ジェイクがいなけりゃ訓練も身が入んねぇだろ、姉貴」
「う、うるさい! 私はくだらん私情で訓練などしておらん!」
「ははは。どうあれ、頼みを聞き届けて頂きたい。リネスは私が好意を抱いている女性だからね」
突然の告白にゼノアは再び顔が赤らみ、バーレミシアは口笛を吹いた。
「――な、何を!?」
「堂々としてんじゃん。まさか、告白は?」
「初日で一目惚れしてね、既に気持ちは伝えたよ。反応はゼノア殿と同じようだったかなぁ……」
もう、顔が熱くなり、ゼノアは気が気でなく、オロオロしている。
「日にちは明日だ。頼んだよ」一方的に告げ、ミゼルは出て行った。
ゼノアが落ち着くのには時間がかなりかかった。
朝方に町の雪かきを終えたジェイクは、ゼノアと共に剣術の稽古に励んでいた。扱い慣れた長剣を使用していた二人だが、現在扱っているのはショートソード。
このような稽古を始めた理由はゼルドリアスの魔力壁が破れたことが関係している。アードラ達が今後を考えた際、扱い慣れておくのが重要と判断されたからである。
未だ謎の多いゼルドリアスだが、古い文献には迷宮が多くあり、迷路のような環境が攻め入る敵軍の対処に適しているとあった。真偽は定かではないが、狭い環境での戦闘は避けられないと思われた。
天井が低く壁も狭い空間で刃渡りの長い剣を使う際、素早く動く魔獣などに襲われれば対処に困難を極める。より動かし安く、小回りが効く方法を考えた結果、ショートソードやダガーナイフの使用が重視された。
二人の稽古はまさに剣術鍛錬に励んできた者達のやり合い。本気の手合わせは力強く見応えがあり、子供達も含め、数人の大人達も見物している。
――ハッ!
――フンッ!
時折二人の声が漏れ、乱れた呼吸を整えつつも相手の動きを読み、また攻め合う。両者の身体からは湯気が立ち上り、半袖服姿から体温は高いと見て分かる。
激しく斬り合い刃がぶつかり合う音、受け流す金属がこすれる音、空を切る際に鳴る、シュンシュンという音が響く。
互いに負けず劣らずの実力。見事なまでに拮抗している。
「そこまで!」
立会人のマッドが声をかけると、二人は膝をついて座り、乱れた呼吸を整えている。
見物者達からは歓声と拍手が上がる。
「強ぇなゼノア。実はショートソードが得意とかか?」
「私などまだまだ。ジェイクこそ成長が早すぎます。うかうかしていると離されてしまう」
二人は立ち上がって歩み寄り、握手を交わし礼をした。
「そろそろ実戦に移行したほうが良さそうだな」
マッドが二人に提案する。しかし時期はまだ冬。雪解けは始まっているが空気はまだ寒く野獣に至っては冬眠しているものが多い。魔獣も最近では見当たらない。
「そんな都合の良い実戦場なんてあんのか? 動物がいねぇだろ」
「シャルがいい情報を仕入れた。そこだと実戦もそうだが、ジェイク専用の武器が手に入るかもしれん」
僅かに驚くジェイク。ゼノアは喜んだ。
「良かったではないか! これで烙印が扱い安くなる」
いつもならベルメアも現われるのだが、皆と話をするならノーマの用意した大部屋で現われている。会話の二度手間を防ぐ為である。尚、魔女討伐者だけといる時やジェイクだけの時は現われる。
ジェイクと別れたゼノアは一度自宅へ帰った。
「ああ、丁度いいや。姉貴もコーヒー飲む?」
バーレミシアが寒そうにお湯を沸かし、コーヒーを淹れる準備をしていた。余談だが、ゼノアが姉貴、ミシェルをミシェル姉と、彼女は呼んでいる。
ゼノアは「頼む」と返事し、荷物を所定の位置に置いた。
「姉貴さぁ、ミルシェビスに戻んなくて良いの? 師団長だろ」
数ヶ月前まで存在したバルブラインを覆う魔力壁を通過出来たのは、バルブライン出身者であった。ただ、内側から外へは誰も出られない。
ゼノアはバルブラインの調査をミルシェビス国王から仰せつかり、任務を全うしていた。魔獣やパルドの破壊に加え、日々報告書を人知れず記載していた。
魔力壁が消えて以降、任務続行を兼ね、アードラと協力関係を築いている。
現在、ゼノアは自軍の団員達と協力し、バルブライン内外の情報を交わし合い、ミルシェビスへ報告する任務に切り替わっている。
バーレミシアへは大半を秘密で押し通し、簡単な説明で済ませた。身内であれ、自らの任務を教える事は出来ないからである。
「団長も大変だな。けど本国は姉貴がいなくても大丈夫なのか?」
「ミルシェビス王国は大精霊様の加護が強く魔獣の勢力は弱い。強い戦士も多いから問題はない」
国が変われば兵士達の扱いも変わる。
目に見えない大精霊という存在(実際は大精霊と会う機会がないだけ)の力を信じきり信仰しているミルシェビス国民。大精霊の加護を受け入れられないバルブライン国民は、ゼノアの話は受け入れられない者が多い。言葉を間違えれば反感を持たれる可能性は十分にある。
ゼノアも”特命でバルブラインに滞在している”と周りには言っている。言い訳のネタはそこかしこにあるから嘘を吐きやすい。
バーレミシアやシャールのように、バルブライン国の思想や偏見を嫌う者はゼノアの言葉を冷静に聞ける。
コーヒーを一口飲んだバーレミシは話を変えた。
「ショートソードは辛うじてだろうけど、ナイフ系はあたしと違って姉貴にゃムズいだろ?」
「苦労はしてるが成長はしている。だが気は抜けん。怠けていればすぐジェイクに置いて行かれるからな」
コーヒーの入ったカップを置いたバーレミシアは怪しい視線を向ける。
「なんだその目は」飲みながら返す。
「……姉貴さぁ、さっさと自分の気持ち伝えたら?」
不意を突かれた質問に、ゼノアはコーヒーが喉につっかえて咳き込む。
「ばっ!? ――何言っている!」顔を赤らめ、誰が見ても分かる動揺ぶりを示す。
「見てりゃ丸分かりだって。めざといヤツは大体気づいてんじゃないか?」
「馬鹿言え! ジェイクはガーディアンだぞ。それに妻子持ち。私もミルシェビス師団長の役目がある身。恋などに現を抜かしている場合ではない!」
溜息を吐いたバーレミシアは片肘をついて呆れ顔を向ける。
「あっそ。じゃあ他の女にジェイク取られても良いんだぁ」
「な、何を!?」
「だってそうだろ? ガーディアンつっても、ジェイクは受肉して人間同様って感じだし。傍目に見ても、結構頼り甲斐ある男だし戦士じゃん。今は世情が荒れてるから皆そっちに気が回ってるけど、ちょっと気が緩んだら恋に現を抜かすほうに意識が働くのは当然だろ?」
ゼノアは赤ら顔で聴き入る。
「既に一人、好意を持って見てるヤツもいるしねぇ」
バーレミシアは面白がって口にする。
「……だ、……誰、だ」
「え、言って良いの? 姉貴も知ってるよ」
それを訊いてはいけない。理性と知りたい欲望が拮抗してゼノアを苦しめる。
大きく息を吸い、しばらく息を止め、ゆっくり吐いた。
「いい。他者の感情を私がどうこう言うのは筋が違う。師団長としてあるまじき行いだ」
「とはいえ、今まで通りを貫くのはどうかな?」
いつの間にか入り口の壁に背を預けているミゼルが立っていた。
勢いよく立ち上がったゼノアの赤面具合は言うまでも無い。
「――ミゼル!? いつの間に」
「丁度バーレミシアが語りだした所ぐらいだ。ああ、でも誤解しないでくれ。割って入れる雰囲気ではなさそうでな、機をうかがっていただけなのだよ」
「……え、では……私の」
混乱するゼノアへバーレミシアは告げた。
「大丈夫だぜ姉貴。ミゼルはとうの昔っから気づいてる」
驚くゼノアの顔の熱さが治まらない。
「安心してくれたまえ、私は軽々に他者の恋心を口外したりせんよ。それとジェイクは気づいていない。筋金入りの鈍感だからな。この情報は僅かばかり立ち聞きしてしまった謝罪として受け取ってくれたまえ」
安心するネタが二つ入るも、まだゼノアの胸の高鳴りは治まらない。
「そ、それは別にして、どうしてここへ? いや、呼び鈴くらい鳴らすべきではないか!」
「私は妹君が勝手に入って良いと昨日聞いたのだが」
ゼノアがバーレミシアを睨むも、バーレミシアは目を逸らす。
「今日はゼノア殿に会いに来たのだ。訓練場を出た後と聞いてね」
「な、私に……何を」
「師団長の実力を見込んで頼みがあるのだよ」
どうやら恋の話から離れられると思い、気が緩んだ。
「グメスの魔女。二人は知っているだろ?」
「ああ。あたしは迷信って思ってるけど。聞いたところによれば、ミゼルが説得したんだっけ?」
バーレミシアはコーヒーを飲み干した。
ゼノアは気を落ち着かせて質問する。
「グメスの魔女と何かあったのか?」
「彼女との間に諍いはないさ。ただ、護衛を頼みたいだけだ」
「それは十分に諍いではないのか?」
護衛対象がミゼルだとゼノアは思った。
「勘違いしないでくれ。護衛対象はグメスの魔女ことリネスだよ」
ゼノアとバーレミシアは唖然とした。
「アードラ氏との話合いにより、彼女と面会し、今後の異変に対抗する打ち合わせの運びとなった。私は彼女の屋敷周辺の侵入者防止の術を改める役を担ってしまってね。その間、彼女の護衛を頼みたい」
「頼むって、魔女って言うぐらいだから、かなり強いんじゃないの?」バーレミシアが訊く。
「それは既に他界した彼女の姉と母親の事。彼女は器用な術を扱えはするがそれほど強くはない。ゼノア殿がいれば心強くてね」
「出来る事なら、こちらに泊まって頂ければ……訓練もあるし」
ジェイクを気にしている、と二人は察する。
「訓練の心配は不要だ。ジェイクは今日明日中に出かけるからね」
「え?」
事情は、ジェイクが使用する烙印の力に耐えうる武器の情報が入り、それを取りに向かうと教えられた。
「いいんじゃねぇの? ジェイクがいなけりゃ訓練も身が入んねぇだろ、姉貴」
「う、うるさい! 私はくだらん私情で訓練などしておらん!」
「ははは。どうあれ、頼みを聞き届けて頂きたい。リネスは私が好意を抱いている女性だからね」
突然の告白にゼノアは再び顔が赤らみ、バーレミシアは口笛を吹いた。
「――な、何を!?」
「堂々としてんじゃん。まさか、告白は?」
「初日で一目惚れしてね、既に気持ちは伝えたよ。反応はゼノア殿と同じようだったかなぁ……」
もう、顔が熱くなり、ゼノアは気が気でなく、オロオロしている。
「日にちは明日だ。頼んだよ」一方的に告げ、ミゼルは出て行った。
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