奇文修復師の弟子

赤星 治

文字の大きさ
上 下
63 / 66
六章 あの子をお願いします

10 エメリアの光

しおりを挟む

 戦況は一変した。

 モルドが斬りかかると、一新した威圧とギドの防衛本能を刺激するほどに脅威な奇文が剣から発した。
 ギドは剣で受け止めずに跳び退くことで回避。そしてモルドの追撃も躱し続けた。
 これでは埒が明かないとばかりにモルドは剣を杖に変え、黒紫色の球体を飛ばした。まるで幻想小説のような攻撃だが、その技は使い勝手が良かった。

 一つの球体を直進に発射。
 球体を砕いて散弾のように発射。
 躱された球体を操作して軌道変更。
 上空に飛ばして弾けさせ、雨のように降らせて攻撃。

 多種に渡る機能を備えているが、それでもギドはうまくあしらっている。無傷ではないが、致命傷にも至らない。
 本当に強い敵と理解しつつ、時間も持たないことを実感したモルドは次なる手に出た。

 両手を地面に当て、これから行おうとしている事を念じると、ギドを中心にあちこちの地面が黒紫色の円が出現した。その数二十。
(これじゃ足りない)
 モルドはギドへの警戒心から、更に円を増やした。合計四十。
(どうするね。加減を損なえば不利になるのは君だよ)
(うるさい黙ってろ!)
 ハーネックの横槍もあしらい、更に出現させた。合計で七十。

 モルドは次の命令を円に下すと、その一つ一つから黒紫色の縄がギド目掛けて伸びた。
 捕縛されると判断したギドは、迫ってくる一本一本の縄を剣で斬り続けた。
 一本ずつ、二本や三本同時。
 上空に跳んで迫る無数の縄に自らの奇文をぶつけて弾き飛ばす。
 地面に着地しても迫る縄を走って躱し、時に斬る。

 モルドは呼吸を乱し、捕縛しきれないもどかしさに焦りの色が見えた。

(手間取りすぎだ。経験の差は埋めれないようだ)
 ハーネックは痺れをきらせ、モルドの身体から外れた。すると、まるで糸の切れた操り人形の如く、モルドは足に力が入らず、崩れて倒れた。
「……な、に……を」
 モルドの声を聞かず、ハーネックは地面溶けるように消えた。

 事態の急変。
 ハーネックの別行動。
 ギドへの不安と恐怖。

 モルドは操作した縄がどうなったか、上体と頭を動かして事態を確認した。なぜか、縄はまだ動いている。
(あれはハーネックの仕業よ)
 エメリアの声が聞こえた。
 彼女の入った環具をポケットに入れていたことで、更にはハーネックが居なくなったことで再びモルドの身体へ憑いた。
(モルド君、大事なお願いがあるの、しっかりと覚えててね)

 満身創痍のモルドは、ギドとハーネックを他所に、エメリアの言葉に集中した。

 ◇◇◇◇◇

 着々と縄をあしらい続けるギドは、序盤よりも勢いの治まった縄の様子から、勝利を確信した。
「所詮、この程度か」
 疲弊はしているが、残りの縄を斬り終える体力は残っている。
 少し距離をとって呼吸を整えている時だった。

(――甘いよ)
 ハーネックの声が後ろから聞こえた。
 咄嗟にギドは剣でハーネックの胴を貫いた。

「これで幕だ。ハーネック」
「ああ、そうさせてもらうよ」
 ハーネックを貫いた剣が抜けず、すかさず両手で右手を握られて剣も手放せない。
 縄全てがハーネックごとギドに纏わりついた。
「これで勝ったと思うなよハーネック」
「勝たせてもらおう。ここからが私の真骨頂なのだから」
 ギドも奇文を発生させて抵抗した。

 赤黒い奇文と黒紫色の奇文。双方が混ざり合ってどちらかを貪り合っている様に見える奇文同士の競り合いの最中、モルドがいる方から青い光が輝いた。

 ◇◇◇◇◇

(エメリアさん……何を)もう、声を出すのも疲れていた。
(私の奇文を戒詩同様の秘術に変えます)
(かいし?)
(浄化作用のある秘術の事。これから何が起こるか分からない。巨大な奇文同士がぶつかり合い、双方に反する秘術の性質となった私の奇文をぶつける。恐らく三人共無事では済まない)
(そんな……それじゃ、師匠やシャイナさんは……)
(もう、私に戻る身体は無いから。どの道、助かっても意味がないわ)
(でも、奇文の力はハーネックより……)

 弱い。と言わずとも、エメリアは気づいた。

(あいつの言葉を肯定するようで嫌だけど、どうやらモルド君の傍に居て私の奇文が活性化されて強くなった。もっと早く気づけばよかった。ギドの強力な攻撃を何度も受け止めれたのだから、強くなってた証拠よね。ハーネックが今まで憑いていた時、君の力と相殺されていくハーネック力が中和して、私は取り入れることが出来た。後、あの二人は余裕ぶってるけど消耗が激しい。一か八かだけど今なら二人を倒すことが出来る筈よ)

 モルドは、周囲が眩しく青白い光に満ちた時、自分の前に跪いて頭を撫でる女性を見た。
 穏やかな、シャイナに似たエメリアの姿。

「モルド君、デビッドとシャイナの事、よろしくね」
 告げると、エメリアは立ち上がり、ハーネックとギドの所へ向かった。
「……ま、……まっ……て」

 周囲の光が眩しく発光し、モルドは目を閉じた。続けて暴風により彼方へ飛ばされた。

 ◇◇◇◇◇

 光を確認したギドとハーネックは、迫ってくる光の波に抵抗しようと奇文を向けた。

「くっ、エメリア=ホークスか!」
「小癪な女だ」
 ギドとハーネックは迫る光に抗った。
「私と共に消えてもらうわよ」

 迫る光の波は、二人諸共飲み込み、三色が混ざった光がこの世界全土に、瞬く間に広がった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

烙印騎士と四十四番目の神

赤星 治
ファンタジー
生前、神官の策に嵌り王命で処刑された第三騎士団長・ジェイク=シュバルトは、意図せず転生してしまう。 ジェイクを転生させた女神・ベルメアから、神昇格試練の話を聞かされるのだが、理解の追いつかない状況でベルメアが絶望してしまう蛮行を繰り広げる。 神官への恨みを晴らす事を目的とするジェイクと、試練達成を決意するベルメア。 一人と一柱の前途多難、堅忍不抜の物語。 【【低閲覧数覚悟の報告!!!】】 本作は、異世界転生ものではありますが、 ・転生先で順風満帆ライフ ・楽々難所攻略 ・主人公ハーレム展開 ・序盤から最強設定 ・RPGで登場する定番モンスターはいない  といった上記の異世界転生モノ設定はございませんのでご了承ください。 ※【訂正】二週間に数話投稿に変更致しましたm(_ _)m

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

温泉地の謎 25 完

asabato
大衆娯楽
可笑しな行動を求めて・・桃子41歳が可笑しなことに興味を持っていると、同じようなことで笑っているお父さんが見せてくれたノートに共感。可笑しなことに遭遇して物語が始まっていきます。

処理中です...