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三章 揺れ動く感情と消える記憶
3 主と弟子と使用人。時々スノーの日常(前編)・モルドの心労
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モルドは白波の立つ浜辺にいた。
風は強く、空には分厚く感じる灰色の雲の塊が、千切れてが点在して漂っている。
今朝から短時間、時々粉雪が降っては止みを繰り返している。
そんな日の午後三時の事。
激しく波打つ海は、足を踏み入れた者を飲みこみそうな印象を抱かせるほどの恐怖と凄みある迫力を与えている。
シャイナと修復作業を終えた翌日となる今日、モルドは頭を抱えていた。悩みの原因は他ならぬスノーである。
運が良いのか、スノー自身がそのような種族なのかは不明だが、とりあえずはシャイナから責められる事態は起きないでいる。
しかしである。
空間浸食の一件からモルドの身に憑いてホークス家へと来たのなら、モルド予想では今まで行った修復作業現場にも訪れている筈。
デビッドがいない時に現れた理由は不明だが、今後、デビッドの前に現れる考えるなら、その事情を説明しなければならないし、それでデビッドは信じてくれるかどうかが分からない。
この仕事を長年してきた者は、何かしらの勘や考察力、推測力が高い。
デビッドはモルドの中の序列ではかなりの上位に位置し、スノーの存在にきっと感づいてしまうと思っている。
モルドの一番困っている事は、スノーを消される事だ。
けして惚れたのでも興味を抱いた訳でもない。
説明は出来ないが、モルドの勘が彼女を消される事を望んでいない。
何かが起きるから怖いのではなく、彼女を強制的に失う事自体がデビッドとシャイナの為にならない。
そんな漠然で、誰が聞いても『余計なお世話』と声を揃えて言ってきそうな理由からである。
(あー、悩み全てがこの波に飲まれて消えてしまえばいいのに)
思いつつ、迫力ある幻想的な海を眺めた。
二十日後。
モルドは同じ場所に座り、奇跡的にも同じ天候、強風、粉雪であり、時間も午後三時だ。
前回同様、呆然と白波立つ海を眺めていたが、今日思っている事は少し違っている。
ただ、『疲れた』である。
けして自殺をしようとしているのではない。
前回から今日まで修復作業を行った回数は八回。デビッドとは六回、シャイナとは二回。
今までデビッドの時にスノーが出てこなかったので少し気を緩めていたのだが、どうしても作品世界に入ると、デビッドの目を盗んでスノーを探してしまった。
二作目までは出なかったので、三作目は完全に『スノーはデビッドの時は出ない』と高を括っていた。しかしその三回目でスノーはデビッドの死角からひょっこりと顔を出して、モルドに自分の存在を示した。
デビッドと別れた時などは、しっかりモルドの前に現れ、デビッドの気配を感じると他所へ消えた。
これが毎回続けられたが、もっと大変なのはシャイナと共に仕事をしている時である。
初回同様、シャイナはスノーを見ると何故か機嫌が悪くなり、さらに何故か記憶も戻る。
そんなシャイナが好きなのか、スノーは何度も懲りずに話しかけていく。
ただ、こんな時に不謹慎なのだが、シャイナは怒っている時も敬語を続け、粗末な態度にならないことにモルドは感心していた。
そう思えるのも、一仕事終えた後の、気持ちにゆとりある時だけなのだが。
そんなこんなで、修復作業の殆どをデビッドとシャイナが完結させ、モルドはスノーの相手をする羽目になっていた。
「なあモルド。早く一人前になりたかったら、少しは謎解きに励まないと、成長が遅れるぞ」
今朝、デビッドに言われた言葉が心に突き刺さったままである。
誰にも打ち明けれない苦労を背負い、モルドはここにいる。
「あー、言っちゃおっかなぁ」
呟きは風にかき消された。
その日、海を眺めていたモルドは決心を固めた。
◇◇◇◇◇
二月も半ばを過ぎた、まだまだ肌が痛くなるほどに寒い頃。
デビッドは修復しようと入った世界で変なモノと対面した。
「師匠! 見えますよね。ええ、その顔は絶対見えてる顔です。はい。こちらが前から言ってたスノーさんです。人型の奇文らしいです!」
モルドが興奮して紹介する人物。……なのだが、デビッドには違って見えていた。
真っ黒い人型の輪郭を保った物体。そのようにデビッドには見えた。よく見たら、指や髪の毛など、細かい所も輪郭ははっきりしている。
何故か右手を振り、女性らしい仕草もちらつかせている。身体が横を向くと、ほんのりと膨らみのある胸部が認識でき、列記とした女性だろうと分かる。
なぜこのような化物染みた存在をモルドが紹介したのかというと、それは五日前に遡る。
「さて、では話してもらおうか。最近、まるで修復作業に身が入ってない理由を」
そうデビッドが切りだし、シャイナも心配そうにモルドの修復活動に苦言を優しく告げた。
「えっと、実は……あの、信じてもらえるか分からず、話せなかったんですが」
「話す前から信じる信じないの話をするものではない。なにより、これはお前の弟子としての意識をはっきりさせる話だ。なんでも話すべきだと思うが?」
真剣なデビッドは珍しく、本当に怒っているのだとは分かる。
きっと、デビッドはモルドがどれだけ言い訳しても説き伏せる自身があって言っているのだと、モルドは分かっている。
しかしこのままだと信じてもらえず、不信がられたまま破門を言い渡されると思い、モルドは目を瞑って大きく呼吸し、覚悟を決めた。
「では。……以前、空間浸食の中に入った時、人の形をした奇文の女性と会いました」
デビッドの眉が反応するもモルドは続けた。
「何故か僕に憑いて来たみたいで、修復の合間に現れたり、シャイナさんの時はしっかりシャイナさんと話しています」
デビッドが聞くも、シャイナは頭を振って知らないと返した。彼女の言う事なのだから、デビッドは素直に信じた。
シャイナも本当に知らない風である。
「何故か作品世界では覚えてますが、シャイナさんは現実世界へ戻ると忘れてます。だから説明しようにも証明できないから迷ってました」
デビッドは腕を組み、深くため息を吐いた。
「で? その女性は、どうして俺の前には現れない? それとも、もう現れた後なのかな?」
「どういう訳か、師匠の前には姿を出しません。師匠と修復作業に入った時訊いたら、どういう訳か、相手も動揺してました」
紛れもない言い訳。
”子供が言うような嘘の話を、まさかモルドがするとは思わなかった”
デビッドとシャイナはそのように思っている。
朝は早く起き、寒くても薪割りはしっかり熟し、家事も買い出しも行う。弟子として修復作業の準備や客人の対応も熟す。
そんなモルドが、まさかこんな事を言うとは思えなかった。
けど、一概にそうと決めつけることも出来ない。
これ程真面目一直線な青年が、そんな嘘を吐いて修復作業をサボるとは思えない。好きで入ったのなら、疲れてサボるのは日常生活の作業の可能性が高い。
残念と思うか。
信じられない話を受け入れるか。
暫く続く重い沈黙の中、デビッドは葛藤していた。もし間違えた判断を下すと、モルドを酷く傷つけるか、分かりやすい嘘を信じる師匠と思われるか。どちらかである。
「……シャイナ、次の修復作業はいつだ?」
「えっと、五日後です」
「よし。じゃあ、最初にシャイナとモルドの二人で作品の中へ入り、そのスノーという女性と話を付け、俺の前に現れるように説得してもらおう」
モルドは、「え?」と返した。
「お前の話通りならシャイナの前には現れるんだろ? 話が通じるならなんとかしてみせろ。もし嘘だと判明した場合、少々厳しい罰を与えるから覚悟してもらおうか」
仕方ない。そうするほか手は無かった。
出来るか出来ないか分からないが、一か八かの勝負にモルドは出る覚悟を決めた。
そして作戦当日。
デビッドの読み通り、シャイナと作品世界に入ると、いつも通り陽気な態度でスノーが現れた。
「やっほー。あれ? どうしたの二人共、今日は結構神妙な顔しちゃって」
モルドが事情を説明しようとすると、怒りを滲ませた真顔のシャイナがスノーと向かい合った。
「スノーさんこれから、デビッド様と会って頂きます」
「え、ええ~?」スノーは他所を見て惚けた。「なんで?」
モルドが割って入ろうとすると、シャイナがまさかの発言を堂々と言った。
「モルド君が破門されるからです」
その衝撃はモルドとスノー、両方に走った。しかし、二人の感じたものはまるで別である。
モルドは、まさかシャイナがこんな大胆な嘘を堂々と言うとは思えなかった。
スノーは、自分のせいで気に入っているモルドが被害を被り、二度と会えない状態になってしまう事にである。
言葉を失った彼女に、シャイナは畳掛けた。
「貴女と話している事でモルド君の仕事が疎かになりました。いよいよデビッド様が目に余るモルド君のサボり癖を正そうとしました。しかし、その原因である貴女の存在があまりに曖昧すぎ、信じがたいため、子供の嘘のように思われてしまいました」
「ちょっとぉ。モルド君、しっかり真面目に修復作業はやってるわよ」
「だから何でしょう」
シャイナは目を見開いた。
スノーは威圧に黙り、モルドも怖くなった。
「疑念しか残らないサボり癖を偽りと言い張るのでしたら、その証拠を提示しなければなりません。それが世の常です。……あれ?」首をかしげ、じっとスノーを見た。「モルド君の証拠となるモノは、貴女ですよね? なら、貴女がデビッド様の前に出なければならないのではないですか?」
「……そ、それは……」
「それは? 何ですか?」
シャイナの容赦ない攻勢の様子は、恐怖を感じずにはいられない。
「断言します。貴女がデビッド様の前に現れないと仰るなら……私が貴女を潰しますよ」
この言葉がトドメとなり、スノーは折れた。
現実世界では記憶を無くして一切味方にならないシャイナもこうなっては、かなり頼り甲斐のある存在となった。
そして、デビッドはスノーと対面を果たした。
「師匠、信じてくれますよね! いや、もう信じ切ってますよねぇ!」
眼前の黒い存在に困惑するデビッドに、ここぞとばかりにモルドは訴えた。
余程この事で悩んでいたのだと伺える。
デビッドは環具を煙管に変え、一息吐いた。
「……とりあえず今日は戻ろうか」
モルドの意見も、スノーの反応も待たず、デビッドは現実世界へ戻った。
モルドの抱えていた最後の不安、デビッドも現実世界ではスノーの事を忘れているのではと思っていたが、それは見事に杞憂となった。
スノーの存在に頭を悩ましていたデビッドは、モルドの意見を信じた。
ようやく、モルドの誤解は解かれた。
風は強く、空には分厚く感じる灰色の雲の塊が、千切れてが点在して漂っている。
今朝から短時間、時々粉雪が降っては止みを繰り返している。
そんな日の午後三時の事。
激しく波打つ海は、足を踏み入れた者を飲みこみそうな印象を抱かせるほどの恐怖と凄みある迫力を与えている。
シャイナと修復作業を終えた翌日となる今日、モルドは頭を抱えていた。悩みの原因は他ならぬスノーである。
運が良いのか、スノー自身がそのような種族なのかは不明だが、とりあえずはシャイナから責められる事態は起きないでいる。
しかしである。
空間浸食の一件からモルドの身に憑いてホークス家へと来たのなら、モルド予想では今まで行った修復作業現場にも訪れている筈。
デビッドがいない時に現れた理由は不明だが、今後、デビッドの前に現れる考えるなら、その事情を説明しなければならないし、それでデビッドは信じてくれるかどうかが分からない。
この仕事を長年してきた者は、何かしらの勘や考察力、推測力が高い。
デビッドはモルドの中の序列ではかなりの上位に位置し、スノーの存在にきっと感づいてしまうと思っている。
モルドの一番困っている事は、スノーを消される事だ。
けして惚れたのでも興味を抱いた訳でもない。
説明は出来ないが、モルドの勘が彼女を消される事を望んでいない。
何かが起きるから怖いのではなく、彼女を強制的に失う事自体がデビッドとシャイナの為にならない。
そんな漠然で、誰が聞いても『余計なお世話』と声を揃えて言ってきそうな理由からである。
(あー、悩み全てがこの波に飲まれて消えてしまえばいいのに)
思いつつ、迫力ある幻想的な海を眺めた。
二十日後。
モルドは同じ場所に座り、奇跡的にも同じ天候、強風、粉雪であり、時間も午後三時だ。
前回同様、呆然と白波立つ海を眺めていたが、今日思っている事は少し違っている。
ただ、『疲れた』である。
けして自殺をしようとしているのではない。
前回から今日まで修復作業を行った回数は八回。デビッドとは六回、シャイナとは二回。
今までデビッドの時にスノーが出てこなかったので少し気を緩めていたのだが、どうしても作品世界に入ると、デビッドの目を盗んでスノーを探してしまった。
二作目までは出なかったので、三作目は完全に『スノーはデビッドの時は出ない』と高を括っていた。しかしその三回目でスノーはデビッドの死角からひょっこりと顔を出して、モルドに自分の存在を示した。
デビッドと別れた時などは、しっかりモルドの前に現れ、デビッドの気配を感じると他所へ消えた。
これが毎回続けられたが、もっと大変なのはシャイナと共に仕事をしている時である。
初回同様、シャイナはスノーを見ると何故か機嫌が悪くなり、さらに何故か記憶も戻る。
そんなシャイナが好きなのか、スノーは何度も懲りずに話しかけていく。
ただ、こんな時に不謹慎なのだが、シャイナは怒っている時も敬語を続け、粗末な態度にならないことにモルドは感心していた。
そう思えるのも、一仕事終えた後の、気持ちにゆとりある時だけなのだが。
そんなこんなで、修復作業の殆どをデビッドとシャイナが完結させ、モルドはスノーの相手をする羽目になっていた。
「なあモルド。早く一人前になりたかったら、少しは謎解きに励まないと、成長が遅れるぞ」
今朝、デビッドに言われた言葉が心に突き刺さったままである。
誰にも打ち明けれない苦労を背負い、モルドはここにいる。
「あー、言っちゃおっかなぁ」
呟きは風にかき消された。
その日、海を眺めていたモルドは決心を固めた。
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二月も半ばを過ぎた、まだまだ肌が痛くなるほどに寒い頃。
デビッドは修復しようと入った世界で変なモノと対面した。
「師匠! 見えますよね。ええ、その顔は絶対見えてる顔です。はい。こちらが前から言ってたスノーさんです。人型の奇文らしいです!」
モルドが興奮して紹介する人物。……なのだが、デビッドには違って見えていた。
真っ黒い人型の輪郭を保った物体。そのようにデビッドには見えた。よく見たら、指や髪の毛など、細かい所も輪郭ははっきりしている。
何故か右手を振り、女性らしい仕草もちらつかせている。身体が横を向くと、ほんのりと膨らみのある胸部が認識でき、列記とした女性だろうと分かる。
なぜこのような化物染みた存在をモルドが紹介したのかというと、それは五日前に遡る。
「さて、では話してもらおうか。最近、まるで修復作業に身が入ってない理由を」
そうデビッドが切りだし、シャイナも心配そうにモルドの修復活動に苦言を優しく告げた。
「えっと、実は……あの、信じてもらえるか分からず、話せなかったんですが」
「話す前から信じる信じないの話をするものではない。なにより、これはお前の弟子としての意識をはっきりさせる話だ。なんでも話すべきだと思うが?」
真剣なデビッドは珍しく、本当に怒っているのだとは分かる。
きっと、デビッドはモルドがどれだけ言い訳しても説き伏せる自身があって言っているのだと、モルドは分かっている。
しかしこのままだと信じてもらえず、不信がられたまま破門を言い渡されると思い、モルドは目を瞑って大きく呼吸し、覚悟を決めた。
「では。……以前、空間浸食の中に入った時、人の形をした奇文の女性と会いました」
デビッドの眉が反応するもモルドは続けた。
「何故か僕に憑いて来たみたいで、修復の合間に現れたり、シャイナさんの時はしっかりシャイナさんと話しています」
デビッドが聞くも、シャイナは頭を振って知らないと返した。彼女の言う事なのだから、デビッドは素直に信じた。
シャイナも本当に知らない風である。
「何故か作品世界では覚えてますが、シャイナさんは現実世界へ戻ると忘れてます。だから説明しようにも証明できないから迷ってました」
デビッドは腕を組み、深くため息を吐いた。
「で? その女性は、どうして俺の前には現れない? それとも、もう現れた後なのかな?」
「どういう訳か、師匠の前には姿を出しません。師匠と修復作業に入った時訊いたら、どういう訳か、相手も動揺してました」
紛れもない言い訳。
”子供が言うような嘘の話を、まさかモルドがするとは思わなかった”
デビッドとシャイナはそのように思っている。
朝は早く起き、寒くても薪割りはしっかり熟し、家事も買い出しも行う。弟子として修復作業の準備や客人の対応も熟す。
そんなモルドが、まさかこんな事を言うとは思えなかった。
けど、一概にそうと決めつけることも出来ない。
これ程真面目一直線な青年が、そんな嘘を吐いて修復作業をサボるとは思えない。好きで入ったのなら、疲れてサボるのは日常生活の作業の可能性が高い。
残念と思うか。
信じられない話を受け入れるか。
暫く続く重い沈黙の中、デビッドは葛藤していた。もし間違えた判断を下すと、モルドを酷く傷つけるか、分かりやすい嘘を信じる師匠と思われるか。どちらかである。
「……シャイナ、次の修復作業はいつだ?」
「えっと、五日後です」
「よし。じゃあ、最初にシャイナとモルドの二人で作品の中へ入り、そのスノーという女性と話を付け、俺の前に現れるように説得してもらおう」
モルドは、「え?」と返した。
「お前の話通りならシャイナの前には現れるんだろ? 話が通じるならなんとかしてみせろ。もし嘘だと判明した場合、少々厳しい罰を与えるから覚悟してもらおうか」
仕方ない。そうするほか手は無かった。
出来るか出来ないか分からないが、一か八かの勝負にモルドは出る覚悟を決めた。
そして作戦当日。
デビッドの読み通り、シャイナと作品世界に入ると、いつも通り陽気な態度でスノーが現れた。
「やっほー。あれ? どうしたの二人共、今日は結構神妙な顔しちゃって」
モルドが事情を説明しようとすると、怒りを滲ませた真顔のシャイナがスノーと向かい合った。
「スノーさんこれから、デビッド様と会って頂きます」
「え、ええ~?」スノーは他所を見て惚けた。「なんで?」
モルドが割って入ろうとすると、シャイナがまさかの発言を堂々と言った。
「モルド君が破門されるからです」
その衝撃はモルドとスノー、両方に走った。しかし、二人の感じたものはまるで別である。
モルドは、まさかシャイナがこんな大胆な嘘を堂々と言うとは思えなかった。
スノーは、自分のせいで気に入っているモルドが被害を被り、二度と会えない状態になってしまう事にである。
言葉を失った彼女に、シャイナは畳掛けた。
「貴女と話している事でモルド君の仕事が疎かになりました。いよいよデビッド様が目に余るモルド君のサボり癖を正そうとしました。しかし、その原因である貴女の存在があまりに曖昧すぎ、信じがたいため、子供の嘘のように思われてしまいました」
「ちょっとぉ。モルド君、しっかり真面目に修復作業はやってるわよ」
「だから何でしょう」
シャイナは目を見開いた。
スノーは威圧に黙り、モルドも怖くなった。
「疑念しか残らないサボり癖を偽りと言い張るのでしたら、その証拠を提示しなければなりません。それが世の常です。……あれ?」首をかしげ、じっとスノーを見た。「モルド君の証拠となるモノは、貴女ですよね? なら、貴女がデビッド様の前に出なければならないのではないですか?」
「……そ、それは……」
「それは? 何ですか?」
シャイナの容赦ない攻勢の様子は、恐怖を感じずにはいられない。
「断言します。貴女がデビッド様の前に現れないと仰るなら……私が貴女を潰しますよ」
この言葉がトドメとなり、スノーは折れた。
現実世界では記憶を無くして一切味方にならないシャイナもこうなっては、かなり頼り甲斐のある存在となった。
そして、デビッドはスノーと対面を果たした。
「師匠、信じてくれますよね! いや、もう信じ切ってますよねぇ!」
眼前の黒い存在に困惑するデビッドに、ここぞとばかりにモルドは訴えた。
余程この事で悩んでいたのだと伺える。
デビッドは環具を煙管に変え、一息吐いた。
「……とりあえず今日は戻ろうか」
モルドの意見も、スノーの反応も待たず、デビッドは現実世界へ戻った。
モルドの抱えていた最後の不安、デビッドも現実世界ではスノーの事を忘れているのではと思っていたが、それは見事に杞憂となった。
スノーの存在に頭を悩ましていたデビッドは、モルドの意見を信じた。
ようやく、モルドの誤解は解かれた。
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