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四章 伝説の戦士との出会い

Ⅷ ゲダの遺跡の石板

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 ミゼルと別れた後、ビンセント達はレイデル王国へは戻らずにベイストスの町へと向かった。
 ベイストス自体は極々普通の町だが、近くの山岳遺跡にルバートの探究心をくすぐるものがある。
 山岳遺跡・ゲダ。
『なぜここまで巨大な王宮を拵えたのか?』
 という疑問が多くの考古学者の口から漏れる程、巨大な宮殿を山岳内に存在する。異名として『巨人の住処』と称される遺跡だ。

「この町を待ち合わせにした理由は遺跡見物か? 確か、巨人の……なんだ? 宮殿……だったか?」
 この地の魔力の性質が澄み切っているのが原因か、定かでないがビンセントの眠り落ちる状態も鎮まっている。
「巨人の住処だが、まあ異名などどうでもいい。術師の力を借りながらと考えるなら、遙か昔の先人でも建造出来たのだろうし、俺様も知らん何かが存在したのかもしれん。それよりも遺跡内部に気になるモノがあってな、俺様がまだ人間だった頃に”発見された”と細やかな噂程度のものでな。ソレを見たくなった。分かりやすい場所だから奴との再会にはうってつけだろ」
「分かりやすいなら砂漠の国境や、レイデル王国にすればいいだろ」
「俺様の探究心を優先するのが常識だろ」
 そんな常識がいつ存在したのかと、ビンセントは呆れて何も言えない。

 ゲダへ入るには許可証が必要であり、ベイストスの町で申請しなければならない。
 遺跡はベイストスの観光名所の一つでもあり、春から秋までは客が多くて入れないのだが、今は秋の終わり、山岳の半分以上は雪で白く染まっている時期が幸いしていた。

「運が良いねあんた達、ちょうど閑散期になりかけだから、待ち期間はそんなにかからないよ」
 役人が言うも、申請には十日ほど要する。閑散期の今は入山許可日から八日ほどは融通が利く。
 ビンセントはミゼルの分も含めて入山許可申請の手続きを行った。役人からの忠告として、行けなくなった場合の料金払い戻しは無いと告げられる。
 申請を終え、宿へ戻ったビンセントは、早速暖炉の火に向かって手を翳して暖まった。
「さっぶぅぅぅ……。昨日との気温差がありすぎるだろ」
「麓だが一応は標高がそれなりに高いからな。加えて風の通りも良い地形だ。仕方ない」
 今更ながら、ビンセントはルバートの衣服に疑問を抱いた。
「お前、その服、何処で買ってきたんだ?」

 今までと違う服を着ているが、ビンセントが気付いていないだけでルバートは衣服を度々変えている。その変化が微々たるもので、ビンセントが気付かないのは無理もない。
「なぜ俺様が買い換えなければならん。こういった身体だからな、魔力と想像力で衣装替えなど容易だ」
 試しに目の前で換えてみると、ビンセントは「おぉ~」と感心の声を漏らす。
「安上がりでいいな」
「この程度の事は憧れるものではないぞ。だが生身と違って出来る事も限られている。お前さんは食い物を味わえるし四季折々の空気を無理なく感じやすいだろ」
 言われてみれば、ルバートはこの身体で食事をした事がない。
 実体が魔力によるものだから仕方ないのだが、幽霊と変わりない存在であると、改めて気付かされる。

「……ところで、遺跡にある”何か”って何だ?」
 気まずいビンセントは無理やり話を変えた。
「ミングゼイスの石板。……と言っても知らんのだろ」
 案の定、知らないと即答された。
 古代人が石板を掘って記したとされる、歴史書であり、詩であり、預言書であり、指南書。内容は様々だが歴史的価値の高い石板として、各国では厳重に保管されている。
「ベイストスでは何処までのモノが記されてるかは分からんが、気になって仕方ないだけだ」
 本当にルバート中心の考えであった。


 数日後、ミゼルと合流したルバートはゲダへと足を踏み入れた。再会して翌日のことで、ビンセントも目を覚ましている。
「一つ気がかりなのだが、ビンセント殿の中へ入れば入山許可は一人分で済むのではないかね?」
 ミゼルがルバートに訊いた。
「そうすると魔力の質が著しく変化し、見張りの兵に勘ぐられる。この状態でも異様だろうが、姿を出している方が魔力の性質変化が容易でな。それに金ならいくらでもある」
 今まで貯めた金をビンセントはあまり手を付けていない。倹約と節約する精神がそうさせている。
「まるで金持ちのように言うがな、金はそんなに無いぞ」
 貧乏性の現れか、そう口走ってしまう。
「お前さんはもう少し金回りを良くする行動を心がけろ。英雄なら稼いだ大金を豪快に使い世のために尽力する事も必要だぞ」
「余計なお世話だ」

 雑談していると、いよいよミングゼイスの遺跡が安置されている部屋へと訪れた。

「いやはや……これは壮観」
 部屋は闘技場のように広く壁も高く天井は無い、円筒状の部屋。風も吹き抜けて気持ちを清々しくさせる。
 壁には合計四つの通路が壁伝いに設けられ、所々に穴がある。通路へ続く階段も、広く等間隔に設けられている。
 ミゼルの感心を大いに引く程に、壁の至る所に巨大な何かを描いた彫刻がある。
「彫刻は何が彫られているか不明。調査中というところだろうな」
 ルバートは分析後、部屋の中央に置かれている石盤へと向かった。
「いや、寒すぎる。早く石板を見て出よう」
 ビンセントは遺跡の魅力より、ただただ寒い状況から逃れたい一心である。
「無粋だぞビンセント。少しは古代の芸術を堪能する欲望をもってはどうだ」
「う、うるさい。もう少し温かくなってから堪能する」

 この場において、遺跡を堪能しているのはルバートとミゼル。魔女とガーディアンという、生身の人間ですらない存在というのも虚しいものだ。
 ミゼルが部屋を見回っていると、石板を見つめている二人が言葉を絶っているのが気がかりであった。

「……どうしたね? 軽口のやり合いも終了……」
 近寄り、二人の神妙な表情を見て、事態を察したミゼルは、二人と同じ位置から石板を見た。
「……これはまた、奇妙なものだ」

 三人の気持ちを表わすかのように、入り口から強い風が流れ、天高く吹き抜けた。
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