烙印騎士と四十四番目の神・Ⅰ 転生者と英雄編 

赤星 治

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四章 伝説の戦士との出会い

Ⅱ 精霊の予言

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 八日後の明朝。
 ビンセントは、「森林神殿へ向かうように」 とアンセンから指示され馬車で向かっていた。

(右手に魔力、左手に気功を……そうだ。この感覚だ)
 車内でビンセントはルバートから教えられた、魔力を扱う修行のような治療を行っている。
 左右の手に別々の力を纏わせることで体内の力を分離し、ゆっくりと時計回りに体内へ流して馴染ませる方法だ。術師の修行にも用いられているが、方法はかなり緩和されている。
 本格的な術師の修行では、両手に力を集める際に凝縮し体内へ流すには糸のように細くした力を時計回りに流し続ける。難易度から上級者向けだ。
 ビンセントはルバートが主導権を握った状態で治療を実践しているのを感覚で掴み、それを自らが行っている。 
 魔術はからっきしでも気功は扱えるので魔力を動かせるのには苦労するも、二日がかりでぎこちないが出来るようになった。
(よし。時計回りを意識して流せ)
 指示され、ゆっくりと両方の力を流そうと試みるも、二つの力が合わさり、一周回る頃に集中が切れて力が分散する。体力の消耗具合もかなり激しかった。
「ーーはぁ、はぁ、はぁ……」
 前屈みにビンセントが呼吸を乱すと、斜め向かいの席にルバートが姿を現した。

「これ、本当に効いてるのか? 疲れるだけで……全然治ってる……気が、しないぞ」
「これは術師界隈でも困難な修行の一つだ。かなり方法を緩めているが楽なものではない。それにお前さんは魔力操作がからっきしだった。短期間で体内へ移動させるだけでもかなりの上達と言って良い。順調に成長してる」
 ビンセントは気付いていないが、予想以上に成長している事をルバートは内心では驚いていた。しかし、気付かせず、変化と経過観察を優先しているため、平静を装い黙っている。
「けど大丈夫か? 結構しんどいし、魔力と気功をいじってると寝る間隔が長くなるんじゃないのか?」
「問題ない。この修行は体力を消耗して二つの力を動かすものでな、魔力と気功そのものは消費しない。そもそも、魔力と気功の波長がずれている要因のせいでお前さんの睡眠に異常をきたしているのだ。少しは力を動かす習慣さえつければ良い傾向に力が動く。とくにお前さんは魔力が全然使えんし気にもしなかったのに、あのような大技を使える時点おかしいのだぞ。少しは両方の力を自身で感じる習慣を付けろ。そうすれば色々気付く事もある」

 アンセンの診断でのことを思い出す。何か違和感を覚えていたのだが、ソレをようやく思い出した。

「そういえば、アンセン殿は診断の際に俺の中の何かに、魔力と気功を吸われていると言っていた。なら、お前はどうして無事なんだ?」
 今更、と思いつつもルバートは答えた。
「俺様は魔力の業を動力源としている。お前さんの中にある何かは業の力を吸わん性質であり、俺様と同調しやすい存在なのだろう」
「魔力と魔力の業は違うのか?」
「例えるなら真水と血液ぐらい違う。それよりも、今日は何をしに行くのだ? 目的地から、あの巫女が関係していそうだが」
「詳細は俺も知らん、ただ呼ばれただけだ。それより聞いたぞ。お前、グレミアと喧嘩してるそうだな。何をいがみ合ってるか知らないが仲良く出来ないのか?」
「それは誤解だ。俺様は何もしておらんし喧嘩というものでもない。あの女がやたら警戒しているだけのこと。それに馬も合わんだろうな」
「これから会っても喧嘩するなよ」
「しておらんと言ってるだろ。ほら、神殿に着いたぞ」
 これからどんな修羅場が待ち構えているか不安を抱きながらも、ビンセントに睡魔が襲い、到着前に寝入ってしまった。


「――という訳で、英雄探偵殿はご覧の通り熟睡中だ」
 森林の里・カネスへ到着したルバートは、ビンセントの容態をスビナに説明した。容態は、ルバートが憑いているビンセントの身体に巫術を用いて確認された。
「確かに嘘はついていないようですね。ではこちらへ」
「ほう。あの唱術師と違い、巫女殿は俺様への警戒心がないのか?」
「貴方も存じていらっしゃるとは思いますが、この森林は精霊の住処と言っても過言ではありません。貴方に邪悪な思惑があろうものなら即座に警戒させていただきますので。今は、貴方を受け入れているビンセントさんの意向を尊重しているだけです」
 ルバート自身が信用されていない理由を知ると、安心してスビナの後をついていった。
 里よりさらに奥へ進んだ所に、木彫りの椅子と机が設けられた台地のような所へ到着した。
「ん? 俺様と巫女殿だけか?」
「ええ。エベックさんは所用で一度リブリオスへ戻ると仰ってました。グレミアさんにはミルシェビスのビストという街へ向かって頂いてます。その道中、気になる動きを感じたので調査も兼ねてですが」
「一応、協力関係にあるなら詳細を知りたいのだが?」

 話そうかどうかスビナは迷うも、仕方ないとばかりにため息を吐いて答えた。

「エベックさんは本当に事情が分かりません。あの人、謎の多い人ですから」
「それはなんとなくだが俺様も同意だ」
 予想外の返答に、スビナは少し驚いた。
「グレミアさんの要件は、途中の異変は単なる気のよどみを感じたモノです。詳細を聞かれてもこちらが知りたいぐらいですので。ビストの件ですが、精霊のお告げにより、ガーディアンが現われる可能性が高いとされるものです」
「ほう。すでにガーディアンが召喚されているのか?」
「いいえ。あくまでも予言。精霊様には未来の魔力や気の流れを読む力が備わっています。それを度々教えて貰えるものではないのですが、今回は強く私の巫力が反応したためです。そして未知なる力を感じた場所がビスト。時期から、おそらくガーディアン様が現われるかと予想を結びつけただけですが」
 ルバートは視線を逸らして眉間を指で掻いて考えた。
「その未知なる魔力とやらは、全世界を対象に調べる事が出来るのか?」
「いいえ。それほど広くは無理です。レイデル王国とミルシェビス王国まで。巫力の祖が大精霊様の森ですので、レイデル国王もガニシェッド王国との国境付近から海沿いでは感知出来ません。そして未来の時期も一ヶ月前後が限界ですし、今回は偶然が重なっただけです。同時期に同質の魔力が全く別の場所で発覚していても、気付いてないのですから予測は出来なかったとなります」

 漠然とした予言。それを今後利用するには無理があるとルバートは判断した。

「それが何か?」
「そう怖い顔をするな。単なる興味本位で訊いただけのことだ。それより、俺様と英雄探偵殿を呼んだのは、何か理由があるのだろ?」
 本気で頼ろうか、スビナはやや迷い、間が空いた。
「……どうした?」
「いえ……気にしないでください」気を取り直して向かい合う。「貴方とビンセントさんには、レイデル王国とガニシェッド王国との国境付近。メース地方へ向かって頂きます」
「ほう、理由はガーディアンかな?」
「反応したのは感知出来るギリギリの所を微かにですが。それが消えたからガニシェッドか国境へ移動したのかも。先ほども申しましたが、ガーディアン様と断言は出来ません。未知なる魔力の正体を暴いていただき、もしもガーディアン様でしたら友好関係を築いて頂きます。予言では出現には五日から十日以内と出ています。お願い出来ますね」

 表情から疑われていると分かるも、ルバートは気にもとめなかった。
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