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三章 暒空魔術への想い
Ⅸ 大切な人のために
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光線が消え、グレミアの姿は跡形も無く消え去った。
初めて目の前で仲間が死ぬ姿を目の当たりにしたサラは脱力して腰が抜けてしまう。そして、過去に仲間を魔獣に喰われた場面とかぶるトウマは震えが止まらない。
「お前らしっかりしろ!!」
戦馴れしているジェイクが一喝するも、作戦前の意気込みを二人は戻せない。
”グレミアを一撃で葬る化け物がいる”
この事実から恐れを強め、身体が拒否反応の如く戦意を削ぐ。
「立て直せ! ミライザまで消えるぞ!」
「させるか雑魚共がぁぁ!!」
バイレンを中心に稲妻の柱に見える形状の魔力が十本、四方八方へ不規則な流れで広がった。
まだ身体強化が効いているジェイクは、サラを抱えて建物の影へ隠れて逃れた。しかしトウマに迫る稲妻は大きくて早く躱せない。咄嗟に奮い立った防衛本能からトウマは、反射的に両手を前に突き出し防壁を張る。だが、少しだけ抑えたものの呆気なく通過されてしまう。
「わああああ!!!」
稲妻がトウマを通り抜けると、衣服がやや焼けてボロボロになり、全身に焼けた痛みと痺れが走った。
(トウマ急いで治癒を)
ビィトラに急かされ、トウマはしゃがみ込んで治療に専念するも、睨みつけるバイレンの眼に圧され萎縮する。
「しぶとい羽虫が……」
両手をトウマに向けた。もう、トウマの思考は停止し、後は死を待つのみだと悟ってしまう。
「これで――なっ!?」
バイレンの全身が動かしにくくなり、再び化物の崩壊現象が再発した。
「なんだ!?」
トウマに目を向けるも、治療に専念していてこんな大技は使えない。何より、魔力量と性質から不可能。
ジェイクとサラを見るも、術を使用している素振りすら見せていない。やはり魔力量と性質上、不可能である。
もう、使える人物は一人しかいない。しかし、その人物は先ほど……。
どんな考えにくい憶測であれ、起きている事象を明確にするため、バイレンは白い魔力の塊を目当ての場所へ飛ばした。
何も無い所でぶつかって弾け飛ぶのを視認すると、風景と同化した壁が崩れて破片が散るのを見た。
「エル・カイロディア・ブウェイティルス・アイリグライス。セイネイル・ゲルティエレイシス……」
多少、衣服が傷んでいるグレミアが姿を現し、右手を天へ翳し敵を睨み付ける。
「グレミアさん!」
「……生きてた」
サラとトウマが声を掛けるも、気にも留めずに術を発生させた。
「魔誡唱術、ニル・ベイザ!」
手の平から円陣が出現すると同時にバイレンの足元から化物全体を包む円陣が出現し、半透明な光の柱が発生した。
「――があああぁぁ!!」
バイレンはなす術なく術をその身に受けた。だが、あまりにも術の効き目に決定的な手ごたえが無く、グレミアは焦りの色を表情に滲ませた。
(ベル、どうすればいい)
グレミアの様子から状況を読み取ったジェイクは頼りをベルメアへ委ねた。
(分からない。ただ、あの男からここまで強い力があるとは思えない。恐らく……)
それはミライザであり、この窮地を脱するにはミライザを仕留めるほか手は浮かばない。
トウマは瀕死、サラも魔力消費が激しく長引かせると危険、グレミアも拮抗している。
「サラ、ありったけの魔力で俺に防壁をかけろ」
「え?」
「早くしろ!」
急かされ、サラは自分に出来る魔術でジェイクの全身に防壁を張り、魔力を大量に注いで強度を増した。
(何するのジェイク!)
(賭けだ! あいつを起こすぞ)
ジェイクは走り出し、周囲の瓦礫や化け物の身体を踏み台にしてミライザの傍まで向かった。渾身の一撃でミライザの傍に切っ先を突き刺した。
「起きろミライザ! てめぇこのままくたばる気か!」
グレミアの術とバイレンの反発力の狭間で、ジェイクも身体に影響を及ぼした。
「――ぐっ!」
(早く離れて!)
ベルメアの忠告を無視し、更に叫んだ。
「てめぇの願いはそんなもんかぁ! 何かやる事あんだろうが! せっかく生き返ったなら意地でもやり通せぇぇ!!」
さすがに耐え切れず、もう限界に達したと思われた途端、突き刺した切っ先がまるで硫酸で溶けたように折れ、ジェイクは地面に落ちた。
着地して、渾身の思いで後ろへ跳ぶも、それ程遠くへは行けなかった。しかも動けない。
このままバイレンが動き出せばジェイクは真っ先に殺されてもしかたない。
長引く窮地のなか、更にグレミアは魔力を込めて足止めしつつ、挽回の手を考え続けた。
◇◇◇◇◇◇
「論文発表おめでとう、賢師様」
男が笑顔でミライザに告げた。
「やめてよダン。賢師なんて在って無いような称号でしょ? それに」
ミライザは口調を強め、人差指を揺すって強調した。
「論文の大半は貴方の研究成果で、人前に出るの嫌だって貴方言ったから、私が変わったのよ」
「ははは。ごめんごめん。ミラには感謝しても足りないよ」
ミライザは先行きの不安を考えると溜息が漏れた。
本来、賢師称号を取得するに値する者はダン=オルクスである。しかし目立つことを好まない性格と、騒がれつつ研究する事を拒み、ミライザに研究成果の発表を代わってもらった。
「少しは天才について行く凡人の気持ちも分かってほしいわ」
「君だって天才だろ。現存する暒空魔術の原理をすぐに理解できるのは並みの術師じゃないよ。努力して至った天才だ」
苛立ちをひた隠しつつも、ミライザは微笑みを浮かべる。
「それも出来て新術の開発を幾つも行ってるダンに言われても、嬉しくないのだけど」
ダンは苦笑いでミライザを宥め、発表した論文を手に取った。
「ようやくよね。貴方の目指す暒空魔術は既存の概念を悉く打ち砕いている筈よ」
「まだまださ。暗殺や虐殺に使用されてた、忌むべき魔術である暒空魔術の在り方を180度別物として広めるのは。邪魔立てする連中だっているだろうし」
ダン=オルクスには夢があった。それは暒空魔術が本来あり得た形に戻す事。
暒空魔術は他者を別空間へ送る事が出来る魔術である。しかしその一部だけが目立ち、戦時中は優遇され、多用された魔術である。現在では禁術とまでは行かないまでも、使用するだけで偏見を持たれても仕方ない状態だ。
ダンの住む森林内の村では神聖な魔術として暒空魔術の正しい在り方を護っていた。だが戦争における暒空魔術の悪評が森林の村へと影響を及ぼし焼き滅ぼされた。残された数人の守り人たちが散り散りになりつつも暒空魔術の正しい在り方を残し、終戦後に証明しようと躍起になっている。戦争の少ない国、ミルシェビスで地道に研究に励んだ。
ミライザは元々暒空魔術の歴史を調べる考古学者を目指していたが、ダンとの出会いにより暒空魔術を知る側へと回り研究の手伝いをしてきた。そして、いつしかミライザの中でダン=オルクスを愛おしく思う感情が芽生えていた。
「ミラ、まだまだ苦労ばかり掛けてしまうけど、協力してくれるかい?」
「ええ。賢師なのだから当然でしょ」
本心を隠しながら、ミライザはダンと研究出来る事に喜び、その些細な喜びに満足していた。
二か月前、賢師としてある町へ訪れた際、魔獣の群れを率いる白衣姿の男に襲われてしまい瀕死の重傷を負う。命からがら逃げ延びたが、所持している首飾りの影響が弱った身体に影響を及ぼしてしまい魔力が完全に尽きてしまった。
やがて、逃げ延びた先の地で魔女の塔から垂れ流れた魔力に侵されて命を落とした。
目覚めると、魔女もどきの支配により抗う事が出来ない状態で生き返る。
”絶対服従の縛り”の中、内心で必ず研究に必要な首飾りをダンに届けると誓い、虎視眈々と考えを巡らせていた。
今、ミライザは、ダンと共に研究に励んでいた楽しかった光景を眺めている。
昔の笑い合いながら研究する、眩しすぎる幸せな光景に、傍観しているミライザの目から涙が溢れ出た。
もう戻れない。
自分の行き着く先は確実な”死”。時間もあまりない。
どれだけ足掻いても、もう間もなく死ぬ。
もう二度と、この幸せな時へは戻れない。
「……――きろ! ミラ――……」
涙ながらに傍観する彼女の耳に声が聞こえた。誰かはすぐに分かる。
「……――せっかく生き返ったなら意地でもやり通せぇぇ!!」
このまま過去を傍観すると魔力の業が尽き、自身は消えてしまう。
どう抗おうとも間もなく迎える死ぬ未来ではあるが、大事な物を託す事なく死ぬなら、あの時死んでしまうのと同じこと。
この奇跡でしかない、ダンへ想いを届ける好機を逃すなど出来ない。
感極まり、表情を歪ませて涙を拭うミライザは、自らの責務を貫き通す意志を固めた。
◇◇◇◇◇
ミライザに秘められている魔力を吸い続けて放出していたバイレンの身に異常が生じた。
まるで全身に電気が走るようにビリビリとした感覚が伝わったのだ。
「――なんだとっ!?」
化け物に埋め込まれたミライザから、制御できない魔力が発せられている。
「……させない……、悪用なんて……させない!」
「死にぞこないが舐めな真似を!!」
ミライザを抑え込む力を放つも、必死に抗う力により阻まれる。
「あの人が護り通した、愛した魔術を……もう二度と……殺戮の魔術になんてさせない!」
誰が見ても分かる程、異常なまでの魔力の放出と鬩ぎ合い。
まだ素人術師であるトウマとサラにも、ミライザが魔力の業を使い切る思いは伝わった。
「ミライザさんやめてください!」
「それ以上は――」
しかしバイレンを仕留めるには千載一遇である。この期を逃すまいと、グレミアはミライザを止めるではなく、ジェイクの身体能力向上の術を発生させた。
(ジェイク、今のうちに)
「ああ。分かってる」
剣の刃は無く、ジェイクはここぞとばかりに烙印の力を込めた。それは、剣に纏わせるイメージであったためか、烙印の力は折れた刃先の変わりとばかりに赤紫色の刃を形成した。
「こんな所で止まれるかぁ! 暒空魔術こそが真に最強の魔術だって分からせるんだぁぁ!」
「させない! 暒空魔術の本質はそうじゃない!」
互いに暒空魔術に対する想いは違う。しかし退く事の無い強い意志が拮抗を崩さない。
「邪魔、するなぁぁ!!!」
バイレンの魔力が化け物を中心として放出されると、周囲から帯を纏った化け物が次々に出現して手を翳す。狙いはミライザのみ。
「死ねや! 死体がぁぁ!!」
「こっちだぁぁ!」
バイレンが叫び声の方を向くと、ジェイクはいつの間にか隣の建物の屋上で剣を構え、飛びかかった。
「――来るな!」
ジェイクに向かって手を翳すと、周囲の化物は次々にジェイク目掛けて攻撃を仕掛けた。しかし同時攻撃では無いく、時間差がある為か、ジェイクは次々に剣で受けては流しを繰り返してバイレンへ迫った。
「――ぐぞぉぉ!!」
両手で防壁を発生させて防ぐも、ジェイクの威力が強いと感じる。
なぜ化け物たちが攻撃しないのかをちらりと見て探るも、グレミアの術により攻撃が防がれている。
「残された時間を、護りたいものの為に費やす奴の邪魔をすんじゃねぇぇ!!」
烙印の力がジェイクの想いに呼応して威力を増した。
(なんだ、この――)
防壁が砕け散り、ジェイクの一刀がバイレンの胴体を切り裂いた。途端、化け物の身体中に亀裂が走り砕け散った。
(……なんなんだ……この力……抗えない……)
崩れ落ちるバイレンも身体に亀裂が走るも、崩れる前に燃えた。また、ミライザを包む化け物の身体は崩壊するも、彼女自体は無傷であった。しかし化け物の残骸に埋もれた。
初めて目の前で仲間が死ぬ姿を目の当たりにしたサラは脱力して腰が抜けてしまう。そして、過去に仲間を魔獣に喰われた場面とかぶるトウマは震えが止まらない。
「お前らしっかりしろ!!」
戦馴れしているジェイクが一喝するも、作戦前の意気込みを二人は戻せない。
”グレミアを一撃で葬る化け物がいる”
この事実から恐れを強め、身体が拒否反応の如く戦意を削ぐ。
「立て直せ! ミライザまで消えるぞ!」
「させるか雑魚共がぁぁ!!」
バイレンを中心に稲妻の柱に見える形状の魔力が十本、四方八方へ不規則な流れで広がった。
まだ身体強化が効いているジェイクは、サラを抱えて建物の影へ隠れて逃れた。しかしトウマに迫る稲妻は大きくて早く躱せない。咄嗟に奮い立った防衛本能からトウマは、反射的に両手を前に突き出し防壁を張る。だが、少しだけ抑えたものの呆気なく通過されてしまう。
「わああああ!!!」
稲妻がトウマを通り抜けると、衣服がやや焼けてボロボロになり、全身に焼けた痛みと痺れが走った。
(トウマ急いで治癒を)
ビィトラに急かされ、トウマはしゃがみ込んで治療に専念するも、睨みつけるバイレンの眼に圧され萎縮する。
「しぶとい羽虫が……」
両手をトウマに向けた。もう、トウマの思考は停止し、後は死を待つのみだと悟ってしまう。
「これで――なっ!?」
バイレンの全身が動かしにくくなり、再び化物の崩壊現象が再発した。
「なんだ!?」
トウマに目を向けるも、治療に専念していてこんな大技は使えない。何より、魔力量と性質から不可能。
ジェイクとサラを見るも、術を使用している素振りすら見せていない。やはり魔力量と性質上、不可能である。
もう、使える人物は一人しかいない。しかし、その人物は先ほど……。
どんな考えにくい憶測であれ、起きている事象を明確にするため、バイレンは白い魔力の塊を目当ての場所へ飛ばした。
何も無い所でぶつかって弾け飛ぶのを視認すると、風景と同化した壁が崩れて破片が散るのを見た。
「エル・カイロディア・ブウェイティルス・アイリグライス。セイネイル・ゲルティエレイシス……」
多少、衣服が傷んでいるグレミアが姿を現し、右手を天へ翳し敵を睨み付ける。
「グレミアさん!」
「……生きてた」
サラとトウマが声を掛けるも、気にも留めずに術を発生させた。
「魔誡唱術、ニル・ベイザ!」
手の平から円陣が出現すると同時にバイレンの足元から化物全体を包む円陣が出現し、半透明な光の柱が発生した。
「――があああぁぁ!!」
バイレンはなす術なく術をその身に受けた。だが、あまりにも術の効き目に決定的な手ごたえが無く、グレミアは焦りの色を表情に滲ませた。
(ベル、どうすればいい)
グレミアの様子から状況を読み取ったジェイクは頼りをベルメアへ委ねた。
(分からない。ただ、あの男からここまで強い力があるとは思えない。恐らく……)
それはミライザであり、この窮地を脱するにはミライザを仕留めるほか手は浮かばない。
トウマは瀕死、サラも魔力消費が激しく長引かせると危険、グレミアも拮抗している。
「サラ、ありったけの魔力で俺に防壁をかけろ」
「え?」
「早くしろ!」
急かされ、サラは自分に出来る魔術でジェイクの全身に防壁を張り、魔力を大量に注いで強度を増した。
(何するのジェイク!)
(賭けだ! あいつを起こすぞ)
ジェイクは走り出し、周囲の瓦礫や化け物の身体を踏み台にしてミライザの傍まで向かった。渾身の一撃でミライザの傍に切っ先を突き刺した。
「起きろミライザ! てめぇこのままくたばる気か!」
グレミアの術とバイレンの反発力の狭間で、ジェイクも身体に影響を及ぼした。
「――ぐっ!」
(早く離れて!)
ベルメアの忠告を無視し、更に叫んだ。
「てめぇの願いはそんなもんかぁ! 何かやる事あんだろうが! せっかく生き返ったなら意地でもやり通せぇぇ!!」
さすがに耐え切れず、もう限界に達したと思われた途端、突き刺した切っ先がまるで硫酸で溶けたように折れ、ジェイクは地面に落ちた。
着地して、渾身の思いで後ろへ跳ぶも、それ程遠くへは行けなかった。しかも動けない。
このままバイレンが動き出せばジェイクは真っ先に殺されてもしかたない。
長引く窮地のなか、更にグレミアは魔力を込めて足止めしつつ、挽回の手を考え続けた。
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「論文発表おめでとう、賢師様」
男が笑顔でミライザに告げた。
「やめてよダン。賢師なんて在って無いような称号でしょ? それに」
ミライザは口調を強め、人差指を揺すって強調した。
「論文の大半は貴方の研究成果で、人前に出るの嫌だって貴方言ったから、私が変わったのよ」
「ははは。ごめんごめん。ミラには感謝しても足りないよ」
ミライザは先行きの不安を考えると溜息が漏れた。
本来、賢師称号を取得するに値する者はダン=オルクスである。しかし目立つことを好まない性格と、騒がれつつ研究する事を拒み、ミライザに研究成果の発表を代わってもらった。
「少しは天才について行く凡人の気持ちも分かってほしいわ」
「君だって天才だろ。現存する暒空魔術の原理をすぐに理解できるのは並みの術師じゃないよ。努力して至った天才だ」
苛立ちをひた隠しつつも、ミライザは微笑みを浮かべる。
「それも出来て新術の開発を幾つも行ってるダンに言われても、嬉しくないのだけど」
ダンは苦笑いでミライザを宥め、発表した論文を手に取った。
「ようやくよね。貴方の目指す暒空魔術は既存の概念を悉く打ち砕いている筈よ」
「まだまださ。暗殺や虐殺に使用されてた、忌むべき魔術である暒空魔術の在り方を180度別物として広めるのは。邪魔立てする連中だっているだろうし」
ダン=オルクスには夢があった。それは暒空魔術が本来あり得た形に戻す事。
暒空魔術は他者を別空間へ送る事が出来る魔術である。しかしその一部だけが目立ち、戦時中は優遇され、多用された魔術である。現在では禁術とまでは行かないまでも、使用するだけで偏見を持たれても仕方ない状態だ。
ダンの住む森林内の村では神聖な魔術として暒空魔術の正しい在り方を護っていた。だが戦争における暒空魔術の悪評が森林の村へと影響を及ぼし焼き滅ぼされた。残された数人の守り人たちが散り散りになりつつも暒空魔術の正しい在り方を残し、終戦後に証明しようと躍起になっている。戦争の少ない国、ミルシェビスで地道に研究に励んだ。
ミライザは元々暒空魔術の歴史を調べる考古学者を目指していたが、ダンとの出会いにより暒空魔術を知る側へと回り研究の手伝いをしてきた。そして、いつしかミライザの中でダン=オルクスを愛おしく思う感情が芽生えていた。
「ミラ、まだまだ苦労ばかり掛けてしまうけど、協力してくれるかい?」
「ええ。賢師なのだから当然でしょ」
本心を隠しながら、ミライザはダンと研究出来る事に喜び、その些細な喜びに満足していた。
二か月前、賢師としてある町へ訪れた際、魔獣の群れを率いる白衣姿の男に襲われてしまい瀕死の重傷を負う。命からがら逃げ延びたが、所持している首飾りの影響が弱った身体に影響を及ぼしてしまい魔力が完全に尽きてしまった。
やがて、逃げ延びた先の地で魔女の塔から垂れ流れた魔力に侵されて命を落とした。
目覚めると、魔女もどきの支配により抗う事が出来ない状態で生き返る。
”絶対服従の縛り”の中、内心で必ず研究に必要な首飾りをダンに届けると誓い、虎視眈々と考えを巡らせていた。
今、ミライザは、ダンと共に研究に励んでいた楽しかった光景を眺めている。
昔の笑い合いながら研究する、眩しすぎる幸せな光景に、傍観しているミライザの目から涙が溢れ出た。
もう戻れない。
自分の行き着く先は確実な”死”。時間もあまりない。
どれだけ足掻いても、もう間もなく死ぬ。
もう二度と、この幸せな時へは戻れない。
「……――きろ! ミラ――……」
涙ながらに傍観する彼女の耳に声が聞こえた。誰かはすぐに分かる。
「……――せっかく生き返ったなら意地でもやり通せぇぇ!!」
このまま過去を傍観すると魔力の業が尽き、自身は消えてしまう。
どう抗おうとも間もなく迎える死ぬ未来ではあるが、大事な物を託す事なく死ぬなら、あの時死んでしまうのと同じこと。
この奇跡でしかない、ダンへ想いを届ける好機を逃すなど出来ない。
感極まり、表情を歪ませて涙を拭うミライザは、自らの責務を貫き通す意志を固めた。
◇◇◇◇◇
ミライザに秘められている魔力を吸い続けて放出していたバイレンの身に異常が生じた。
まるで全身に電気が走るようにビリビリとした感覚が伝わったのだ。
「――なんだとっ!?」
化け物に埋め込まれたミライザから、制御できない魔力が発せられている。
「……させない……、悪用なんて……させない!」
「死にぞこないが舐めな真似を!!」
ミライザを抑え込む力を放つも、必死に抗う力により阻まれる。
「あの人が護り通した、愛した魔術を……もう二度と……殺戮の魔術になんてさせない!」
誰が見ても分かる程、異常なまでの魔力の放出と鬩ぎ合い。
まだ素人術師であるトウマとサラにも、ミライザが魔力の業を使い切る思いは伝わった。
「ミライザさんやめてください!」
「それ以上は――」
しかしバイレンを仕留めるには千載一遇である。この期を逃すまいと、グレミアはミライザを止めるではなく、ジェイクの身体能力向上の術を発生させた。
(ジェイク、今のうちに)
「ああ。分かってる」
剣の刃は無く、ジェイクはここぞとばかりに烙印の力を込めた。それは、剣に纏わせるイメージであったためか、烙印の力は折れた刃先の変わりとばかりに赤紫色の刃を形成した。
「こんな所で止まれるかぁ! 暒空魔術こそが真に最強の魔術だって分からせるんだぁぁ!」
「させない! 暒空魔術の本質はそうじゃない!」
互いに暒空魔術に対する想いは違う。しかし退く事の無い強い意志が拮抗を崩さない。
「邪魔、するなぁぁ!!!」
バイレンの魔力が化け物を中心として放出されると、周囲から帯を纏った化け物が次々に出現して手を翳す。狙いはミライザのみ。
「死ねや! 死体がぁぁ!!」
「こっちだぁぁ!」
バイレンが叫び声の方を向くと、ジェイクはいつの間にか隣の建物の屋上で剣を構え、飛びかかった。
「――来るな!」
ジェイクに向かって手を翳すと、周囲の化物は次々にジェイク目掛けて攻撃を仕掛けた。しかし同時攻撃では無いく、時間差がある為か、ジェイクは次々に剣で受けては流しを繰り返してバイレンへ迫った。
「――ぐぞぉぉ!!」
両手で防壁を発生させて防ぐも、ジェイクの威力が強いと感じる。
なぜ化け物たちが攻撃しないのかをちらりと見て探るも、グレミアの術により攻撃が防がれている。
「残された時間を、護りたいものの為に費やす奴の邪魔をすんじゃねぇぇ!!」
烙印の力がジェイクの想いに呼応して威力を増した。
(なんだ、この――)
防壁が砕け散り、ジェイクの一刀がバイレンの胴体を切り裂いた。途端、化け物の身体中に亀裂が走り砕け散った。
(……なんなんだ……この力……抗えない……)
崩れ落ちるバイレンも身体に亀裂が走るも、崩れる前に燃えた。また、ミライザを包む化け物の身体は崩壊するも、彼女自体は無傷であった。しかし化け物の残骸に埋もれた。
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昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
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