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三章 暒空魔術への想い
Ⅷ 暒空魔術への執着
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グレミアの作戦は三つの段階を踏まなければならなかった。
その一段階は、”バイレンと戦っているのが三人であると錯覚させる”かが鍵である。
『暒空魔術の手練れたる者、戦闘を行う範囲内に潜伏する敵の数を理解できる術を備えている』
暒空魔術の基本を深く理解していないグレミアであっても、空間を形成する術を使用するのであれば、その空間内の魔力を察して、”範囲技”がしやすくなる基礎知識はあった。
範囲技とは、あらゆる術の効果を範囲で起こせるものである。さらに暒空魔術は、現実世界においても範囲技が他の術師よりも得意とする面を持ち合わせている。
バイレンを罠に嵌めて奇襲をかけるには、転生者三名の実力では不可能である。さらにジェイクの烙印は一つしかなく、レベル23のトウマとレベル19のサラの魔術ではバイレンと対抗するのは困難を極める。
三人が協力するにしても良くて一人が瀕死で生き残れる。というのがグレミアの見解であった。
状況は最悪としか言い様がない。
それでもグレミアは第一段階と第二段階を突破する策を提案した。
まずトウマがバイレンの前に現れ挑発する。その間、バイレンの後方でジェイクとサラが身を顰める。
この時重要なのは、バイレンに”挟み撃ちで仕留める作戦”であると悟られなければならない。さらにその意識を強める為、ジェイクとサラが協力してバイレンに歯向かい三対一の構図を疑いの余地なく定着させる必要があった。
この第一段階において不足している点を挙げるなら、
“誰がバイレンを仕留める存在かを明確にさせるか”である。
これはジェイクでなければならなかった。理由は、暒空魔術は術者の魔力量や性質を察知する体質になっているためである。
未知の力『烙印技』でバイレンにとどめを刺すと思わせる事で、バイレンは一番の注意をジェイクに向ける事が出来る。この時、烙印の存在を知っているなら容易に策は進めれるが、知らないならそう思わせる方法を考えなければならない。
だが、先の襲撃でバイレンは烙印技を見ている。不幸中の幸いであった。
グレミアの策は、サラの強化魔術によりジェイクの剣に魔力を定着させ、グレミアの幻覚術でバイレンに定着させた魔力を、炎が纏っているように錯覚させる必要がある。
「ちょっと待て、奴は俺らの居場所が分かるなら、あんたの場所も分かるだろ。それに幻覚なんて見せりゃ、魔力を悟られる」
ジェイクの質問はトウマもサラも同様に感じていた。
「詳細は後日致しますが、私の唱術で張る結界は単なる結界ではありません。ですので、信じてもらうほかありませんが、私は彼に気付かれないでしょう。暒空魔術とネイブラス式唱術は、互いに相性はよくありませんので。ですが術の詠唱に時間がかかり無防備になるのはどうしようもありません。私から手助けは出来ないものと考えてください」
グレミアは説明を続けた。
作戦の第二段階は、”バイレンへ手傷を負わせる”である。
この段階において、傷の程度はどのようなものでもいい。深ければ深いほど良く、運良くバイレンを仕留めれれば尚のこと良い。しかしそれは無理だろうとグレミアは悟っていた。
バイレンが”強者の助力を得た並の術者”でもなければ、”弱者が強力な道具を使用して大それた術を発動していい気になっている”のでもない。正真正銘、自らが鍛錬に鍛錬を重ね、並々ならぬ努力で実力を得た、暒空魔術の天才と、グレミアは読んでいる。
使用されている術において、魔力量や配分を見るからに、後先のことを考えているのは理解できる。また、ジェイクへの挑発的な言動と照らし合わせてみても、標的を興奮させて力を使い果たせる事を計算していると。
戦闘に慣れ、魔力の扱いも上手い。
作戦の第二段階は困難だと思われるが、グレミアは一つの可能性があった。
バイレンの興奮具合、言動から読み取れる暒空魔術への想い。これらを鑑み導き出したのは、自意識が高く傲岸不遜の精神を持ち合わせている人物ということ。
グレミアの経験上、バイレンのような者は弱者と決め見下している者から、手傷を負わされたり思いも寄らない事態に陥れられると冷静さを欠く性格である。
彼女の憶測でしかなく、読み通りの反応を示すかは賭けでしかなかった。
バイレンが冷静さを欠いた場合、次の段階へと進める。
作戦の第三段階は、”気付かれずに身を顰めたグレミアの唱術によりバイレンの魔力を分解する”である。
こうする事でバイレンの状態が悪化し、弱まった所をジェイクが烙印技を用いてバイレン本体を討てる。この時、討ち時が早ければ、自己防衛のための防壁や身体強化により攻撃が効かず、遅すぎればバイレンを仕留める事は出来るがミライザは消える。
「あの、この作戦、グレミアさんは自分の結界、幻覚、魔力分解と、三つ同時に使用しなければなりませんよ。大丈夫でしょうか?」
サラは心配するも、グレミアの返答は「問題はありません」と断言した。
「確かに容易ではありませんが、魔女討伐の際はもっと困難な唱術の同時詠唱を行っておりました。それに、私よりも皆様も容易ではありません。私の事は考えずご自身の役割をしっかりと熟してください。あと、状況に見合った反応、窮地に立たされた時の焦りの表情など、不自然に思われないように。この勝負、敵の冷静さを欠けるかどうか、それが勝敗を決します」
淡々と語られた作戦であったが、強敵との戦闘に慣れていないトウマとサラは手足や体の震えが止まらないでいる。結果としてバイレンを調子づかせたのは幸運でしかない。
また、本作戦においてサラの術使用は、主にジェイクを強化させ続けるものであり魔力定着と維持に神経を使うものであった。
無事、第二段階達成後、ミライザの訓練が役に立ったとサラは密かに実感する。
グレミアの術によりバイレンが作り上げた化け物の身体がみるみる崩壊し、バイレン自身も力が漲る程の魔力が失われているのを感じていた。
「くっそ! これ以上やらせるかぁぁ!!」
羽衣のように柔らかく揺らめく防壁を化物を覆うように張った。
「はぁ、はぁ、はぁ……。暒空魔術を……舐めるなよ」
呼吸が少し整うと、防壁とは別に空間全体に魔力を注ぎ、やや重圧が増した。ジェイク達は全身に水に濡れた服を纏っている程の重さを感じた。
「これ以上……良い気になるなよ」言葉に憎しみと怒りが籠っている。
バイレンは暒空魔術へ人一倍強い執着があった。
約八十年も昔から、暒空魔術は暗殺や軍隊を制するのに成果を見出す魔術として広く利用され、暗殺用の術と認識されていた。
バイレンの両親も暒空魔術の使い手であったが故、母は戦場に駆り出され、父は要人暗殺の仕事に就いた。それも二人が若い内の話であり、王国間の戦争が終局に近づく時に二人は引退出来た。後に二人は出会って夫婦となり、バイレンを生み育てた。
暒空魔術の基礎知識と鍛錬は他の魔術と同様であり、両親はバイレンに暒空魔術を教えず、他の術師にさせようとしていた。しかし暒空魔術の血が影響してか、バイレンは基礎知識の応用で新術を考案する遊びに興じた際、意図せず暒空魔術を発生させてしまった。
けして禁術ではない為、周囲の住民からは心底褒められたが、バイレンの両親は彼に真実と正しい知識を教える決心を固めた。
暒空魔術は異空間に深く干渉する術故に、暗殺や大軍を取り込んで抹殺するには最適とされていたが、それは暒空魔術の一部が悪目立ちした結果である。本来は、星の気流、魔力の流れや性質を深く知るのに最適な術である。そのように二人はバイレンに教え始めた。しかし悲運にも教育は長く続かなかった。
過去に二人が殺めた者の縁者が二人を襲って来たのだ。
夫婦はいつかこんな事が起こるであろうと受け入れており、その想い、自分達が犯してきた罪の数々をバイレンに報せ、けして恨みを抱いてはならないと諭した。だけど、両親はバイレンの目の前で凄惨な殺され方をしたため、バイレンは殺した者達への怒りと憎しみ、湧き上がる復讐心から、暒空魔術を使用して次々に殺めた。
両親の想い届かず人殺しの道を歩んだバイレンは、ある王国の術師に見初められ、更に暒空魔術のさらなる知識と教養を得た。
「賢師……って何っすか?」
バイレンは”先生”と仰ぐ男性に訊いた。
「術師として名誉ある功績を立てた者に与えられる称号だ。最近、ある賢師が魔女もどきの力により復活を果たしてしまった」
「けど動く死骸って事っすよね。じきに死ぬんじゃ……」
「彼女はかなり貴重な”遺物”を持っていてね。それがある限り全盛期の賢師としての実力を備えているんだよ。バイレン、君でも勝てるかどうか……」
この言葉がバイレンのやる気に火を点けた。
「つまり、そいつを殺せば先生は俺を認めてくれるって訳っすよね」
男性は顎を人差し指と親指でつまむように考え、一つの答えを見つけ出した。
「いいでしょう。彼女、ミライザ=エイフマンを殺めて遺物である首飾りを回収。更にはガーディアンも仕留めれば君の実力を認め、王に地位を与えてもらえるように取り計らうと約束する」
「本当かよ!? 嘘じゃねぇよなぁ先生!」
「何にでも誓ってやろう。それ相応の苦難を乗り越えた者への評価は大々的に掲げるのは王の意向。王は多大なる功績に見合った褒美を惜しまん御方だからな」
バイレンの闘志は燃え盛った。自身の目標である、暒空魔術の賢師となり、数多くある術の最高位に暒空魔術を掲げる。両親の行いを卑劣な惨殺だったと罵らせることのないように。
「俺は……俺はこんな所で負けない! 負けるわけにはいかねぇんだよぉぉぉ!!!」
渾身の魔力がグレミアの唱術を弾き飛ばし、空間の重圧を上げた。
「ああああああああ――!!!!」
気が虚ろであったミライザが激痛で正気を取り戻して悲鳴を上げた。
「いけない! ミライザの魔力が!」
声に反応してバイレンは上目遣いで建物の屋上にいる敵を見つけた。
「いた……。てめぇの仕業だな!」
右手を標的へ向けて魔力を込める。
(――まずい!)
グレミアが防御の初動が遅れた。
「逃げろグレミアぁぁ!!」
ジェイクの咆哮も遅く、瞬く間に赤と紫色の混ざったまるで光線のような砲撃が放たれた。
その一段階は、”バイレンと戦っているのが三人であると錯覚させる”かが鍵である。
『暒空魔術の手練れたる者、戦闘を行う範囲内に潜伏する敵の数を理解できる術を備えている』
暒空魔術の基本を深く理解していないグレミアであっても、空間を形成する術を使用するのであれば、その空間内の魔力を察して、”範囲技”がしやすくなる基礎知識はあった。
範囲技とは、あらゆる術の効果を範囲で起こせるものである。さらに暒空魔術は、現実世界においても範囲技が他の術師よりも得意とする面を持ち合わせている。
バイレンを罠に嵌めて奇襲をかけるには、転生者三名の実力では不可能である。さらにジェイクの烙印は一つしかなく、レベル23のトウマとレベル19のサラの魔術ではバイレンと対抗するのは困難を極める。
三人が協力するにしても良くて一人が瀕死で生き残れる。というのがグレミアの見解であった。
状況は最悪としか言い様がない。
それでもグレミアは第一段階と第二段階を突破する策を提案した。
まずトウマがバイレンの前に現れ挑発する。その間、バイレンの後方でジェイクとサラが身を顰める。
この時重要なのは、バイレンに”挟み撃ちで仕留める作戦”であると悟られなければならない。さらにその意識を強める為、ジェイクとサラが協力してバイレンに歯向かい三対一の構図を疑いの余地なく定着させる必要があった。
この第一段階において不足している点を挙げるなら、
“誰がバイレンを仕留める存在かを明確にさせるか”である。
これはジェイクでなければならなかった。理由は、暒空魔術は術者の魔力量や性質を察知する体質になっているためである。
未知の力『烙印技』でバイレンにとどめを刺すと思わせる事で、バイレンは一番の注意をジェイクに向ける事が出来る。この時、烙印の存在を知っているなら容易に策は進めれるが、知らないならそう思わせる方法を考えなければならない。
だが、先の襲撃でバイレンは烙印技を見ている。不幸中の幸いであった。
グレミアの策は、サラの強化魔術によりジェイクの剣に魔力を定着させ、グレミアの幻覚術でバイレンに定着させた魔力を、炎が纏っているように錯覚させる必要がある。
「ちょっと待て、奴は俺らの居場所が分かるなら、あんたの場所も分かるだろ。それに幻覚なんて見せりゃ、魔力を悟られる」
ジェイクの質問はトウマもサラも同様に感じていた。
「詳細は後日致しますが、私の唱術で張る結界は単なる結界ではありません。ですので、信じてもらうほかありませんが、私は彼に気付かれないでしょう。暒空魔術とネイブラス式唱術は、互いに相性はよくありませんので。ですが術の詠唱に時間がかかり無防備になるのはどうしようもありません。私から手助けは出来ないものと考えてください」
グレミアは説明を続けた。
作戦の第二段階は、”バイレンへ手傷を負わせる”である。
この段階において、傷の程度はどのようなものでもいい。深ければ深いほど良く、運良くバイレンを仕留めれれば尚のこと良い。しかしそれは無理だろうとグレミアは悟っていた。
バイレンが”強者の助力を得た並の術者”でもなければ、”弱者が強力な道具を使用して大それた術を発動していい気になっている”のでもない。正真正銘、自らが鍛錬に鍛錬を重ね、並々ならぬ努力で実力を得た、暒空魔術の天才と、グレミアは読んでいる。
使用されている術において、魔力量や配分を見るからに、後先のことを考えているのは理解できる。また、ジェイクへの挑発的な言動と照らし合わせてみても、標的を興奮させて力を使い果たせる事を計算していると。
戦闘に慣れ、魔力の扱いも上手い。
作戦の第二段階は困難だと思われるが、グレミアは一つの可能性があった。
バイレンの興奮具合、言動から読み取れる暒空魔術への想い。これらを鑑み導き出したのは、自意識が高く傲岸不遜の精神を持ち合わせている人物ということ。
グレミアの経験上、バイレンのような者は弱者と決め見下している者から、手傷を負わされたり思いも寄らない事態に陥れられると冷静さを欠く性格である。
彼女の憶測でしかなく、読み通りの反応を示すかは賭けでしかなかった。
バイレンが冷静さを欠いた場合、次の段階へと進める。
作戦の第三段階は、”気付かれずに身を顰めたグレミアの唱術によりバイレンの魔力を分解する”である。
こうする事でバイレンの状態が悪化し、弱まった所をジェイクが烙印技を用いてバイレン本体を討てる。この時、討ち時が早ければ、自己防衛のための防壁や身体強化により攻撃が効かず、遅すぎればバイレンを仕留める事は出来るがミライザは消える。
「あの、この作戦、グレミアさんは自分の結界、幻覚、魔力分解と、三つ同時に使用しなければなりませんよ。大丈夫でしょうか?」
サラは心配するも、グレミアの返答は「問題はありません」と断言した。
「確かに容易ではありませんが、魔女討伐の際はもっと困難な唱術の同時詠唱を行っておりました。それに、私よりも皆様も容易ではありません。私の事は考えずご自身の役割をしっかりと熟してください。あと、状況に見合った反応、窮地に立たされた時の焦りの表情など、不自然に思われないように。この勝負、敵の冷静さを欠けるかどうか、それが勝敗を決します」
淡々と語られた作戦であったが、強敵との戦闘に慣れていないトウマとサラは手足や体の震えが止まらないでいる。結果としてバイレンを調子づかせたのは幸運でしかない。
また、本作戦においてサラの術使用は、主にジェイクを強化させ続けるものであり魔力定着と維持に神経を使うものであった。
無事、第二段階達成後、ミライザの訓練が役に立ったとサラは密かに実感する。
グレミアの術によりバイレンが作り上げた化け物の身体がみるみる崩壊し、バイレン自身も力が漲る程の魔力が失われているのを感じていた。
「くっそ! これ以上やらせるかぁぁ!!」
羽衣のように柔らかく揺らめく防壁を化物を覆うように張った。
「はぁ、はぁ、はぁ……。暒空魔術を……舐めるなよ」
呼吸が少し整うと、防壁とは別に空間全体に魔力を注ぎ、やや重圧が増した。ジェイク達は全身に水に濡れた服を纏っている程の重さを感じた。
「これ以上……良い気になるなよ」言葉に憎しみと怒りが籠っている。
バイレンは暒空魔術へ人一倍強い執着があった。
約八十年も昔から、暒空魔術は暗殺や軍隊を制するのに成果を見出す魔術として広く利用され、暗殺用の術と認識されていた。
バイレンの両親も暒空魔術の使い手であったが故、母は戦場に駆り出され、父は要人暗殺の仕事に就いた。それも二人が若い内の話であり、王国間の戦争が終局に近づく時に二人は引退出来た。後に二人は出会って夫婦となり、バイレンを生み育てた。
暒空魔術の基礎知識と鍛錬は他の魔術と同様であり、両親はバイレンに暒空魔術を教えず、他の術師にさせようとしていた。しかし暒空魔術の血が影響してか、バイレンは基礎知識の応用で新術を考案する遊びに興じた際、意図せず暒空魔術を発生させてしまった。
けして禁術ではない為、周囲の住民からは心底褒められたが、バイレンの両親は彼に真実と正しい知識を教える決心を固めた。
暒空魔術は異空間に深く干渉する術故に、暗殺や大軍を取り込んで抹殺するには最適とされていたが、それは暒空魔術の一部が悪目立ちした結果である。本来は、星の気流、魔力の流れや性質を深く知るのに最適な術である。そのように二人はバイレンに教え始めた。しかし悲運にも教育は長く続かなかった。
過去に二人が殺めた者の縁者が二人を襲って来たのだ。
夫婦はいつかこんな事が起こるであろうと受け入れており、その想い、自分達が犯してきた罪の数々をバイレンに報せ、けして恨みを抱いてはならないと諭した。だけど、両親はバイレンの目の前で凄惨な殺され方をしたため、バイレンは殺した者達への怒りと憎しみ、湧き上がる復讐心から、暒空魔術を使用して次々に殺めた。
両親の想い届かず人殺しの道を歩んだバイレンは、ある王国の術師に見初められ、更に暒空魔術のさらなる知識と教養を得た。
「賢師……って何っすか?」
バイレンは”先生”と仰ぐ男性に訊いた。
「術師として名誉ある功績を立てた者に与えられる称号だ。最近、ある賢師が魔女もどきの力により復活を果たしてしまった」
「けど動く死骸って事っすよね。じきに死ぬんじゃ……」
「彼女はかなり貴重な”遺物”を持っていてね。それがある限り全盛期の賢師としての実力を備えているんだよ。バイレン、君でも勝てるかどうか……」
この言葉がバイレンのやる気に火を点けた。
「つまり、そいつを殺せば先生は俺を認めてくれるって訳っすよね」
男性は顎を人差し指と親指でつまむように考え、一つの答えを見つけ出した。
「いいでしょう。彼女、ミライザ=エイフマンを殺めて遺物である首飾りを回収。更にはガーディアンも仕留めれば君の実力を認め、王に地位を与えてもらえるように取り計らうと約束する」
「本当かよ!? 嘘じゃねぇよなぁ先生!」
「何にでも誓ってやろう。それ相応の苦難を乗り越えた者への評価は大々的に掲げるのは王の意向。王は多大なる功績に見合った褒美を惜しまん御方だからな」
バイレンの闘志は燃え盛った。自身の目標である、暒空魔術の賢師となり、数多くある術の最高位に暒空魔術を掲げる。両親の行いを卑劣な惨殺だったと罵らせることのないように。
「俺は……俺はこんな所で負けない! 負けるわけにはいかねぇんだよぉぉぉ!!!」
渾身の魔力がグレミアの唱術を弾き飛ばし、空間の重圧を上げた。
「ああああああああ――!!!!」
気が虚ろであったミライザが激痛で正気を取り戻して悲鳴を上げた。
「いけない! ミライザの魔力が!」
声に反応してバイレンは上目遣いで建物の屋上にいる敵を見つけた。
「いた……。てめぇの仕業だな!」
右手を標的へ向けて魔力を込める。
(――まずい!)
グレミアが防御の初動が遅れた。
「逃げろグレミアぁぁ!!」
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