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三章 暒空魔術への想い
Ⅶ 届く刃
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男はジェイクがなかなか見つからないことに苛立っていた。
無駄な魔力消費を節約していたが、いよいよ我慢の限界に達し、立ち止まると両手を横に広げて全身に魔力を込めた。その魔力は男の全身を伝い、化物の身体、地面へと流れ、小さな水たまりのようにとどまった。
「さぁて……、どぉぉこ、だ!」
力を込めると、地面に貯まった魔力が一気に街の隅々まで広まり、すぐ傍に人間の魔力反応を三つ見つけた。それ等は前方建物の角に一つ、後ろに二つある。
男は、ジェイクが仲間と合流したのだと察した。
「出てこいよ! てめぇらガーディアン共の居場所なんてお見通しなんだよ!」
叫びに応えるようにトウマが建物の角から現れる。
「おいおいひ弱そうな野郎だな。こんな所にいるっつーことは、あの剣士野郎の仲間だろ?」(後ろの二体の一つが野郎、傍にもう一人。……挟み撃ちで俺を殺ろうってか)
男は状況を冷静に分析した。
「おい貧弱野郎。いや、鬱陶しいから羽虫野郎か。剣士の場所知ってんだろ? 教えろや」
「僕はトウマだ。お前何者だ? 人間じゃないだろ」
「人間だよバーカ! すぐ死ぬだろうが教えてやるぜ羽虫。俺様はバイレン、暒空魔術の賢師を超えた男だ。弱いくせに立ちはだかった蛮勇の褒美として、てめぇの脆弱魔力も一緒に取り込んでやるよ」
「やれると思うなよ」
トウマは両手に魔力を込め、性質を氷雪系へと変化させた。
「氷雪複合強化魔術・氷獄!」
魔法はバイレンの足元へ向けて放つと、氷が地面と家の壁に伝わり凍る範囲を広げた。
バイレンが魔力の防壁を発生させた途端、凍った所から無数の大小様々な氷柱が発生し、標的を串刺した。
「……いったか」
(いや、駄目だよ)
ビィトラがバイレンの反応を見た。
氷柱は確かに生じている。しかし、化け物の本体に一本たりとも刺さっていなかった。
「おいおい、大がかりで派手な技じゃねぇか! けど随分と魔力の込め方が雑な術だなぁ。見掛け倒しかよ、だっせぇ!」
一瞬にして氷柱がはじけ飛び、氷の残骸が散らかった。
「おめぇ何しに来たんだ? 囮になって仲間の回復待ちか? それとも、おめぇに集中させて背後から……」
後ろを振り返ると、ジェイクが氷の破片を伝って跳躍し、勢いよく斬りかかっていた。
バイレンは予想していたので、防壁は即座に発生できた。
「見え見えなんだよオッサン!」
剣撃を防がれると、防壁を弾き飛ばして衝撃波を起こし、ジェイクを飛ばした。
「ジェイクさん!」
こっそり隠れていたサラは姿を晒してしまった。
「大丈夫だ! それより援護!」
(女の術で身体能力向上。人並み外れた跳躍と着地の安定感から、脚力強化が妥当なところか)
バイレンは不敵に笑んだ。
「惜しかったなぁ烙印使い! 出会った時みたいに今ので斬ってたら俺を仕留めれただろ。何故しない!」
ジェイクは黙ったままバイレンを睨む。
「なーんてな。お前の烙印は残り一回が限度ってんだろ? 使える訳ねぇよな! 貴重な切り札を!」
あっさり見抜かれた事に三人は驚愕し、構える様子から焦りの色が伺える。
「トウマを囮に隙を見て攻撃。女の術で身体能力向上で烙印を使ってるように見せて、いざって時にドカン。ってか? 浅はかぁぁ! ガキのごっこ遊びじゃねぇんだからよぉぉ! 笑わせんなよボケ共が! 俺様の暒空魔術でてめぇらの魔力の流れや性質はお見通しなんだよ!」
焦りながら、トウマは両手に炎を纏わせる。
「オラ来い羽虫! 炎技ブチかましてオッサンの切りつけで傷負わそうとしてんだろ? 無理なんだよ! 烙印技しか勝機作れねぇてめぇらの戦略なんてのぁな!」
「やって見なけりゃ分からないだろ!」
さらに炎の勢いを増した。
「羽虫の底力か? いいぜ相手になってやる。来いよ」
バイレンは見下して余裕の笑みを浮かべている。
「おいおい、こっちも気に掛けろよ! 望みの烙印技を使ってやるよ」
バイレンは魔力の性質を伺うと、確かにジェイクの剣には、最初に観察した魔力らしい謎めいた力の流れが起きている。
「おうおう! 命がけの大技だなぁ! 本気でこねぇと死んじまうのはてめぇらだぞ!」
バイレンが両手上に上げると、一同の後方から無数の人型化け物が現れ、全部が手を前に出した。
「仕留め損ねたらてめぇらは嬲り殺しの刑だ」
状況は圧倒的に不利の緊迫状態。
小さく呼吸して腹を括ったジェイクは駆け、それを合図にトウマは炎を発した。
「無駄だって言ってんのが――」
突如、化け物を覆っていた防壁が硝子が砕けるように散った。
「……はぁ?!」
炎が容赦なくバイレンへ命中するや、バイレンは必死に炎を両手で掴んで力を込めて収束させた。
「くっそぉぉぉ!!」
予想に反して威力があり、圧縮して消滅させるのに難儀する。最中、ジェイクが高く跳躍して斬りかかった。
「おらぁぁっ!!」
背中に魔力を集中させたが、どうしても間に合わず斬られてしまった。とはいえ、骨に刃が届かず致命傷にも至らない。ただ、大量に出血しているので、防御に回した魔力を即座に止血するように変化させた。
(くっそ、堅ぇ)
着地したジェイクは、後ろ飛びでサラの傍まで寄った。
「作戦成功ですね」
「いや、あの野郎、自分の身体の防御も怠ってねぇ。仕留め損ねた」
バイレンは不審に思った。
なぜ防壁が壊れた?
何故二人の攻撃が命中した?
何故化け物たちはジェイク達目掛けて攻撃してこない?
周りに出現させた化け物たちを見ると更に驚いた。
なんと、化け物の群れが風化した土の山のように崩れていった。
「…………てめぇら……」
体中を震わせた。雑魚と見下していた者達に傷を負わされた事が悔しくてたまらない。
「一体何をしやがったぁぁぁぁ!!」
動転し、錯乱したバイレンを見て、三人の口元に笑みが浮かんだ。
◇◇◇◇◇
バイレンとの戦闘前。グレミアから無事に助かる方法を告げられた。
「それは……嫌です」
ミライザの魔力の業が消え去るまで隠れ続ける作戦を拒んだトウマの返事に、サラもジェイクも同意した。
「悪いなグレミア。確かに俺ら全員が生き残れる作戦だけどよ、あいつをこんな形で死なせる気はねぇんだ」
「冷静になってください。彼女は既に死者ですよ。魔力の業により存命しているように見えているだけで、亡霊と」
「それでも……」
言葉を遮ってサラが反論した。
「それでも嫌です。魔力の業で一時でも生き返れたのは奇跡だし偶然でしかないけど、……そんな奇跡を利用してでも会いたい人がいるって言ったんです。大切な伝えたい気持ちがある筈なんです」
トウマも補足した。
「短い間ですが魔力について指導してくれました。僕たちがミライザさんへ恩を返さないのは筋違いです。お願いです力を貸してくださいグレミアさん。ミライザさんを助けつつ僕たちも生き残れる方法を」
グレミアは三人の様子を見て、これ以上の反論は無意味だと悟り溜息を吐いた。
「貴方達のような方々と巡り合いやすい運命なのかもしれませんね、私は。そちらの縁結びの守護神様の加護が悪戯に働いているのかもしれません」
「うちの女神様は否応なしにお節介だからな」
ベルメアは腕を組んで自慢げな表情で喜んでいる。
「……同情するぜ」
追加発言にベルメアの表情は険しいものとなった。
ついつい可笑しくなったグレミアは、フッと言葉を漏らし、改めて意見を述べた。
「先に告げておきます。“確実に全員助かる方法”は、考える時間があれば導き出されるかもしれません。しかし時間の無い現状では『確実』と断言はできません」
「では、無理ですか?」トウマが訊く。
「かなり博打のような方法でしたら……もしかすれば」
煮え切らない作戦であろうと、今ではそれに縋るしかなかった。
「どんな作戦だろうと俺らはやるぞ」
三人の真剣さが伝わり、グレミアは説明した。
無駄な魔力消費を節約していたが、いよいよ我慢の限界に達し、立ち止まると両手を横に広げて全身に魔力を込めた。その魔力は男の全身を伝い、化物の身体、地面へと流れ、小さな水たまりのようにとどまった。
「さぁて……、どぉぉこ、だ!」
力を込めると、地面に貯まった魔力が一気に街の隅々まで広まり、すぐ傍に人間の魔力反応を三つ見つけた。それ等は前方建物の角に一つ、後ろに二つある。
男は、ジェイクが仲間と合流したのだと察した。
「出てこいよ! てめぇらガーディアン共の居場所なんてお見通しなんだよ!」
叫びに応えるようにトウマが建物の角から現れる。
「おいおいひ弱そうな野郎だな。こんな所にいるっつーことは、あの剣士野郎の仲間だろ?」(後ろの二体の一つが野郎、傍にもう一人。……挟み撃ちで俺を殺ろうってか)
男は状況を冷静に分析した。
「おい貧弱野郎。いや、鬱陶しいから羽虫野郎か。剣士の場所知ってんだろ? 教えろや」
「僕はトウマだ。お前何者だ? 人間じゃないだろ」
「人間だよバーカ! すぐ死ぬだろうが教えてやるぜ羽虫。俺様はバイレン、暒空魔術の賢師を超えた男だ。弱いくせに立ちはだかった蛮勇の褒美として、てめぇの脆弱魔力も一緒に取り込んでやるよ」
「やれると思うなよ」
トウマは両手に魔力を込め、性質を氷雪系へと変化させた。
「氷雪複合強化魔術・氷獄!」
魔法はバイレンの足元へ向けて放つと、氷が地面と家の壁に伝わり凍る範囲を広げた。
バイレンが魔力の防壁を発生させた途端、凍った所から無数の大小様々な氷柱が発生し、標的を串刺した。
「……いったか」
(いや、駄目だよ)
ビィトラがバイレンの反応を見た。
氷柱は確かに生じている。しかし、化け物の本体に一本たりとも刺さっていなかった。
「おいおい、大がかりで派手な技じゃねぇか! けど随分と魔力の込め方が雑な術だなぁ。見掛け倒しかよ、だっせぇ!」
一瞬にして氷柱がはじけ飛び、氷の残骸が散らかった。
「おめぇ何しに来たんだ? 囮になって仲間の回復待ちか? それとも、おめぇに集中させて背後から……」
後ろを振り返ると、ジェイクが氷の破片を伝って跳躍し、勢いよく斬りかかっていた。
バイレンは予想していたので、防壁は即座に発生できた。
「見え見えなんだよオッサン!」
剣撃を防がれると、防壁を弾き飛ばして衝撃波を起こし、ジェイクを飛ばした。
「ジェイクさん!」
こっそり隠れていたサラは姿を晒してしまった。
「大丈夫だ! それより援護!」
(女の術で身体能力向上。人並み外れた跳躍と着地の安定感から、脚力強化が妥当なところか)
バイレンは不敵に笑んだ。
「惜しかったなぁ烙印使い! 出会った時みたいに今ので斬ってたら俺を仕留めれただろ。何故しない!」
ジェイクは黙ったままバイレンを睨む。
「なーんてな。お前の烙印は残り一回が限度ってんだろ? 使える訳ねぇよな! 貴重な切り札を!」
あっさり見抜かれた事に三人は驚愕し、構える様子から焦りの色が伺える。
「トウマを囮に隙を見て攻撃。女の術で身体能力向上で烙印を使ってるように見せて、いざって時にドカン。ってか? 浅はかぁぁ! ガキのごっこ遊びじゃねぇんだからよぉぉ! 笑わせんなよボケ共が! 俺様の暒空魔術でてめぇらの魔力の流れや性質はお見通しなんだよ!」
焦りながら、トウマは両手に炎を纏わせる。
「オラ来い羽虫! 炎技ブチかましてオッサンの切りつけで傷負わそうとしてんだろ? 無理なんだよ! 烙印技しか勝機作れねぇてめぇらの戦略なんてのぁな!」
「やって見なけりゃ分からないだろ!」
さらに炎の勢いを増した。
「羽虫の底力か? いいぜ相手になってやる。来いよ」
バイレンは見下して余裕の笑みを浮かべている。
「おいおい、こっちも気に掛けろよ! 望みの烙印技を使ってやるよ」
バイレンは魔力の性質を伺うと、確かにジェイクの剣には、最初に観察した魔力らしい謎めいた力の流れが起きている。
「おうおう! 命がけの大技だなぁ! 本気でこねぇと死んじまうのはてめぇらだぞ!」
バイレンが両手上に上げると、一同の後方から無数の人型化け物が現れ、全部が手を前に出した。
「仕留め損ねたらてめぇらは嬲り殺しの刑だ」
状況は圧倒的に不利の緊迫状態。
小さく呼吸して腹を括ったジェイクは駆け、それを合図にトウマは炎を発した。
「無駄だって言ってんのが――」
突如、化け物を覆っていた防壁が硝子が砕けるように散った。
「……はぁ?!」
炎が容赦なくバイレンへ命中するや、バイレンは必死に炎を両手で掴んで力を込めて収束させた。
「くっそぉぉぉ!!」
予想に反して威力があり、圧縮して消滅させるのに難儀する。最中、ジェイクが高く跳躍して斬りかかった。
「おらぁぁっ!!」
背中に魔力を集中させたが、どうしても間に合わず斬られてしまった。とはいえ、骨に刃が届かず致命傷にも至らない。ただ、大量に出血しているので、防御に回した魔力を即座に止血するように変化させた。
(くっそ、堅ぇ)
着地したジェイクは、後ろ飛びでサラの傍まで寄った。
「作戦成功ですね」
「いや、あの野郎、自分の身体の防御も怠ってねぇ。仕留め損ねた」
バイレンは不審に思った。
なぜ防壁が壊れた?
何故二人の攻撃が命中した?
何故化け物たちはジェイク達目掛けて攻撃してこない?
周りに出現させた化け物たちを見ると更に驚いた。
なんと、化け物の群れが風化した土の山のように崩れていった。
「…………てめぇら……」
体中を震わせた。雑魚と見下していた者達に傷を負わされた事が悔しくてたまらない。
「一体何をしやがったぁぁぁぁ!!」
動転し、錯乱したバイレンを見て、三人の口元に笑みが浮かんだ。
◇◇◇◇◇
バイレンとの戦闘前。グレミアから無事に助かる方法を告げられた。
「それは……嫌です」
ミライザの魔力の業が消え去るまで隠れ続ける作戦を拒んだトウマの返事に、サラもジェイクも同意した。
「悪いなグレミア。確かに俺ら全員が生き残れる作戦だけどよ、あいつをこんな形で死なせる気はねぇんだ」
「冷静になってください。彼女は既に死者ですよ。魔力の業により存命しているように見えているだけで、亡霊と」
「それでも……」
言葉を遮ってサラが反論した。
「それでも嫌です。魔力の業で一時でも生き返れたのは奇跡だし偶然でしかないけど、……そんな奇跡を利用してでも会いたい人がいるって言ったんです。大切な伝えたい気持ちがある筈なんです」
トウマも補足した。
「短い間ですが魔力について指導してくれました。僕たちがミライザさんへ恩を返さないのは筋違いです。お願いです力を貸してくださいグレミアさん。ミライザさんを助けつつ僕たちも生き残れる方法を」
グレミアは三人の様子を見て、これ以上の反論は無意味だと悟り溜息を吐いた。
「貴方達のような方々と巡り合いやすい運命なのかもしれませんね、私は。そちらの縁結びの守護神様の加護が悪戯に働いているのかもしれません」
「うちの女神様は否応なしにお節介だからな」
ベルメアは腕を組んで自慢げな表情で喜んでいる。
「……同情するぜ」
追加発言にベルメアの表情は険しいものとなった。
ついつい可笑しくなったグレミアは、フッと言葉を漏らし、改めて意見を述べた。
「先に告げておきます。“確実に全員助かる方法”は、考える時間があれば導き出されるかもしれません。しかし時間の無い現状では『確実』と断言はできません」
「では、無理ですか?」トウマが訊く。
「かなり博打のような方法でしたら……もしかすれば」
煮え切らない作戦であろうと、今ではそれに縋るしかなかった。
「どんな作戦だろうと俺らはやるぞ」
三人の真剣さが伝わり、グレミアは説明した。
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