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三章 暒空魔術への想い
Ⅲ ガドでの夜
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ガドの村で夜を迎え、夕食時にサラは唖然となった。
「……ジェイクさんって、普段からこんなに食べるんですか?」
既に四品の肉料理それぞれ三人前、野菜料理三品二人前は平らげている。
「まだ数日しか見てないけど、その時から食費は凄いよ」
金管理が面倒と言い張るジェイクは、トウマと出会って以降、管理は任せきりにしている。一応、非常時用にトウマはジェイクに微々たる金額を預けている。
「うちの子は育ち盛りなので」
母親のように振舞うベルメアを無視して、ジェイクは自分が注文した最後の肉料理を完食した。
「あー、美味い。……俺よりお前らの方が食細すぎだろ」
カレリナが現れて分析した。
「住む世界や立場が違うのではないでしょうか……。転生した身体とはいえ、これだけ時間が経過したなら体質の殆どは前世の状態に寄りますから」
「けど、烙印の影響もあるんじゃない?」
ビィトラがトウマの背にしがみつくように現れる。
「あれだけ謎ばっかで強力なんだ。体力の消費は凄い筈だよ。今までだって激戦後は満身創痍だったし」
ここぞとばかりにジェイクは胸を張ってベルメアへ告げた。
「つーわけだベル。トウマの資金が底尽きる前に受肉しねぇと、生き死に以前にトウマの財布が臨終しちまう」
「他人事みたいに言わないでくださいよ。ジェイクさんの剣も消耗品状態なの、分かってます?」
無理な烙印技で使用した剣は全てボロボロになり、激戦後は買い替えている。
サラは剣に関して意見した。
「今後の課題じゃないですけど、ジェイクさん専用の頑丈な剣も探さないといけませんよね。私達が生き残るためにはジェイクさんの未知の力が鍵でしょうから」
「そんな都合良く頑丈な剣とかあるのか?」食事を終え、ジェイクは傍に置いてある剣(鞘には収まったまま)を持ち上げた。「……まあ、危険な代物でしかねぇ烙印に対応出来る剣が、その辺の店で売ってるわけねぇだろうな。もっと特別な鍛冶屋探して頼むしかねぇだろ」
サラは頷いた。
「ですね。魔術も使える世界なんだから、特別な武器とかあるだろうし」
武器以外の疑問が浮かんだトウマは不安になる。
「けど、悠長にしてられないかも。これからは転生者同士で戦う事もあるだろうし、何もなかったとしてもいつまで””転生者”でいれるか分からないから」
転生者達の傍らで、ビィトラとベルメアは若干の焦りの表情を滲ませる。
「そうだな。終わりが分かんねぇなら」
ベルメアは躊躇いながらも何かを告げようとした。しかし、すぐに話す期を逃した。
「え? 三年ですよね。転生者でいれる期間」
なぜサラが知っているかと驚く二人が理由を聞くと、転生後にカレリナから説明を受けたとされる。
「おいどういうことだベル」
「え?! あ、あれ……、言ってなかったけ?」とぼけてみせた。
同様にトウマもビィトラに訊いた。
「言うの忘れてた」潔く悪びれない。
「おいおいしっかりしてくれよ。昇格してぇんじゃねぇのかよ」
「しょうが無いでしょうよ! いろんなところであんたが勝手に行動するし、物わかり微妙だし、説明量も多くなるし!」
”こっちの苦労も分かってくれ”と言わんばかりの訴えに、ジェイクは視線を逸らせた。
「ビィもビィだよ」
「仕方ないじゃん。トウマも仲間出来たり失ったりで気が気でなかったみたいだし。ビィは悪くないし」
熱意ある訴えはないものの、トウマも何も言えない。
この話題から外れようと、ジェイクは咳払いして話を変えた。
「ところでミライザはどうした? 飯食わねぇと死ぬぞ」
「何言ってるんですか、ミライザさん死んでますよ」サラが返す。
「お、そうだな。こいつぁ一本取られちまった。ははは」
くだらないやりとりに、トウマは呆れながらも補足した。
「自然界の気に触れて魔力を浄化するのが夕食替わりらしいですよ」
「へぇ……安上がりだけど苦労する体質なんだな」
村を出てすぐの所でミライザは目当ての町の方角を眺め、魔力と大地の気を感じていると、ある男性の言葉が思い出される。
(ミラ、本当にここから見える町が好きなんだな)
(きっとうまくいくよ。だって君は頑張って研究してただろ?)
(……必ずまた会おう)
集中が途切れ、首飾りを握りしめる。
「ダン、最後にもう一度だけ……」
想いを胸に、再び集中した。
今、余命僅かな奇跡としかいえない現状において、ミライザは”希望”にすがりつつも冷静に考えて行動している。
叶う事を切に願いつつ。
◇◇◇◇◇
ジェイク達がベルゲバの塔で魔女もどきと対峙していた時、【ビスト】と呼ばれる街では人知れず奇妙な現象が起き始めていた。
夜、街を徘徊する荒くれ者達が、まるで廃人のような様子でフラフラと歩き、建物の間へと行くと姿を消した。そういった事例が一日に五件も発生し、翌日にもまた消える者が現れる。
全員が鼻つまみ者ばかりであり、住民たちは失踪に大して気にも留めなかった。
そんなビストに、二人の強力な術師がいる。ジェイク達がガドの村に訪れた日であった。
一人は女。三か月前に魔女を倒した英雄の一人である。
仲間の予言から”ビストに禍々しい気を帯びた異変が起きる”と告げられた。
同時期に重なる問題ごとと関連してると判断し、ビストへ訪れた。
もう一人の術師は男。英雄術師よりも五日早く訪れて、自らが計画する惨事を遂行しようと、準備に余念を欠かさなかった。その甲斐あってか、ジェイク達がガドの村を出発した時には準備を終えていた。
「さっさと来いガーディアンと賢師様。狂気の舞台は整ってからよ」
男は昂る感情を抑えつつも不適な笑みを浮かべ、街の一角で静かに時が来るのを待ち構えた。
ビストにて、激戦が繰り広げられようとしている事をジェイク達は知らない。
「……ジェイクさんって、普段からこんなに食べるんですか?」
既に四品の肉料理それぞれ三人前、野菜料理三品二人前は平らげている。
「まだ数日しか見てないけど、その時から食費は凄いよ」
金管理が面倒と言い張るジェイクは、トウマと出会って以降、管理は任せきりにしている。一応、非常時用にトウマはジェイクに微々たる金額を預けている。
「うちの子は育ち盛りなので」
母親のように振舞うベルメアを無視して、ジェイクは自分が注文した最後の肉料理を完食した。
「あー、美味い。……俺よりお前らの方が食細すぎだろ」
カレリナが現れて分析した。
「住む世界や立場が違うのではないでしょうか……。転生した身体とはいえ、これだけ時間が経過したなら体質の殆どは前世の状態に寄りますから」
「けど、烙印の影響もあるんじゃない?」
ビィトラがトウマの背にしがみつくように現れる。
「あれだけ謎ばっかで強力なんだ。体力の消費は凄い筈だよ。今までだって激戦後は満身創痍だったし」
ここぞとばかりにジェイクは胸を張ってベルメアへ告げた。
「つーわけだベル。トウマの資金が底尽きる前に受肉しねぇと、生き死に以前にトウマの財布が臨終しちまう」
「他人事みたいに言わないでくださいよ。ジェイクさんの剣も消耗品状態なの、分かってます?」
無理な烙印技で使用した剣は全てボロボロになり、激戦後は買い替えている。
サラは剣に関して意見した。
「今後の課題じゃないですけど、ジェイクさん専用の頑丈な剣も探さないといけませんよね。私達が生き残るためにはジェイクさんの未知の力が鍵でしょうから」
「そんな都合良く頑丈な剣とかあるのか?」食事を終え、ジェイクは傍に置いてある剣(鞘には収まったまま)を持ち上げた。「……まあ、危険な代物でしかねぇ烙印に対応出来る剣が、その辺の店で売ってるわけねぇだろうな。もっと特別な鍛冶屋探して頼むしかねぇだろ」
サラは頷いた。
「ですね。魔術も使える世界なんだから、特別な武器とかあるだろうし」
武器以外の疑問が浮かんだトウマは不安になる。
「けど、悠長にしてられないかも。これからは転生者同士で戦う事もあるだろうし、何もなかったとしてもいつまで””転生者”でいれるか分からないから」
転生者達の傍らで、ビィトラとベルメアは若干の焦りの表情を滲ませる。
「そうだな。終わりが分かんねぇなら」
ベルメアは躊躇いながらも何かを告げようとした。しかし、すぐに話す期を逃した。
「え? 三年ですよね。転生者でいれる期間」
なぜサラが知っているかと驚く二人が理由を聞くと、転生後にカレリナから説明を受けたとされる。
「おいどういうことだベル」
「え?! あ、あれ……、言ってなかったけ?」とぼけてみせた。
同様にトウマもビィトラに訊いた。
「言うの忘れてた」潔く悪びれない。
「おいおいしっかりしてくれよ。昇格してぇんじゃねぇのかよ」
「しょうが無いでしょうよ! いろんなところであんたが勝手に行動するし、物わかり微妙だし、説明量も多くなるし!」
”こっちの苦労も分かってくれ”と言わんばかりの訴えに、ジェイクは視線を逸らせた。
「ビィもビィだよ」
「仕方ないじゃん。トウマも仲間出来たり失ったりで気が気でなかったみたいだし。ビィは悪くないし」
熱意ある訴えはないものの、トウマも何も言えない。
この話題から外れようと、ジェイクは咳払いして話を変えた。
「ところでミライザはどうした? 飯食わねぇと死ぬぞ」
「何言ってるんですか、ミライザさん死んでますよ」サラが返す。
「お、そうだな。こいつぁ一本取られちまった。ははは」
くだらないやりとりに、トウマは呆れながらも補足した。
「自然界の気に触れて魔力を浄化するのが夕食替わりらしいですよ」
「へぇ……安上がりだけど苦労する体質なんだな」
村を出てすぐの所でミライザは目当ての町の方角を眺め、魔力と大地の気を感じていると、ある男性の言葉が思い出される。
(ミラ、本当にここから見える町が好きなんだな)
(きっとうまくいくよ。だって君は頑張って研究してただろ?)
(……必ずまた会おう)
集中が途切れ、首飾りを握りしめる。
「ダン、最後にもう一度だけ……」
想いを胸に、再び集中した。
今、余命僅かな奇跡としかいえない現状において、ミライザは”希望”にすがりつつも冷静に考えて行動している。
叶う事を切に願いつつ。
◇◇◇◇◇
ジェイク達がベルゲバの塔で魔女もどきと対峙していた時、【ビスト】と呼ばれる街では人知れず奇妙な現象が起き始めていた。
夜、街を徘徊する荒くれ者達が、まるで廃人のような様子でフラフラと歩き、建物の間へと行くと姿を消した。そういった事例が一日に五件も発生し、翌日にもまた消える者が現れる。
全員が鼻つまみ者ばかりであり、住民たちは失踪に大して気にも留めなかった。
そんなビストに、二人の強力な術師がいる。ジェイク達がガドの村に訪れた日であった。
一人は女。三か月前に魔女を倒した英雄の一人である。
仲間の予言から”ビストに禍々しい気を帯びた異変が起きる”と告げられた。
同時期に重なる問題ごとと関連してると判断し、ビストへ訪れた。
もう一人の術師は男。英雄術師よりも五日早く訪れて、自らが計画する惨事を遂行しようと、準備に余念を欠かさなかった。その甲斐あってか、ジェイク達がガドの村を出発した時には準備を終えていた。
「さっさと来いガーディアンと賢師様。狂気の舞台は整ってからよ」
男は昂る感情を抑えつつも不適な笑みを浮かべ、街の一角で静かに時が来るのを待ち構えた。
ビストにて、激戦が繰り広げられようとしている事をジェイク達は知らない。
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