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三章 暒空魔術への想い

Ⅱ ミライザの指導

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 トウマとサラのミライザへの要望は、”魔術の指導をしてほしい”であった。
 船が到着した港は町らしい場所ではなく、港から徒歩三十分ほど、傾斜のある平地を登った先に【ガド】とよばれる村がある。ミライザの指導は村から少し離れた平原にて行われた。
 ミライザの要望により、トウマとサラの指導に加え、ジェイクの烙印を調べることが条件とされた。

 剣を構えたジェイクは、烙印の力を全身に纏わせて維持した。ミライザは気功と魔力を眺めた。
 十分経過して烙印の力が一瞬で消え、ジェイクは激しく息を切らせる。

「うん、烙印の力が強まってるわね。使いこなせてるぅ……でいいのかしら?」
 ベルメアが傍で訊いた。
「……さあな。……はぁ、はぁ、でも……呼吸の回復も早い。慣れたんじゃねぇか」
 考察に励むミライザは、口元に手を当て何かを呟いて感想と分析を呟いた。質問が纏まるとジェイクに訊く。
「初めて見た時から思ったのだけど、魔力ではないわね。魔力の業に性質は近いと思うけど……何か違う気がするわ」
 サラの傍で浮遊しているカレリナが続けた。
「神力とも違いますね。けど、似てる点もあります」
「つまりは、あらゆる力を混同させた力と考えて宜しいのかしら?」
 ミライザがジェイクに詳細を訊くも、ジェイク自身、烙印の知識が無く”途轍もなく強力な力を宿した紋章”としか言えない。しかしこの情報も前世の記憶だ。
「烙印の力についてもう一つ気になる事があります」
 トウマはステータスボードを取り出し、ジェイクのレベルを表示した。
 既に現実を受け入れたジェイクは驚かないでいるが、さすがにレベル12の表示を見ると表情が若干歪む。
「ジェイクさんのレベルはあまり上がっていません。当初、烙印を使ってとどめを刺すと経験値が入らないと考えてました。けど魔女もどきや、それ以降のそこそこ強い魔獣や野獣に烙印で倒してるけど、かなり遅いですがレベルは確かに上がってる。つまり、烙印の力を使用してとどめを刺しても経験値は入ると思われます」

 サラが疑問を呈した。
「ですが、私が知る情報では烙印の力をジェイクさんは使いこなせていますし技の数も増えてます。それって、烙印の力もレベルアップしてるんじゃないでしょうか?」
 ベルメアは肯定した。
「あり得るわね。ジェイクのレベルが上がらないのに激戦を超えれてるのは紛れもなく烙印の力のおかげよ。修羅場をこんなに乗り越えても使いこなせつつあるなら、烙印にもレベルのようなものがあると考えていい筈」

 情報を得てもミライザはまだ腑に落ちない何かを感じていた。
「危険な力である事に変わりはないわね。私も魔力や自然界の力を研究してたから、調べれば色々分かるとは思うけど……出来る限り観察させてもらうわ」
 不意にトウマはミライザについて疑問に思っていた事を訊いてみた。
「ミライザさんって、どういった術師だったんですか? 初対面の時から烙印の力にも平然と観察してるし分析も丁寧だし。この世界の術師ってもしかして凄い人達ばかりでしょうか?」
「元々は暒空魔術っていう術の研究者よ。こういったローブ姿で術も使うから、古風な術師って思われそうですけど。これは私の心象に呼応して魔力がこの衣装を作り上げたもの。一応は死体ですからね。魔力で造れない物質と言えばこの首飾りくらいかしら」
 ジェイクが訊いた。
「んなもんどっから持ってきたんだ?」
「あら、最初から付けてたわよ。見づらくはあったでしょうけど、首にかけて服に入れていましたの」
「ジェイクさん……奥さんが髪切っても気づかないとかいう人ですか?」
 サラが疑いの目を向けて訊く。
「あ~それは駄目よ。女性の小さな変化に気付くのが男の格を上げるんだから」
 ベルメアが便乗した。
「うるせぇ! んなもん、堂々と”変わった”って言やいいんだよ! なぁトウマ」
 振られて、苦笑いを浮かべるトウマを見て、女性陣は彼にも疑念を抱いた。

 雑談の区切りとばかりにミライザが咳払いした。
「まあ、烙印の力はさておき、次はあなた達の術を見させてもらうわよ」
 急に指名されて二人は緊張する。自分たちが修行を求めたのだが、いざ見てもらうとなると妙に力が入る。
「ベルゲバの塔では遠くからですがトウマ君の術にはいろいろ思うところがあったわ。サラも魔力の業をジェイクへ移す時に魔力のムラが気になりました」
 すでに分析された後であり、改めて二人は緊張する。


 ミライザの指示に従いトウマは何も無い平地へ向かって、炎術・焔を放った。レベルが上がった影響で、いつもより威力は強く見える。
「やるなトウマ。森の時より強くなってるぞ」
「僕だってレベル上がってるから」
「けど、ああいうのって、ファイヤーなんとかとか、なんとかフレイムとかって言わないんですか?」
 前世で共通のアニメ知識による会話だが、トウマとサラ以外は分かっていない。
「僕、和風の術とかが好きだからかな。使用する時に言葉が浮かぶんだよ」
 ビィトラが現れて補足説明した。
「術の名称は基本、使用者の深層心理が影響するんだよ。使用方法や形も同じね」
 つまり、サラもその系統である。

 前世の話で盛り上がる二人を余所にミライザは欠点をいくつも見つけた。
「けど、やっぱり魔力の放出量や込め具合がお粗末ね。貴方の込めた魔力量が50だとすると、あれは『強い炎として見せる』演出に特化させすぎよ」
 ミライザが右手に炎の球体を出現させ、トウマが放った場所へ飛ばした。
「これで20の魔力量よ」
「綺麗な球体ですけど、当たってもちょっと燃えるぐらいじゃないんですか?」
 ミライザの口元に微かな笑みが浮かんだ
「ちょっと……ねぇ」
 手の平をを仰向けにすると、人差し指と中指を揃えて上げた。途端、球体が破裂し、炎の竜巻が生じた。
「おいおい、どんだけすげぇ術使ってんだよ!」
 三人は仰天した。
「トウマ君の術は二種類の炎を融合させたものだけど、私も同様に風と火の術を融合させてアレを発生させたわ。そう見えなかったのは、凝縮が出来てるか出来てないかの違いよ。トウマ君があのように炎を大々的に出現させたのは、概念がそうさせたのかもしれないけど、今みたく小さな弱そうな球体にまで縮小させることが出来たら、今より5倍は強い術が使えるわ」

 方法を求められるが、先にサラの術を調べることになった。サラはトウマと違い、治療や援護の術を得意とするため、防壁の強度観測となる。

「じゃあ、さっきの炎より力は抜いてるけど、出来るだけ全力で防いでね」
 互いに距離を取り、ミライザが風の球体を飛ばした。
 球体がサラの防壁に触れると、そこを中心に、立つのが困難な暴風が吹きつける。
「――きゃあああ!」
 防壁は弾かれたサラは、まだ止まない暴風が吹き付けて倒れた。
「サラもトウマ君と同様。魔力にムラがあるし凝縮しきれていない。もっと言うなら、”防壁”って固定観念にとらわれすぎてその場に定着させすぎ・・・・・・よ」
「なんだ? 定着させすぎって。防壁って壁作るのが常識だろ?」
 ジェイクの疑問解決の為にミライザは、自分に向かって先ほどの焔を放つようにトウマへ命令した。どういう結果になるか不安のトウマは、緊張しながらも焔を放つ。しかし心配もすぐ無駄に終わる。
 ミライザの前にサラとは比べものにならない程の、美しく、まるで朝日が差して煌く湖面の様な壁が現れた。

「真向から来る攻撃に、真向から歯向かうより」
 焔が当たると、壁一面に炎が燃え広がった。しかし、ミライザへぶつかる炎は、軌道を変えて斜め上、後方へ流れた。
 この現象の真相は、真正面で構えていたミライザの防壁が斜めに傾き、炎の軌道を変えているに過ぎなかった。
 炎が消え、防壁を解いたミライザは、力を使い切ってしゃがむ二人に近づいた。

「あら、もう限界? これが無駄な魔力を使った証拠ね。消耗が激しいのは転生者も並みの術師も同じよ」
「どうすれば修業になるんですか?」トウマが訊いた。
「いろいろ教えてあげたいけど……今は両手に魔力の球体を発生させて、それを小石ぐらいになるまで凝縮させなさい。かなり難しいけど、貴方達は筋が良いからすぐにそれは出来る筈よ」
 とはいえ、目の前でやってみせるも、二人とも中々上手くいかない。
「それが出来たらそれを一時間維持できるように。それが平然と出来たらかなり貴方達は強くなるわよ」

 成果が実感できる修業を教わり、二人は早速励んだ。
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