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二章 魔女の巣くう塔
Ⅶ 予想外
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三日前、サラとミゼルは腐敗した野獣の軍勢に襲われた町で出会った。
転生者としての境遇が同じというので打ち解け合い、互いに協力しあって腐敗した野獣群を退治する。以降、共に旅をする仲間となった。
二日前、野獣達の腐敗原因がベルゲバの塔にあるとの情報を得て調査のために塔へ向かうも、塔周辺の荒野で巨人のような化け物と遭遇してしまう。
化け物の容姿は、大の大人二人分を繋げた長さの手足、エビの殻みたいな甲殻が連なったような縦長の胴体、顔は長細く、目を丸く見開き、牙を剥きだした人間の風貌であった。攻撃は手を伸ばして襲うという単純であり遅かった。
容易に躱し、隙を見て致命傷を与えると安易に考えてしまったが、化け物は単純ではないと思い知らされることになる。
長い腕のあちこちから次々に手が伸びてきて獲物を捕らえるように働いた。
”相手は弱い”と思い込んだのが気の緩みに至り、回避行動の遅れが状況の立て直しに手間取らせてしまった。
前世の感が幸いして、どうにかこうにかミゼルは難を乗り越えた。しかし状況が好転しないサラを見ると、戦慣れしていない人間だと判断し、最善策を考察した。
ミゼルの立ち回りと指示により、策を得たサラは化け物の急所を探る。しかし突如化け物は上空目掛けて耳をつんざくような雄叫びを発した。すると、雄叫びに反応して地中から無数の人骨の群れが現れ、ミゼルとサラを襲う。
ミゼルはどうにか逃げ延びるも、サラの方へ人骨達は寄って集る。多勢に無勢で為す術もないサラは、塔へと連れ去られた。
救出しようにも、今度は魔獣と野獣の死体がミゼルに襲いかかり、仕方なく逃げに徹するしかなかった。
ベルゲバの塔へ向かう道中、ベルゲバの塔での説明を訊いたジェイクは質問を投げかけた。
「本当にサラって女と仲間か? 作り話とかじゃねぇよな」
走行中の馬上で会話が可能なのは念話の応用技である。念話より声に出す方が話しやすいからと、ジェイクの申し出を守護神達が受け入れて出来る芸当だ。
「疑り深い奴だな。気持ちは分かるが信用してほしい、本当だ。なんだったら、サラを救出後、魔女退治に協力して神力集めに尽力するし、配分を変えられるなら君たちに多く振る舞おう」
「神力って、転生者倒せば手に入る……だったよな?」
ジェイクは神力を集める説明のほとんどを曖昧にしか覚えていない。ベルメアも諦めているのか、呆れそうな意見に一々落胆しなくなる。
「それもそうだし、特別な魔獣を倒しても得られるわ。そして、仲間がいたら得た神力は分割されるから」
分割の話はジェイクに言っていなかったが、どのみち曖昧にしか覚えていないなら、改めて言い直す必要もないとされた。
「けど厄介ですね」トウマは状況を整理した。「相手はアンデッドも使役出来るって事はネクロマンサーの性質が」
「ちょ、ちょっと待てトウマ。なんだ、その、なんとかサーって」
前世で使われていた英単語が使えない事をトウマは思い出す。
「あ、ああ。ごめんなさい」
「ははは。どうやらトウマ殿は特殊な言語を使用する世界の住人らしいな。あまり多用しないのであれば、いくつかは覚える努力をしよう。その方が話しやすいのでは?」
「あ、いえ、大体どの単語が伝わらないか、ジェイクさんを見て分かってきたので……大丈夫です。えっと、要するに、魔女の力は死者や死霊を操る可能性があるなぁって話です」
「ふむ。私も縁あって旅の道中、そういった類の術を見聞きしているから要領は得ているが。ジェイク殿はどうかな?」
「”殿”は止めろ。歳もそんなに変わらんだろ」
トウマがステータスボードを出現させ、ミゼルの年齢を探ると、”48”と出た。
「ええ!? 48歳ですか?!」
「嘘だろ若すぎるぞ!」
「ははは。私も転生して分かったのだが、全盛期の年齢に近い肉体に宿るらしい。私個人としては二十代後半か三十なりたてかな? 君とさして変わらんとは思うが」
「言ったぞ。なら互いにタメ口だからな」
ミゼルは了承し、トウマにも訊いた。
「どうかね、トウマ殿も気安く話すのは」
「いえ。僕は敬語でいきますよ。転生しようとしまいとそちらが年上ですから。それに、”殿”もやめてください」
無駄話が終わると、荒野へたどり着いた。
ミゼルの情報では荒野での戦闘は避けようがないと断言された。
広大な荒野を馬を走らせて突っ切るなら十分とかからないが、骨や死体が襲ってくれば消耗戦となり足止めをくらう。塔内部にも敵を控えていると考慮するなら魔力も体力も温存しておきたい。
「さて、どう対処する?」
トウマなりの案を語った。
「とりあえずは突っ切ります。敵が現れたら僕の術で一掃して、出来た通路を一気に駆け抜ける。また出たら同じことの繰り返しですが、魔力消費がすごい大技だから、欲を言えば二回で済ませたいです」
ジェイクが思い出すのは、森で行った暴風と氷の術である。「ごり押し戦法か。もっと効率のいい術はねぇのか?」
ビィトラが「無理」と断言して説明した。
「トウマの術は殆どが自然界の力に作用するものばかりだから。死に関する化け物相手なら治癒術が有効だろうけど、流石にそこまで万能じゃないからね。トウマの策の応用でジェイクの烙印技で消し飛ばすってのも考えられるけど……」
今度はベルメアが口を挟んだ。
「大博打ね。やった事ないから出来たとしても身体への負担が大きいだろうし、敵が無数に現れるなら圧倒的に不利になるわ。ここは素直にトウマの策で突っ切る方が賢明よ。ラド―リオは何か妙案とかある?」
ラド―リオは頭を左右に振った。
口数が少なく大人しい性格の為、未だにあまり口を開いていない。
「ははは、守護神や転生者が増えてもラオの寡黙は変わらないな。それはさておき、突っ切る策しかないのは仕方ないが、巨人の化け物や例外となる存在が現れた場合はどうするのだね?」
ジェイクが即答する。
「誰かが残る。塔へは最低でも二人は必要だ。ミライザとサラの二人が待ち構えてるだろうからな」
どう足掻こうと人手が足りない状況は変わりない。
「トウマはサラ救出の策があるんだろ?」
ビィトラが頷いた。
「だったらもしもの場合、残るのは俺かミゼルだ。状況判断でどちらが残るか決めるぞ」
「分かった。後は運次第とさせて頂こうか」
三人は塔へ向かう覚悟を固め、トウマを先頭に馬を走らせた。
◇◇◇◇◇
塔の屋上から三人の動向を眺めていたミライザは荒野へ視線を落とした。
「いよいよ来ました。どうなさいますか?」
視線を変えずに訊くと、何処からともなく声がする。
『私は私なりに動く。邪魔だけはするな』
「ええ。あなた様の邪魔は致しませんが、奴らの生き死にはどうなさいましょう」
『好きにしろ。私が欲しいのは死体のみ。魂も肉体を抜ければいいように出来るだろうからな』
ミライザは不敵に笑んだ。
「では、先陣を切らせて頂きます」
言い残すと塔を飛び降りて落下、中腹辺りで姿を消した。数秒後、三人より少し離れた荒野へミライザは現れた。
馬を走らせる三人がその姿を目にした時、距離をとって馬を止めた。
「おいおい。いきなりかよ」
早速予想外の展開に、ジェイクとトウマは冷や汗をかき内心で焦る。
「誰だね? あの女性は」
「かなりやり手の術師です。気を付けてください」
三人は馬をゆっくりと進ませ、ミライザの元へ近づいた。
「勘弁してくれよ。計画が総崩れになっちまったじゃねぇか」
「ウフフ。誰でも予想出来るもてなしなんてつまらないでしょ? どうせ、死者の軍勢で攻めてくるから、その対応策を講じてたのでしょうけど」
(流石ね。読まれてるわ)ベルメアが感心した。
「参った。お見通しかよ」
「そちらの殿方がいるんですもの」ミゼルに目をやる。「手の内が分かっているなら、そのくらいの策を講じるのは当然よ。私でもそうするわ」
緊張する二人に反し、ミゼルは楽しそうである。
「ははは。よく頭の回る女性だ。どうかね? 魔女に仕えるよりより我々と旅を共にした方が楽しいとは思うが」
ミゼルの勧誘すら、ミライザは鼻で嗤ってあしらった。
「残念ね。此方には此方の事情があるのよ。でも……無事に生き残れたら考えてあげてもいいわ」
「ほほう。それはやる気が出るというものだ」
ミゼルは馬を降りた。
「おい、何考えてやがる!」
「この女性は私が相手をしよう。早く塔へ行くんだ」
ジェイクとトウマが戸惑っている隙に、ミライザは両手を地面へ翳した。
「させるかっ!」
魔力の波が地面へ流すと、ジェイクとトウマは別の空間へ移動させられると直感した。しかし、ミライザの魔力を浴びて揺らめいた地面は、間もなく、何事も無かったかのように変化しなかった。
「――ええ?! ……どういう事?」
戸惑ってるミライザを他所に、ミゼルはジェイク達に指示した。
「さっさと行け。二度も好機は訪れんぞ」
何が起きたか分からないが、ミゼルを信じてジェイクとトウマは馬を走らせた。
「何をした貴様ぁ!」
「いやぁ、私も単純な術を”ある御仁”から指導を賜ったのさ。とはいえ、揺らぎや流れに干渉する程度だから、地味で見栄えのしない有様が情けないところだが。貴女は別空間へ人を送るとあの者達から聞いたのでね、送りたいなら手抜きではなく本気で魔力を注ぐほうがよろしい。こんな弱小術師に呆気なく相殺され続けると、貴女の格も下がる一方だよ」
魔力量まで量られているから、侮れない相手だとは認識する。明らかな挑発にミライザは舌打ちした。
昂ぶる苛立ちを一呼吸吐いて沈め、冷静さを取り戻した。
「フフフ、いいわ。先に烙印使いとの決着を済ませたかったのだけど、先に貴方から血祭りにしてあげるわ」
「血祭りとは……、痛々しいのは御免被りたいのだが」
「抵抗しなければ一瞬よ。痛みさえ感じさせないわ」
「どんな余興が待ち構えているか楽しみだ」
ミゼルの余裕ある態度に、苛立つ気持ちを抑え、ミライザは平静を保ち続けた。
再び地面に両手をかざして先ほどよりも魔力を多く込めて放ち、別空間へミゼルと共に向かった。
転生者としての境遇が同じというので打ち解け合い、互いに協力しあって腐敗した野獣群を退治する。以降、共に旅をする仲間となった。
二日前、野獣達の腐敗原因がベルゲバの塔にあるとの情報を得て調査のために塔へ向かうも、塔周辺の荒野で巨人のような化け物と遭遇してしまう。
化け物の容姿は、大の大人二人分を繋げた長さの手足、エビの殻みたいな甲殻が連なったような縦長の胴体、顔は長細く、目を丸く見開き、牙を剥きだした人間の風貌であった。攻撃は手を伸ばして襲うという単純であり遅かった。
容易に躱し、隙を見て致命傷を与えると安易に考えてしまったが、化け物は単純ではないと思い知らされることになる。
長い腕のあちこちから次々に手が伸びてきて獲物を捕らえるように働いた。
”相手は弱い”と思い込んだのが気の緩みに至り、回避行動の遅れが状況の立て直しに手間取らせてしまった。
前世の感が幸いして、どうにかこうにかミゼルは難を乗り越えた。しかし状況が好転しないサラを見ると、戦慣れしていない人間だと判断し、最善策を考察した。
ミゼルの立ち回りと指示により、策を得たサラは化け物の急所を探る。しかし突如化け物は上空目掛けて耳をつんざくような雄叫びを発した。すると、雄叫びに反応して地中から無数の人骨の群れが現れ、ミゼルとサラを襲う。
ミゼルはどうにか逃げ延びるも、サラの方へ人骨達は寄って集る。多勢に無勢で為す術もないサラは、塔へと連れ去られた。
救出しようにも、今度は魔獣と野獣の死体がミゼルに襲いかかり、仕方なく逃げに徹するしかなかった。
ベルゲバの塔へ向かう道中、ベルゲバの塔での説明を訊いたジェイクは質問を投げかけた。
「本当にサラって女と仲間か? 作り話とかじゃねぇよな」
走行中の馬上で会話が可能なのは念話の応用技である。念話より声に出す方が話しやすいからと、ジェイクの申し出を守護神達が受け入れて出来る芸当だ。
「疑り深い奴だな。気持ちは分かるが信用してほしい、本当だ。なんだったら、サラを救出後、魔女退治に協力して神力集めに尽力するし、配分を変えられるなら君たちに多く振る舞おう」
「神力って、転生者倒せば手に入る……だったよな?」
ジェイクは神力を集める説明のほとんどを曖昧にしか覚えていない。ベルメアも諦めているのか、呆れそうな意見に一々落胆しなくなる。
「それもそうだし、特別な魔獣を倒しても得られるわ。そして、仲間がいたら得た神力は分割されるから」
分割の話はジェイクに言っていなかったが、どのみち曖昧にしか覚えていないなら、改めて言い直す必要もないとされた。
「けど厄介ですね」トウマは状況を整理した。「相手はアンデッドも使役出来るって事はネクロマンサーの性質が」
「ちょ、ちょっと待てトウマ。なんだ、その、なんとかサーって」
前世で使われていた英単語が使えない事をトウマは思い出す。
「あ、ああ。ごめんなさい」
「ははは。どうやらトウマ殿は特殊な言語を使用する世界の住人らしいな。あまり多用しないのであれば、いくつかは覚える努力をしよう。その方が話しやすいのでは?」
「あ、いえ、大体どの単語が伝わらないか、ジェイクさんを見て分かってきたので……大丈夫です。えっと、要するに、魔女の力は死者や死霊を操る可能性があるなぁって話です」
「ふむ。私も縁あって旅の道中、そういった類の術を見聞きしているから要領は得ているが。ジェイク殿はどうかな?」
「”殿”は止めろ。歳もそんなに変わらんだろ」
トウマがステータスボードを出現させ、ミゼルの年齢を探ると、”48”と出た。
「ええ!? 48歳ですか?!」
「嘘だろ若すぎるぞ!」
「ははは。私も転生して分かったのだが、全盛期の年齢に近い肉体に宿るらしい。私個人としては二十代後半か三十なりたてかな? 君とさして変わらんとは思うが」
「言ったぞ。なら互いにタメ口だからな」
ミゼルは了承し、トウマにも訊いた。
「どうかね、トウマ殿も気安く話すのは」
「いえ。僕は敬語でいきますよ。転生しようとしまいとそちらが年上ですから。それに、”殿”もやめてください」
無駄話が終わると、荒野へたどり着いた。
ミゼルの情報では荒野での戦闘は避けようがないと断言された。
広大な荒野を馬を走らせて突っ切るなら十分とかからないが、骨や死体が襲ってくれば消耗戦となり足止めをくらう。塔内部にも敵を控えていると考慮するなら魔力も体力も温存しておきたい。
「さて、どう対処する?」
トウマなりの案を語った。
「とりあえずは突っ切ります。敵が現れたら僕の術で一掃して、出来た通路を一気に駆け抜ける。また出たら同じことの繰り返しですが、魔力消費がすごい大技だから、欲を言えば二回で済ませたいです」
ジェイクが思い出すのは、森で行った暴風と氷の術である。「ごり押し戦法か。もっと効率のいい術はねぇのか?」
ビィトラが「無理」と断言して説明した。
「トウマの術は殆どが自然界の力に作用するものばかりだから。死に関する化け物相手なら治癒術が有効だろうけど、流石にそこまで万能じゃないからね。トウマの策の応用でジェイクの烙印技で消し飛ばすってのも考えられるけど……」
今度はベルメアが口を挟んだ。
「大博打ね。やった事ないから出来たとしても身体への負担が大きいだろうし、敵が無数に現れるなら圧倒的に不利になるわ。ここは素直にトウマの策で突っ切る方が賢明よ。ラド―リオは何か妙案とかある?」
ラド―リオは頭を左右に振った。
口数が少なく大人しい性格の為、未だにあまり口を開いていない。
「ははは、守護神や転生者が増えてもラオの寡黙は変わらないな。それはさておき、突っ切る策しかないのは仕方ないが、巨人の化け物や例外となる存在が現れた場合はどうするのだね?」
ジェイクが即答する。
「誰かが残る。塔へは最低でも二人は必要だ。ミライザとサラの二人が待ち構えてるだろうからな」
どう足掻こうと人手が足りない状況は変わりない。
「トウマはサラ救出の策があるんだろ?」
ビィトラが頷いた。
「だったらもしもの場合、残るのは俺かミゼルだ。状況判断でどちらが残るか決めるぞ」
「分かった。後は運次第とさせて頂こうか」
三人は塔へ向かう覚悟を固め、トウマを先頭に馬を走らせた。
◇◇◇◇◇
塔の屋上から三人の動向を眺めていたミライザは荒野へ視線を落とした。
「いよいよ来ました。どうなさいますか?」
視線を変えずに訊くと、何処からともなく声がする。
『私は私なりに動く。邪魔だけはするな』
「ええ。あなた様の邪魔は致しませんが、奴らの生き死にはどうなさいましょう」
『好きにしろ。私が欲しいのは死体のみ。魂も肉体を抜ければいいように出来るだろうからな』
ミライザは不敵に笑んだ。
「では、先陣を切らせて頂きます」
言い残すと塔を飛び降りて落下、中腹辺りで姿を消した。数秒後、三人より少し離れた荒野へミライザは現れた。
馬を走らせる三人がその姿を目にした時、距離をとって馬を止めた。
「おいおい。いきなりかよ」
早速予想外の展開に、ジェイクとトウマは冷や汗をかき内心で焦る。
「誰だね? あの女性は」
「かなりやり手の術師です。気を付けてください」
三人は馬をゆっくりと進ませ、ミライザの元へ近づいた。
「勘弁してくれよ。計画が総崩れになっちまったじゃねぇか」
「ウフフ。誰でも予想出来るもてなしなんてつまらないでしょ? どうせ、死者の軍勢で攻めてくるから、その対応策を講じてたのでしょうけど」
(流石ね。読まれてるわ)ベルメアが感心した。
「参った。お見通しかよ」
「そちらの殿方がいるんですもの」ミゼルに目をやる。「手の内が分かっているなら、そのくらいの策を講じるのは当然よ。私でもそうするわ」
緊張する二人に反し、ミゼルは楽しそうである。
「ははは。よく頭の回る女性だ。どうかね? 魔女に仕えるよりより我々と旅を共にした方が楽しいとは思うが」
ミゼルの勧誘すら、ミライザは鼻で嗤ってあしらった。
「残念ね。此方には此方の事情があるのよ。でも……無事に生き残れたら考えてあげてもいいわ」
「ほほう。それはやる気が出るというものだ」
ミゼルは馬を降りた。
「おい、何考えてやがる!」
「この女性は私が相手をしよう。早く塔へ行くんだ」
ジェイクとトウマが戸惑っている隙に、ミライザは両手を地面へ翳した。
「させるかっ!」
魔力の波が地面へ流すと、ジェイクとトウマは別の空間へ移動させられると直感した。しかし、ミライザの魔力を浴びて揺らめいた地面は、間もなく、何事も無かったかのように変化しなかった。
「――ええ?! ……どういう事?」
戸惑ってるミライザを他所に、ミゼルはジェイク達に指示した。
「さっさと行け。二度も好機は訪れんぞ」
何が起きたか分からないが、ミゼルを信じてジェイクとトウマは馬を走らせた。
「何をした貴様ぁ!」
「いやぁ、私も単純な術を”ある御仁”から指導を賜ったのさ。とはいえ、揺らぎや流れに干渉する程度だから、地味で見栄えのしない有様が情けないところだが。貴女は別空間へ人を送るとあの者達から聞いたのでね、送りたいなら手抜きではなく本気で魔力を注ぐほうがよろしい。こんな弱小術師に呆気なく相殺され続けると、貴女の格も下がる一方だよ」
魔力量まで量られているから、侮れない相手だとは認識する。明らかな挑発にミライザは舌打ちした。
昂ぶる苛立ちを一呼吸吐いて沈め、冷静さを取り戻した。
「フフフ、いいわ。先に烙印使いとの決着を済ませたかったのだけど、先に貴方から血祭りにしてあげるわ」
「血祭りとは……、痛々しいのは御免被りたいのだが」
「抵抗しなければ一瞬よ。痛みさえ感じさせないわ」
「どんな余興が待ち構えているか楽しみだ」
ミゼルの余裕ある態度に、苛立つ気持ちを抑え、ミライザは平静を保ち続けた。
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