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二章 魔女の巣くう塔

Ⅲ 空洞の戦い

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 ジェイクが連れていかれた場所は地下空洞ような場所であった。しかしどこにも出口はない。
 何が光源か分からないが、全体の細かい部分まで鮮明に見える。まるで空洞の中心に光源となるモノがあるかのように岩には影が生じている。空気もあり息苦しくない。ただ、少々暑い。 

「ごめんなさいね殺風景な所で。急ごしらえですからこのようになってしまいましたわ」
 背後の壁際に女性は立っており、口元には笑みを浮かべていた。
「こちらの事情で、まだ上手く使えない・・・・・・・・・の。」
「おいおい何話してるか知らねぇが、生き埋めなんざ悪趣味だぜ。土葬するなら死んでからにしてくれよ」
「うふふ、そうね。私もこんな品の無い場所で殿方が死にゆく様を傍観する趣味は御座いませんもの。少し貴方の力を確かめたいがためにお越しいただいた次第よ」
「お越しだと? 強引に連れて来てよく言う」

 女性が何かすると判断して警戒していると、地面のあちこちから松明に燃える炎のような球体が現れ、四方八方で浮遊した。
 咄嗟にジェイクは剣を抜いて構える。

「なんだ!?」
(何かの魔獣の気配がするわ)
「ベル! 何処だ!」
 周囲を見回すも、ベルメアの姿は見当たらない。
(どうやらここじゃ姿を出せないみたい。もう少しあんたが強けりゃ大丈夫だろうけど、とりあえず今は無理)
 ベルメアの姿が見えない女性はジェイクの反応に感心した。
「本当に神様が見えるみたいね。転生者・・・って貴方達は呼ぶのよね」
 まるで他の呼び名がある言い草だが、今のジェイクは周囲の炎への警戒に気が気でない。ただ、女性が転生者ではないとだけ判明した。
「何度見ても不思議な存在よね。お連れの若い青年と貴方は何か違う見え方がするのだけど、どういった原理かしら? 色々研究してみたくなるじゃない」
「止めとけよ。こんな面倒な身体いじってもその辺の人間と変わりゃしねぇぞ」
「それを決めるのは私の判断よ。本当はね、あの子・・・も色々調べたいのだけど」

 『あの子』が、トウマを指していると思えた。しかし続く言葉からそうでないと判断できる。

「あの子はあの方のモノだから私は手を出せないの。”特別”を前にして何も出来ないというのは悔しいわ。けどまだ運は良い方、さらに特別な転生者である貴方と出会えたのだから。私が出会った転生者と魔力の質が違う。どこか刺々しいわ」
「研究熱心はいいが、こいつぁなんだ? 蒸し焼きかなぶり殺しが趣味ってか?」
 炎の数の割には洞窟内は熱くない。だが気温は上がっているので汗が溢れる。
「貴方を見つけた時、この町へ来る前に何体か魔獣や野獣を斬ったでしょ? その時に妙な力を感じたわ。ここでそれを試してみたくって。私の気が済むまで魔獣狩りに洒落込んでみて」

 近くの球体がジェイクにぶつかった。すると球体が弾け、衝撃で姿勢を崩された。

(ジェイク気を付けて! 一体ならこの程度だけど、これが一斉に迫られたら身が持たない!)
「分かってる!」
 ジェイクは迫る球体を次々に斬った。幸い、一刀両断すると魔獣は跡形も無く崩れる。そして柔らかい。
(こいつら脆い。助かったぜ)
(気を緩めないで。あの術師、この程度の事は想定済みよ。余裕ありって顔してる。まだ何かあるのは間違いないわ)
 球体の中には烙印を出現させるモノもいる。ジェイクはすかさず烙印に触れて取り入れた。
(烙印技で一掃するか?)
(駄目よ。レベルが上がって常備出来るのは三個まで増えたけど、本当にあの術師が何をしでかすか分からない。いざって時にあんたの判断で使いなさい)

 ジェイクはただ只管ひたすらに球体を斬り続けた。
 女性は腕を組み、右手で口元を摩りながら観察している。

(おかしいわね。【ボードル】が斬られても反応を示さず崩れ落ちている。それにさっきの不自然な動きは何? 何かに触れようとした? 私に見えない何かを。……少し条件を変えてみましょう)
 女性は右掌をジェイクへ翳すと、大きく円を描くように回した。するとボードルが次々に現れて一塊となり紅色へと変貌した。
「これ、強くなってるよな」
(まさしくね)
 近づく球体を先程同様に攻撃するも中々斬れず、強引に斬ろうとした矢先、球体が小刻みに震えだした。
(――後ろに逃げて!)
 危機を察したベルメアの声に従い跳び退くも、球体が火も煙も上げずに爆発し、衝撃が全身に伝わって飛ばされ壁にぶつかった。
「……ぐっ、うう」
 前世の身体より痛みが増していると感じる。たった一発の爆発でこの激痛に鈍痛。率直に考えて長期戦は不利。なにより、あと二発でも爆発されれば死んでしまう。

「さあ、何か手を隠しているならさっさと出しなさい。貴方は欲しいけど、なにも生きてる必要は無いの。そのまま死ぬならそれでも構わないわよ」
転生先こっちでもいいように扱われてたまるかぁ!」
 ジェイクは烙印を剣に込めた。
(ちょっと! 備えは三つしかないのよ!)
「手は考えてる」
 呟いてベルメアへ返すと、切っ先を女性へ向けた。
「女ぁ! 高みの見物はここまでだぞ!」

 複数の迫るボードル目掛け、ジェイクは剣を構えた。
 剣全体に纏わり付く、著しく強大な魔力を見た女性は目を見開き驚愕した。

(あの男に、こんな力が備わるなんてありえない! いや、如何なる術師であっても、こんな密度の高すぎる魔力を備えて、あれだけ平然としているなんて……魔女に匹敵する……。神の力? ガーディアン・・・・・・の特性?)
 女性が考察している最中、数体のボードルが一瞬で殲滅される。
 ボードルが爆ぜた衝撃と爆音、更に眩い光が発生し、女の視界が見にくくなる。その瞬間、強大な魔力が迫って来るのを感じた。
「くっ、特攻ね」
 どのような攻撃が来るか、女性が察知すると、全魔力を強引に引き出して前方に見えない壁を張った。予想通り、ジェイクは烙印を使った剣で斬りかかった。

「立場逆転だな! さっさと戻さねぇとてめぇが斬られんぞ!」
 込められた力が増す度に烙印の力も強まる。
 力の上がる速度は治まりも弱まりもせず上がり続けた。それは、女性の魔力では防ぎきれない域にまで迫る。
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