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一章 止まる国と大精霊

Ⅳ モーシュの修行

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 ケイリー家に滞在二日目。

「はい、そのまま維持。苦しいだろうがさっき言った方法で続けてぇ~」
 家近くの平地にて。
 モーシュは敷物を広げ、その上で房から豆を取り出す仕事に専念する。籠に山積みの豆があり、”房から出さないと家に入れない”とミリアに平然と重圧をかけられているのでサボれなかった。
 一方、モーシュに術師として成長したいと申し出たサラは修行に専念している。杖を両手で持って前に突き出し、魔力を込めて近くの若木に魔力を伸ばす。単純そうに見えてかなり難しい。
 サラの体質では感知力が高く、並の方法で魔力量や放出量を上げる修行をするより、感知力を上げる方法が効率的に強くなれると教わった。具象術や魔術といったものより、唱術や印術に効果を示す。
 ガーディアンとしての体質もそうだが旅で鍛えられているからと、モーシュは自身が知る序盤の修行をすっ飛ばし、難度の高い修行をさせている。

「木に魔力届いたら、木の魔力やら生命力感じてぇ~。脈打つ感じだから出来たらそのまま感じ続けるぅ」
 やる気が感じられない言い方だが、モーシュが提示する修行はかなり負担と負荷が大きくなかなか出来ない。若木に魔力が届いたとしても少し触れただけで魔力が弾けて終わってしまう。
 また、体力も連動しているらしく、失敗すると長距離を走ったように息切れがする。
「はい、そのまま気功の修行」
 それは疲れを緩和させる修行である。
 無理な魔力操作を行うと体内の魔力の流れが乱れてしまう。内気功を巡らせる事で流れを整えると回復に至る。
 始めは上手く気功を動かせていたと思っていたが、疲弊した状態では動かす想像が困難となり、頭の中では出来ていても実際は出来なかったり。
 魔力と気功。この二つを同時に鍛える修行だが、ちっとも進展している気がしないまま夕方を迎えた。
 本日を振り返ってみても成長の兆しが見えない。

「お疲れぇ。スレイちゃんが美味しい飯作ってくれてるから今日は帰るよぉ」
 本日の作業を終えたモーシュは、剥いた豆と敷物を入れた籠を背負って立ち上がる。房は術で粉々に砕いて布袋へ。これは色々使える所があるとミリアが言うので持って帰る。
 仰向けに倒れるサラはまだ起き上がれない。
「あらら~、かぁなり感覚掴むのに苦労してるねぇ」
「あの……もう少し、いいですか? ちょっと休憩したら」
「だ~め。無理させすぎるとミリアが起こるし、もう飯時だ。休むべき時に休まないと成長はないよ。これは術師でも戦士でも同じ事だから。それに、今日のサラちゃんじゃあ何度やっても駄目だ。無理すれば出来ると思ってる時点でドツボだから、悔しいなら次の日に冷静になった頭で別の感覚掴んで気合い入れてやる。それが成長には重要だよぉ」
 この気堕落さというものか、怠惰な雰囲気というべきか、真剣さも緊張感も感じられない所が本気かどうか疑わしく思う。
「すいません。何かコツみたいなの、ありますか?」
「コツって言ってもねぇ……、魔力に関する感覚は個人で違うからなぁ」

 モーシュは杖を片手で持つと、魔力を込めてゆっくり伸ばした。
 あれほど苦労した魔力操作を難なく熟し、若木へ纏わせて活気ある魔力を発生させて維持させる姿を見ると、やり手の術師だと痛感する。

いて言うなら、サラちゃんの魔力は”強すぎる”。のかもしれないなぁ」
「強い? 何をどう見たらそう見えるんですか。モーシュさんの魔力より弱々しいですけど」
「単純な威力じゃなくて、質かなぁ? 圧迫感がある魔力。操作云々より扱いが難しい。おそらく今のサラちゃんが扱いきれない理由があるなら、感じ方が分かってないって所だろ」
「感じ方?」
「極端な例で言うなら、風呂の湯に手を入れてるのに、冷たい水に手を入れてるって思う程のズレた感じ方。明日は前半の修行を別のものにしようか」
「え、これは良いんですか?」
「午後にする。今日はもう帰る。行くよ」
 仕方なくサラは後をついて帰宅した。


「あ、お帰りなさいサラ。それとモーシュさん」
「酷いなぁ、俺は後かい? スレイちゃん」
 先に家に入ったのはモーシュであるのに。
「どうでもいいけど、豆は剥いてくれた?」
 間髪入れず、ミリアが訊く。
「へいへい、苦労してちゃんと剥きましたよぉ。今日の飯何?」
 モーシュの楽しみはスレイの晩ご飯であった。
 魔力を使えないスレイは修行する必要はない。しかし何もしないわけにはいかないので、家事をすることになったが、手際が良く料理も美味い。初日に作ったスープは三人が感心するほどの出来であり、モーシュは既にスレイの夕飯を楽しみにしている。
 修行の成果がまるで感じられず、良いところ無しのサラは取り残された感じであった。
「サラ、修行はどうだった?」
 返答に戸惑う。
「昨日今日で出来る修行してないからさぁ、落ち込む必要ないんだけどなぁ」
「……本当ですか?」
「嘘だと思うなら娘に聞けば良い。とりあえず夕食にしよ」
 なぜか良いように丸め込まれていると感じつつも夕食の席に四人は着いた。


 修行四日目の朝。
 様子見に訪れたスビナへサラが修行の悩みを打ち明けた。
「はぁ!? どうしていきなり!」
 出会ってから冷静で落ち着いているスビナが取り乱すのを初めて見る。
「お父さん! どれだけ難しい事させてるの!」
 本当に難しい事だと分かり、少し安心した。
「だって調べてみろよ、サラちゃんの魔力」
 スビナは半信半疑で言われたとおりにする。
 両手を前に出して魔力を込めるように頼み、自らの手を触れると、さらに驚いた。
「なぁ、お父さんは嘘なんて吐きませぇぇん」
 この暢気な態度が信憑性を疑わせていると気づいて欲しい。サラは思う。
 深い溜息を吐いたスビナは改めてサラと向かい合う。
「どうしようもない父ですが」
「そこまで言う?」
 さらっと反論するも無視される。
「言っている事は真っ当です。疑わしいですが素直に信じ、精進してください」

 サラの不安は消えたものの、魔力を知る成果が出ていない問題が解消されたわけではない。
 その日も修行に苦労し、僅かばかりの成長を感じて終了した。
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