烙印騎士と四十四番目の神・Ⅱ 召喚されたガーディアン達

赤星 治

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三章 惨劇の台地

Ⅶ コーの強さ

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 空間術により魔獣が一匹もいない荒野へとバゼルは強制的に連れてこられた。
「暒空魔術か?」
 荒野を形成する魔力の精度と質から判断した。
「術の種類はさっぱり分かりません」
 前方に、まるで濃霧から現われるようにコーが姿を見せた。
「元々僕に備わっていた力ですので」
 バゼルは棒を構える。
「まるで生まれつき持ってる才能と言いたげだな」
「ええ、まさしく」
 即答した後、上着のボタンを外して胴体をさらけ出した。
 胸の中央に丸く緑の玉が埋め込まれ、その周囲に浮き出た白色の血管のようなものが広がる。
「てめぇ、人間じゃねぇってことか」
 しかしどう見ても人間にしか見えない。気功も魔力も。
「ご覧の通り。ですが誰にどのように作られたかは不明です。ああ、そうそう、弟はいたんですよ。ですがどこかにはぐれてしまって。これもどういった理由で分かれたのかは不明です」

 記憶喪失の化け物。
 弟という単語から似たような化け物がもう一体いる。
 兄弟愛があるかは不明だが雰囲気からは感じられない。
 可能性として弟も強いと読める。

「とち狂った連中がいるもんだな。こんな化け物二体も作りやがって」
「一応、人間の様に生きてますよ。丁寧に会話もしてますし」
「上っ面だけ良くてもやってることは虐殺だ。猟奇的な異常者は裁かれる。覚えておけ」
 残念そうな表情でコーは返す。
「ま、いいです。僕は貴方の強さに興味を持ちました。貴方は僕の手で潰さないと満足しません」
「恨まれる筋合いはないぞ」
「怨恨ではありません。興味、ではないですね、かなり強めの好意かと」
 目を丸く喜びを表わす。
「チッ、気色悪い。あの世で後悔しろ」
 陣敷きを行うと、棒に炎を纏わせて炎の刃を形成し長刀を作り上げた。
「面白いですね。ギリ様との対峙でもそうでしたが、まるで手品のようだ。では僕も」
 バゼルの陣敷きに同調し自らも陣敷きを行う。
 すると、バゼルの術効果がはね上がった。
「どういうつもりだ?」
「存分に楽しみましょう。ということですよ」
 全身に魔力を込め、両手にそれぞれ短刀を出現させた。

 先制でバゼルが斬りかかるも、あっさりと躱されコーの攻撃が繰り出される。しかし盾の防壁を作って防ぎ、距離をとる。
(盾を砕くか)
 たった一撃を防いだ盾は見事に砕け散った。
 一撃を食らうだけで魔力が崩れていく。
(フーに似た力か? 厄介な)
 魔力を斬られると砕けるが、なら物質ではどうかと考え地面に棒を突き立て魔力を流した。
 地割れがコー目がけて走ると、足下から四方八方の地面に亀裂が走り、爆発と同時に岩盤や岩が舞い上がった。
 衝撃でコーの態勢が崩れた所へ、宙に舞った岩を標的目がけて飛ばす。
「考えますね」
 短刀を消し、素手で岩を殴ると粉々に砕いた。
(物質は力で対応か)
 次々にぶつける岩を悉く潰して回る最中、コーは態勢を変えた。
 これから向かうぞと警告するかの如く気迫をバゼルへ飛ばすと、かなりの速さで突進した。
(――速い!)
 ほぼ無意識で盾を発生させて殴りかかる一撃を止めるも、ものの一秒で散った。勢いそのままに殴りかかられるも、その一秒のおかげで身体が反応して棒で拳を防ぎ、気功を発して後方へ一歩ほど下がらせる。
 隙を見て僅かに距離を置くと武器を構え直して攻める。

「やっぱり強い!」
 コーも構え直して殴り掛かる。
「強い!!」
 楽しそうに殴り、攻撃を受け流し、素手で受けて支えとし、蹴り掛かる。
 敵の攻撃を時に棒術、時に体術を織り交ぜてバゼルは攻めるも、一向に決定打となる攻撃を食らわせる事が出来ない。
(畜生、強すぎる!)
 歯がゆくもどかしいが、気を少しでも緩めると強力な一撃を食らう事になる。少しでも有利に立たれてしまえば確実に重傷を負うまで攻め入られる。やがては殺される。
「武器と体術。こういう事ですね!」
 楽しそうに短刀を出現させて構え、体術に斬りつけを混ぜた応酬。
(厄介な真似を)
 さらに苛立たせるのは短刀での攻撃は魔力を砕き体術では防御の消耗が激しい。
 対処の切り替えが数秒でも遅れてしまえば圧倒される。
「凄い凄い! どうしたらそんなに強くなれるの!」

 狂喜に満ちた印象が窺え、容赦ない止めどない攻撃。ラルバを連想させさらに苛立つ。
 一度仕切り直しとばかりに、バゼルは気功と魔力を混ぜてコー目がけて放出する。さらに、突風も発生させて距離をとる。
 かなり遠くへ飛ばしたつもりが、互いにほどよい間合いを取れるほどの距離しか飛んでいない。
「はぁ、はぁ、化け物が」
 呼吸を乱すもコーは平然としている。
「人間っていいですね。こんな楽しいことをいつでも出来るのですから」
「異常者の妄言だな。世のためにさっさと死ね」
 挑発はするも、どのように手を打てば勝てるか想像つかない。どう攻めたとしても先の二の舞、もう一度距離をとった時点で消耗が激しい此方が負ける。
 手を必死に考える中、相手は攻める構えを示した。死を悟ってしまうほどの緊張が張り詰める中、突如コーが異変に気づく。
「失礼。残念ながらここまでです」
「ああ?」

 説明もなく手を叩くと、空間が上空から崩れだした。

 ◇◇◇◇◇

 ギリが混乱し、怯える様子を示した。
「あ、の……」
 不意に警戒を解いてしまったトウマが歩み寄る。
「え、あ、ごめんなさい」
 おどおどしている。顔つきもまるで別人だ。
、よく記憶無くすんです。……なんでこんな、化け物の中に」
 言葉通りなら、気を失ってしまいそうなほどの光景に意識を保てるのは異様に思えた。
「普通、卒倒しませんか?」
 警戒心が再燃し、疑いながら訊く。
「慣れてます。……なんか、起きるとこんなのばっかりで……でも、怖いのは怖いですよ」
 それは様子を見るからに確かだと見える。
 理解出来ず混乱しかしない状況。

 突如ギリの隣の空間が砕け、中からコーが飛び出た。
「あ、コーさん!」
 ギリは嬉しそうに抱きつく。
「遅くなりました。お怪我はございませんかスレイ・・・さん」
 名前が違う。
(二重人格?)
 そう思うも、切り替わる前の異質な女が気になる。
 悩みながらも無意識で武器を構えて警戒するトウマの横の空間が砕けた。
 新手の敵を予想していたが、飛び出たのは違った。
「隊長! 無事だったんですね!」
「後だ! 奴らから目を離すな!」
 疲弊具合、小さな傷だらけの様子からかなり激しい戦闘を繰り広げた後だと判断出来る。
「はい!」
 二人は構えて相手の出方を伺った。
「ああ、戦闘はこれで終了です」
 コーが率先して告げた。
「ああ? てめぇに従う義理はねぇぞ!」
「ですが無理なものは……」
 悩んだ末に何かを思いつくと右手を二人の方へ翳した。
 何か飛んでくると思いきや、大きく横一文字を描くように動かすだけである。

「グギャアアアアアアアア――!!!!!」
 突如魔獣達が一斉に雄叫びを上げた。
 その騒音は大地を揺らし、全身に響くほどであった。
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