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二章 激動の訓練

ⅩⅠ 見送りの言葉

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 八日後。
 トウマ達は太陽が昇る前にメアの壇上へ向かう準備を、城門前に止めている馬車の傍で行っていた。
「あ、オードさん」
 トウマが気づくと、四人は傍へ寄り整列した。
「おはようございます」声が揃う。
「おう。申し訳ないが見送りは俺だけだ。連中からの言伝ことづてを言いに来た」
 ジールが小さく手を上げた。
「何かあったんですか?」
「ああ、ちょっとな、ラルバ隊としての問題だ。お前達は気にせず自分たちの事だけ考えろ」
 四人は返事する。

「まずフーゼリア」
「はい!」
「イゼから、新技を使うときは加減に気をつけろ。感知の陣を敷くことを忘れるな。後は死ぬな、だそうだ」
「ありがとうございます」
 一礼されると、次はジールを呼ぶ。
「はい!」
「アーゼットから、回復薬は早めに飲め。だからといってすぐに飲むな。理由は分かるよな、だそうだ。俺には分からんが意味は知ってるか?」
 浮かない表情を戻し、「はい」と返事する。
「分かってるならいい。あと、何があっても力みすぎず冷静に。と」
「はい。ありがとうございます」
 次はディロを見た。
「グラーデスからだ。後方支援に徹しろ。まだ未熟だから”アレ”は使えないと考えろ」
「え?」呟くように声が漏れる。
「なにか気になる事でもあったか?」
「い、いえ。大丈夫です」苦笑いで返す。
「最後に、お前が重傷を負えば隊生存の要を失う危険が高くなる。忘れるな。だそうだ」
「はい。ありがとうございます」
 最後にオードはトウマと向き合った。
「今ある技だけでも充分対抗出来る。窮地に陥った時に思いつきで無理に新技を使うな、魔力消費の加減がまだ甘いからな。その発想と機転は諸刃の剣と思え、お前を救いもするがさらなる窮地へ追い込みもする。もし使おうとするなら安全を確保してからだ。いいな」
「はい」
 オードは四人揃って見た。
「最後に、訓練で連中から度々教えられただろうが、しつこいと思いながらでも聞いて心に刻め」
「はい!」声が揃う。
「何が起きているか、これから何が起こるか分からん戦場だ。仲間が窮地に陥り、眼前で無残に殺される可能性も充分あり得る。だが冷静になれ。悲しむのも怒りも後に取っておけ。ここぞというとき思い切り感情をむき出せる。最後の最後まで、バースルの戦士として恥じぬ戦いを貫き通せ」
「はい!」
 一礼すると四人の後方をオードは見た。
 馬車の荷台にバゼルが凭れて待っていた。

「済んだか?」
 オードは四人を馬車へ行くように指示すると、バゼルを呼んだ。
 二人は少し離れた所まで行くと、声量を抑えて口を開いた。
「すまんな。黙って見送りたかったがこれだけは言っておかねばならん」
「なんだ」
「レイシア達がやられた」
 それだけでバゼルに衝撃が走り、黙らせた。
 レイシアとは、ラルバ隊残り四人内の一人である。合同訓練前から遠征の任務に当たっていた。
「昨日夕方に報告があり、隊主達は現場へ向かっている。俺もこれから向かう」
「おい、四人もいてやられるってのはどういう任務だったんだ」
「ゼルドリアスの魔力壁近辺に徘徊していた魔獣討伐だ。強いと言われていたが力量として我が隊が劣るとは考えられん」
 隊員四人を知るバゼルも、その四人より強い魔獣が想像つかない。
「報告では“妙な女”が関係しているそうだ」
「女? 術師か」
 オードは頭を左右に振る。
「報告だけではなんとも言えん。ただ、此度のメアの壇上、隊員四人を倒した件、先日起きた異常な魔力波」
 それは、バースルだけではなく世界規模に広がったと思わせる魔力の波。
 体感するも、目立った異変は無い。
「何か大きな異変が起きている事に変わりない。心して当たれ」
「分かってる。そっちも気をつけろよ」
「ああ」
 バゼルが戻ると、一同を乗せた馬車はメアの壇上へ向かって進んだ。

 見送るオードは、言うべき事は言ったがまだ胸騒ぎが治まらない。そんな状態で仲間が負傷した現場へと向かった。

 ◇◇◇◇◇

 馬車内にて会話する者は誰もいなかった。
 気まづいのではない。ラルバ隊員の言伝が頭に残り、緊張しながらも各々で立ち回りや技などを想像して心が落ち着かない。さらに、誰からも告げられていないのに、”メアの壇上には何かある”と、漠然とした不安を感じていた。
 いつも調子に乗り、こういった場面で明るく振る舞うジールさえ、ジッと外を眺めている。
 三十分後、メアの壇上が遠景に見えた辺りにて、バゼルが口を開いた。
「今回の作戦の最終確認だ。現場へ到着後、浄化結界を張る術師の援護及び、ギネドの兵士の援護と救助だ」
 ディロが質問する。
「浄化結界って、結構難しい術ですよね。隊長がするんですか?」
「俺に出来たらお前等の隊長になってない。そういった方面の術師として使われてる。十英雄時代の俺の仲間だ」
 トウマは驚き、思いつく名前が浮かんだ。
「グレミアさんとかゼノアさんですか?!」
「知ってるのか?」
 妙に嬉しくなり笑顔で返事する。
「はい。召喚されるまえに一緒に旅してたんです。レイデル王国へ行く途中で」
「積もる話があいつとあるだろうが、行けばすぐ戦場だ。気を抜くなよ」
「はい」
「グレミア=キーラン。ネイブラス式唱術のやり手だ。浄化結界は唱術と別の術を複合させた技で時間が掛かるそうだ。半日は戦い詰めを覚悟しておけ」
 一同にさらなる緊張が加わる。
「隊長、ギネドの隊はどれ程でしょうか」フーゼリアが訊く。
「今回の合同作戦には百人程の兵があてがわれると聞いている。少ないが強い戦士に変わりない」

 境界の三国において、術を使わず、主に身体能力強化を重視して訓練された戦士がギネドの特徴である。一人でもかなりの戦力だ。
「オードも言っていたが、冷静になり、自分たちが出来る最善を考え続けろ」
「はい」
 車内なので声は控えめだ。
 数分後、一同を乗せた馬車はメアの壇上の麓へ辿り着いた。

 これより、思いも寄らない惨状を彼らは目にすることになる。
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