烙印騎士と四十四番目の神・Ⅱ 召喚されたガーディアン達

赤星 治

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二章 激動の訓練

Ⅶ ラルバ対バゼル

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 ラルバとバゼルが向かい合うだけで緊迫し、張り詰めた空気が隊員達の所まで伝わる。
 放り投げられたバゼル隊の四人は、徐々に体調を取り戻す。
「無事か?」
 オードはトウマを気遣った。
 他の隊員もラルバ隊の隊員に気遣われている。
「はい。けど、魔力とかあまり減ってないのは……、回復か何かですか?」
 身体が重くなる技が、急激な魔力吸収だとトウマは思っていた。
「違う。隊主はお前等の気功を乱しただけだ」
 人体に流れる魔力と気功。どちらかが著しく減ると疲弊してしまうが、一方を乱されれば回復に時間が掛かる疲弊状態となる。
 説明を聞いたトウマは感心した。
「あの、隊主って?」
「俺等の隊長って事だ。ラギの部下は皆がラギを隊主って呼ぶんだよ。ラギってのは称号だからな。隊の主で隊主。お前等もバゼルを十英雄ではなく隊長って呼ぶだろ」
 話の最中、胃が苦しくなるような空気が流れた。
「回復したら魔力を満たしてろ。こっからがもっと大変だからな」
 トウマは素直に従った。


「確認だが、”俺との約束を守った”なんてわけじゃねぇだろ」
 ラルバは余裕の表情を崩さない。
「それでもいいさ。難しい事を考えてる時は、大暴れして発散したほうが案外上手くいくものだよ」
 バゼルは棒を構えた。
「全力で行く。本気で相手しろ」
「それを決めるのはお前じゃないよ」
 バゼルは魔力を足に込め、俊足で特攻する。


「速い!」
 トウマ達は驚く。
(敵わねぇ、俺より速ぇ)一人ジールは悔しがっている。


 瞬く間にラルバの傍へ迫ったバゼルは勢いよく殴りかかった。
 ラルバは木刀で受け止めるも、競り合うことなくバゼルは別角度から棒で殴り掛かる。しかし敢えなく受け流される。
 何度も何度もバゼルは殴り掛かるも、あっさりと躱され受け流され続ける。
 傍目に見て何が起きているか分からないほどに速い。


「すごい。アレが隊長の本気」
 フーゼリアが感心するも、アーゼットは「違う違う」と口にする。
「まだ両方本気出してねぇよ。隊主に至っては本気出すか微妙だ」
「アレが本気じゃないんですか!?」
「まあ見てな。もうすぐしたらバゼルが痺れきらせるだろうから」


 連続して攻撃を繰り広げるも、無駄と判断したバゼルが距離をとる。
(この程度じゃ動かんってことかよ)
 焦りに加え、ラルバの笑顔に苛立ちが増す。
 バゼルは広範囲に陣を敷いた。間もなくしてラルバ周辺に小さな球体が現われた。


「こんな広範囲の陣を敷いて、隊長無事なんですか?!」
 驚くディロにイゼが告げた。
「消費量が多そうに見えてそうでもない。薄く敷いて感度を上げてるだけだ」
「じゃあ、あの魔力は何ですか?」
「見てれば分かる」
 言われてディロはジッと観察する。


「見た事無い技だ。新技かい?」
「手を抜く気は無い。さっさと本気だせ!」
 バゼルは再び特攻する。すると球体が数個、バゼルの棒へと吸収された。
(魔力を上げる。にしては演出が無駄だ。なら)
 何が来るかをラルバは考察した。
 バゼルが先ほどと同じ連続した攻撃を繰り出すと、衝撃波と連続した小さな爆発が生じた。
「チッ」
 ラルバの対処は、球体同様の小さな盾を複数出現させ、爆発と衝撃の悉くを防いだ。
 バゼルの舌打ちは攻撃の意図を読まれた歯がゆさからである。とはいえ攻撃の手を止めること無く、先ほどより速くバゼルは攻撃を繰り広げた。
 一発一発に球体の効果が表われ、外野で観ている隊員達は、いつしか土埃が舞い上がって見えなくなり、ただただけたたましい爆発音だけを耳にする。


「あん中で何が起きてんだ?」
 ジールは魔力を観るも、何が起きているか分かりにくい。
「……そろそろか」
 四人の中で一番身体が大きい男性・グラーデスが呟き、アーゼットへ手振りで指示する。
「何かあるんっすか?」
「そろそろえらい事になる。お前も魔力を込めて準備しろ」
 何をするか報されず、言われるがままジールは構えた。


 ラルバが魔力で突風を引き起こし、土埃も球体も全て吹きととばした。
「見事な技だ。範囲内では複数の魔獣を一斉に倒すにはもってこいだ!」
 視界は開けるも、バゼルの攻撃は止まず、勢いだけが凄まじく増している。
「これで終わりと思ってんじゃねぇぞ!」
 今度は攻撃一振りで炎が生じる。ただ、その攻撃も炎だけに非ず、氷、突風、衝撃と、一振り一振りで追撃の効果が変わる。
「素晴らしい! よくこんな発想が出来るものだ! 実に美しい曲芸だよ!」
 ”曲芸”呼ばわりが挑発にしか聞こえない。激怒したバゼルは魔力をさらに込めた。
 ラルバも躱すのに困難が生じているのだろう、時々攻撃をその身に食らうも、身体に満ちる魔力の影響が強く、威力はそれほどない。
「最高だよバゼル! こんなに強くなると、私も、ついつい本気を出したくなってしまうよ」
 突然目つきが変わり、場の空気が途轍もなく重く、冷たくなる。

 悪寒を感じたバゼルは何かが来る前に仕留めようと攻撃速度を上げた。
 突如、暴風が吹き付け、バゼルは飛ばされた。
 態勢を立て直し、構えると、すぐ近くにラルバが迫り、渾身の一撃とばかりに多量の魔力を込めた握り拳で殴り掛かってきた。
(――まずい!)
 棒に魔力を全力で込めて拳を防ぐも、あまりの強さに堪えかねてへし折れ、顔面に攻撃を受ける。
 殴り飛ばされたバゼルがまたも態勢を立て直すも、今度は木刀におびただしい魔力を込めたラルバが殴り掛かってきた。
「全力で受け止めろぉぉ!」
 けして指示に従った訳では無いが、バゼルは防壁を張り、ありったけの魔力を込めた。


「アーゼット! 防壁だ!」
「全員、魔力を全力で込めろぉぉ!!」
 前もって準備と心構えをしていたラルバ隊の隊員は、突如現われた横長の防壁に触れて魔力を注いだ。
 ラルバ隊の隊員達は訳も分からず戸惑っていると、ラルバ隊員達から「痛い目見るぞ! 魔力を込めろ!」と怒鳴られる。
 素直に従うと、まるで嵐を凝縮したような凄まじい暴風と共に、魔力の津波にでも遭ったように重く痛々しい力に襲われた。
「な、これ何ですか!」
 トウマが訊く。
「隊主とバゼルの魔力が衝突した! こうなったら長いぞ! 盾の魔力感じて波長を合わせろ!」
 突然言われてもよく分からないトウマ達は、各々の感覚で波長を感じる。そして魔力を加減して注いだ。すると、始めより強力な盾が出来上がる。
 それでも気を抜けない。魔力量は抑えられているが持続が困難である。さらに、外から打ち付ける魔力が盾を削っているのか、そちらへの魔力供給もあり、注ぐ量が一定では無い。


「バゼル頑張れ! もっと強くなるぞ!」
 ラルバは喜びながら徐々に魔力を高め強くする。
 必死に堪えているバゼルの膝は地面につき、顔面の痛みを忘れるほどにラルバの攻撃を防ぐのに集中する。
 しかしそれも束の間。突如、“バキィィィン!”と音を立て、バゼルの盾は砕けた。そして、ラルバの一太刀は振り下ろされなかったが、魔力の塊がバゼルの全身へ一気に注がれる。
 直撃を受けると、一瞬、全てが止まったかのように静寂が訪れる。間もなく二人を中心に暴風が吹き荒んだ。
 隊員達はこれ以上にない程必死に堪え、やがて暴風が収まりだした。

「グラーデスッ!! 行ったよぉぉ!」
 放り投げられたバゼルを、グラーデスは受け止めた。
 呼吸もあり、顔面に殴られた跡はあり血が出ているも、気を失い無事である。

 ラルバ対バゼル隊の戦闘訓練は、ラルバの圧勝により終了した。
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