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二章 激動の訓練

Ⅳ 歓迎会

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 “これからトウマの歓迎会をする。夜、家に来い”
 いつもの命令の雰囲気で唐突に告げられ、隊員達は反応が分かれた。

 トウマは少し驚くもどこか嬉しさがある。
 ディロは少し残念そうな表情になる。
 ジールとフーゼリアは表情が固まった。
 それぞれに思う事は違う。
 風呂を済ませ、身支度を整えた隊員達は揃ってバゼルの家へと向かった。

「なんでいきなり隊長が?」
「すごく嫌な予感しかしないんだけど」
 ジールとフーゼリアは気持ちが落ち着かない。
「けど、隊長ってこういうのしない人だと思ったけど、皆も歓迎会とかしてもらった?」

 三名の入隊時期は同時期。丁度十英雄として色眼鏡で見られたバゼルの元へ多くの隊員が来た頃であった。
 当時より性格は丸くなったが、バゼルの訓練は今よりも過酷であり、十日で堪えることが出来ずに辞めた者が相次いだ時期でもある。
 三人は堪えるのに必死で、今にして振り返ると、堂々とした歓迎会は思い当たらない。

「”歓迎会”って雰囲気のは無かったけど、隊長の妹が俺たちに料理振る舞いたいってんで呼ばれた事はあったな」
 その時の事を思い出すジールとフーゼリアの表情が曇る。
「ディロ、度々隊長の家に行ってるんだったら、料理だけはどうにかなんない?」
 フーゼリアは懇願の意を込めて訊く。なぜなら、バゼルの妹の料理はかなり不味いからである。
 本日もそれを食べるのではと考えると気が滅入る。
「え!? ディロって隊長のところに住み込みか何か?」
 何も知らないトウマの疑問はそこである。
「う、うん。一応、料理とかは作ってる」
 何か贔屓があるのかと思うも、今までの訓練でディロが甘やかされている訳でも特別扱いされているようにも見えない。
「すごい。怖くないの? ずっと隊長に監視されてるとか」
「全然。びっくりするぐらい無関心だよ。居心地とかはぁ……良い家だから良いし、サニアも良い子だし」
 紹介を飛ばされているが、妹の名はサニアらしい。
「むしろ隊長も”ずっと住めばいいだろ”とか言う始末だし」
 無関心どうこうの問題ではないと思われる。
 一体、何をどうしたらそういう結論に至るのか謎でしかない。



 バゼルの家は町から少し外れた丘の上に建てられていた。
「意外、街中だと思ったんだけど」
「兄妹全員が人多いの嫌いらしい。行くぞ」
 ジールを先頭に家へ向かった。
 呼び鈴を鳴らし、しばらくすると扉が開いた。
「あ、ジールにフーゼリアさん。お久しぶりです!」
 どう見ても使用人とは思えない華やかだが飾りっ気の無い服装の、二十代か十代後半と思しき女性が出迎えた。
「サニア久しぶり。紹介するわ、俺たちの隊に入った新入り。トウマって言って、ガーディアンなんだぜ」
 突然、さも当たり前のように語られるも、情報の整理が追いつかないサニアは目が点となる。

「あ、初めまして。一応、ガーディアンです。トウマって言います。隊長にお世話になってます」
 言葉が途切れ途切れの挨拶を、申し訳なさそうに告げた。
「え、あ、ああ。サニアです。お兄ちゃんの妹です」
 互いにぎこちない自己紹介が済んだ。
「今日は隊長から招待されて、トウマの歓迎会をここで」
 フーゼリアは屋敷の中を見る。
 バゼルの姿も靴も見当たらない。
「ええ!? うそ、聞いてない! どうしよぉ」
 混乱し、あたふたする。
「とりあえず、中で待ってようよ。どうせ隊長の事だから「歓迎会する」とか言って帰ったら、皆揃って夕食の準備されてると思ってるだろうから」
 まるで旦那の全てを知る妻のような意見をディロが述べると、一同は納得した。
(こんな亭主関白、あるの?)
 ただ一人、トウマは密かに呆れていた。



 勝手知ったる、とばかりにディロは夕食の準備に取りかかる。
 手際よく、何処に何があるかを知っているのだろう。動きに無駄が無い。

「あれ、ここって加熱調理とかって何処でするの?」
 換気用の通気口はあるが、かまどが何処にも無い。ただ、くぼみのある石の台はある。
「ああ、こうするんだよ」
 ディロが魔力で固めた球体を出現させ窪みに乗せた。すると、その上で加熱調理が可能となる。
 よく見ると球体とディロを繋ぐ魔力の導線があり、火加減は調理する人の自在である。
「へぇ、こういう使い方もあるんだぁ。ジールとフーもするの?」
「俺ムリ。細かい加減が全然。だから普通に調理派。それもしねぇけど」
「私も無理。術として魔力使ったら鍋とかバラバラ」
 即答する二人の表情は完全に他人事の域であった。

 約三十分して料理が出来上がった。
「簡単なものしか作れてないけど、いいよね」
 スープ、ご飯、肉料理。それだけで充分だと皆は言った。
 間もなく、バゼルが「帰ったぞぉ」と言って帰宅する。
 訓練意外での隊長を見るのが新鮮であり、緊張するトウマは妙におどおどする。
「おお、お前等来てたのか」
「来てたのかじゃないですよ隊長。材料とか無いからこんなのしか出来なかったんですよ」
 ディロが主婦にしか見えない。
「買ってきたやつ食えばいいだろ。誰も作れと言ってねぇし」
 皆の邪推が外れる。
 バゼルは空間術で紙袋を五つ取り出すと、テーブルの空いた所へ並べる。
(あれ、便利勝手いいな)
 トウマは空間術を学びたいと心底思った瞬間であった。

 紙袋から取り出した料理を全員で協力して皿に並べると、豪勢な食卓が出来上がった。
 着替えてきたバゼルが「よし食うぞ」と言うと、またも扉が開いた。

「ただいま! 皆いるかい?」
 返事をしたサニアが出迎えに向かった。
 どこかで聞いた声とトウマは思い出そうとするも浮かばない。
 続けて「突然、お邪魔して良かったのかしら」と、女性の声もする。こちらは本当に聞き覚えがない。
「もしかして、来客の日と被った?」
 隣に座るフーゼリアへトウマが訊くと、「あれ、知らなかったの?」と返される。
 トウマは気づいていないが、バゼルの表情が”うんざり”と言わんばかりの状態になっている。
 客人が部屋へ顔を出すと、トウマは驚きのあまり絶句し、思考が止まった。

「やあトウマ君、久しぶりだね」
 ラルバが妻を連れて現われた。
「ええぇぇぇ!!? ど、どうしてですか!」
「隊長とラルバ様、兄弟って知らなかった?」平然とジールが告げた。
「知らない知らない!」
「族名聞いたら誰でも分かるだろ」
 ジールが言うと、バゼルは「ああ~」と、言葉を漏らした後に「言ってねぇわ」と返す。
 初対面時、バゼルは名前だけしか言ってなかった。

「ははは。少々無礼だが弟の素敵な個性なんだよ。許してくれよトウマ君」
 まだ興奮と戸惑いが鎮まらないトウマを余所に、ラルバも空間術で紙袋を三つ取り出してテーブルの上へ並べた。
「なんで今日に限って来んだよ」ぶっきらぼうにバゼルが訊いた。
「それは秘密だよ」
 ラルバが何かを提案すると、バゼルは出来る事ならその日にする性格である。
 無意識で本人は気づいていないが、ラルバはこの性格を楽しんでいるのでけして話そうとはしない。
「すごい。かなり豪勢な夕食」
 サニアは料理の数に驚きを隠せない。
「では、トウマ君のバゼル隊入隊を祝い、乾杯しよう」
 硝子のコップに水が注がれた。
 淡々と手早く、情緒が狂いそうなトウマを余所に進められる。
「立場上、酒ではないのだが、許してくれ給え」
 皆は料理を食べたい思いだけが強い。
 トウマはまだ落ち着かないが、完全に心情を無視されている。
「では、改めて。カンパーイ!」

 祝宴は賑やかに、歓迎会の主役の気持ちを置いてけぼりにして一方的に開催された。
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