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二章 激動の訓練

Ⅰ 血の縛り

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 巨大魔獣討伐後。
 ローバの遺跡調査は別部隊が請け負うと報告を受け、バゼル隊の討伐訓練は終了した。

 巨大魔獣が突如出現したのはなぜか。
 ビィトラには寸前まで魔獣が見つけられなかったのか。
 魔獣達は樹林から出れないのはどうしてか。
 あの黒い人間は何者か。

 多くの謎を残したままである。とはいえ、凶暴な魔獣を討伐したことは揺るぎない事実。討伐成果が評価対象となる。
 今回、トウマ達の評価は一段上がった。
 隊の評価が上がれば依頼される遠征内容も上がり、待遇も変わってくる。

 ◇◇◇◇◇

「私は彼ら・・にこの任務を一任したいと思います」
 バースル城内会議室にて、第一隊主ラギ・グラムス=ローゼスは告げた。
 室内には他に第二ラギ・ラルバ、一般兵団・一から三部隊隊長が揃い、バースルが請け負う異変調査や魔獣討伐依頼を割り振っていた。
 一般兵団は計七部隊あるが、兵団総代表たる三役が会議に参加する決まりである。
 現在、話し合われている内容は、ギネドとの協力討伐要請に関してである。

 ギネドとバースル間には境のように聳え立つ、【メアの壇上】と呼ばれる台地がある。その上で未知の魔力の歪みが発生し、魔獣が出現したと報告があった。
 既にギネド側と協力して下調べは済んでいる。
 メアの壇上の地形から想定される作戦は、魔獣をバースル側とギネド側で挟み撃ちにし、襲撃を分散させて中央の原因点へ攻撃をかけるものである。
「第一ラギともあろう御方が随分と評価が高いですね。先の討伐訓練にて評価が上がりましたか?」三役の一人が訊く。
「それもあるが、たまに訓練を眺めて感じた。成長が早いとな。それに面白い隊員が二人・・もいる。大化けする隊として注目して当然だろ。ここらで一つ、さらに上へ上げる戦いに身を投じるのも良いかと思うが」

 視線をラルバへ向ける。意見を求めている。
「考えものですね。確かに成果と各隊員の成長から鑑みれば、そうと考えるのは打倒です。しかし、個々の欠点を知る側から言わせて頂きますと、少々依頼の難度が上がりすぎでは?」
 一同、資料に目を通す。
 三役の一人が意見を申した。
「確かに、台地の上には魔獣が徘徊し、いつ台地を降りてくるか分からんというのは疑問ですな。なぜ台地を降りないのかが不自然極まってます。奴らの餌となる何かがあるのだとすれば、やはり台地の中央の情報が欲しい所」
 ラルバが続ける。
「さらに、『魔力の歪み』で全てをまとめている。間違っては無いでしょうが、やはり挟み撃ちの協力要請の内容を変えてから決めた方が宜しいかと」

 グラムスは腕を組んで唸った。
 どうやら、すぐに決められる問題ではない。
 会議は難航を示した。

 ◇◇◇◇◇

 巨大魔獣討伐の翌日は休日となった。
 何かをしようと考える四人だったが、いざ休日には何かしようという気が起きず、何もする気が起きない一日をダラダラと過ごした。
 いくら毎日過酷な訓練に堪えているとはいえ、魔力、体力共に激しい消耗の戦いを繰り広げたのだから、身体そのものが休みを求めていても不思議では無い。

 翌、訓練日。
 バゼルが来るまで四人は座って話し込んでいた。
「『血の縛り』? 何それ」
 トウマは興味本位でフーゼリアの必殺技名を求めたが、巨大魔獣を刻んだ一太刀は技ではなかった。
「私の一族が遙か昔に負った呪いよ。【ビグシ】っていう八体の魔獣、かな? その辺は歴史書開かないと分からないんだけどね、”八つの地獄”が関係してるみたい」
「地獄とあのバラバラさせた剣術と、どんな関係?」
「”地獄”ってのは比喩だろうね。要するに流れる血に異質な変化が起きたって考えてくれたら分かりやすいわね」
 続きをディロが語った。
「フーって、内蔵魔力量少ないでしょ? アレって血の縛りがフーの魔力を吸ってるから、魔力が溜まりにくいんだ。だから訓練で魔力消費抑えた立ち回りや、気功も混ぜて持続に力入れてるんだ。根本的に内蔵魔力量の上限を増やす為にね」
「へぇ……。じゃあ、その血の縛りが影響してあんなバラバラ状態に?」
「正確には大量の魔力を刀にして斬っただけ。それで魔力が浸透し、バラバラに」
 今度はジールが説明した。
「フーの魔力は一種の毒だ。ちょっとだったら問題ないけど、いざ戦闘ってなったら、魔力と気功を混ぜて纏わせれば俺等が魔力だけでやってることが出来る。で、魔力のみであそこまで注ぎまくったら斬られた奴は即効でバラバラ。けど、武器も浸食されっから、普段の刀にあの技使うと刃が無くなっちまう」
 だから具象術で刀を作ったと判明した。
「私の血の縛りは“浸食と千斬ちぎり”。まあ、見たとおりの事よ」
「え、そういう特性って事? 二つも?」
「そうよ。八つあって、私の一族はどこかで”血の縛り持ち”の人と子孫残したから二つ持ちってこと。後はどうなってるかさっぱり。滅びた可能性もあるから」
「ああ、そういうのって、八つ集まったら現われる大きな敵とか倒して解消する。とかじゃないんだ」
「むしろ逆よ。”大きな敵”ってのを倒した呪い、だろうね。血が絶えたらそこで終了。だけど、別に普通の生活は出来るし、遙か昔からだから薄まってるのかもね。私は戦うほうに身を投じたから不便と言えば不便だけど、これはこれで使えるから。後は判断次第。使いようによっては突破口を開く強力な武器だしね」
 逞しい考え。トウマも見習わなければと、僅かばかりだが触発された。

 ディロがバゼルの姿を見て皆に報せると、四人は立ち上がって整列する。
 挨拶を済ませるとバゼルはトウマを見た。
「今日はお前の大技の検証をする」
 いきなりの事で、少し戸惑う。
「あ、え、え?」
 躊躇するも、バゼルは気にしない。
「それよりもまず、四人揃ってゼド山行って戻ってこい」
 やはり相当嫌なのか、トウマ以外は一瞬で嫌な顔になる。
「樹林ではっきりした。お前等は大幅な魔力消費と回復を繰り返す際、身体が慣れきっていない。それとは別にトウマはゼド山が初めてだ。どういうものか教えてこいお前等」
 返事は弱い。
「返事!」
「はい!」

 一喝すると一同、身が引き締まり、揃ってゼド山へと向かった。
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