烙印騎士と四十四番目の神・Ⅱ 召喚されたガーディアン達

赤星 治

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一章 恥と嘘と無情と過酷

Ⅵ バゼル隊、強制入隊

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 往復修行の最中に何が起き、どうやって部屋へ戻ったか、さっぱり覚えていない。目を覚ましたら朝、教会のベッドの上だった。
 フェンリル戦で無理をした反動を思い出してビィトラに訊くも、何日も寝ていないことが分かり安心した。
「ビィの加護のおかげだから」
 自慢気に言われてもあまり耳に入っていない。それは、“何か違う?”という疑問が強かったからである。
 異変の主体は何を隠そうビィトラ本人。
 寝ぼけ眼でジロジロと観察すると気づいた。
「ビィ、なんか服の印象変わった?」
 ビィトラは嬉しそうに、優雅に飛び回った。
「気づいた? ビィ、ちょっと成長したんだ」
 守護神の覚醒。転生者がある程度成長すると比例して守護神も進化する。回数は守護神により様々である。
 成長、進化、覚醒。変化の度合いや守護神の表現で呼び名が変わるが、つまりは守護神のレベルアップだ。

「そんな話聞いてないんだけど」
「レベル低いとビィ達だって分かんないよ。こうなってようやく分かるから。けどそんな事どうでもいいよ、ビィが成長したら査定以外でトウマの加護も強くなるし、やがては”カムラ”が使えるようになるし」
「それ前にも聞いた、奥義みたいな力って。術が飛躍的に上がるって事でしょ。他にはどんな事ができるの?」
「それはなってからのお楽しみ。トウマが一撃必殺技を使いたいなら技の想像を考えて、カムラを発動時に使えば良いし、他にも良いこといっぱい」
 詳細を求めても、何もかもが簡単に語られてしまいそうで止めた。なれば分かるのだから、それまで修行に励もうと決意する。

 話している最中、部屋の扉をノックする音がした。入ってきたのは修道士の男性。朝食の報せであった。
 二人で食堂へ向かう途中、男性が苦笑いを浮かべて湯浴みを提案した。
 昨日、何があったか分からないが、修行の時のまま寝たらしい。
「あの、昨日、僕どうやって戻ってきたんですか?」
「昨は」
 どうやら日が暮れるまで修行していたらしい。
 ビィトラは成長の喜びに感けて説明出来ない状態なのは見て分かるので訊くのを止めた。
「バゼル様の部下の方がガーディアン様を運んで参りました。部屋にいた時間が短かくガーディアン様のお召し物がそのままですので、そのままベッドに寝かせただけかと」
 バゼルの命令か、部下の単独行動か。とにかく、昨日は気を失うまで励んでいたのは分かった。


 朝食と湯浴みを済ませ、身支度を整えたトウマは迎えが来るのを待った。しかし、ただ待つだけなのも時間が勿体ないと思い魔力の筋の修行をしようとした。
 昨日の昼食後の事を思い出し、少し不安はあるも、頭に魔力で風船を膨らませるイメージを固めた。その矢先。
 トントン。
 ノックする音がして止める。
「あ、おはようございます! えーっと、ガーディアン様」
 膨よかな体格の、一般兵服(訓練用)姿の男性が入室した。
「初めまして! オイラ、バゼル隊長の部下のディロ=ガイバンって言います。ディロでいいです」
 深々と頭を下げた。
「あ、トウマって言います。ガーディアンです」
 続いて頭を下げる。

 毎度思うことだが、相手がフルネームで挨拶するのに自分は名前だけという違和感がどうしても拭えない。
 いっそのこと、外国人に挨拶するように自己紹介しようかとも思うも、今まで散々”トウマ”で通してきて、ここへ来てフルネームというのも違う気がする。
 葛藤に苛まれつつも、”トウマ”を通すと決めた。

「昨日は大変でしたね」
「いえ。でも、ここまで運んでくれた方に」
「あ、それオイラです!」
 言葉を遮られ、満面の笑顔で返される。
「ガーディアン様に出会えた奇跡だけでも凄いことなのに、おんぶ出来るなんて一族の自慢です!」
 置いてきぼりで興奮するディロを呼び止めた。
「あの……今から訓練です、よね」
「ああ、ごめんなさい。隊長が怒るから早く行きましょう!」
 怒られる事を思い出して焦っているのか、ディロは小走りになる。つられてトウマも小走りとなる。
「あの、ディロさん」
「ディロでいいです。何ですか?」
「昨日、僕、どうなってたんですか?」
「えーっと、魔力切れかけ寸前で、坂の途中で気を失ってて、オイラが運んだんです」
 小走りでも息切れする事無く話せている。
 ディロの体力が高いのだとトウマは感じた。
「でも、どうして鍛錬区域にいたんですか?」
「隊長命令です。全部自分で見るもんだと思ってたから、思いっきり休んでたときに、急に命令してくるんだから。隊長って人が悪いですよね」
 なんと答えて良いか分からないが、その最中、ディロが速度を上げて鍛錬区域へと向かった。時間が無い焦りからだろうが、ついていくのが必死で話などできなかった。


 木柵で囲われた場所から少し離れた平原に、バゼルと他に男性一人と女性一人がいた。
「隊長ぉぉ! 連れてきましたぁぁ!」
 なぜこの速度で、この体格で、息ひとつ切らせていないのか不思議に思いつつ、トウマは激しく息を切らせて到着する。これから修行と考えるとゾッとした。
 ディロが隊列に並ぶと、トウマの傍へバゼルが寄ってきた。
「お前等、今日からこの隊で面倒見ることになった。トウマだ」
「えぇ!! 隊長、ガーディアン様だよ!」ディロが反論する。
「だったらなんだ」
 睨みに気圧されてディロは黙る。その目でトウマは理不尽にも睨まれる。
「お前、”ガーディアン様”って呼ばれたいかどうか選べ」
 冗談で返す空気ではない。
「いえ、トウマです。召喚前からそう呼ばれてましたので」
「だそうだ。ジール、フー、挨拶しろ」

 先に歩み寄ってきたのは、ディロより少し背の低い、赤みの混ざる茶髪の男性。

「ジール=アードックだ。ジールでいいぞ。それと、俺の方が先輩だからな!」
 なぜかそこだけ強調された。
 続いて女性が近寄る。
「そんな事言ってるからいつまでもチビなのよ」
「なんだと! 胸なし!」
「うっさい!」
「お前等黙れ!」
 バゼルが一喝して二人は黙った。

 気を取り直して女性が一礼した。
「フーゼリア=アッシュよ。フーゼリアでもいいけど、フーのほうが呼ばれやすいからそう呼んでもいいわ。どちらでも」
 逞しく、優しそうな印象の女性である。しかし何がそう思わせるのかは分からないが、初見で戦っても勝てないとトウマは感じた。
「トウマです。よろしく」
 挨拶が済み、バゼルが全員を整列させた。
「呼び名はお前等同士で勝手に決めろ。ガーディアンだろうが今はお前等より格段弱い」
 朝一番で心的苦痛を負うも、慣れてしまったのか屁でも無くなった。
「だからといって怠けるなよ。すぐに追い抜かれるだろうからな」
 けなされているのか褒められているのかまるで分からない。これがバゼルなりの、部下を鼓舞する方法なのかとも考えられる。
「はい!」
 一同、はっきりと大きな声で返事する。

 今日の訓練が始まった。
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