烙印騎士と四十四番目の神・Ⅱ 召喚されたガーディアン達

赤星 治

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一章 恥と嘘と無情と過酷

Ⅳ 鬼の指導

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 バゼルは右手を焼けていない木柵へ向け、握り拳の半分ほどの大きさしかない橙色に染まる魔力の球体をぶつけた。
 球体が当たった途端、火炎放射器から放たれた炎が一カ所に留まり、しばらくして消えた。
 数秒ほどの短時間。地面は黒く焦げ木柵は完全に消し飛んでいた。
 隣のトウマが燃やした木柵は多少焼けて原型は残っているが、見比べるだけで威力は一目瞭然。雲泥の差がある実力を見せつけられたトウマは唖然として言葉を失った。

「これぐらい出来て”魔術が使える”と言い張れ。お前のはただの火遊びだ」
 過去、この炎で修羅場を乗り越えて数多くの魔獣を退治してきたのに、火遊びと言われ精神的苦痛は大きい。
「まさかアレに術名とかあったのか?」
 突然の質問にトウマは混乱する。

 相乗火炎魔術。と、自分は言っていた。
(何間抜けな事言ってる? 格好付けてるだけだろ)
 浮かんだ疑問に反論する。
 焔。という術名があった。
(いやいやいやいや。だからだから、だからぁ!)
 心の中で何もかもを否定する。
 確か、和風ファンタジーが好きとか。
(恥ずい恥ずい恥ずい恥ずい恥ずい恥ずい!!! 馬鹿だ、馬鹿すぎる!)
 自分が魔術と言い張り、ジェイク達へ術名の説明や前世で得た知識。しかも架空の物語の話を語っていた事実が、真っ黒な歴史へと染まる。
 心を滅多打ちにされた。とても深い穴に入ってやり過ごしたいくらい凄まじい恥ずかしさに陥ったトウマは、目を閉じ、一呼吸吐いて冷静になれた。

「いえ。僕の術はどれも名前が無いんです」
 言い切った。自らの過去を、完全に無くす決心を固めた。
「僕、名前とかのセンス死んでるんで」
 自虐の言葉を自分に浴びせる。
 全てを無かったことにする覚悟を決めた。
 平然とした顔なのに、どこか虚しい空気が漂っている印象が滲んでいる。
 しかしバゼルの気になったのはトウマの心情ではない。
(センス……なんだ?)
 考えるも、今までの話の流れから、感覚や能力などといった言葉なのだろうと結びつけた。
 気を取り直して話を戻した。

「お前は魔力を動かす基礎がまるで出来てない」
「基礎。こんな練習ですか?」
 ミライザに教えてもらった魔力の球体を出現させて縮小させる修行を見せた。
「甘やかされて育てられたんだな」
 痛烈な口撃にトウマはまたも心に深い傷を負う。
 バゼルはトウマが焼いた木柵へ向かい、殴って板の部分を破壊し、杭を二本抜いて持ってきた。一本をトウマに投げ渡す。
「さっきのは魔力を扱う説明において分かりやすくしたものだ。間違ってないが成長するには時間が掛かりすぎる」
 バゼルは剣を持つように杭を構え、「魔力を見ろ」と言う。
 杭と全身を見ると、よく見ないと分からないほどの、薄い布を纏っているような魔力が張り付いて見える。
「魔力を纏って、紙くらい薄く凝縮させてるって事ですか?」
「その方法だと思うならお前もやってみろ」
「え、でも……」
 こんなにも薄く出来ない。言おうとする意図を先に読まれてしまう。
「俺ほどの成果がお前に出来るわけないだろ。そうじゃない」

 軽く心に傷を負いながらトウマは試してみる。やはり上手くいかない。
 タオルをグルグル巻きしたほどに厚い魔力が纏わり付く結果になる。
「しっかり持ってろ」
 言われ、両手でしっかり持つと、バゼルは片手で軽くぶつけた。すると簡単に杭が折れた。
 断面を見ると、周囲は斬られているように艶のある断面。しかっし内部は砕けてボロボロである。
「魔力を纏わせるだけなら中身はこうなる」
「じゃあ、どうやって」
「魔力を充満させる。身体に力が満ちれば何かを持つだけでそれも強力な武器になる。半焼けの杭も安モンの剣ぐらいは堅くなる」
「でも、どうやって身体に魔力を充満させるんですか?」

 あからさまに”面倒くさい”といわんばかりの目つきで返される。
 トウマも馴れたのか、バゼルはこういう人間だと割り切れるようになった。
「本気で基礎からか」
 呟きが聞こえるも、受け流せるほど心が少し強くなった。『この人はこんな人間だ』そう思えてやり過ごせている。
「【魔力のすじ】も知らんだろ」
「はい。まったく」
 即答されてもバゼルの表情に変化はない。どうやらこちらも諦めたのだろう。
「身体には魔力を流す血管みたいなのが張り巡られている。目に見えず臓器でもない。魔力を感じて分かる管だ。そこに魔力を流し、管を太く強化させる。方法の一つに、さっき球体を凝縮させた訓練がある。むしろこの為の基礎訓練だ」
 木の杭を捨て、全身に満たした魔力を解いた。
「お前にも見えるようにする。魔力の流れを見ろ」

 目に魔力を移動させ、集中してトウマは見た。
 バゼルの額から魔力の塊が揺らいで現われた。

「魔力を操るのは想像力だ。頭の中で革袋に水を張る想像で頭に魔力を溜める。それを太い管を通って全身に流れる想像で流していく」
 確かに、太い管を通っているように魔力が首を流れ、左右に枝分かれして肩から腕、指先へ。胸を通る太い管はへその下から足へ別れた。
 管の終着点は指先であり、そこからは毛細血管に浸透するように魔力が広がり馴染んでいく。
「とりあえずはここまで」
「ここまでって、まだ何かあるんですか?」
「どうせまた訊くだろ。出来てから言え」
 告げると腕を組んで立ち、「やれ」の一言でトウマを動かした。

(頭に魔力のイメージ……水風船のイメージ)自分なりの想像で試す。
 ある程度溜まったと判断すると、細い管を通る想像を続けた。すると、首ほど太い管を通る結果に終わり、両手へ流れる前に胴を突き進み、横隔膜辺りで集中が途切れた。
「え、なんで?!」
「どれ程難しいか分かったろ。続けろ」
 改善点の説明すらなく、同じ事を何度も続けさせられた。
 十回ほど失敗すると、頭に魔力を貯めることすら困難となりだす。
 この訓練は体力の消耗も激しく、身体にも支障をきたして長距離を走ったほどに息切れする。
「限界まで続けろ」
 鬼。その単語が浮かぶほどバゼルの指導は容赦がない。

「バゼルちょっと待った!」
 突然、今まで姿を出さなかったビィトラが現われた。
 なにより、ビィトラが話しかけるということは見える人間である証拠。
 なぜバゼルがビィトラを見えるのか不思議でしかなかった。
「あ?」
 神に対してもこの態度。どういう神経をしているのか? と疑問に思う。
「ガーディアンは魔力が尽きたら死ぬんだって」
「まだやれる。限界までお前が見ればいいだろ」

 神をお前呼ばわり。神を神として見ていない。
 それよりも、話せることが気になった。
「なんで、ビィと?」
 ビィトラが答えた。
「だってこの人、十英雄の一人だもん」
 驚きのあまり言葉を失う。同時に一つの希望が散った。
 有名な英雄たる存在は、気品あり、強く逞しく、部下への指導は厳しく熱意を持って接するが、情に深く何事も親身になって聞いてくれる。

 美化されすぎてはいるが、トウマが抱く『英雄像』は粉々に砕け散った。
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