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一章 恥と嘘と無情と過酷

Ⅱ 女王との謁見

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 翌日、トウマはラルバに連れられて会議室へ訪れた。ビィトラはまだ昨日に引き続いて国を飛び回っている。
 ラルバが扉をノックし、入室許可を得て部屋へ入る。
 部屋には中央の席に見た目年齢にして二十代と思われる女性と、両脇に顔立ちが強面の男性が二人立っている。

「あの、ガーディアンの」
「自己紹介は結構です。全て聞いています」
 言葉よりも威厳だろうか、トウマは気圧されて緊張して冷や汗をかく。
「強くなりたいとの要望」
 色々端折られてる説明だが、今は何も反論せず黙って聞く。しか出来ない。
「方法は鍛錬しかありませんが。……ラルバ、そちらの部隊へ」
「失礼ながら無理な要望にございます」
 女王の命令をいともたやすく、柔和な表情で平然と否定するラルバ。そんな彼に対し妙な恐怖感をトウマは抱いた。
「なぜ?」
「単純に力量不足です。我が隊において、ガーディアン様の評価が著しく低く」
 もう、トウマの精神は粉々だ。
 悲しくとも立ち姿勢は崩さず必死に堪え、やや悲壮感が表情に滲み出る。
「属してもついて行けないか、鍛錬時に死ぬとあればラギとしての不名誉。歴代ラギに対し申し訳が立ちません」

 しばらくネイラは考え込むも側近の男性が耳打ちする。その際、トウマを力強い目で見る。まるで睨まれている印象。良からぬ事を告げているとしか思えない。
「よし、そうしよう」
 呟き声で、何かが決まったのは分かったが、今はこの苦しい部屋から一秒でも早く退出したい思いが強い。
「ガーディアン、トウマ」
 敬称すらないのはその程度の存在なのだろう。同時に、ラルバがどうして敬称を付けたのか疑問が残る。
 ますます謎に満ちた危険な男性だと警戒心が強まる。

「これより”鍛錬区域”への入場規制を解除します。出入りは自由だが危険区域でもあります。誰か護衛を付けさせますので単独での入場はお控えを」
「は、はい!」としか言えない。
「また、一般書庫への入室も許可します。鍛錬方法、術の習得等に役立ててください」
「は、はい!」
「要件は以上です」

 随分とあっさりした謁見。
 率先してラルバが挨拶し、戸惑うトウマを引っ張るように退出する。
 部屋へ戻る最中、ラルバが話しかけた。
「誤解しないでください。只今ネイラ様と幹部の方々は各地で発生している魔力の乱れに気を揉み苛立っており、あのような態度を」
「え、あ、はい」
 弱々しい返事。
 納得はするも、精神はズタズタだ。
 前世でのファンタジージャンルのアニメとは雲泥の差と言える扱いに『これが現実』と、無理やり自身に言い聞かせる。

「あの、護衛というのはどんな方ですか?」
「一般兵ですが手の空いてる者です。ですから、ずっと同じではございません。一応、鍛錬区域へ入れる者ゆえ、術や技の情報を聞くには良いかと」
「あの、僕、ずっと城の中ですか?」
 何かに気づいたラルバは立ち止まる。
「言い忘れてました。ここは城ではなく教会の敷地です」

 つまり会議室とは、城内ではなく教会の一室。
 すでに内観に王城内の荘厳さを感じていたトウマであったが、妙に恥ずかしくある。とはいえ、教会で素晴らしい内装。城内ならもっと凄く美しい内観をしているのだろうと思い、期待が少し芽生えた。

「城下町ですが、赴くのは今は止めた方が宜しい。ガーディアンがどういった者かを見たがる野次馬が多いですし、言葉巧みに言いくるめられ、良からぬ者達の集団に入るなんて事態になりかねません。しばらくは気心しれる者達を増やすほうが宜しい」
 結局、修行するか教会で生活するしか選択肢はない。
 質問する内容が浮かばず、黙って部屋へ戻った。


「それでは、護衛は翌日参ります。本日は教会内を見回り気張らしでもしてくださいませ」
 ラルバは告げると出て行った。
 召喚先で悪いように扱われないことは幸運だが、保護されるだけならただの一般市民と変わりない。
 自らの存在価値に悩み、ベッドへ寝転がって天井を呆然と眺めた。

(皆どうしてんだろ?)
 ふと、ジェイク達との旅を思い出す。
 急に環境が変わると自分が今までしてきた事は、本当は夢だったのでは? と疑問も浮かぶ。
「トウマおかえり~」
 ひょっこりベッドからビィトラが姿を現わした。
「今日は随分早いな」
「もう大体見たし。そっちはどう?」
 思い出すだけでも虚しくなり、トウマはベッドの上でゴロゴロ身体を動かすだけで答えない。
「え、なんか嫌なことあったの?」
「なーんとなく……、好きにしたら。みたいな感じ」

 言ってる意味がビィトラには伝わらない。

「トウマも何言ってるか分かんないんだけど。暇なら身体鍛えたらいいじゃん。でないとあの強い転生者に会ったら死んじゃうよ。ジェイクもサラもグレミアもいないんだから」
 確かに今の状態であの日本人の転生者に会えば確実に殺される。
 圧倒的な力量差を見せつけられたのを思い出し、フェンリルへ放った技も一発で気を失う。
 情けない戦いばかりを思い出すと、やる気が再燃した。
「だな。ちょっと教会の中見て回って、修行方法とか誰かに聞いてくる」
 ビィトラも付いて行く事になり、トウマは部屋を出た。

 ◇◇◇◇◇

 夕方、ラルバ率いる総勢八名の第二小隊が鍛錬している陣地に一人の男性が近づいてきた。
 男性に呼ばれたラルバは、鍛錬を自主練に変えて会いに行った。

「私の鍛錬中にここへ来るとは、らしくないじゃないかバゼル」
 バゼルと呼ばれた男性は眉間に皺を寄せ、いかにも不快感をあらわに一枚の羊皮紙を見せつけた。
「これはどういうことだ」
「不服かい? 君たちにうってつけだろ」
「ふざけるな。俺はラギを目指してんだぞ。分かって」
 言葉を遮ってラルバは口を挟む。
「だが今、お前の隊は成果がない。実力も大した向上を見せてないだろ」

 バゼルは苦虫を噛み潰したような表情になり何も言い返せない。
 一方でラルバは一汗かいてスッキリしたような表情で言い返す。

「ただ下っ端を連れていい気になってるだけなら素行不良のガキ集団と同じだ」
 バゼルの苛立ちが高まる。
「まさか、肩書きがあるからって思い上がっては」
「うっせぇ! やりゃいいんだろうが! けどガーディアンが死んでも俺の責任じゃねぇぞ」
「それは仕方ないとしよう。ガーディアンの死亡は他にもあると守護神様が言っているのだったよな」
 バゼルは羊皮紙をぐちゃぐちゃに丸めて内ポケットへ戻す。
「仮に、奴の実力が向上したら見返りはなんだ」
「第二ラギに向かっていう台詞かい?」

 笑顔で訊くも、バゼルは今にも襲いかかりそうな形相で睨み付ける。

「やれやれ仕方ない。では、ラギとなるに相応しい案件を紹介しよう。加えて私との真剣勝負許可。これでどうだ?」
「ふん。忘れんなよ」
「出来る事なら彼を殺すなよ」
「知るか。奴次第だ。そうなったら処刑と称して俺を殺しに掛かってくれば良いだろ。これで真剣勝負が出来る」

 吐き捨ててバゼルは去った。
 ラルバは鍛錬に戻るも、本当にトウマが無事でいられるか心配にもなる。
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